政府への質問事項を提案する(検事長勤務延長問題)

2020-02-15

●検察官勤務延長に関する政府の答弁作戦を分析する

東京高検検事長勤務延長問題に関する前回記事の続編です。

これまでの委員会質疑で野党議員が「国家公務員法第81条の3第1項の規定に基づき黒川弘務検事長の定年退職後の勤務延長を決定したというなら、その定年退職が同法第81条の2第1項の規定に基づくことが必要だ。検察官の定年退職は、同項の規定に基づくと言えるのか。」と質問したのに対して政府側は、「検察官も一般職の国家公務員であるところ、検察庁法第22条では、検察官の「定年年齢」と「退職時期」の2点が特例とされており、同法に特段の規定のない勤務延長については一般法である国家公務員法が適用されることになるので、同法第81条の2第1項の規定と矛盾しない。」という答弁を繰り返すという「壊れたレコード作戦」で臨んでいることが判明しました。

この答弁を聞いた一般市民は、国家公務員法なんか読んだことないし、弁護士資格のある法務大臣が言うのだから、そういう解釈も成り立つのだろうな、と思ってしまうというわけです。

質問者自身もおそらくはそれほど条文の文言にこだわっていないし、質問時間も限られているので、「延長しなければならない正当な理由があるのか」といった別の角度からの質問に移ってしまい、いわば「条文該当性」の話は終わってしまうのが通例でした。

「勤務延長をする理由」という実質論に入ると、「内閣が勤務延長を決めたからといって、検察の業務が歪められることはない。そう考えるのは、何とかの勘繰りだ。」と居直られて、「考え方の違い」の問題に持ち込まれます。

「条文該当性」について「81条の2第1項に該当しないじゃないか」という質問だけでは埒が明かず、局面を打開する必要があります。

●法務大臣への質問事項案

これまでの委員会質疑を聞いていると、聞く方も答える方も条文に沿った議論をしていないように思います。

そこで法務大臣には、次のような質問をすべきではないでしょうか。



●黒川の勤務延長は人事院規則のどの条文に該当するのかを聞こう

上記のとおり、勤務延長の理由を質問すると、考え方の違いの問題にされてしまいがちですが、人事院規則に定める要件を満たす必要があります。

2月3日付け中日新聞によれば、法務大臣は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため、黒川氏の指揮監督が不可欠だと判断した」と説明したようですが、どの号に該当すると言っているのか、さっぱり分りません。

国家公務員法第81条の3の条文の建て付けからして、検察官に勤務延長は認められないのですが、仮に無理をして認められるとした場合、今回の黒川の案件は、人事院規則11−8(職員の定年)の第7条の第何号に該当するのかを質問すべきだと思います。

条文は下記のとおりであり、平たく言えば、(1)名人芸、(2)僻地勤務、(3)重要プロジェクトの主要メンバー、の三つの場合に限られると言えましょう。

人事院規則11−8(職員の定年)
第7条 勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の一に該当するときに行うことができる。
一 職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。
二 勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。
三 業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。


●森は全く逆のことを言っている

政府答弁の無茶苦茶ぶりを振り返ります。

2020年2月4日衆議院予算委員会で本多平直委員が検察官の定年退職は、国家公務員法第81条の2第1項の規定に当てはまらないのではないか」と法務大臣に迫りました。(テレ東NEWS【ノーカット】前代未聞!高検検事長の『定年延長』は安倍政権の“守護神”だから?立憲・本多議員が追及)20:44〜

森の答弁は次のとおりです。

これにつきましてはですね、検察官は一般職の国家公務員でありまして、検察庁法は、特例として定年の年齢と退職時期の2点を定めております。そうしますと、定年制をとったということになります。そうしますと、今、ご指摘の条文が当てはまり、勤務延長について一般法たる国家公務員法の規定が適用されるものと理解されます。

検察官については、定年退職制が採用されている。したがって、国家公務員法第81条の2第1項の規定に当てはまる、というのです。

北村誠吾大臣の答弁と同じで、わけが分かりません。

定年年齢と退職時期の2点について特例が定められている職員は、国家公務員法第81条の2第1項の規定に当てはまらないので、国家公務員法による定年制の対象外です。それが当該条文の建て付けです。森は、対象外になる理由を対象になる理由として挙げており、全く逆のことを言っているのですから、質問者が理解に苦しむことに同情すべきです。

●人事院も官邸の圧力で竜頭蛇尾答弁か

2020年2月12日の衆議院予算委員会で後藤祐一委員の「国家公務員法の解説本には、国家公務員法に定める定年制は検察官には適用されないと書かれている。(国家公務員法に定める定年制は)定年延長も含めて検察官には適用されないということでよろしいか」という質問に人事院の松尾恵美子給与局長は、次のように答弁しました。(国会中継 予算委員会 集中審議 2020年2月12日(水))2:46:10

先ほど御答弁したとおり、制定当時にはそういう解釈でございまして、現在までも、特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き継いでいるところでございますが、他方、検察官も一般職の国家公務員でございますので、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。

したがいまして、国家公務員法と検察庁法の適用関係は、検察庁法に定められている特例の解釈にかかわることでございまして、法務省において適切に整理されるべきものというふうに考えております。

2月13日付け赤旗は、松尾答弁を次のようにまとめていますので、参考にしてください。

12日の衆院予算委員会で人事院の松尾恵美子給与局長は、1985年施行の改正国家公務員法で勤務延長を含む定年制が盛り込まれた当時は、検察官の定年延長を認めていない検察庁法によって、国家公務員法の適用対象外と解釈していたと述べました。(中略)他方で、松尾氏は「制定当時はそういう解釈で、現在まで特に議論はなかった」などとし、「検察官も一般職の国家公務員であり、検察庁法に定められている特例以外については、一般法である国家公務員法が適用される」とのべ、制定当時の解釈を"修正"する姿勢を示し、検察庁法の解釈に委ねられるとの立場を示しました。

竜頭蛇尾の答弁です。

最初の方では、現在でも同じ解釈を引き継いでいる、と言いながら、最後の方では、「法務省において適切に整理されるべきもの」として、前言を否定しています。

人事院としては、先輩の顔も潰したくないし、官邸の顔も立てたい(立てないと左遷されるのが怖い)ので、訳のわからない答弁になったのかもしれません。

閣内不一致で追及しようと考えていた後藤議員は支離滅裂な答弁に瞬間的には意味が理解できず面食らったと思います。後藤が松尾の答弁に突っ込めなかったことは仕方ないと思います。

●松尾の答弁は詭弁だ

後藤の質問は、「勤務延長も含めて検察庁法に定める特例であり、国家公務員法に定める定年制は検察官には適用されないことになるのか」という趣旨であり、つまり「勤務延長も特例だろう」と質問しているのに、松尾は、それには答えず、「検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。」という前提から「法務省において適切に整理されるべきもの」、つまり法務大臣の解釈に委ねられる、といきなり結論を導いていますが、論点のすり替えです。

松尾は、「特例」の範囲について答弁すべきです。

「特例」の範囲については、1981年4月23日の内閣委員会審議で中山太郎・総理府総務長官が勤務延長とパッケージで定年制を説明していたことを山尾議員が明らかにしています(2020年2月10日予算委員会)。そして、その勤務延長を含めた定年制が検察官には適用されないと人事院の任用局長が答弁しています(1981年4月28日)。

今、松尾が検察庁法の定める「特例」から勤務延長を除外するなら、その理由についてそれなりの説明が必要でしょう。

1981年以来、特に議論もなかったというのに、人事院が解釈を変えたのなら、いつ変えたのか、なぜ変えたのかの説明をすべきです。

なお、人事院がいつ解釈を変えたのか、については、赤旗記者が取材しており、「「いつから変わったのか?黒川氏の人事に関してか」との取材に人事院の担当者も「そうだ」と答えています。」と書いています(末尾記事参照)。したがって、黒川の人事のために解釈を変えたことは、はっきりしました。

そうであれば、なぜ解釈を変える必要があったのかを人事院は説明すべきです。

なお、松尾は、「検察庁法の定める特例の範囲については法務省で整理すればいい」と言っているわけですが、それが正しいなら、1981年に任用局長が勤務延長制度を含めて国家公務員法による定年制が検察官には適用されないと答弁したことは越権行為だった、と言っていることになります。

●文理解釈にこだわれ

松尾のすり替え論法にだまされないためには、文理解釈にこだわるべきです。

刑事裁判で言えば、構成要件(犯罪の型)に当てはまるかが問題です。

検察官に勤務延長が認められるためには、検察官の退職が国家公務員法第81条の2第1項の規定に基づくことが必要です(同法第81条の3第1項)が、検察官の退職は、国家公務員法第81条の2第1項の規定に基づくものではありません。

検察官の定年退職は、検察庁法の規定に基づくことを森法務大臣も認めており、それは、国家公務員法第81条の2第1項の規定に基づくものではないことを大臣が認めているということです。

一般職の国家公務員の勤務延長が認められるのは、国家公務員法第81条の2第1項の規定に基づく場合(原則60歳に達した日以後の最初の3月31日に退職する場合)に限られるので、63歳又は65歳の誕生日の前日限りで退職する検察官に勤務延長は認められないことになります。

そして、検察庁法は定年後の勤務延長を認めないという解釈が1947年以来73年間続いてきました。

2月4日の本多平直議員や2月12日の後藤議員の質問のように、あくまでも「検察官は、国家公務員法第81条の2第1項の規定に基づいて定年退職するのか」という構成要件該当性の問題に固執すべきです。

そこがクリアできないと、実質論に入れないはずです。

●特例の内容とは

実質的に考えても、「検察庁法に定められている特例」について、松尾は森と同じく、検察官の「定年年齢」と「退職時期」の2点であることを前提としていることになります。

しかし、「検察庁法に定められている特例」の範囲については、検察官の勤務延長も含むと解すべきです。

なぜなら、1949年に追加されたとされる検察庁法第32条の2において、第22条の規定は、「検察官の職務と責任の特殊性に基いて」、国家公務員法の特例を定めたものと書かれているからです。

政治的中立性を求められる検察官の職務と責任の特殊性を考慮すれば、検察庁法第22条は勤務延長を認めない趣旨と解すべきです。検察官の勤務延長を内閣の決定にかからしめれば、検察による政治家の摘発を内閣が操作できることになりますから、そのような解釈が妥当なはずはありません。

繰り返しになりますが、文理解釈においては、特例の内容が2点か3点かは関係がなく、特例が定められている場合には、国家公務員法による定年制の対象外となります。

●新解釈は内閣法制局、人事院とも協議していた

森は、「この解釈をとるには、内閣法制局、人事院にも相談して、異論はない旨の回答を得ております。」と答弁しました。(国会中継 予算委員会 集中審議 2020年2月12日(水))2:49:15

これが本当だとすれば、内閣法制局と人事院の職員にも法解釈能力がないということになります。

内閣法制局長官に慣例破りの外務省出身官僚を送り込む横暴政権に逆らったら何をされるか分からないという恐怖心から内閣法制局と人事院が官邸の言いなりの法解釈をしたのかもしれませんが、ダメなものはダメと言えないようでは、雇い主である国民への裏切りです。恥知らずの公務員に対しては税金泥棒と言うほかありません。

●出た、新たな解釈!

安倍晋三内閣総理大臣は、2月13日の衆議院本会議で次のように答弁しました。質問者は立憲民主党の高井崇志議員。(衆議院本会議2020年2月13日)45:44

検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の制定、定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。

要するに、39年前の答弁と実務運用との整合性はともあれ、新しい解釈をするのだ、内閣として解釈するのだから正しいのだ、文句あるか、というわけです。

しかし、条文を無視して、一般法と特別法の関係に関する一般原則から結論を導くのは無理です。

特別法がどこまで特別と解すべきかは、法律を個別に検討するほかありません。

安倍内閣の解釈には、検察官の政治的中立性の観点が抜けています。李下に冠をたださずといいながら疑われても仕方のないようなことをやり続けるのが安倍政権です。

また、従来の政府見解をやめて新解釈をすることはあり得ることだとしても、39年間引き継がれてきた解釈と運用を覆しても、なお解釈を変えなければならない理由を丁寧に説明すべきです。

特に検察官の独立性や政治的中立性の原則になぜ違反しないのか、という観点からの説明が必要でしょう。

集団的自衛権に関する過去の答弁との整合性はともかく、新解釈でゴリ押しした成功体験に味をしめたようです。お馴染みの手口です。

この総理大臣は、公約違反を犯しても「これまでのお約束とは異なる新しい判断であります。」と言って恥じないのですから、打つ手がありません。引導を渡さない国民の責任です。

なお、末尾に掲載した赤旗記事にも次のように書かれています。

法律の文言の範囲内で法解釈の変更がありえないとは言えません。しかし、法律の条文と結びついて40年近くも法解釈が定着し、一定の法秩序を形成するに至った場合、法解釈の変更によって「秩序」を変えることは適当ではありません。国会の法律改正によるべき問題です。また解釈変更を行うにしても、客観的な社会情勢の変化に伴う必要性があることは当然で、時の政権の恣意(しい)的な意向で法解釈を変更することなど許されません。


●国家公務員法に基づく定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知していたのか

総理大臣は、「国家公務員法に基づく定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。」と答弁したことについて、日本共産党の田村智子衆議院議員は、「立憲民主党の山尾志桜里議員が10日の衆院予算委員会で追及した際、森雅子法相は過去の国会答弁を理解していなかったとして、「理解がないまま定年延長の閣議決定をしたのに、認識していたとウソの説明をしている」と指摘。」しました(末尾赤旗記事参照)。

「ウソの説明をしている」のか、というと、「適用除外されていると理解していた」の主語は、1981年当時の内閣だ(安倍内閣が理解していたとは言っていない)と総理大臣は言うでしょうし、「承知しております。」は、今、自分が承知しているという意味だと言うでしょう。1月31日に閣議決定をした際に、現内閣が1981年当時の政府答弁を承知していたとは言っていないわけです。2月10日に山尾議員に指摘されてから承知しているという意味だ、と言うでしょう。

総理大臣の答弁は、主語や時制を巧みに省略してあいまいな表現にしており、ウソだ、と言われた場合に言い逃れができるようになっています。これがご飯論法です。

●新解釈は新たな立法だ

ともあれ、「まともな議論もせず、国会での説明もせずに、法解釈を変更するのは法律の私物化だ」という田村の指摘はもっともです。

赤旗記者の「今回の解釈変更は、「解釈」の名による新たな立法であり、国会の立法権の侵害であるとともに国民主権を侵害するものです。」という指摘ももっともです。

●内閣総理大臣の事務の調整権は勤務延長の理由にならない

森法務大臣は、第81条の6に規定する内閣総理大臣による定年に関する事務の調整権が検察官にも及ぶことも新解釈の根拠にしていますが、具体例を挙げないので、延長の事例がないにもかかわらず、どういう調整が総理と検察の間でこれまでなされたのか、あるいは今後想定されるか分かりません。

いずれにせよ条文の文理解釈を超えた調整はできないので、調整権の規定の存在は勤務延長を認める理由にはなりません。

●関連サイトの紹介

いずれも2020年2月15日付け赤旗記事を紹介します。

中祖寅一記者の署名記事で、優れた文章です。

検事長の定年延長問題

首相が法を"私物化"

田村政策委員長会見

日本共産党の田村智子政策委員長は14日、国会内で記者会見し、東京高検検事長の定年延長問題をめぐって安倍内閣が法解釈を変更したとの政府統一見解を示したことについて「国会審議を無視した法律の私物化といわざるをえない」と指摘しました。

政府統一見解では、1981年当時、国家公務員法の定年制が検察庁法により適用除外されていると理解していたとしています。これに対し、田村氏は、立憲民主党の山尾志桜里議員が10日の衆院予算委員会で追及した際、森雅子法相は過去の国会答弁を理解していなかったとして、「理解がないまま定年延長の閣議決定をしたのに、認識していたとウソの説明をしている」と指摘。さらに、安倍首相が何の説明もせずに、法解釈を変更したことについて、「国会の法案審議は何なのか。法治国家としてのあり方が、安倍政権によって崩された」と批判しました。

そのうえで、田村氏は、三権分立のもとで検察官の定年延長を内閣の一存でできないようにすることは意味があると指摘。それをまともな議論もせず、国会での説明もせずに、法解釈を変更するのは法律の私物化だとして、「政府見解の撤回を求めて、野党で一致して今後、予算委員会での審議も行っていくことになる」と強調しました。
検事長の定年延長問題

安倍内閣が法解釈変更

東京高検検事長の定年延長を閣議決定した問題で、安倍晋三首相は13日の衆院本会議で、これまで検察官には検察庁法により国家公務員法(国公法)の「定年延長」が適用されないと理解してきたと述べた上で、今回、「国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と、内閣として解釈を変更したことを明言しました。立法時の法解釈を時の政府の都合で一方的に変更する極めて恣意(しい)的なものです。立憲民主党の高井崇志議員への答弁。

安倍首相は「検察官も一般職の国家公務員である」として、「一般法である国家公務員法が適用される」と語りました。政府は同日、同趣旨の統一見解を衆院予算委員会理事会に提示しました。

政府は1981年の国公法改定時の質疑で、「検察官と大学教官については現在すでに定年が定められている」「今回の定年制は(検察官等に)適用されない」と答弁しています。検察庁法では、検察官の定年を63歳、検事総長の定年を65歳としています。東京高検の黒川弘務検事長は今月7日、63歳の定年年齢に達するのを前に退官する予定でしたが、政府は先月末、国公法を根拠に定年延長を閣議決定しています。政権に近いとされる黒川氏を検事総長に据えるための定年延長ではないかとの指摘があります。
検事長の定年延長問題

"安倍人事"のため「法の支配」を破壊

安倍晋三首相は、検察庁法と国家公務員法の関係について政府解釈を変え、「検察官の勤務延長に、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」としました。これまで認められなかった検事の定年延長を認めるための「解釈変更」です。「今般」と明言しており、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長の決定(1月31日)に際してのものです。
1981年の国家公務員法改正で公務員の定年制度(延長含む)が盛り込まれた際の政府解釈では「今回の定年制(延長を含む)は(検察官に)適用されないことになっている」とされていました。(同年4月28日、衆院内閣委員会)

12日の衆院予算委員会で人事院の松尾恵美子給与局長は、検事の定年延長は認められないとの解釈について、「現在まで特に議論はなかったので、(従来の)解釈を引きついできた」と述べました。この答弁について「いつから変わったのか?今回の黒川氏の人事に関してか」との本紙の取材に人事院の担当者も「そうだ」と答えています。まさに自分に近い人物への人事上の優遇を認めるために法解釈をねじ曲げ、「法の支配」が破壊されています。政治の私物化の根底に人事の私物化があることも改めて鮮明に浮かび上がります。

法律の文言の範囲内で法解釈の変更がありえないとは言えません。しかし、法律の条文と結びついて40年近くも法解釈が定着し、一定の法秩序を形成するに至った場合、法解釈の変更によって「秩序」を変えることは適当ではありません。国会の法律改正によるべき問題です。また解釈変更を行うにしても、客観的な社会情勢の変化に伴う必要性があることは当然で、時の政権の恣意(しい)的な意向で法解釈を変更することなど許されません。

今回の解釈変更は、「解釈」の名による新たな立法であり、国会の立法権の侵害であるとともに国民主権を侵害するものです。

また、検察官に定年延長が認められなかったのは、検察官が犯罪の捜査や公判の維持など準司法作用を担当することから、人事に内閣が関与し政治的中立性を害することは妥当でないからです。その趣旨からも今回の法解釈の変更は、幾重にも「法の支配」を破壊する野蛮な行為です。

安倍政権は2014年7月の「閣議決定」で集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を強行しました。国会も国民の意思も無視し、一内閣の一存で憲法の内容を変更するという立憲主義破壊を強行した安倍政権は、底が抜けたように近代の政治原則を踏み外し続けています。「まともな政治」を取り戻すためのたたかいは正念場です。(中祖寅一)


せやろがいおじさんの動画も紹介しておきます。

的を射た優れた評論をする方ですが、「今回の検察人事は、違法とは言えないが、脱法行為だ」と言っており、条文を見ての検討はしていないように思います。 【権力暴走中】前代未聞!検事長の定年延長を閣議決定したおえらいさんに一言 せやろがいおじさん:グッとラック!OA動画

(文責:事務局)
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