水資源機構の説明は素人だましではないのか

2017-05-14

●水資源機構が黒川漁業協同組合に説明した

2017年1月19日に水資源機構が黒川漁業協同組合を対象に思川開発事業の説明会を開きました。場所は、菊沢コミュニティセンター第2会議室です。

鹿沼市の会議記録によると、出席者は、思川開発建設所の職員9人、黒川漁業協同組合の理事ら19人で、鹿沼市からは、水資源対策課と観光交流課からそれぞれ1人です。

今後は、水資源機構が考える現段階のスケジュールを提案し、黒川漁協と意見交換を行っていくことを確認したそうです。

漁協は、今後水資源機構への要望事項を取りまとめるようです。

●質疑応答

以下質疑応答の内容です。
Q.黒川からの取水について年間どれくらいか。
A.年間約40日間。大原堰堤、柿沢橋付近の調査を基に算出した。取水日数の内訳は、次のとおり。
4月 3日間
6月 3日間
7月 1日間
8月 3日間
9月 9日間
10月 18日間
11月 4日間
12〜3月 取水なし

Q.施設建設場所は、魚がよく獲れる場所である。立ち入り禁止の区域はあるか。監視員はつけるのか。
A.大原堰堤から約250m下流までに取水・放流施設の建設を予定している。立ち入り禁止の表示をする。施設は無人で、監視員はつけない。

Q.黒川の水が少ないときは、南摩ダムから水を戻すそうだが、南摩ダムの水がなくなることはないのか。
A.ダムの水を考慮して戻すので、なくなることはない。

Q.大芦川と黒川の水を取る割合はどれくらいか。
A.割合は出せないが、大芦川の方が多い。

Q.どのようなスケジュールで進むのか。
A.関係省庁と協議している。おおよそのスケジュールを後日示す。本体工事から約7年後に完成予定。

Q.漁協に対して補償はあるのか。
A.補償の制度はあるが、漁協に対してアンケートを行い、かなり時間をかけた上で、補償額が少ないということが、経験則としてある。補償ではない形で、黒川漁協にメリットとなることを今後協議していきたい。

●黒川からの取水日数が以前の説明とは違う

黒川からの取水日数について、水資源機構は、年間約40日だと答えていますが、以前はそうではありませんでした。

2005年1月29日に栃木県が大芦地区住民に対して開催した東大芦川ダム中止に伴う対応に係る説明会の資料には、「黒川の(年間)800万トンは、同様に毎秒8トンの導水を12日間行うと達成できる量です。」と書かれていました。この部分は、水資源機構が書いたはずです。

12日間と約40日では、全然違います。

「導水量が毎秒8トンではないからだ」という言い訳をするのだと思いますが、だったら毎秒何トンで約40日間になるのかを最初から説明すべきです。

真面目に説明する気がないのでしょう。

そのうちに年間80日間取水すると言い出すのではないでしょうか。

●ダムの水は戻さない

ダムからの逆補給について、次のようなやり取りがありました。

Q.黒川の水が少ないときは、南摩ダムから水を戻すそうだが、南摩ダムの水がなくなることはないのか。
A.ダムの水を考慮して戻すので、なくなることはない。

「ダムの水を考慮して戻すので、(ダムの水が)なくなることはない。」ということは、ダムの水がなくなりそうになったら、黒川への補給はしないという意味だと思います。

黒川に補給が必要なときは、ダム下流にも補給が必要なときです。黒川を優先して補給するとは思えません。

漁協の皆さんには、それでよいのか考えていただきたいと思います。

●大芦川と黒川からの導水量の割合は出せるはずだ
Q.大芦川と黒川の水を取る割合はどれくらいか。
A.割合は出せないが、大芦川の方が多い。

というやり取りがありますが、割合が出せないということはないでしょう。

上記資料には、大芦川からは年間2000万m3、黒川からは年間800万m3と書いてあるのですから、大芦川:黒川=7:3となるのではないでしょうか。

数字は出ているのに、なぜ「割合は出せない」と答えるのでしょうか。

不誠実極まりない態度だと思います。

●南摩ダムの治水目的は次の二つだった

黒川漁協への説明会での資料で、思川開発事業の目的のうちの洪水調節について次のように書かれています。

○南摩ダム地点の計画高水流量の130m3/sのうち、125m3/sをダムに貯め込み、下流に流す量を5m3/sだけとして、下流河川での洪水を減らします。

○渡良瀬遊水地に流入する洪水流量を低減し、渡良瀬遊水地の洪水調節機能とあわせて、利根川本川の計画高水流量を増やさないようにします。


●下流での効果は誤差の範囲

南摩ダム地点において、計画高水流量130m3/秒のうち、125m3/秒をため込むのですから、流量削減率は96%ということになり、誰が聞いても大きな効果だと思うでしょう。

しかし、思川の治水基準地点である乙女(小山市)での思川圏域河川整備計画の河道目標流量(ダムあり)が3700m3/秒でダムなし流量は3760m3/秒となっているので、ダムの効果量(削減量)が60 m3/秒(思川開発事業の検証に係る検討報告書、2016年6月、国土交通省関東地方整備局、独立行政法人水資源機構p4−11)ですから、流量削減率はわずか約1.6%となります。

流量観測には数%の誤差はつきものですから、南摩ダムの効果は流量観測の誤差の範囲内ということで、早い話が効果ゼロということです。

最初から治水効果のないことが分かっている計画なのです。

栃木市の鈴木俊美市長は、「治水という点で この思川開発に期待するところがまず一番でございます。」(2016年6月21日開催、第1回思川開発事業の関係地方公共団体からなる検討の場、議事録p10)と発言していますが、根拠となる数字を示すべきです。無知なのか詭弁を使っているのか分かりません。

●ダム地点の計画高水流量130m3/秒も虚構

ちなみに、ダム地点の計画高水流量130m3/秒のうち、125m3/秒をため込むという話も机上の空論です。

国土交通省は、実測のない1991年8月20日洪水の南摩ダム予定地における流量を90m3/秒と推計した値を含めた64洪水から130m3/秒を計算しましたが、1991年8月20日洪水では乙女地点の流量が2200m3/秒程度なのに、南摩ダム予定地の流量を90m3/秒と推計するのは、他の洪水と比較すると超過大推計になるからです。

また、2015年9月洪水では、鬼怒川流域に1/110規模の降雨があったと国土交通省は計算しているので、思川流域でも同程度の規模の降雨があったと考えるべきです。

水資源機構からの開示資料によれば、2015年9月洪水におけるダム予定地の最大水位は2.15mであり、これを直近のHQ式(2014 年10月14日〜12月31日)にあてはめれば、最大流量は76m3/秒となります。

ダム予定地の1/100確率程度の降雨のときの流量が76m3/秒であるとすれば、130m3/秒はその2倍も過大な計算をしていることになります。

そうだとすれば、ダム地点の削減率96%も怪しくなるし、乙女地点の削減量60m3/秒も怪しくなります。

●渡良瀬遊水地に流入する洪水流量をどれだけ低減するのか

水資源機構は、「渡良瀬遊水地に流入する洪水流量を低減し、渡良瀬遊水地の洪水調節機能とあわせて、利根川本川の計画高水流量を増やさないようにします。」という宣伝はしてこなかったと思います。

定量的な説明が全くありません。

南摩ダムは渡良瀬遊水地に流入する洪水流量をどの程度低減するのでしょうか。

中央大学のホームページに「渡良瀬遊水地の洪水調節機能とその課題の考察」(松本敬司・中井隆亮・福岡捷二・須見徹太郎)という論文が載っており、渡良瀬遊水地への洪水流入量を推計した結果が書かれています。

論文では、「利根川栗橋地点で流量が14,000m3 /s(整備計画流量相当)になるよう洪水波形を引き伸ばした超過洪水に対する渡良瀬遊水地の洪水調節効果の検討を行」いました。

実績洪水のハイドログラフを引き伸ばして、四つの越流堤(第一上流越流堤、第一下流越流堤、第二越流堤、第三越流堤)での流入量を個別に算定しています。

1948年9月型洪水のときのハイドログラフを1.34倍に引き伸ばした洪水で流入量が最大となるそうです。

その総流入量の最大値は、論文に書かれたグラフから読み取ると約9000m3/秒にもなります。

一方、南摩ダムによる効果量は、乙女地点で60m3/秒です。

仮に渡良瀬遊水地地点で同量の効果量を維持できたとしても、南摩ダムによる渡良瀬遊水地に流入する洪水流量の低減率は、60÷9000=約0.7%です。

渡良瀬遊水池の貯水量は1.7億m3もあります。南摩ダムで流入量を約0.7%低減させても全く大勢に影響がありません。

水資源機構が南摩ダムの効果であるとする「渡良瀬遊水地に流入する洪水流量を低減し」の意味が分かりません。

水資源機構の説明は素人だましのような気がしてなりません。

(文責:事務局)
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