市議会会議録の発言削除は発言抹殺でよいのか

2017-03-31

●佐藤誠議員の問題発言とは

鹿沼市議会本会議会議録によれば、2016年12月9日の鹿沼市議会一般質問で佐藤誠議員が次のように発言したことになっています。

あと、健康、糖質制限ブームというところでのちょっと聞いてもらいたい提案なのですけれども、鹿沼市は足立区と友好都市を締結していますけれども、今これ言われているのですけれども、所得が低い人ほど、どうしても食費にお金をかけられなくて、やっぱりファーストフードとか、炭水化物を食べてしまうのですね。
野菜をなかなか食べられないと。ほらアメリカ合衆国で現に起きているわけですから、野菜を食べられずに、炭水化物を食べて、結局糖尿病が多いという、そういう現実があるわけで、足立区もやっぱり都内での平均寿命が2年短いと、それで糖尿病医療費が23区で一番やっぱり多いと、そういう中で、何かうまく足立区に鹿沼市のコンニャクというものをうまくかみ合わせることができれば、これもチャンスなのかなと、これは一つ提案です。答えを求めます。

しかし、この会議録は、発言の一部が削除された後のものです。

鹿沼市議会は会議録を原本と公開用と二つ作成しており、私が会議録の原本の当該部分を議長に情報公開請求したところ、実際の発言は次のとおりだったことが判明しました。

あと、健康、糖質制限ブームというところでのちょっと聞いてもらいたい提案なのですけれども、鹿沼市は足立区と友好都市を締結していますけれども、足立区というのは、まあこう言ったら失礼なのですけれども、やっぱり所得水準が低いからなのか、今これ言われているのですけれども、所得が低い人ほど、どうしても食費にお金をかけられなくて、やっぱりファーストフードとか、炭水化物を食べてしまうのですね。
野菜をなかなか食べられないと。ほらアメリカ合衆国で現に起きているわけですから、野菜を食べられずに、炭水化物を食べて、結局糖尿病が多いという、そういう現実があるわけで、足立区もやっぱり都内での平均寿命が2年短いと、それで糖尿病医療費が23区で一番やっぱり多いと、そういう中で、何かうまく足立区に鹿沼市のコンニャクというものをうまくかみ合わせることができれば、これもチャンスなのかなと、これは一つ提案です。答えを求めます。


●取消しを勧める議長発言があった

会議録原本を読み進めると、「ツール・ド・とちぎ」と自転車についての質問と答弁があった後、横尾武男議長と佐藤議員の間で次のようなやりとりがありました。

横尾議長
佐藤議員、先ほどの「鹿沼こんにゃく」の質問の中で、「足立区は所得水準が低い」みたいな話がちょっと出たのですよね。そこのところは撤回をしていただければ、それでそのまま進行できますけれども、そういうことでよろしいでしょうか。
佐藤議員
はい。
横尾議長
では、そこのところは削除するということでよろしいでしょうか。
佐藤議員
はい。
横尾議長
はい、わかりました。では、佐藤議員。

このやりとりを受けて、12月19日本会議で佐藤議員は、次のように発言しました。

おはようございます。12月9日の私の市政一般質問において、別紙のとおり取り消しをさせていただきたいので、どうぞよろしくお願いいたします。

この発言はネット公開されていますが、別紙に何が書いてあるのか、どの発言を取り消したのか、市民は情報公開請求をしない限り知ることができません。

鹿沼市議会会議規則には、次の規定があります。

(発言の取消し又は訂正)
第64条 発言した議員は、その会期中に限り、議会の許可を得て発言を取り消し又は議長の許可を得て発言の訂正をすることができる。ただし、発言の訂正は、字句に限るものとし、発言の趣旨を変更することはできない。

佐藤議員は、この規定により発言を取り消したものです。

●取り消された発言は会議録に掲載されない

そして、会議規則には次のような規定があります。

(会議録に掲載しない事項)
第86条 前条の会議録には、秘密会の議事並びに議長が取消しを命じた発言及び第64条(発言の取消し又は訂正)の規定により取り消した発言は、掲載しない。

この規定により、鹿沼市議会会議録には、削除した発言は掲載されなかったのですが、会議録の原本には記載されています。

では、市民が情報公開請求をしても公開されないのか。

千葉県四街道市議会では、会議録原本の公開を拒んだようです(四街道市情報公開・個人情報保護審査会答申)が、四街道市情報公開・個人情報保護審査会は、非公開事由に該当しないと認められるから「公開すべき」旨の答申をしました。明快な答申だと思います。

注目すべき点は、議長が「議長職権により削除された当該議員の発言は、削除によりなかったこととなるから、これを公開することは、「議会運営事務の適正な遂行に支障を及ぼす」、「議会運営の中立性が損なわれる」等と主張」しましたが、非公開とすべき理由が示されていないと判断したことです。

議長は、会議録から問題があるとされる発言を削除する権限はあっても、「なかったこと」とする権限はないということです。

●削除制度には問題がある

国会の会議録における「削除」問題については、元参議院参事・元駒澤大学法学部教授の前田英昭氏の研究ノートがネット公開されており、特に議長の職権による削除には問題があることが指摘されています。

最近でも山本太郎参議院議員の発言について職権削除の動きがあるようです。
議事録から削除される?山本太郎議員の参議院代表質問を書き起こしました。(お役立ち情報の杜(もり))

参院代表質問でまた山本太郎節が炸裂! 安倍首相を「大企業ファースト」とホメ殺しも議事録から削除の動きが(リテラ)

リテラの記事安倍首相「私は立法府の長」発言だけじゃない! 都合の悪い議事録を次々改ざんする安倍政権の危険性には、「(2016年)5月16日に開かれた衆院予算委員会で、安倍首相は民進党の山尾志桜里政調会長の質問に対し、「議会についてはですね、私は立法府、立法府の長であります」と答弁。言わずもがな、安倍首相は「行政府の長」であって、総理大臣とは思えない無知っぷりを露呈させたが、議事録ではこれが「議会については、私は行政府の長であります」と修正されているのだ。」と書かれています。

「議事録とは“そのままの発言”が残されなくては意味がない。しかも、本サイトで追及したように、この安倍首相による「立法府の長」発言は、たんなる言い間違いなどではなく、三権分立さえ軽んじる安倍首相の本質が露わになった事案だ。」とも書かれています。

●今の削除のやり方でよいのか

私も、議会の会議録をいろんな思惑で削除や訂正されては、何が真実かが分からなくなりますので、迷惑な話だと思いますが、会議録の削除・訂正の制度は世界的にあるようなので、なくすことはできない制度なのかもしれません。

そうだとしても、発言の取消しがあっても、当該発言をそっくり取り去ってしまって、議長がとがめる発言も削除して、何事もなかったかのように会議録を作成し、傍聴に行かなかった市民に何かがあったことさえ気付かせないないようにするのは問題だと思います。

こうした削除の仕方では、鹿沼市民が政治家の資質を判断できないと思います。

上記四街道市の事例では、同市議会の会議録の削除部分は「・・・・・」と伏せ字になっていたようです。こうしたやり方が妥当だと思います。

●佐藤議員の質問への疑問

ちなみに、佐藤議員の上記発言で気になる点が二つあります。

「足立区もやっぱり都内での平均寿命が2年短い」という発言がありましたが、「平均寿命」ではなく「健康寿命」ではないかと思います。

足立区が作成した糖尿病対策の啓発ポスターには、「なぜ足立区民の健康寿命は都平均より約2歳短いのか」と書かれているからです。

足立区民は所得水準が低いと言いますが、確かに23区では最下位のようですが、大阪市より上という話もあります(2015年12月2日付けダイヤモンドオンラインの記事港区の所得水準は足立区の3倍!?東京23区「びっくり格差」ランキング)。

年収ガイドというサイトの全国市区町村 所得(年収)ランキング 2015年というページから、「総務省発表の統計資料をもとに、市区町村別の課税対象所得の総額を納税者数で除算した額を平均所得と規定し、足立区の平均所得(年収)を算出しました。2015年の平均所得は334万7070円でした。」と書かれた記事にたどり着きます。

1741市区町村のうちの168位です。

「(大阪市の)2015年の平均所得は325万5621円でした。」212位です。

確かに大阪市より上です。

「(鹿沼市の)2015年の平均所得は281万4354円でした。」670位です。

足立区民が佐藤議員の発言を聞いたら、鹿沼市民には言われたくないと言いたくなると思います。言ったのは一市民ではなく、議員でしたが。

●動画での削除の基準が分からない

ちなみに、鹿沼ケーブルテレビがYouTubeにアップしたと思われる佐藤議員の質問の動画では、公開用の会議録よりも大幅にカットされています(23:28あたりで)。

しかも、上記動画は2回編集されています。

当初アップされた動画は、「足立区というのは、まあこう言ったら失礼なのですけれども、やっぱり所得水準が低いからなのか」はカットされていましたが、それ以外は、議長が注意する発言を含め、カットされていませんでした。

動画を編集する方針が明確に定まっていないと思います。

削除部分は無音にするのも変ですから、ピー音を入れるというのはどうでしょうか。

●議会公開のルールの見直しを求める

議会には、動画も含めて議会公開のルールを見直して明確にしてほしいと思います。

その際、地方自治法第115条第1項には、「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。」のが原則とうたわれているのですから、市民の知る権利を侵害しないように留意してほしいと思います。

(文責:事務局)
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