思川開発事業に関する学識経験者への意見聴取も虚構だった

2017-01-03

●検証に係る検討で学識経験者の意見聴取をしていた

国土交通省は2016年8月25日、思川開発を継続する対応方針を発表しました(八ッ場あしたの会のホームページ参照)。

それに先立つ検証において、検討主体である国土交通省関東地方整備局と独立行政法人水資源機構は、思川開発事業について「学識経験を有する者」から意見を聴取していました。

この意見聴取については、「「思川開発事業の検証に係る検討報告書 (原案)案」のうち、「報告書(素案)」からの 変更ページ」の6−11に記載されています。

その時期は、2016年5月18日〜27日の10日間で、方法は、「個別ヒアリングにて意見聴取を実施した」そうです。

思川開発事業について「学識経験を有する者」とは、以下の23人です。
氏名 役職等
青木 章彦 作新学院大学女子短期大学部教授
淺枝 隆 埼玉大学大学院教授
池田 裕一 宇都宮大学教授
岡島 秀治 東京農業大学名誉教授
尾崎 清明 (公財)山階鳥類研究所副所長
落合 進 聖徳大学短期大学部准教授
川津 浩二 千葉県水産総合研究センター 内水面水産研究所長
京藤 敏達 筑波大学大学院教授
齊藤 普 群馬県立女子大学名誉教授
佐々木 寧 埼玉大学名誉教授
佐藤 政良 筑波大学名誉教授
清水 義彦 群馬大学大学院教授
鈴木 邦雄 埼玉県水産研究所長
須永 伊知郎 (公財)埼玉県生態系保護協会 研究部長
田中 規夫 埼玉大学大学院教授
知花 武佳 東京大学大学院准教授
西廣 淳 東邦大学准教授
二瓶 泰雄 東京理科大学教授
長谷部 正彦 宇都宮大学名誉教授
糠谷 隆 千葉県立中央博物館大利根分館主任上席研究員
三島 次郎 桜美林大学名誉教授
谷鹿 栄一 千葉県立関宿城博物館館長
安田 陽一 日本大学教授

上記の「学識経験を有する者」の専門分野を調べると、ほとんどが環境でした。南摩ダムが利水上、治水上必要かどうかについて学識経験が深い人たちが大飯とは思えません。

南摩ダムは問題なく必要だが、環境に与える影響はどうかという観点からの人選ではないでしょうか。

そうでなければ、利水上、治水上必要かどうかについて学識経験のある者の意見は聴きたくないということでしょう。

●なぜ10日間の個別ヒアリングで実施したのか

上記のとおり、検討主体は、「学識経験を有する者」からの意見聴取をたった10日間の個別ヒアリングで実施しました。

検討主体は、パブリックコメントの「ダム検証は「予断なき検証」である以上、期限を切るのは不当である。」という意見に対して「期限を設けず、予断を持たずに検討を行っております。」(パブリックコメントや学識経験を有する者、関係住民より寄せられたご意見に対する検討主体の考え方p18)という考え方を示しています。

「学識経験を有する者」からの意見聴取をたった10日間の個別ヒアリングで実施することは、「期限を設けず、予断を持たずに検討を行っております。」という考え方と矛盾します。予断を持たないのなら、10日間で意見聴取を行う必要はないはずです。

思川開発事業と同じく水資源機構が事業主体となる川上ダムの検証においては、「川上ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」に対する学識経験者からの意見を聴く場が2014年6月16日(月)に大阪合同庁舎第1号館 新館 3階 A会議室で開催されています。

「学識経験を有する者」が一堂に会して議論すれば、自分の意見の誤りに気がつくこともあるでしょう。事実誤認に基づいた意見を言わないためには、会議を開く意味はあります。

2016年7月13日に水資源機構のダム事業部設計事業課の島本課長補佐に電話取材したところ、「(「学識経験を有する者」への意見聴取を)会議形式にしなかった理由は、人数が多いので全員に都合の良い時間の調整がつかなかったからだ。」と言いました。

川上ダムでも同様の人数(21人)の学識経験者を対象に会議を開いて意見を聴いているのですから、「人数が多い」は言い訳になりません。

確かに10日間で調整することは困難でしょうが、3か月先の日程調整なら可能でしょう。

川上ダムについては「学識経験者からの意見を聴く場」を設けたのに、思川開発事業の検討主体がそれを設けなかったのは、2017年度予算の概算要求の時期(8月)に間に合わせるためだったとしか思えません。

思川開発事業の検証は、「事業継続」の結論ありきのダム検証だったとしか思えません。

●人選に問題あり

上記のとおり、思川開発事業について「学識経験を有する者」とされた人たちは、ほとんどが環境の専門家です。

ただし宇都宮大学の池田裕一教授の専門は河川工学と応用生態工学で、治水については詳しいはずですが、そのコメントは以下のとおりです。

【池田 裕一(宇都宮大学教授)】
・検証に関する検討については、緻密に多角的に見て、可能性のあるものを組合せを行い評価している。しっかり見るべき所は見て、検証し直す所はし直してしっかり評価が行われている。
・今後、事業の評価等を行う上では、環境をコストで評価していく手法の検討を進めることも今後の課題ではある。現時点においては、そこまでの適用ができるような状況にはまだなく、適用は現実的ではない。その取り扱いには十分に注意しながら、評価手法も含めて検討を進めて行く必要がある。
・環境への影響や効果について、より理解を深めて頂くためには、モニタリングを適切に行い、その情報の開示が重要である。この積み重ねが、コスト評価の導入にも活かして行ける資料となる。

「専ら環境の話をしており、治水についてはコメントしていません。

とにかく学識経験を有する者」の専門分野が余りにも偏っていると思います。

なお、池田教授は、「検証し直す所はし直してしっかり評価が行われている。」なんて言っていますが、とんでもない話です。

もしも、池田教授の見方が妥当ならば、2016年7月14日開催の事業評価監視委員会で小野 良平 委員(立教大学観光学部観光学科教授)から、パブリックコメントでの提出意見への対応が不十分だという趣旨の次のような意見が出ることはなかったと思います(事業評価監視委員会議事録p10)。

もう一点、このパブリックコメントに対する検討主体の考え方という資料の2−7−2 なんですけれども、中にはかなり批判的な意見もたくさんいただいているように読ませて いただいたんですが、例えば7ページあたりの、この整理番号、水需要予測というあたり は、この20番とか、その次の21番、栃木県、それから、24番の鹿沼市とか、27番の小山市 など、全体としていただいている意見は、この水需要予測が過大なのではないかと、そう いう意見をいただいているかと思うんですけれども、特に鹿沼と小山については、その実 態、この最新の実際の給水量まで踏まえて、意見をいただいているんですけれども、それ に対する検討主体の考え方というのを読ませていただくと、その過大なのではないかという指摘に対して「きちんと考えています」という通り一遍の答えをしているだけで、もう ちょっとこれは丁寧にお答えしないと、コメントした側としては、市民感覚でいくと答えていただいた気には多分ならないと思います。

こういうことを通して、こういうパブリッ クコメントというのがセレモニーにすぎないという批判を受けることにもなるので、少なくとも鹿沼とか小山では、実際の最新のデータも示していただいているわけですので、それでもやはりこういう理由で必要なんだというような説明をもう少ししていただきたいと いうふうに、これは要望です。


●博物館長にメールで質問した

私は、2016年7月2日に千葉県立関宿城(せきやどじょう)博物館館長の谷鹿 栄一(たにしかえいいち)氏に次のようなメールを送りました。

館長は、思川開発事業について学識経験を有する者として国に意見を述べられています。
「「思川開発事業の検証に係る検討報告書 (原案)案」のうち、「報告書(素案)」からの 変更ページ」の6−11参照
学識経験を有する者として国に意見を述べ、報酬も得ていながら、最終学歴(専攻)やその後の研究分野も国民に教えないことは許されないと思います。
したがって、それらについて、教えてくださるようお願い申し上げます。

2016年7月2日に次のようなメールが谷鹿館長から届きました。

(略)
早速でございますが、メールの件につきまして回答させていただきたいと思いますが、文章ですと齟齬が生じることも多々ありますので、お電話でお話したいと思います。
(略)
昨今の自然災害を見て、地域の自然や歴史・文化に関する資料を収集・展示・保管している博物館の館長としては、自然の脅威からなんとか資料を守りたいとの立場から意見を申し上げた次第です。
(略)
報酬につきましては、一切いただいておりません。また、文書による委嘱等を受けているものでもありませんので、その点はご理解をお願いいたします。


●意見聴取は無報酬だった

驚いたのは、今回の意見聴取が正式な委嘱状も作成されておらず、無報酬の茶飲み話だったことです。

無報酬は国民から見たら税金の節約になって良いことのように思えますが、無報酬の仕事は無責任でもあるということです。

学識経験者としては、「あんないい加減なことを言っていいのか」と非難されたら、「だって無報酬ですから、真剣に検討したら間尺に合いませんよ」という言い訳ができるということです。

●関宿城博物館館長に電話した

私は、2016年7月10日に関宿城博物館の谷鹿館長に電話しました。

次のようなやり取りがありました。

谷鹿「先に私の経歴を話すと、千葉県内のあちこちの博物館や美術館に勤務した。関宿城博物館には今年の4月から赴任した。その前は、市川市にある現代産業科学館でプラネタリウムの上映が仕事だった。学問のスペシャリストが博物館の館長になるわけではない。美術館では山下清展を開催し、6万人を集めたこともある。 1988年に東京国立文化財研究所で資料保存方法を研究した。」

ーーー館長は、思川開発事業に関する学識経験者ということなので、卒業された大学名をお聞きしてもよろしいですか。

谷鹿「恥ずかしいので言いたくない。国土交通省からも学歴については質問されなかった。文学部出身だ。」

ーーーネット検索したら地理学会に所属しておられるようだが。

谷鹿「所属していたこともあるが、今は辞めている。大学時代に地理学の授業は受けたが、専攻したわけではない。」

ーーー何についての見識を買われて国土交通省から委嘱されたと思うのか。

谷鹿「よく分からない。今回が初めて。館長としての意見を求められた。」

ーーー自分はダムに詳しいという自覚はあるか。

谷鹿「ない。ダムカレーは、観光的には面白いと思った。」

ーーー思川開発事業について調べたのか。検討報告書素案を読んだのか。

谷鹿「調べていない。読んでもいない。5月に国土交通省と水資源機構の職員が博物館に来て、2時間くらい説明を聞いて意見を述べた。」

ーーー上司は館長が学識経験者として意見を述べたことを知っているのか。

谷鹿「相談はしたが、どんな意見を述べたか知らないと思う。」

ーーー国土交通省は千葉県教育委員会に対して委嘱依頼書を提出したのか。

谷鹿「していない。」

ーーー栃木県には水道用水供給事業計画が存在しないことを知っているか。

谷鹿「素案に書かれていれば説明を受けたのかもしれないが、今は記憶にない。」

ーーー思川開発事業についてほとんど知らないのに、学識経験者として事業にお墨付きを与えたわけだが、(完成後に利水参画者が水を使わないなど)ムダであることが判明した場合の責任は感じないのか。

谷鹿「そうなったら申し訳ないとは思う。熊本地震や3.11の津波による資料紛失を思うと、博物館にある貴重な資料を洪水被害から守りたいという気持ちで意見を述べた。」

ーーー資料を守りたいという観点から意見を述べるなら、利水に言及する必要はなかったのではないか。

谷鹿「利水については、昨今の自然現象のことを考えてダムが必要だという意見を述べた。」

ーーー博物館を水害から守りたいとのことだが、1/100の降雨があった場合、南摩ダムの洪水調節効果によって利根川の栗橋地点の水位が何cm下がるか知っているか。

谷鹿「知らない。」

谷鹿館長は、「関宿城博物館は千葉県の最北部にあり、その周辺について全く土地勘がない」と言っていました。

質問はしなかったのですが、このことは、博物館が水害にあったことがあったのか、とか水害にあいやすい地形に建っているのか、ということについての知識がないということを意味すると思います。

要するに水害や南摩ダムのことなんか考えたこともない人に「水害や断水になったら困るでしょ」と脅して、「そりゃ困る」と言わせただけのようなものでしょう。

ダムについてまともに考えたこともないし、検討報告書(素案)等の資料を読んだこともない人が学識経験者として意見を述べているということです。

こんなダム検証がまともな検証と言えるでしょうか。

ちなみに、仮に関宿城博物館が水害にあいやすい場所に建っているとしたら、そんな場所に建てたこと自体が問題です。博物館の資料が大事なら、高台の上に建てればいいだけの話ではありませんか。

それから、「利水については、昨今の自然現象のことを考えてダムが必要だという意見を述べた。」と言いますが、経済性を考慮しているとも思えません。「水源は多い方が安心だ」という程度のことしか考えていないのではないでしょうか。

●「学識経験を有する者」は結構いいことも言っていた

思川開発事業にお墨付きを与える学者の中には、次のように、まともなことを言っている人もいます。

【佐藤 政良(筑波大学名誉教授)】
・本事業の主体は利水であると認識。
・将来の水需要の予測、点検においては、各利水者における、一人一日当たりの水使用量(生活用水原単位)及び人口の変化、予測についても、その妥当性をどう確認したかをあわせて示す必要がある。
・利根川本川と支川の流況を見ながらの運用となるため、難しい側面もあるが、統合運用による低水管理、渇水対策などを実施していく上では、栗橋地点上流のダム運用だけでなく、鬼怒川系や霞ヶ浦系の水資源もあわせ、利根川河口堰の湛水域や北千葉導水路なども有効に活用し、より広域な統合管理に目を向けていく必要がある。

佐藤氏は、南摩ダムにお墨付きを与えているわけではないと思います。

佐藤氏は、「将来の水需要の予測、点検においては、各利水者における、一人一日当たりの水使用量(生活用水原単位)及び人口の変化、予測についても、その妥当性をどう確認したかをあわせて示す必要がある。」と言っているのに、検討主体は、次のように言うだけです。

・本検証の検討主体である関東地方整備局及び独立行政法人水資源機構は、思川開発事業の利水参画者に対し、ダム事業参画 継続の意思はあるか、開発量としてどれだけ必要か確認を行ったところ、引き続き、これまでと同量の開発量で事業参画を継続したい旨の回答と必要となる開発量の算定根拠がわかる資料を提供していただきました。この資料に基づき、検討主体において必要量の算出が妥当に行われているか等について確認を行っております。

・この結果、各利水参画者の必要量は、水道施設設計指針等に沿って算出されていること、水道事業認可等の法的な手続きを経ている又は、事業認可の取得に向けて確実に取り組んでいること、利水事業についての再評価においては「事業は継続」との評価を受けていること等を検討主体として確認しております。

・なお、各利水参画者において、節水機器の普及による節水効果の反映された実績値を用いた必要量の推計が行われていることを確認しております。」(パブリックコメントや学識経験を有する者、関係住民より寄せられたご意見に対する検討主体の考え方p7)

「その妥当性をどう確認したか」など示していません。

思川開発事業の利水参画者は、栃木県を除き水需要の増加を予測しています。検討主体は、きちんと「確認」したら、そのような予測は容認できないはずです。

「きちんと確認しています。」と言いさえすれば、確認したことになってしまうというのがダム検証なのです。

また、「鬼怒川系や霞ヶ浦系の水資源もあわせ、利根川河口堰の湛水域や北千葉導水路なども有効に活用し、より広域な統合管理に目を向けて」いけば、過剰な水源開発が許されないことは明らかです。

「学識経験を有する者」がまともなことを言っても無視されるのです。

事業主体が検証する茶番の検証劇は終わったので、今更こんなことを暴いても所詮ごまめの歯ぎしりですが、一部の人たちに税金を食い物にされないためには、ダム計画の虚構を暴き続けるしかないのだと思います。

(文責:事務局)
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