増渕議員のダム論は科学的か

2011年3月11日

●緑のダムは幻か

増渕議員が水力発電に付いて、本当に「脱ダム」でいいの?と、ダム推進論を展開していますので検証してみます。

緑のダム
水源地帯の森林による保水による水資源の涵養と、治水を表現する言葉である。この事が可能であれば確かにダムは要らない。しかし過去の河川の氾濫を見れば、平常時には機能するとしても、50年に一度、100年に一度の降雨量に耐えるものでは無いことは明らかである。欧米や中国のような平坦な国土と違い傾斜度のきつい我が国の地理的条件下では保水能力を上回る表面流下水が氾濫の原因となる。

1902年9月28日に大芦川に大水害がありましたが、当時、古河財閥が足尾銅山の操業のために大芦川上流の天然林を伐採し、ハゲ山の状態だったと言います。

最近では、1998年9月16日に台風が大芦川上流に大雨をもたらしましたが、大きな被害はありませんでした。

雨量の差は比較できませんが、森林の保水力が100年前とは違うことが被害の差を生んでいると思います。

1998年の大雨のときに、大芦川流域でなぜ大水害が起きなかったのかを増渕議員はどのように説明するのでしょうか。

また、「国土交通省は利根川上流の飽和雨量(降雨量のうちいったん土壌中に貯えられすぐには河川に流出しないもの)の値が、近年では100mm以上になっていることを実質的に把握しながら、飽和雨量は48mmとウソをついて基本高水を決定してきた」(関良基氏のブログ)のです。

国土交通省の官僚が飽和雨量は、終戦直後も今も48mmでいいのだと言いながら、最近では100mm以上でないと実際の流量と計算が合わなくなることを認めているのです。

「昨年10月12日の国会答弁で馬淵前大臣も、飽和雨量が実際には48mmではなく平成10年洪水では125mmと認めた」(同ブログ)のです。

それでも河川官僚は、「飽和雨量を48から125mmに上げても基本高水は3%しか下がらない」と言っていますが、ウソです。ウソでないなら計算過程を公開できるはずですが、官僚は公開していません。

飽和雨量が倍以上違えば、河川への流出量は相当違ってきます。

増渕議員は、国土交通省が飽和雨量の増加を認めていることをどう説明するのでしょうか。

利根川では、1947年のカスリーン台風以来、治水基準地点の八斗島で毎秒1万m3を超えるような大きな出水はありません。森林の効用と考えるべきです。

増渕議員は、「過去の河川の氾濫」の状況を見て立論されているのでしょうか。

「欧米や中国のような平坦な国土と違い傾斜度のきつい我が国の地理的条件下では保水能力を上回る表面流下水が氾濫の原因となる。」は、意味不明です。森林は、洪水緩和機能を持つかというテーマとどういう関係があるのか分かりません。

●大芦川の治水計画規模は過大だった

栃木県大芦川ダム

10年ほど前当時の福田昭夫知事の指示で建設計画が中止されたダムである。
ダムに替わる治水策の説明を県当局から受けたが、ダムの治水効果に相当する河川整備は不可能であり、治水計画の設定基準(100年に一度を50年に一度)下げることにより辻褄を合わせた内容であった

このダムの名称は、「大芦川ダム」ではなく「東大芦川ダム」です。

ダム計画が中止される前の大芦川の治水計画規模は、1/100ではなく、1/80でした。根拠は、東大芦川ダム利水計画等業務委託報告書(2000年1月に株式会社建設技術研究所が作成)の全体計画打合せ資料編p66です。

ちなみに、増渕議員の政権交代考というページで「東大芦川ダム(県営335億)」と書かれていますが、これも分からない数字です。同ダムの事業費は、310億円とされてきました。根拠は、前掲書p73です。

増渕議員の論旨は、大芦川の治水計画規模を1/80から1/50に下げたのがけしからんということでしょう。

しかし、建設省のマニュアルによれば、大芦川の治水計画規模は、流域面積(157.0km2)から判定すると1/50です。市街地面積(0.3km2)からは1/30です。想定氾濫区域の面積(1,020ha)からは1/50です。同区域の宅地面積、人口、資産額、工業出荷額からはいずれも1/30です。根拠は、前掲書p65です。

大芦川の治水計画規模は、もともと1/50でも十分だったのです。

●どっちが欺まんか

100歩譲って
財政面での必要性から100年に一度の水害に備えるダム建設が不可能であれば50年に一度の水害に備えるダム建設で仕方が無いのであろう、しかしその言い訳に「緑のダム」とか「コンクリートから人へ」だとか実態と乖離した言葉で国民を欺く事が許せないのである。

だから、100年に1度の水害に備える必要は、建設省のマニュアルから言ってもないのです。

「緑のダム」の存在を否定する議論こそ、「実態と乖離した言葉で国民を欺く事」ではないでしょうか。

●どっちがもったいないことをしているのか

我が国のダム貯水総量
大石久和氏の検証に依れば、我が国の全部のダム・貯水池(溜池など)を併せた総貯水量に比して、中国の三峡ダム・米国のTVAいずれの貯水量も我が国の総貯水量を上回っているとレポートされている。我が国の現状は貴重で豊富な水資源を為すことなく海に流し続けているとも言えるのである。

やはり、南摩ダム問題を考えるの「早稲田大学の大石和弘教授」とは、大石久和氏のことだったようです。

増渕議員は、都市で人が生活するには、ダムにためた水が必要であるという前提でものを言っているように思いますが、そういう前提は成り立たないでしょう。

繰り返しになりますが、国土面積も人口も地理的条件も気候条件も違う国の真似をしなければならない理由はありません。

中国の三峡ダムなんて失敗です。見てきた人の話によるとダム湖の汚染はひどいそうです。

そもそもこの手の話に大石久和氏の名前を持ち出す意味が分かりません。大石氏が検証しなくても、日本のダムの総貯水量は、フーバーダムの半分という話は、90年代から建設省が使っています。例えば、「思川開発事業」(1998年2月発行)序ー15です。

増渕議員は、ダムを造らないで水を海に流すのはもったいないと書きますが、巨費を投じて、松田川ダム、川治ダム、東荒川ダム、草木ダムを造って、水をためて、水道に使わないで海に流すのはもったいなくはないのですか。富山県営熊野川ダムの水も使われていないことで有名です。村田の憤怒!誌☆熊野川ダムからの受水は愚行をご覧ください。

水が必要だという数字をつくって、ダムを建設し、結局使わない。増渕議員は、こんなことをいつまでやろうというのでしょうか。

●「フューマンティック」ってなんでしょうか

これでも「脱ダム」ですか
中国の黄河は渇水で極端に水位が低下し、首都北京も砂漠化しているのだそうである。中国資本は我が国の水源地帯の森林を買占め初めているとも聞く。
中央アジアの国では、自国の水源地帯に中国資本がダムを作り、そのダムからの水を自国民や自国の企業が購入しているのだそうである。
21世紀水資源は鉱物資源と並んで重要な戦略資源である。との認識に立つ事が重要であり、「緑のダム」構想や「コンクリートから人へ」等のナイーブでフューマンティックな言葉の酔いから醒めて、リアルな視点で「ダム問題」を見直すことこそ重要である。

「フューマンティック」ってなんでしょうか。

(文責:事務局)
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