鹿沼市も思川開発事業から撤退するしかない

2012年7月25日

●鹿沼市の参画は第5次鹿沼市総合計画に基づいている

鹿沼市が思川開発事業に参画することは間違っています。

鹿沼市が参画する根拠は、2008年3月26日に認可された鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)に基づいていると言えます。

なぜなら、各利水参画者の基礎資料集のp4「必要な開発量の算定に用いられた推計手法等(鹿沼市:水道事業)」は、上記水道事業計画に書かれている数値がそのまま書かれているからです。

基礎資料集のp4には、鹿沼市の行政区域内人口の推計値が105,457人(2015年度)と書かれており、上記水道事業計画の認可申請書のp2−5−19にも、行政区域内人口の推計結果について次のように書かれています。

(コーホート要因法による推計結果と)総合計画との差については、上記で示したように、積極的な企業誘致や“市街地開発”及び“第3子対策事業”等による人口増を図る諸施策の政策効果を見込むものであり、本市における大きな特徴と考えられる。

以上により、本計画では、市の上位計画を考慮して目標値を設定し、平成27年度における行政区域内人口を105,457人とする。

ここで「総合計画」とか「上位計画」と書かれているものは、「第5次鹿沼市総合計画長期構想・基本計画」(2006年9月策定。計画期間2007年〜2016年)のことです。

つまり、上記水道事業計画は、「第5次鹿沼市総合計画長期構想・基本計画」を前提としています。

●第5次鹿沼市総合計画は終わっている

しかし、第5次鹿沼市総合計画は2011年で終了しており、2012年からは、2021年を目標年次とする第6次鹿沼市総合計画が始まっています。

したがって、第5次鹿沼市総合計画を前提とする鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)は、せっかく2,730万円もの委託料を水道事業コンサルタントに払って策定したのですが、これを有効なものとして事業を進めることは許されないと思います。

もちろん、第6次鹿沼市総合計画が第5次鹿沼市総合計画の大部分を引き継いでいれば、そうは言えません。

しかし、第6次鹿沼市総合計画と第5次鹿沼市総合計画は、下記のように、計画の基本部分である目標人口が全く違います。

第5次鹿沼市総合計画は2007年から2016年まで適用される計画でしたが、2008年6月に市長が代わり、計画の基本である目標人口が過大であったことが主な理由で、5年間適用されただけで、使命を終えたのでした。

鹿沼市のホームページにも、第5次鹿沼市総合計画を廃止して、第6次鹿沼市総合計画を策定した理由について、次のように書かれています。

第6次鹿沼市総合計画 ふるさと かぬま 『絆』 ビジョン

第5次総合計画は平成19年度から平成28年度まででしたが、予想を上回る少子高齢化の進展など急激な社会情勢の変化により、市民のみなさんに対し新たな視点での具体的なビジョンを示す必要性がでてきました。

つまり、第5次鹿沼市総合計画は、少子高齢化の進展など急激な社会情勢の変化に対応できない、役に立たない計画だということを鹿沼市自身が宣言しているということです。

過大な目標人口を設定する第5次鹿沼市総合計画を前提とする鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)は意味がなく、意味のない鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)を前提とする思川開発事業の検討もまた意味がないのです。

なお、鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)のどこが間違っているかについては、「鹿沼市水道事業変更認可申請書(第5次拡張変更)」の分析をご覧ください。

●鹿沼市のやっていることは矛盾していないか

鹿沼市は、第5次鹿沼市総合計画の掲げた目標人口が現実を無視した過大なものだったので、10年の寿命を持つはずだった同計画を5年で廃止し、現実的な人口フレームを設定した第6次総合計画を策定しました。

ところが、思川開発事業に参画する話になると、第5次鹿沼市総合計画の人口フレームを承継してしまうのです。

矛盾していると思いませんか。

●鹿沼市の人口推計値が間違っている

各利水参画者の基礎資料集のp4「必要な開発量の算定に用いられた推計手法等(鹿沼市:水道事業)」を見ると、鹿沼市の行政区域内人口の推計値が2015年度に105,457人と書かれています。

2012年7月1日現在の鹿沼市の人口は、101,150人です。あと3年で4,307人増えるということです。

しかし、鹿沼市の人口は2000年から減少していますし、2006年1月に粟野町と合併後も減少しているのですから、それはあり得ません。

第6次鹿沼市総合計画の前期計画には、次のように書かれています。

基本構想では、少子化などの影響による人口減少を踏まえ、本市における平成 33(2021)年の人口規模を 97,000 人と推計しました。

本基本計画期間内においても減少傾向が続くとの予想から、目標年次である平成 28(2016)年の総人口を 100,100 人と推計します。

鹿沼市は2016年の人口を100,100人と推計しています。

1年ずれますが、総合計画の人口推計と水道計画の人口推計が5,000人以上も違っているのです。水道計画の人口推計は、総合計画のそれよりも5%以上も過大なのです。

鹿沼市自身が、第6次鹿沼市総合計画によって、2015年度の鹿沼市の総人口が105,457人になるという推計を否定しているのです。

このような間違った人口推計を基に、鹿沼市が思川開発事業に参画する必要があるかを正しく判断できるはずがありません。

●計画給水人口が間違っている

鹿沼市の給水人口が2015年度に86,000人になると書かれています。

2010年度の鹿沼市の給水人口は77,191人です。あと5年で8,809人も増えることはないと思います。

ちなみに、鹿沼市の給水人口は、上記のとおり2010年度で77,191人ですが、2009年度の77,762人より571人減少しています。

●計画給水人口の推計が水道施設設計指針に従っていない

第3回幹事会の資料の利水参画者の必要な開発量の確認結果(案)のp1の1確認方法の@には、「需要量の推定に使用する基本的事項(給水人口、原単位、有収率等)の算定方法について、水道施設設計指針等の考え方に基づいたものか確認する。」と書かれています。

計画給水人口が水道施設設計指針等の考え方に基づいたものか確認するということです。

計画給水人口を推計するには、まず、その前提として将来人口を推計しなければなりません。

そして、国(厚生労働省)の外郭団体である日本水道協会が発行した「水道施設設計指針」(2000年度版)のp24には、将来人口を推計する場合には、「市町村、都道府県の将来の行政区域内人口予測値を十分に参考にする。」と書かれています。

確かに、鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)は、認可申請書を作成した2007年3月時点では、将来人口として、第5次鹿沼市総合計画における人口推計値を採用していたのですから、「市町村(略)の将来の行政区域内人口予測値を十分に参考に」したのですが、総合計画が更新され、将来の行政区域内人口予測値が大幅に変わったのですから、そうは言えなくなった状況にあります。

したがって、鹿沼市の計画給水人口は、水道施設設計指針に基づいたことが確認できたとは言えません。

総合計画が更新され、人口フレームが大きく変更になったら、水道事業計画も策定し直すのが筋だと思います。

少なくとも、旧総合計画の人口推計値を使った水道事業計画に基づいて新規水源を確保するためにダム事業に参画することは許されないと思います。

鹿沼市は、今、思川開発事業への参画の意思を再確認されているのですから、2015年度に鹿沼市の人口が105,457人になるという大ウソを正々堂々と掲げて参画の意思を表明することは許されないと思います。

●計画水道普及率が間違っている

鹿沼市の水道普及率が2015年度に100%になると書かれています。

ここでの水道普及率は、給水区域内での水道普及率を指します。

しかし、鹿沼市上水道における2010年度の給水区域内人口は82,575人です。給水人口は77,191人です。給水区域内の水道普及率は93.5%です。

5年後に100%になるはずがないと私は思います。

●計画負荷率が間違っている

鹿沼市の計画負荷率は2006年度以降75.2%でずっと推移するだろうというのが鹿沼市による推計です。算出方法は、「過去10カ年(H 8年~H17年)の実績の最低値を採用。」したということです。

しかし、最近10か年(2001年度から2010年度まで)の実績負荷率の最低値は2004年度の82.5%です。公共事業をやるかやらないかは、最新のデータで検証しなければ意味がないでしょう。

また、小山市のように「過去10カ年(H 6年~H15年)の実績の平均値を採用。」すれば、鹿沼市の2001年度から2010年度までの実績負荷率の平均値は86.2%ですから、検討の場の資料に記載された値よりも11ポイントも高くなります。

鹿沼市の負荷率は2000年度以降、80%を下回ったことはないのです。2006年度以降75.2%で推移するという推計が間違っていたことが証明されたのですから、そのような推計を前提に思川開発事業への参画を検証することは間違っています。

●水道施設設計指針等の考え方に基づいていない

「水道施設設計指針」(2000年度版)p25には、計画負荷率の設定の仕方について次のように書かれています。

計画負荷率の設定に当たっては、長期的傾向を把握するとともに過去の実績値や図-1.2.4の給水人口規模別負荷率、さらに他の類似都市との比較を行い、気象による変動条件にも十分留意して計画値を決定するものとする。

「計画負荷率は、実績値の最小値を用いる」とは、書かれていません。

鹿沼市水道事業第5次拡張事業計画(第1回変更)では、給水人口規模別負荷率や他の類似都市との比較を行った形跡はありません。

鹿沼市は、水需要予測を水道施設設計指針等の考え方に基づいていないのです。

利水参画者の必要な開発量の確認結果(案)のp1の1確認方法の@には、「需要量の推定に使用する基本的事項(給水人口、原単位、有収率等)の算定方法について、水道施設設計指針等の考え方に基つ_いたものか確認する。」と書かれており、p2の確認結果の「計画負荷率」の項目では、「過去の実績値の最低値、または平均値を採用していることを確認した。」と書かれています。

水道施設設計指針は、「過去の実績値の最低値、または平均値を採用」しろとは書かれていないのですから、水道施設設計指針等の「等」とは何か分かりませんが、少なくとも鹿沼市は水道施設設計指針には従っていないのですから、国が水道施設設計指針等の考え方に基づいたかを確認したと言えるのか疑問です。

ちなみに負荷率は、都市の規模が大きくなるにつれて高くなる傾向があります。上記指針の図-1.2.4には、給水人口が5万人以上10万人未満の都市では、平均で83.0%となっています。

●需要想定値が間違っている

計画給水人口も計画負荷率も間違っていれば、需要想定値も間違っていることになります。

●利用量率が過小である

河川水の利用量率が94.0%と書かれていますが、低すぎます。6%ものロスがあるとは思えません。ちなみに古河市では利用料率を97.0%としています。

●確保水源の状況が間違っている

「水源確保の状況」の欄には、「地下水は「鹿沼市地下水調査専門会議(H15年度)」において定められた地下水適正利用量 23,187 m3/日のうち、給水区域内への水源として21,600 m3/日を見込んて_いる。」と書かれています。鹿沼市上水道においては、地下水は21,600m3/日しか利用しないということです。

鹿沼市は、1日平均で27,222m3(2010年度)を利用しています。適正利用量である21,600m3/日を5,622m3/日も多く利用しています。鹿沼市が適正利用量を上回って地下水を利用しているのは、2010年度だけでなく、ここ数十年ずっと上回っています。年間では約200万m3/日も適正利用量を超えて利用しています。

それで何か害がありましたか。2001年度では減圧給水をしたらしいですが、だれも気づかずに暮らしているのですから、害があったというほどのことではありません。鹿沼市内の水収支の観点から21,600m3/日を利用の上限としなければならないのなら、長年にわたりそれ以上使っていれば、鹿沼市内の水収支のバランスが崩れて、地下水の利用に大きな障害が出ているはずではないでしょうか。

2001年度から2003年度まで鹿沼市で実施された地下水調査で決めた地下水適正利用量 23,187 m3/日には科学的根拠がありません。

そもそも、鹿沼市における地下水適正利用量とは、どのような考え方で算出されたのかを「鹿沼市地下水調査業務委託報告書」(国際航業株式会社が2004年3月に作成)で確認しておきましょう。

P4−1に次のように書かれています。

鹿沼市の場合、工業用、農業用、簡易水道などその他の水道用水源における地下水障害は、年間を通して認められない。しかし、近年の上水道事業はほぼ毎年冬季に井戸枯れが生じ、給水制限を実施していることは既に述べた通りである(図1−1)。

したがって鹿沼市域で適正な地下水利用を図るには、上水道水源において適正な地下水利用を図ることが不可欠である。本調査では、給水制限が各水源井戸に定められた警戒水位(表4−1)を指標として実施されていることから、上水道水源の地下水適正利用量を、警戒水位を下回らない地下水揚水量とみなした。

ここから三つのことが読み取れます。

一つには、鹿沼市上水道における地下水適正利用量とは、各水源井戸における警戒水位を下回らない地下水揚水量であるということです。

二つには、したがって、鹿沼市上水道における地下水適正利用量は、鹿沼市全体の地下水の賦存量から導き出されたものではないということです。

三つには、沼市上水道における地下水適正利用量は、「近年の上水道事業はほぼ毎年冬季に井戸枯れが生じ、給水制限を実施していること」が前提となっているということです。

鹿沼市上水道においては、近年では、ほぼ毎年給水制限を実施しているという状況ではないのですから、地下水適正利用量は、その前提を欠き、存在根拠を失ったことになります。

また、適正利用量の算出の手順の3番目に「地下水揚水量と渇水期の予測最低井戸水深との関係に回帰する直線と、上水道水源井の運用上定められている警戒水位との交点を求める。」とされています。

渇水期の予測最低井戸水深を前提とした回帰直線を引いて適正利用量を算出するということは、適正利用の値が小さくなるということです。

もしも、渇水期でない時期(鹿沼市では夏季)の予測最低井戸水深を前提とした回帰直線を引けば、適正利用量はもっと大きな値になったはずです。

水期の予測最低井戸水深を前提に適正利用量を算出するということは、夏季でも冬季と同じ量しか取水できないということです。

しかし、これは常識に反します。渇水期と非渇水期では、取水しても差し支えない水量は、違ってくるはずです。

渇水期を基準に年間の取水可能量を決めるということは、保有水源を過小評価することです。

保有水源の過小評価という手法は、「鹿沼市水道事業変更認可申請書(第5次拡張)」(2005年度作成)でも使われています。

そのときは、2005年1月から3月までの鹿沼市上水道の水源井戸における最大取水量を比較し最も小さい値を限界取水量とし、その値の70%を適正取水量と決めたのです。

その値は、23,200m3/日であり、奇しくも地下水調査で決めた地下水適正利用量 23,187 m3/日と酷似しています。

鹿沼市水道事業懇談会 (第1回)説明資料のp9に「適正利用量:地下水賦存量から求めた適正な取水量」と書かれていますが、事実に反します。上記のように井戸の警戒水位から求めています。

地下水適正利用量について2010年3月26日に開催された第5回鹿沼市水道事業懇談会で水道部職員が「市内には農業用の井戸が数多くある。適正利用量はこれらの井戸に影響がないように設定 されたものである。」とか「適正利用量は水道だけでなく工業用水や農業用水等すべての水利用に影響がないように設定 されたものである。」と述べていますが、事実に反します。

適正利用量は井戸の警戒水位から求められており、工業用水や農業用水との関連性は検討されていません。

では鹿沼市上水道でどのくらいの地下水を利用できるのかと言えば、鹿沼市水道事業懇談会 (第1回)説明資料のp9のグラフの中に書かれているように、少なくとも37,590m3/日は利用できると思われます。

●いつまで水源の過小評価を続けるのか

どこの自治体でもそうですが、これからダム事業に参画する理由を探すとすれば、水需要は減少していくのですから、既存の水源を過小評価するしかないわけです。

鹿沼市では、地下水は日量2万m3強しか利用できないのだと市民を欺き、ダム事業に参画することを決めています。

こんなことをいつまで続けるのでしょうか。

思川開発事業に参画する前提としての想定人口は前総合計画という亡霊を前提とするものです。JR新駅設置に伴う市街地開発計画も第3子対策事業も終わった話です。計画給水人口、計画負荷率等にも科学的合理性はありません。

鹿沼市は、思川開発事業から撤退するしかありません。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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