栃木県議会は県民の利益を考えているのか

2011年11月16日

●栃木県議会が八ツ場ダム推進意見書を可決した

2011年10月15日付け下野は、次のように報じています。

八ツ場ダム推進意見書を可決 9月定例県議会が閉会 民主「国の態度未定」と退席

県議会9月定例会は最終日の14日、議員提案の八ツ場ダム(群馬県)の早期完成を求める意見書案などを可決し閉会した。民主党・無所属クラブ(一木弘司代表)の6人は同意見書案の採決の際に退席。残りの議員44人による全会一致で可決した。

一木代表は「国は八ツ場ダム建設事業の是非について態度を決めていない。政権与党の会派として現時点では賛成も反対もできない」と理由を述べた。

同ダムについては先月、本県など6都県が参加した「検討の場」で、国土交通省が「ダム建設が最も有利」とする検討結果を示した。意見書は「本県議会のこれまでの主張に沿うもので、当然」とした上で、ただちにダム本体工事に着手するよう国に求めている。 (以下略)


●八ツ場ダムと栃木県の関係

八ツ場ダムは、利根川支流の吾妻川に建設が計画されているダムです。

栃木県は、八ツ場ダムにより治水上著しい利益を受けることを理由に、国に対して約10億4000万円の負担金を支払うことになっています。

ただし、この金額は、このダムが予定どおり4600億円で完成した場合の計算であり、建設費が膨れ上がれば、栃木県の負担金も比例して増えることになります。(2011年10月7日付け読売によると、国土交通省が6日に発表した「八ツ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(素案)」で、「総事業費を従来の4600億円から、工期の遅れによる人件費増額などを加味した4783億円とした」とされています。既に183億円の事業費増額を国が認めているということです(読売記事は阿修羅の掲示板「八ツ場ダム費用対効果「倍増」」で確認できます。)。)

しかし、利根川は栃木県内を流れていません。接してもしません。栃木県に最も近い旧藤岡町からでも、5kmは離れています。足利市からは7kmくらいは離れていると思います。

利根川の洪水が栃木県に及んだことは、歴史上ありません。

それでも栃木県議会は、知事と一緒になって、少なくとも10億4000万円を国に対して支払いたいというのです。

その理由はなんでしょうか。

●どのような意見書なのか

栃木県議会のホームページに八ッ場ダム建設事業の早期完成を求める意見書が掲載されています。以下のとおりです。

八ッ場ダム建設事業の早期完成を求める意見書

 九月十三日に開催された八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場において、ダムの建設を前提とした案が「洪水調節」「新規利水」「流水の正常な機能の維持」の面で総合的に最も有利とする検討結果を国は示した。この結果は、本県議会のこれまでの主張に沿うものであり、いわば当然のものと受け止めている。
 
   しかし、利根川下流域都県のためにダム建設に協力してきた地元水没関係住民にとっては、平成二十一年九月の建設中止宣言から実に二年もの間、度重なる国の方針変更により常に不安な状況に置かれているところでる。
 
   そもそも八ッ場ダムは、これまで洪水、渇水の双方において数多くの深刻な被害を経験してきた利根川流域の一都五県にとって、洪水の危険性や水不足への不安を解消するために必要不可欠な施設である。
 
   千年に一度といわれる大地震によって甚大な被害が生じた東日本大震災により、防災対策の重要性が再認識され、防災の在り方が問われている今、過去の歴史を繰り返すことなく、利根川の治水対策を確実に進めていくためには、八ッ場ダム建設事業を一刻も早く完成させることが喫緊の課題である。
 
   よって、国においては、今回の検討結果を尊重し、一刻も早く対応方針を決定するとともに、下記の事項を実現するよう強く要望する。
 
                  記
                
                 一 ダム建設が最も有利であることが明確に示された以上、直ちにダム本体工事に着手するとともに、基本計画どおり平成二十七年度までに八ッ場ダム建設事業を完成させること。

二 長年にわたりダム建設に翻弄されてきた地元住民の意見を真摯に受け止め、国の責任において生活再建事業を早期に完成させること。

 以上、地方自治法第九十九条の規定により意見書を提出する。
 
     平成二十三年十月十四日
   
                 栃木県議会議長 神 谷 幸 伸
             
               内閣総理大臣
   総務大臣
   財務大臣
         あて  国土交通大臣
   衆参両院議長
 
 
 
 ●推進の根拠が知事集団では説得力なし  

意見書には、「九月十三日に開催された八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場において、ダムの建設を前提とした案が「洪水調節」「新規利水」「流水の正常な機能の維持」の面で総合的に最も有利とする検討結果を国は示した。この結果は、本県議会のこれまでの主張に沿うものであり、いわば当然のものと受け止めている。」と書かれています。  

しかし、「検討の場」とは、これまで推進の立場だった関係都県の首長たちで構成されるのですから、検討結果に客観性はなく、ダム案が最も有利という結論を出すことは最初から分かっていました。検討の場で検証するという枠組み自体、「検討」にも「検証」にもなっていません。  

「本県議会のこれまでの主張」とは、おそらく、2009年11月30日に議決した「八ツ場ダムの建設推進を求める意見書」を指すのでしょう。  

そこでは臆面もなく「八ツ場ダムは、・・・足利市、佐野市及藤岡町の一部地域を洪水被害から守る上で必要不可欠な施設である。」と言い切っています。  

栃木県議会は、自分の頭で考えることもせず、国の言い分を鵜呑みにしているだけですから、「本県議会のこれまでの主張」と呼べるようなものではありません。  

「検討の場」の報告書や「本県議会のこれまでの主張」を理由に栃木県民が八ツ場ダムのために少なくとも10億4000万円を支払うのだ、と言われて納得する県民はいないと思います。
 
 ●「必要不可欠」の根拠は役人と御用学者の言説  

意見書には、「そもそも八ッ場ダムは、これまで洪水、渇水の双方において数多くの深刻な被害を経験してきた利根川流域の一都五県にとって、洪水の危険性や水不足への不安を解消するために必要不可欠な施設である。」と書かれています。  

ダムを建設すべきかどうかは、科学的知見に基づいて決めるべきです。だれかの漠然とした不安な気持ちで建設されてはたまりません。  

八ツ場ダムが治水上・利水上投資しただけの効果があるという科学的根拠はありません。  

「検討の場での検討報告書があるではないか」という反論が予想されますが、役人と御用学者がひねり出したエセ科学であることは、1都5県のダム訴訟で原告らが証明しているところです。  

栃木県議会は、八ツ場ダムが「必要不可欠な施設である」という根拠を自ら説明できません。  

役人と御用学者の説明を信じているだけです。  

利権をむさぼる役人と御用学者の説明が正しいという保証は全くなく、これに依拠した栃木県議会の意見に説得力はありません。
 
 ●大震災後も巨大施設に頼るのは傲慢だ    

意見書には、「千年に一度といわれる大地震によって甚大な被害が生じた東日本大震災により、防災対策の重要性が再認識され、防災の在り方が問われている今、過去の歴史を繰り返すことなく、利根川の治水対策を確実に進めていくためには、八ッ場ダム建設事業を一刻も早く完成させることが喫緊の課題である。」 と書かれています。  

全く意味不明です。  

特に「過去の歴史を繰り返すことなく」とはどういう意味でしょうか。八ツ場ダムを建設すれば、利根川流域で水害が皆無になるとでも言うのでしょうか。  

今まで深刻な事故は起きないとされていた核発電所が大地震によってあっけなく破壊され、日本中を核で汚染してしまいました。安全神話はもろくも崩壊したのです。  

また、ダムも地震で決壊しました。福島県須賀川市の藤沼ダムは、3.11の地震で決壊しました。  

人間は自然を完全にコントロールできないことを悟るべきです。  

また、巨大な施設に頼ることは危険であることを悟るべきです。リスクは分散するのが原則のはずです。  

その反省を踏まえるならば、ダムは造らないという結論になるべきです。  

意見書は、「ダムは地震で壊れない」とか「想定以上の雨は降らない」という都合のよい前提で書かれているとしか思えません。  

八ツ場ダムを建設することが「利根川の治水対策を確実に進めていく」ことにならないことは、既に八ツ場ダムのウソ(その3)に書いたとおりです。  

栃木県議会は、役人と御用学者の言い分を正しいと信じて意見書を書いているのでしょうから、役人と御用学者の説が間違っていれば意見書も間違っていることになります。  
 
 ●なぜ直接対決での議論を国は避けるのか  

八ツ場ダムについて国土交通省はまともな検証をやろうとしません。  

国土交通省自身が検証の主体となり、主な検証組織は、関係自治体の首長と御用学者の集団です。反対派の意見は、パブリックコメントと公聴会の意見陳述で"ガス抜き"として聞き置けばよいというやり方です。  

国は、推進派と反対派が議論を闘わせて真実を発見するという方法を徹底的に避けています。  

国土交通省がこんなやり方でしか検証できないということは、反対派とまともに議論したら勝ち目がないことを認めていることの証拠だと思います。  

こんな検証結果に依拠した栃木県議会の意見書は不当であり、有害無益です。  
 
 ●群馬県民のためになぜ栃木県がカネを払うのか  

意見書には、「長年にわたりダム建設に翻弄されてきた地元住民の意見を真摯に受け止め、国の責任において生活再建事業を早期に完成させること。」と書かれています。  

国が地元住民の生活再建のためにカネを使うのはやむを得ませんが、そのために栃木県が少なくとも10億4000万円を支払う理由を県議会は説明するべきです。  

他の県民のために使うカネは、栃木県にはないはずです。  

栃木県議会は、八ツ場ダムのために少なくとも10億4000万円ものカネを使う意味が本当にあると思っているのでしょうか。  

国が足利市、佐野市、旧藤岡町の洪水被害の軽減に効果があると言っているのだから、それを信じましょうという態度が県民の利益を考えていることになるのでしょうか。  

私にはそうは思えません。  
 
 ●民主党県議の態度もいただけない  

上記下野記事によれば、「民主党・無所属クラブ(一木弘司代表)の6人は同意見書案の採決の際に退席。」しました。  

自民系議員の書いた意見書案に賛成しなかったことは評価しなければなりません。  

しかし、退席の理由は、「国は八ツ場ダム建設事業の是非について態度を決めていない。政権与党の会派として現時点では賛成も反対もできない」ということです。要するに自分の頭で考えずに、国任せにするということです。
私は、民主系議員には、きちんと理由を述べて反対してほしかったと思います。

自民系議員は、まともな理由も述べずに推進の意見書を提案する。民主系議員は退席する。これでは、栃木県議会の中で八ツ場ダム建設の是非を議論する場がありません。

民主系議員としては、民主党政権が、御用学者を集めてではありますが、「予断なき検証作業」を進めている最中に、地方議会において同じ民主党議員が先走って結論を出すのはまずいという判断があったと思いますが、そうだとすれば、そういう理由で、今、推進の意見書に賛成するわけにはいかないという反対論を述べればいいと思います。

なぜ退席なのでしょうか。

(文責:事務局)
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