下野新聞社は国土交通省から年間1億6000万円の広告収入を得ていた

2007-05-06

●政府広報費は年間1000億円

2007年4月27日深夜のテレビ番組「朝まで生テレビ」で政府広報費は年間1000億円もあり、内閣府だけでも100億円の予算を使っているという話が出ました。1000億円の宣伝費用は、トヨタ自動車のそれに匹敵するそうです。自民党衆議院議員片山さつき氏は、「それでも少ないくらいだ。政府広報費の予算を減らせば、国民が情報を得られなくなり損失を被る」という趣旨の発言をしていました。

しかし、そう言えるためには、政府広報が国民にとって必要かつ有用なものであるという前提が必要ですが、そういう前提は成り立ちません。現実は、例えば「八ツ場ダムは必要である」という誤った世論を誘導するために非科学的な情報を流す場合が多いものです。やらせタウンミーティングの問題もあったではないですか。ダムがもたらす災いを正しく伝えた政府広報があったでしょうか。偽装やねつ造された情報、政府に都合の悪いことを隠ぺいした情報を多額の広報費を使って垂れ流しても国民の利益になるはずがありません。

ちなみに、「国政選挙時、2週間ほどで投下される政党広告費(新聞、テレビ、ラジオ)は100億円程度」(2007-05-05赤旗)だそうです。

●政府広報の問題点

当サイトでは、以下のタイトルで新聞社の問題点を考えてきました。
○水没すると決めつける下野新聞
○新聞は行政を批判できるのか
○国土交通省の全面広告のどこが間違っているのか

私たちは、新聞社と国土交通省が実際どの程度金銭的に結びついているのかという疑問を持ちましたが、全国的な調査は量的に無理なので、同省関東地方整備局に情報公開請求してみました。期間も最近の3年度分(04〜06年度。ただし、06年度は12月まで)に限定しました。

●関東地方整備局に情報公開請求してみた

2007年1月に関東地方整備局に公開を請求した文書名は、情報公開の担当者と協議した結果、「関東地方整備局(港湾空港部含む)管内で2004年4月から2006年12月までに新聞社に支払った広告料(入札広告を除く)が含まれている支出決議書」ということになりました。

したがって、具体的にどの広告の料金がいくらなのかは分かりません。また、広告料以外の名目で関東地方整備局が新聞社に支払ったカネ(例えば調査委託料)があるかもしれませんが、それも分かりません。

2007年4月に公開された支出決議書は、629ページに及びました。見本を以下に示します。
広報費に関する支出決議書見本その1
広報費に関する支出決議書見本その2

広告料を会計科目で区分すると「目の細分」が「測量及び試験費」となるようですが、部外者には理解しがたいところです。

●2年9か月の合計は23億円を超えた

関東地方整備局管内の国道事務所、河川事務所等の事務所が2年9か月の間に新聞社に支払った広告料は、23億円を超えました。年度別の支払額は以下のとおりです。

2004年度1,072,868,584円
2005年度900,574,559円
2006年度(12月まで)373,579,534円
合計2,347,022,677円

関東地方整備局管内では、新聞社を対象として年間約10億円の広告料を使っているようです。

●上毛新聞社がダントツに稼ぐ

新聞社別の上位ランキングです。上記2年9か月間に新聞社が関東地方整備局管内の事務所から得た広告料の合計額の比較です。ただし、関連会社分や 支局分を合計していません。

1位上毛新聞社465,650,873円
2位中日新聞社 328,373,169円
3位下野新聞社322,671,325円
4位神奈川新聞社 203,525,610円
5位茨城新聞社190,549,800円
6位埼玉新聞社150,406,827円
7位信濃毎日新聞 149,461,200円
8位山梨日日新聞社125,753,774円

群馬県の上毛新聞が1位なのは、国交省の八ツ場ダムへの熱意の表れなのでしょうか。

●事務所別ランキング

以下は、2004年4月から2006年12月までの合計金額の 事務所別ランキングです。

1位東京国道事務所278,266,470円
2位高崎河川国道事務所268,066,598円
3位宇都宮国道事務所 255,321,175円
4位荒川下流河川事務所155,648,850円
5位利根川ダム統合管理事務所148,089,900円

ここから言えることは、次に見るように、道路整備特別会計が潤沢にあるということでしょうか。

●会計別ランキング

会計別ランキングは、以下のとおりでした。一般会計からの広告費が9000万円なのに対し、治水特別会計が8億円、道路整備特別会計は、その約1.8倍の14.4億円でした。

道路整備特別会計1,442,825,355円
治水特別会計802,185,312円
一般会計90,365,956円
港湾整備港湾会計7,246,050円
空港整備特別会計4,400,004円
合計2,347,022,677円
 

国の財政は既に破綻していると言われていますが、ウソのようです。「特別会計は打ち出の小槌」と形容したくなるほど豊富に広告費を使っています。自分や親戚の子どもが就職するなら国道事務所か新聞社を薦めたくなります。自分が新聞社の社長だったら、「ダム等の河川工事、道路工事、特別会計の批判記事は書くな」とさもしい命令をしてしまうでしょう。事実、2007-01-30の下野新聞22面の企画特集記事には、読者の意見として「道路をもっと身近なものにしていくには、自らの判断で作っていけるように、特定財源の一般財源化ではなく、地方への税源移譲の方が良いと思います。」という道路特定財源の一般財源化に反対する意見が掲載されています。

●新聞社が国交省にとっての関心事か

細かいことですが、興味深かったのは、広告内容ではなく、広告契約の相手方に意味があるとでもいうような支出決議書が見られました。「負担行為件名」の欄に「日刊建設工業新聞広告掲載」、「建通新聞広告」と記載されたものがありました。契約の相手方を記載する欄は別にあるのですから、「負担行為件名」の欄に契約の相手方を書く意味が分かりません。広告の内容(何を伝えるか)よりも契約の相手方(どうやって伝えるか)に強い関心があったものと思われます。

●下野新聞社の国土交通省からの広告料収入は年間1億6000万円

下野新聞社が関東地方整備局管内の国道事務所等から得た広告料収入は以下のとおりです。

2004年度161,417,550 円
2005年度106,763,650 円
2006年度(12月まで)54,490,125 円
合計322,671,325 円
  

2004年度は、年間1億6000万円を超えます。

下野新聞の購読料は、月2,950円です。年間35,400円。これで1億6000万円を割ると4,520ですから、4,520人分の購読料に匹敵する額を国土交通省に売り上げていることになります。

株式会社レッドスターという会社のサイトには、下野新聞の発行部数は309,616(時期不明)と書かれています。4,520部は、その約1.5%に当たります。国交省の広告がけしからんという意見の購読者がいたとしても、5000人くらいの購読者が不買運動でも起こさない限り、下野新聞社がそうした購読者の意見を尊重することはないだろうと思ってしまいます。

●学識者会議委員に選任される理由が分かった

地方新聞社は、利根川水系の河川整備計画策定のための有識者会議に延べ12人の委員を送り込んでいます。内訳は以下のとおりです。

○利根川・江戸川ブロック
寺 内 洋 二(茨城新聞社編集局報道本部学芸部長)
山 越 克 雄(下野新聞論説委員)
小 林 忍 (上毛新聞社論説委員
長野 口 晴 久(埼玉新聞取締役編集委員)
三 木 雄 三(千葉日報社地方部長論説委員)
桐 山 桂 一(東京新聞論説室論説委員)
○渡良瀬川ブロック
高 松 晶 次(下野新聞編集局地域センター長)
小 林 忍 (上毛新聞社論説委員長)
○鬼怒川・小貝川ブロック
寺 内 洋 二(茨城新聞編集局報道本部学芸部長)
菊 池 昌 彦(下野新聞編集局報道センター長)
○霞ヶ浦ブロック
岩 波 嶺 雄(常陽新聞編集委員)
○中川・綾瀬川ブロック
野 口 晴 久(埼玉新聞 取締役編集委員)

受注額ランキングと延べ委員数を以下に併記します。ただし、受注額は、系列会社を合計したので、上記会社別ランキングと数字が少し異なります。例えば、下野新聞社と下野アドセンターは系列企業として合計しました。中日新聞と東京新聞も同様です。

順位新聞社名受注額(円)構成比(%)委員数(延べ)
1上毛新聞社465,650,87320 2
2中日新聞 363,354,129 151
3下野新聞323,649,400143
4茨城新聞社 208,042,8009 2
5神奈川新聞社203,525,6109
6埼玉新聞社 176,124,21382
7信濃毎日新聞 157,237,5007
8山梨日日新聞社125,753,7745
9千葉日報社115,595,94551
10朝日学生新聞社60,259,5003
11常陽新聞新社45,505,01221

受注額における公共事業の占める割合はゼネコンほど高くないにせよ、新聞社は公共事業受注者でもあります。国交省は、テレビやインターネットに押されて広告収入が激減している地方新聞社にとって上得意先です。

有識者会議は諮問機関ですから、第三者性が求められるはずですが、地方新聞社は第三者性を有するとは言えないのではないでしょうか。第三者性のない人を有識者会議の委員にするなら、ゼネコンの役員を委員にした方がいろんな意味で分かりやすいし、河川事業にも詳しいと思います。国交省官僚にとって新聞社幹部は最後には味方になってくれる人という思いがあるのではないでしょうか。

●全国地方新聞社連合会とは世論誘導団体

下野新聞社が国交省の広告を掲載する場合、左上に全国地方新聞社連合会と記載されていることがあります。全国地方新聞社連合会とは何でしょうか。文字通り全国の地方新聞社で結成した団体です。1999年11月に設立されました。代表は北海道新聞の東京支局長で、担当は信濃毎日新聞社東京支社の社員のようです。活動実績は、
○内閣府「タウンミーティング」
○総務省「市町村合併シンポジウム」
○国土交通省「くらしのみちシンポジウム」
○国土交通省「河川文化フォーラム」などです。

団体の目的は、公式には「日本社会の新しい変化に対応し、中央省庁及び関係団体などの政策や課題について、広く地域住民(国民)の声を吸い上げ、情報のストック化を図り 、政策立案に反映する役割を果たす」ことだそうですが、魚住昭氏は、週刊現代2007.2.24号の「裁判所がおかしい」で次のように書きます。 

「東京・新橋のビルの一室に『全国地方新聞社連合会』(地方紙連合)という団体の事務所がある。この団体が99年秋に設立された経緯を教えてくれたのは、ある地方新聞の編集幹部だった。
「不況で広告が集まらなくなって地方紙の経営状態が悪くなったのが発端です。そのとき電通新聞局が主導して巨額の政府広報予算を地方紙に回すために作った組織が地方紙連合だった。だから裁判員制度のフォーラムは、地方紙連合が電通経由で各省庁から受けた仕事の一つに過ぎません」」
「この編集幹部の証言によると、政府が世論形成をしたい場合に行うシンポでは省庁側からシンポの模様を伝える特集には「全面広告」のノンブル(断り)は打たない 紙面に「広告局制作」といった表現も認めない という条件がつけられた。
政府広報と分かると広告効果が格段に減る。世論形成のためにはパブ記事でなければならぬというわけだ。それでも当初は地方紙側から「せめて<広告局制作>の表示を出したら」という意見も出たが、押し切られ、パブ記事が横行するようになったという。」(パブ記事の意味については、民主党参議院議員簗瀬進氏のサイト参照)

裁判員制度タウンミーティング事件において、 電通が最高裁に提出した契約書に添えられた「仕様書」には、次のように書かれていたそうです。

「最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、主催新聞社(各社、全国地方新聞社連合)、共同通信社、電通が一体となり、目的達成に向けて邁進する」

行政と広告代理店と新聞社がタッグを組んで世論誘導プロジェクトをやるということです。

●問題は二つある

問題は二つあると思います。公共事業の受注者である新聞社の幹部が大臣の諮問機関の委員に就任していることと政府広報がパブ記事であることです。パブ記事は詐欺的ですが、放送の場合は放送法で規制されているのに、新聞にはなぜか禁止規定がないため野放しになっています。だったら、自主規制に期待したいところですが、各地方新聞社の倫理綱領にもなぜか書かれていないのでしょう。

●4万円かけた代償が絶望ではない

情報公開請求の費用は、郵送料を含めて約4万円かかりました。分かったことは、国交省と新聞社の密着ぶりです。しかし、絶望しているわけにはいきません。厳しい現実を直視しながら新聞社との連携の道を探るしかないと思います。

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