ダムを造る理由は正しいか

2009-07-09

●小林市議がダム問題で質問していた

小林幹夫栃木県議会議員が市議時代の2000-07-12の鹿沼市議会一般質問において初当選直後の阿部和夫市長(当時)に次のような質問をしていました。市のホームページから議事録を引用します。

最初に、水問題に関してであります。現在水道水を伏流水に100%頼っている現状では、将来の人口増も望めず、また企業の誘致もできないのが現状で、もし降雨量が減少した場合は、市民に水の不安を与えることは必須(ママ)であります。

東大芦川ダムは、表流水を使用するための施設として水不足の解消をするためには何としても必要な施設であり、関係地権者も1人を残し既に交渉にサインをしている現状、また議会でも建設促進で議決しているということを考えれば、まさか市長としては議員時代に一度もこの問題に関しては反対していないわけですから、反対はしないと考えられますが、水に対する基本的な考えを示していただきながら答弁をいただきたいと思います。

東大芦川ダムは、2003年9月に福田昭夫知事(当時)が正式に中止を発表したので、終わった話だと思う方もいるかもしれませんが、知事によれば、ダムによる利水の必要性がなかったからではありませんでした。南摩ダムで代替できるから、東大芦川ダムは中止してもよいということでした。

鹿沼市は、同ダムから取得するはずだった水利権を南摩ダムから取得することになったので、話は続いています。水利権を取得する必要性はあるというのが、今でも鹿沼市の方針ですから、表流水の水利権を取得する理由付けは、今も生きています。

●「伏流水」とは何か

小林議員は、「現在水道水を伏流水に100%頼っている現状」と言います。

「伏流水」とは何でしょうか。

Yahoo!知恵袋の伏流水とは何ですか?という質問項目には、次のように書かれています。

河川の底は土や砂ですから流れている水(表流水)は河川の底から浸透し、浅い地下水脈を形成しますこれを伏流水と言います、水質、水量とも河川の影響を受けます

伏流水は河川に戻ったり、下流に下り地下水になったりします

地下水になると浄化作用が働くため元の河川水とはまったく違った水質になりますが伏流水では時間が短いため、河川水の水質と余り変りません

また、 狸の水呑場というサイトの用語集には、次のように書かれています。

大雑把にいうと,河川の近くで,河川流路と同じ流向で流れる地下水のことです。河川水との交換があり,その影響を強く受けますが,河床などでろ過される分,濁度などの水質が安定するのが特徴です。また,原則として水利権の制限を受けない取水が可能なことも特筆すべき点といえます。

伏流水の取水は,浅井戸や集水埋管などで行いますが,河川敷地内の施設の設置は河川管理者の許可の点から難しい場合があります。また,河川水との区別が曖昧なため,水利権に関するトラブルが発生する場合がありますので,あまり露骨な取水は控えましょう。

栃木県保健福祉部生活衛生課で毎年度「栃木の水道」という資料を作成しています。そこには、「計画一日最大取水量・実績一日平均取水量水源別内訳」という表が掲載されています。水源は、地表水と地下水に分類され、さらに、地下水は、伏流水と浅井戸と深井戸の三つに再分類されています。要するに水道業界では、伏流水と浅井戸を区別しています。

伏流水とは地下水の一種に分類されますが、地表水と浅井戸の中間の存在であり、質的にも量的にも河川水の影響を強く受けるということです。

栃木県は、鹿沼市の現在の保有水源を「伏流水」ではなく「浅井戸」に分類し ています。

伏流水の議論は、クリプトスポリジウム対策にも関わります。広島県三原市水道部のホームページを見てみると、次のように書かれています。

日本でも1996年6月には埼玉県越生市で,住人の7割,1万人近くが集団下痢をする事故がありました。河床の伏流水を取水していることになっています。しかし,河川が濁ると取水した水が濁ってしまう状態でした。
つまり,表向きは,伏流水ですが,単に粗ろ過をして,ポンプで強引に取水していました。ポンプによる強引な取水で河床の砂礫がかき混ざり濁ってしまいました。砂礫などをかき混ぜれば,河川水中の濁り成分とほとんど同じものを取水することになります。すぐ上流にある下水処理排水が流れ込み,その排水がクリプトで汚染され,そのオーシストが急速ろ過処理過程と通過し,集団下痢になったのです。

水源が伏流水だとこんなことも起きるということです。伏流水を水源としている越生町と浅井戸を水源としている鹿沼市では、クリプトスポリジウムによる汚染事故の発生する確率が相当違うであろうことを認識して水道計画を立てるべきだと思います。越生町におけるような事故が鹿沼市でも同じ確率で起きると考えるのは妥当とは思えません。安全は大事ですが、費用対効果も大事です。

議員の発言の揚げ足を取るつもりはありません。世間的には、伏流水でも浅井戸でもどっちでもいいじゃないか、と思うでしょうが、安定性も違いますし、浄化方法にもかかわってきますので、水道の議論をする場合には、きちんと分けて議論すべきだと思います。

「鹿沼市上水道の水源が伏流水である」と言うことは、水道の世界では鹿沼市の水源がやや劣るということを意味します。しかし実際は浅井戸なのですから、鹿沼市は優秀な水源を保有しているのです。伏流水と浅井戸を区別すべきかという問題は、その優秀な水源をなぜわざわざ捨てるのかという問題とつながっています。

●河川水を水源としないと人口増を望めないのか

小林議員は、「現在水道水を伏流水に100%頼っている現状では、将来の人口増も望めず、また企業の誘致もできない」と言います。

鹿沼市の人口が増えず、企業の誘致ができないのは、鹿沼市上水道が水源を地下水だけに頼っているせいでしょうか。人口が増えないことや企業が来ないこととダムの水を使うことに因果関係があるのでしょうか。

人口が増えない主な原因は、一人の女性が生涯に産む子どもの数が増えないことと出産可能年齢層の女性の人口が減っていることだと思います。

水源がなければ人口増加はありませんが、水源があれば人口が増えるという関係にはありません。水源は、人口増加の必要条件ではあっても、十分条件ではないということです。

ダムの水を水源にすれば人口が増えるなら、全国にはダムが2,500余りもあるのですから、日本の人口が増えていってもいいと思います。しかし国は、日本の人口は、今後50年で3割減ると推計しています。

人口が減る原因を正しく認識すべきだと思います。そうでないと、人口増加対策と称して無駄な事業に投資することになります。

当然のことながら、鹿沼市が人口15万人になることを希望し、15万人分の水源を確保すれば、人口が15万人になるというものではありません。

水源の確保というものは、希望する人口規模に合わせて確保するのではなく、将来の水需要を予測し、必要な分だけ確保するものです。だから、将来の水需要が少ないと予測すれば、新たな水源を確保する必要はありません。

小林議員が質問した2000年度当時の鹿沼市の水需要(1日最大給水量)は、33,758m3/日でした。2008年度のそれは、30,007m3/日です。鹿沼市の1日最大給水量は、1995年度の35,636m3/日をピークに減少傾向にあります。質問当時も減少傾向にあったのです。今後も増加に転ずる要素は見当たりません。だったら、水源を増やす必要はないはずです。

使いもしない草木ダムの水利権を抱えている佐野市の人口は、今後、増加する望みがあるのでしょうか。国の推計によれば、2035年の人口は、2005年の人口の77.2%になります。

松田川ダムの水利権を抱えている足利市の人口は、今後,増加する望みがあるのでしょうか。国の推計によれば、2035年の人口は、2005年の人口の75.7%になります。

鹿沼市上水道の水源が100%地下水であることと鹿沼市の人口増が望めないことを関係づける発想が理解できません。

●水源が地下水だと企業の誘致もできないのか

企業が誘致できないのは、ダムの水を水源としていないからでしょうか。水を使う企業が立地するのは、水道の水しか使えない都市ではありません。例えば、大豆製品メーカーの太子食品工業株式会社が1998年に旧今市市内に日光工場を新設したのは、大谷川沿いに豊富な地下水が存在したからです。ダム水で豆腐を製造しようとする企業はないと思います。豆腐メーカーに限らず、水を大量に使う企業が求めるのは、豊富で清浄でタダで使える地下水なのです。地下水ビジネス(Weekly B-planというサイトの地下水ビジネスと地球環境参照)の発展により、普通の企業でも上水道から地下水に切り替えるところが増え、水道企業体を悩ませているのが現状です。

鹿沼市上水道の水源が不足するから企業が進出をとりやめたという話は聞きませんし、これからもないと推測します。足利市の人口が減っているということは、ダムの水利権を取得しても企業が誘致できないことの証拠ではないでしょうか。

●因果関係の正しい認識が基本

小林議員は、「もし降雨量が減少した場合は、市民に水の不安を与える」からダムに賛成しろと言いますが、物事は確率的に考えるべきだと思います。

「不安」を理由にダム事業に参画したら、どんな大きなダム事業にも参画すべし、ということになります。不安を理由にダム事業に参画するなら、水源は多ければ多いほど良いという発想のはずですから、0.2m3/日の表流水を確保すれば安心というわけにはいかないはずです。ところが鹿沼市の水道計画では、小林議員の考え方とは違うのかもしれませんが、17,280m3/日の表流水を確保する一方で、地下水源を16,500m3/日も放棄することになっています。矛盾してます。水不足への「不安」という理由は破綻しています。

小林議員は、「もし降雨量が減少した場合」に備えてダムが必要だと言いますが、ダムに水がたまらないほど雨が降らなかったらどうするのでしょうか。「そんなことは経験的にあり得ない」と反論するのでしょうか。そうだとしたら、「鹿沼市にダムがなくても市民が困るほど地下水源がかれることは経験的にあり得ない」という再反論も成り立ちます。

これまで雨の少ない年もありましたが、鹿沼市上水道では夜間の減圧給水はあったものの、断水しないで済みました。

それに、少しでも水不足の不安があれば、環境を犠牲にし、大金を使ってでもダム事業に参画すべきだ、ダム建設費の負担金は保険だ、という考え方は、多数の民意ではないと思います。心配性の人が給料の半分を生命保険の掛け金につぎ込んでしまうのは個人の勝手ですが、税金で過剰な保険を掛けられたら納税者はたまりません。水源確保には余裕を持つことは必要でしょうが、過剰な余裕を持つことは企業経営者として許されないでしょう。

また、ダムができれば水不足の心配はしなくてすむとは限りません。四国の早明浦ダムでは、ダムができれば安心と言われていたのに、毎年のように渇水騒ぎが起きています。ダムを建設すれば、水問題が解決すると思ったら大間違いです。南摩ダムは5年に1度の確率で起きる渇水にしか対応できません。計画以上のひどい渇水が起きた場合には、渇水対策容量で対処できると水資源機構は言いますが、水源連の計算では、南摩ダムの貯水量がゼロになる年が19年間のうち14年にもなるのですから、ピンチの時に、そこに水がたまっている保証はありません。

政策は科学的に決定すべきです。特に水道事業においては、統計的手法を放棄すべきではないと思います。鹿沼市の水需要予測は何回やっても当たらないのですから、科学を装ったペテンです。こんなエセ科学を根拠としていては、まともな水政策は立案できません。

いずれにせよ、物事の因果関係を正しく認識することは政治家の基本だと思います。思い起こせば、中選挙区制をやめて、小選挙区制にすれば政治が良くなる、政治改革になる、消費税を導入すれば福祉が充実する、郵政民営化をやればすべて良くなる、年金問題まで良くなると宣伝した政党がありましたが、すべてデタラメでした。国民も物事の因果関係を正しく認識して各党の政策を評価すべきだと思います。

(文責:事務局)
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