東京都の水は足りている

2012年10月4日

●流量計算は枝葉末節とは

本題に入る前にダム便覧のインタビュー記事をご覧ください。

宮村忠氏が次のように言っています。宮村氏は、国が2006年に利根川水系河川整備計画の策定に当たって設置した利根川・江戸川有識者会議の座長です。

宮村: 八ツ場ダムについて群馬県議会で話したことですが、利根川は、とにかく支川が大きく、それも広い関東平野の真ん中で合流していること。その支川が、吾妻川、片品川、烏・神通川、渡良瀬川、鬼怒川、小貝川で、いずれも西日本にあったらどれも大河川というようなもので、それらの支川が、平地で合流するから治水がすごく難しい。平地で合流すると洪水を押し込めにくいというのが解るでしょう。川をコントロールしようと思っても有力な支川の力が強いから難しいのです。

だから利根川の場合は、どうしても大支川の吾妻川にダムが欲しい。ダムがないと利根川をコントロールすることが出来ないからです。今、八ツ場ダムでもめているのは、流量計算についてですが、本当はそういうのは枝葉末節のことで、とにかく吾妻川にダムがないと洪水をコントロール出来ないのです。

「とにかく吾妻川にダムがないと洪水をコントロール出来ない」というのが宮村氏の本音であり持論です。

民主党政権は、「できるだけダムにたよらない治水」へ政策転換したはずなのに、有識者会議の座長が「とにかくダムがないと」と言っているのですから、「できるだけダムにたよらない治水」は絵に描いた餅です。

国は、治水基準点である八斗島に200年に1度の確率で毎秒2万2000トンの洪水が流れるから八ツ場ダムが必要だと説明してきましたが、この数字がデタラメだとばれそうになると、宮村氏のような御用学者が流量計算なんて「枝葉末節」の問題だと言い出すのは、ダム建設に科学的根拠がないことの証拠です。

そもそもこんな御用学者が「できるだけダムにたよらない治水」のための有識者会議の委員になることなど許されるものではありませんが、座長まで務めているのはなぜかと言えば、「政治主導」と言っていた民主党政権が官僚に支配されているからです。

●東京都の水需要はピークから165万トンも減った

東京都の水道当局が水が足りないと言っているから八ツ場ダムを建設しなければならないと言っている人がいますが、東京都の実態を知らないのだと思います。

八ツ場あしたの会八ツ場ダムをストップさせる埼玉の会などのサイトには、八ツ場ダムに関する情報が満載されているのですから、それらを読めば東京都の実態も分かるはずです。

八ツ場ダム訴訟というサイトに東京都に対する八ツ場ダム関係の住民訴訟での証人である嶋津暉之氏の書いた「東京都水道局の新水需要予測に関する意見書」が掲載されています。嶋津氏は、2012年8月7日に東京高等裁判所でこの意見書に沿って証言しました。

図表1をご覧ください。

東京都の1日最大配水量の最大値は、1978年度の645万トンですが、2011年度には480万トンにまで下がっています。

その差は、165万トンです。

東京都が八ツ場ダムに参画することによって得られる水量は、配水量換算で42.8万トンです。

今後水需要が増えないとすれば、八ツ場ダムの水を確保することが何の意味もないことは明らかです。

●水需要が増える見込みはない

今後水需要が増えるかといえば、東京都でも人口は減少していきますし、節水型のトイレや洗濯機はますます普及するでしょうから、減ることが予想されます。

●水需要予測を評価すれば0点

東京都は、2003年12月に水需要予測をしています。2010年度には1日最大配水量が600万トンになるという予測でした。

しかし、2010年度の実績値は490万トンですから、110万トンもの開きがあります。

しかも現実の水需要は減っていったのに、増えるという正反対の予測をしていたのです。

都の水需要予測を評価するとしたら、0点です。むしろマイナス点をつけたいくらいです。

東京都は、このような間違った需要予測に基づいて八ツ場ダム事業に参画したのです。

予測が当たっても外れてもダム事業に参画するという結論を変えないのなら、予測をする意味がありません。予測にかけた費用は無駄だったことになりますが、予測が外れたかどうかは何年か経ってみないと分かりませんから、住民とすれば悔しいことに、予測が外れたと分かったときに住民監査請求をしようと思っても、支出の日から1年以上が経過しているので、でたらめな予測に関わった職員が責任を問われることはないのです。

予測が間違っていることを1年以内に証明できないために、デタラメな水需要予測が何回も繰り返されるのがどこの自治体でもみられる現象です。

日本の政治は、いつまでこんなことを続けるのでしょうか。

●都は異常な方法で水需要予測をした

図表2「東京都水道の一日最大配水量」をご覧ください。

東京都は、2012年3月にも水需要予測をしているのですが、性懲りもなく、2015年度に593万トンという推計値をたたき出しています。どうやったらそんな予測ができるのでしょうか。

図表8「東京都水道の負荷率」をご覧ください。計画負荷率を過去35年間の最小値である79.6%を採用しています。1997年度以降85%を下回ったことがないにもかかわらず、です。

計画負荷率は過去の実績値も参考にしますが、過去35年間の最小値を採用した例は初めて見ました。異常な水需要予測と言わざるを得ません。

嶋津氏の証言(p7)を引用します。

以上のとおり、大阪府水道部は、一人当たり生活用水、業務営業用水等については 過去 10 年間の実績の傾向を延長し、有収率と負荷率については過去 5 年間の平均値を使用して、将来の一日最大配水量を求めている。

大阪府水道部の予測の考え方は最近の実績を重視するものであって、至極当然のものである。

一方、東京都の予測の考え方は最近の減少傾向が将来値に極力反映しないように、わ ざわざ過去 35 年間に遡って、35 年間のデータを使って予測を行おうというものであり、 前例のない特異なものである。600 万m3/日に近い将来値を死守するための苦肉の策が とられている。

30年以上前のデータを引っ張り出さなければならないということは、普通にせいぜい10年前くらいまでのデータで予測をするとダムの水の必要性を説明できないということです。

これでも東京都が新規水源を必要としていると言えるでしょうか。

異常な方法で水需要予測を行わないと水不足が演出できないということは、水が足りている証拠ではないでしょうか。

●保有水源の過小評価も常套手段

図表12「東京都水道の保有水源の評価」をご覧ください。

嶋津氏によれば、東京都の保有水源は日量687万トンです。これに対し、東京都によれば618万トンで、多摩地区の地下水源約40万トンがカウントされていません。

過大な需要予測を行い、その一方で保有水源を過小に評価する。これがダム事業に参画する水道事業体の常套手段です。

●東京都は反対尋問をしなかった

東京都は、八ツ場ダムがなくても1日に600万トン以上の水を供給しています。比較的最近でも1992年度に617万トンを記録しています。そして2011年度は480万トンです。その差は137万トンです。八ツ場ダムから得られることになっている水量は、42.8万トンです。そして今後水需要が増える見込みはありません。

東京都の水が足りないという実態は存在しないと言えると思います。

嶋津氏は、8月7日の東京高裁での証人尋問で東京都の水は足りていることを証言しました。

これに対して東京都は、反対尋問を全くしませんでした。

このことは、東京都の水が足りないという主張が虚構であることの証拠です。

東京都は、本当に水が足りないのなら、足りていると証言する人に対して証拠を挙げて反論するのが当然です。

東京都の水が足りていることは、当事者間に争いのない事実です。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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