市長の差、組合の差

2009-05-23

●名古屋市が徳山ダム事業から撤退する

名古屋市は、徳山ダムに係る導水事業からの撤退を検討しています。 2009-05-15下野の記事を引用します。

徳山ダムの導水路事業撤退を検討 名古屋市の河村市長

名古屋市の河村たかし市長は15日、国内最大の総貯水量をもつ徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水を木曽川へ流す導水路事業からの撤退を検討していることを明らかにした。

導水路は水資源機構が着工、2015年度に完成する予定で、総事業費は890億円。このうち約120億円を名古屋市が、残りを国と愛知、岐阜、三重の3県で負担する予定だった。

すでに、河村市長は09年度分の負担金支払いの凍結を担当部署に指示しているという。

徳山ダムは昨年5月に本格運用。導水路は、揖斐川と木曽川を結ぶ全長43キロの地下トンネル。名古屋市は木曽川の取水施設で、渇水時にはダムから放流される毎秒20トンの水を水道や工業用に使用する計画となっていた。

「撤退を検討していることを明らかにした。」のは、14日が正しいと思います。

徳山ダムは2008年に完成してしまっていますが、揖斐川から木曽川へと導水路で水を運ばないと名古屋市では使えません。その導水路の建設事業から名古屋市が撤退する見込みなのです。さすが、総理をねらう男、河村市長です。

導水事業撤退に関する下野の扱いは上記のとおり小さかったのですが、中日新聞の扱いは当然大きなものでした。同日の中日新聞は以下のとおりです。

名古屋市が導水路撤退 徳山ダムの利水権を放棄

名古屋市の河村たかし市長は14日、徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水を、同市と愛知県の取水口がある木曽川まで流す「木曽川水系連絡導水路事業」から撤退する方針を明らかにした。水需要が増えていないことが理由で、同ダムの水を毎秒1・7トン利用できる権利は放棄する。

市が撤退しても、導水路の規模を小さくするなどして事業費を削減するのは難しい。事業継続には、市と同じく権利を持つ愛知県を中心に、国や岐阜、三重両県の負担が増す可能性があり、反発が起こるのは必至だ。

導水路は水資源機構が本年度に着工し、総事業費890億円のうち、市は2015年度までに121億円を負担する計画。市の本年度分1億6000万円は今月25日が1回目の支払期限だが、市はすでに「支払わない」と機構に通告した。

さらに権利を放棄することで、市は、毎年1億3000万円負担している徳山ダムの維持管理費も今後は支払わない構え。ただ、3500億円をかけて完成したダムの建設費は、市負担分のうち90億円を払っただけで、今後20年余かけて利息も含め310億円を支払う必要がある。

河村市長は本紙の取材に「水の使用量は1970年代をピークに減っている。水余りの中、さらに何百億円も投じて導水路を造る必要があるのか。渇水時には節水や農業用水の活用など市民の協力で乗り切れる」と話し、導水路事業そのものの見直し議論に火を付けたい姿勢も示す。早々に討論会を開き、市民の声も聞きたいとしている。

導水路の建設には名古屋市議会でも一部に疑問の声が上がったことはあるが、大勢は建設に同意しており、河村市長の方針には今後、議会が反発する可能性もある。

河村市長は、民主党の衆院議員時代から徳山ダムには反対の立場をとっていた。

【木曽川水系連絡導水路事業】揖斐川と木曽川を直径4メートル、全長43キロの地下トンネルで結び、徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水を毎秒4トン、渇水時は同20トン、木曽川に放流する。木曽川には愛知県と名古屋市の取水施設があり、都市用水への利用、渇水時の木曽、長良川両河川の環境改善などが目的。上流、下流の2ルートを建設する計画。2009年度に着工し15年度の完成が目標で、総事業費890億円は国と愛知、岐阜、三重各県と名古屋市が負担する。


●市長の差

うらやましい限りです。河村氏を選んだ名古屋市民に敬意を表します。もっとも、河村市長の言っていることは、無駄な事業にカネを出さないということであり、当然のことをやっているまでです。その当然のことができない首長が多いから、河村市長が輝いて見えてしまうのでしょうね。

翻って佐藤信鹿沼市長はどうでしょうか。鹿沼市長が南摩ダム促進を表明に記したように、佐藤市長は、 県議時代に「水没予定地等の住民の生活再建が果たされた後に南摩ダムは建設しないのがベスト」と発言しており、公約でも「ダムの水は水道に使わない」と言っていましたが、「これまでの経緯や現状を踏まえて対応せざるを得ないと考えております。」というのが昨年12月の申入書の回答でした。

「水没予定地等の住民の生活再建が果たされた後に南摩ダムは建設しないのがベスト」という発言を聞いたときに、何たる慧眼と感動すら覚えたものですが、市長になってみると筋論は引っ込めるというわけです。立場が変わると説を変えるのなら、そんな格好のいいことは言わない方がよかったと思います。

無駄なものが無駄と言えない人生なんて悲しいと思います。

●組合の差

名古屋水道労働組合は、河村市長の撤退表明に対し、5月19日に次のような談話を発表しました。

名古屋市長の 「木曽川水系連絡導水路建設事業からの撤退」 表明について

名古屋水道労働組合中央執行委員会(談話)

河村市長が、5月14日、徳山ダム導水路事業から「撤退」を表明し、水資源機構への分 担金支払いを差し止め、市民の意見を聞いて決定することを発表しました。

これまで、名古屋市に対し「木曽川水系連絡導水路事業を行わないこと」を要求し、市民 とともに「名古屋の水を守る」取り組みを続けてきた名古屋水道労働組合として、河村市長 の「撤退表明」を評価するとともに、今後予想される様々な曲折に対し、導水路事業の中止 を実現できるよう、名水労として引き続き取り組みを進めたいと考えます。

名水労は、名古屋市の、長良川河口堰や徳山ダムの建設事業などの水資源開発への参加が、 四半世紀に及ぶ、低迷する水需要と大きく乖離し、無駄な大型公共事業となっていること、 結果として税金や料金の無駄遣いになっていることや、開発地域や下流地域の生態系を破壊 することなどから、その建設事業に反対してきました。

また、木曽川源流の山々が、渇水時でも、木曽川の豊かな水量を保障する「緑のダム」と なっていることから、水源林の確保や間伐事業への参加などにも市民団体とともに取り組ん できました。

全国的にも、脱ダム宣言やダムに依存しない地域づくりなどの取り組みが進み、河川法の 改正や、川辺川ダム、大戸川ダムの見直しなどが実現する中、東海地方や名古屋においても、 連絡導水路建設反対の運動が取り組まれたことが、名古屋市の「撤退表明」に少なからず影 響を与えており、名水労もわずかではありますがその一端を担ってこれたと思います。

引き続き、名古屋の水を守るため、建設事業中止の実現に向けて、市民とともに取り組ん でいきたいと思います。

2009年5月19日

これまたうらやましい話です。「市民とともに」が特にうれしい。名古屋市水道労組には、敬意を表します。

しかし、名古屋市水道労組が無駄なダム事業に反対するのは当然のことです。無駄なダム利水事業は、水道料金の値上げという形で水道加入者に負担を押し付けますが、行政側も無傷ではいられません。無駄なダム事業によるコスト増を加入者だけに押し付けようとすれば、市長が非難されます。そこで行政は、ダム建設負担金以外の経費を圧縮するために、安全性を犠牲にしてまでも、安易に民間委託に走ったり、合理化の名の下に水道の現場で働く公務員の首切りを画策します。自治体が無駄なダム事業に参画すれば、泣くのは住民であり、公務員であるのです。

そうした事例に関する情報は、水道労組が十二分に把握しているはずです。しかし、新聞社の怠慢なのかどうか知りませんが、鹿沼市や宇都宮市の水道労組が南摩ダムや湯西川ダムに反対しているという話は全く聞こえてきません。

組合の最大の使命が組合員の生活を守ることであるなら、無駄なダム事業に反対するのは当然です。

鹿沼市水道労組は、鹿沼市が南摩ダムに参画するのは、そういう政策決定をする市長を選んだ市民の責任であり、組合は政治決定の是非を判断する立場にない、という考え方なのかもしれませんが、南摩ダムは組合員の生活に直結する問題であるということを言っておきたいと思います。

鹿沼市水道労組は、言われるまでもなく、このことに気付いていると思います。鹿沼市上水道は地下水源だけで足りており、表流水を水源とする必要がないことにも気付いているはずです。気付いていながらなぜ沈黙しているのか。

分かりません。

名古屋市と鹿沼市の水道労組の差はどこからくるのか。

分かりません。

(文責:事務局)
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