栃木県が思川開発事業に参画した理由

2008-12-15

●思川開発事業等検討委員会

2001-01-09に福田昭夫栃木県知事(当時)は、思川開発事業等検討委員会を設置しました。副知事を委員長とし、関係部課長で構成する庁内組織でした。目的は、思川開発事業及び東大芦川ダム建設事業の対応方針(案)を整理することでした。

栃木県は、2001年5月に「栃木県思川開発事業等検討委員会の検討結果について」という文書を作成しました。

●移転対象者の生活再建のためにダム事業に参画した

思川開発事業等検討委員会は思川開発事業への対応方針として三つの案を作成しました。第3案は、「思川開発事業には本県の利水(小山市単独分を含む)は参画しない」というものでした。その案のデメリットとして次のように書かれています。

下流県の需要水量だけでは開発水量が過小となるため思川開発事業自体が中止となる可能性があり、その場合には移転対象者の生活再建対策が図れなくなる

ここに栃木県が思川開発事業に参画した理由が書かれていると思います。

下流県の水需要は、南摩ダムという巨大ダムを建設するには少なすぎたと書かれています。そのため下流県の需要水量だけでは、思川開発事業が中止になる可能性があったと書かれています。これは非常に重要な事実です。思川開発事業が中止になるかどうかは、栃木県がどれだけ需要水量を増やせるかにかかっていたということになります。つまり、栃木県知事は、思川開発事業について生殺与奪の権限を握っていたことにになります。そして福田知事は、生かす方に決定したのです。福田知事が「栃木県は思川開発事業には参画しない」と言えば、同事業は中止となったにもかかわらず、参画するという決定をしたのです。

福田知事が栃木県が参画するという決定をした理由は何か。上記検討結果には、「思川開発事業が中止になると移転対象者の生活再建が図れなくなる」と書かれています。中止になったら移転対象者が困るから中止にならないように栃木県が参画したということにならないでしょうか。移転対象者の生活再建は、栃木県が参画することの大きな理由となっていたということは言えると思います。

移転対象者の生活再建はもちろん重要ですが、移転対象者のために1850億円をかけてダムと導水管を建設し、環境を破壊しなければならないとしたら、本末転倒です。

こんな倒錯した理屈が成り立つなら、ダム造りは簡単です。事業者が移転対象者に対して「どうせダムに沈む土地なんだから売れ」という攻勢をかける。家族も地域も疑心暗鬼でずたずたに破壊され疲れ果てる。こうして住民を苦しめれば、住民の生活再建がダム建設の大きな理由となるというわけです。

行政が住民を苦しめたら、ダムを建設するかしないかにかかわらず、償うのが筋です。移転対象者の生活再建をダム建設と結び付ける論理的必然性はありません。「事業が中止になれば、地権者の生活再建が図れない」と県職員が考えていたとすれば、頭が固すぎます。2001年当時、水資源開発公団も「事業を中止するが、移転対象者の生活再建も図る」という選択肢があることを認めていました。

いずれにせよ、上記対応方針案を見ると、栃木県は移転対象者の生活再建を図るために、無理くり需要水量を創出し、思川開発事業に参画したことがうかがえます。もっとも、「移転対象者の生活再建」もダシにされただけで、表向きの理由にすぎないのかもしれませんが、栃木県が参画した理由が「水需要があったから」でないことは確かでしょう。

(文責:事務局)
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