水道懇談会も「ダムありき」か

2010-01-28

●ホームページ未掲載

鹿沼市水道事業懇談会の第3回会議が2009-12-14に開催されました。

この懇談会について、現在も、市のホームページに掲載されていません。したがって、市民には、この懇談会の動きを知ることはできません。

第3回会議の資料を入手しましてので、感想を記します。

●だれが資料を書いているのか

懇談会の出席者名簿を見ると、事務局として日本上下水道設計(株)の従業員が参加していることが分かります。

市長が「ダムの水を使うつもりはない」と言っているのに、「表流水取水が必要ではある」(第1回資料)p9と書かれている理由が分かりませんでしたが、これで謎が解けたような気がします。

職員が市長の意向を無視して資料を書けるはずがありません。  文体などから判断して、コンサルタントが資料を書いていると見て間違いないと思います。  

水道建設コンサルタントが市長の意向を無視して水道ビジョンを描こうとしているのではないでしょうか。  鹿沼市の水道がコンサルタントに乗っ取られようとしているのではないでしょうか。  

水道事業関係のコンサルタントは、水道事業に必要な存在ですが、常に鹿沼市民の味方でしょうか。  

水道建設業界にとっては、水道事業の規模は大きければ大きいほどいいわけです。仕事が増えてもうかりますから。  

一方、水道利用者にとっては、水道事業の規模は必要最小限でなくては困ります。過剰な設備投資をされたら水道料金が上がりますし、地下水で足りているのにダム水を買うと、健康に良くない、まずい水を飲まされますから。ただし、まずい水をうまい水に変える技術はあります。コンサルは、その技術を使うことを勧めるでしょう。そうすると、ますますもうかるというわけです。  

水道需要が満たされた後は、水道建設業界と水道利用者の利益は相反します。  

だから、水道コンサルが鹿沼市民のために行動するとは考えにくいのです。  水道コンサルは、業界がもうかるような提案をしてくるでしょう。  

鹿沼市は発注者なのですから、鹿沼市のための水道ビジョンを描く手伝いをコンサルにしてもらえばいいのですが、どうもコンサルのペースで進められているような気がしてなりません。  

市長や水道部職員がしっかりしていれば、市民の利益は守られるのですが、市長がダムの水利権は取得すると言っているのですから、心配です。  

 ●定量的な分析が欠けている   

p4で、「市内の給水区域における水源は全て地下水(浅井戸)となっており、過去5カ年で、いずれの浄水場においてもクリプト指標菌(水道水がクリプト汚染のおそれがあると判断する指標となる細菌)である大腸菌もしくは嫌気性芽胞菌が検出している状況にあります。」と書かれていますが、クリプトスポリジウム原虫自体は検出されていません。  

また、第1回資料p7を見ると、指標菌が検出されたというだけで、どれだけ検出されたのかという定量的な分析がなされていません。  

指標菌の検出量によって対策も異なるはずです。  

上水道における嫌気性芽胞菌の検出状況を見ると、2005年度と2006年度には4浄水場から検出されたのに、2008年度には第4浄水場からしか検出されていません。  

指標菌が少しでも検出されたら高度処理をするようにという国が指導でもあるなら、市は出すべきです。  

原水を高度処理する理由としてクリプト対策が使われているようですが、鹿沼市でクリプト被害が出る確率を考えるべきだと思います。  

「1996年6月に埼玉県越生町で発生した集団下痢症の流行は,1994年の神奈川県平塚市についで,わが国で2例目の原虫Cryptosporidiumの水系感染であった。しかし平塚市の事例は,施設の構造的な欠陥から受水槽に汚水が混入したことが原因であり,水道当局が供給する水には問題がなかったのに対して,越生町での流行は町の水道水そのものがCryptosporidiumに汚染されていたため」(http://www.tokyo-eiken.go.jp/topics/gentyuu/gentyuu.html)でした。  

平塚市の事例は、利用者の受水槽に汚水が混入したことが原因でした。水道原水の高度処理をしても防げません。  

越生町の事例はどうでしょうか。  

「日本でも1996年6月には埼玉県越生市で,住人の7割,1万人近くが集団下痢をする事故がありました。河床の伏流水を取水していることになっています。しかし,河川が濁ると取水した水が濁ってしまう状態でした。つまり,表向きは,伏流水ですが,単に粗ろ過をして,ポンプで強引に取水していました。ポンプによる強引な取水で河床の砂礫がかき混ざり濁ってしまいました。砂礫などをかき混ぜれば,河川水中の濁り成分とほとんど同じものを取水することになります。すぐ上流にある下水処理排水が流れ込み,その排水がクリプトで汚染され,そのオーシストが急速ろ過処理過程と通過し,集団下痢になったのです。」(三原市水道部のサイト http://www.mihara-waterworks.jp/sensei/zoku_02.htm)。(文中越生市とあるのは越生町の間違いと思われます。)  

鹿沼市とは事情が大分違います。  

鹿沼市の水源は、100%地下水です。越生町の水源は表向き伏流水のようですが、実質は河川水です。おまけにすぐ上流に下水処理施設があったのです。  

鹿沼市でも第4浄水場と第5浄水場は、下水処理施設の下流に位置しますが、両浄水場の水源は地下水であり、表流水でも伏流水でもありません。  

越生町で起きたことが鹿沼市で起きないとは限りませんが、どのくらいの確率で起きるのかを問題にすべきです。水源が100%地下水の水道でクリプト被害が起きた例があるとは思えませんが、あるなら、鹿沼市は示すべきです。  

では、クリプト対応の高度処理をしなくてよいのかということですが、清潔を求める風潮を考えると、高度処理をせざるを得ないのかもしれません。高度処理の方法が、高価な膜ろ過でなく、紫外線処理を鹿沼市が選択することは救いではあります。  

要するにクリプト対策としての高度処理の優先順位は高くないと思います。  第3回資料p3でも紫外線処理の優先順位はCランクですが、費用対効果が高いというのは疑問です。被害の発生確率が非常に小さければ、費用対効果が高いとは言えないと思います。Dランクでもいいのではないでしょうか。  

「安心・安全」(p4)を目指すなら、表流水を取水してクリプト対策を施すことではなく、表流水を水源としないことです。  

「1970年にミシシッピー川下流の水を水道原水として飲んでいる地域住民と地下水を水道水として飲んでいる地域住民を比較調査した結果、ミシシッピー川の水を飲んでいる地域住民のガンによる死亡率が高い事実が公表された「ハリス・リポート」は余りにも有名である。」  

「厚生労働省を含め水道当局者は「トリハロメタンは水道水を煮沸させれば除去できる」と国民に安心を訴えているが、果たしてそうであろうか。 トリハロメタン除去のため水道水を煮沸すれば、かえって危険性が高くなるケースもある。仮に水道水に硝酸性窒素などの有害化学物質が混入していた場合、その水道水を煮沸すると、濃縮されてかえって危険が増すからである。」 (財界展望2005.8/ジャーナリスト 水城遼「日本の水が危ない」シリーズから抜粋・要約http://kangenwater.blog74.fc2.com/blog-entry-20.html)。    

ちなみに、佐藤市長は、「水が足りなくなったときに備えてダムの水利権を取得する」と言っていますが、ここにも、いつ、どれだけ足りなくなるのかという定量的な議論が欠けています。占いや賭けと同じです。非科学的根拠でダム事業に参画すべきではありません。    

 ●表流水取水で「おいしい水の供給」ができるのか  

p6で「おいしい水の供給」を目指しながら、表流水取水が必要というのは矛盾しています。確かに、表流水をおいしい水にする技術はあるでしょうが、おそろしく高価な水になるはずです。安くてうまいに超したことはありません。それには地下水100%を維持すべきです。  

 ●表流水の確保がなぜ安定につながるのか  

p7で「将来においても安定した水の供給をおこなうため……既存水源以外の水源確保の可能性について検討を進めていきます」と書いてありますが、「既存水源以外の水源」とは表流水のことと思います。  

表流水は地下水より不安定な水源です。地下水を一部放棄して、水源の絶対量を減らしておいて、気候により大きく左右される表流水を確保することがなぜ安定につながるのか分かりません。  

 ●地盤沈下は起きているのか  

p8で「地盤地下への配慮」が必要だと書いてあります。  

鹿沼市内で地盤沈下が起きているのでしょうか。鹿沼市は、「地盤地下への配慮」が必要だと言うなら、実際にどこの浄水場で地盤沈下が起きたのか、あるいは起きるおそれがあるのかを具体的に示すべきです。地盤沈下防止を言うなら、科学的な根拠を示すべきです。  

鹿沼市の水道水源井戸から揚水したために地盤沈下が起きたという話は聞いたことがありません。  

地下水を過剰揚水すれば、地盤沈下が起きる可能性はありますが、それが鹿沼市で起きるかどうかを確率的に考えるべきです。  

 ●節水を呼びかけないのは水が足りているからではないのか  

p8で「利用者に対して節水の呼びかけを積極的におこなう」と書いてありますが、これまでの「節水の呼びかけ」の実績はどうなのでしょうか。  

鹿沼市では、6月の水道週間に合わせて、広報に掲載し、大型店でパフォーマンス的に啓発しているだけのように思えます。鹿沼市では冬期に井戸がれが起きやすいのですから、冬期にこそ節水を呼びかけるべきです。最近の広報に節水のことなど書いてないではありませんか。  

鹿沼市は、地下水が足りないから表流水を確保するという方針を持っていたはずなのですが、冬期に節水を呼びかけないということは、水が足りているということを意味するのではないでしょうか。  

 ●地下水の取水量の抑制を図る必要があるのか  

p11で「地下水は、取水量の抑制を図っていく必要があります。」と書いてあります。  

しかし、地下水調査報告書で決めた上水道における地下水の適正利用量は「再評価についても検討課題となる」(第2回資料p21)と書いてあるのですから、再評価の結果、取水量の抑制を図る必要はないという結論に至る可能性もあります。そうなれば、「地下水は、取水量の抑制を図っていく必要があります。」は、間違いということになります。  

再評価をいつまでにだれがするのかの道筋を明らかにすべきです。  「地下水調査報告書で決めた上水道における地下水の適正利用量」が正しいという前提に立つ限り、表流水取水が絶対に必要となってしまうのですから、早急に再評価すべきです。  

 ●「図解 地方公営企業法」に学べ  

資料とは別の話ですが、細谷芳郎著「図解 地方公営企業法」(2004年、第一法規)p262〜263に次のように書かれています。  

水道事業は、設備投資の規模により収支構造が決まってくる事業であり、過大投資こそが健全経営の一番の大敵です。過大投資は、特に、ダム建設等による新規水源の開発に際して、将来の水需要に備えた水資源の確保という観点からこれに参加しようする場合に起こりやすいとえいます。したがって、中長期的な経営計画、特に建設投資計画の策定に際しては、政治的な思惑を排し、現実的な人口動向等を踏まえて的確な需要予測を行い、当該団体にとって水源開発が本当に必要なのか、あるいは必要とされる水量はどの程度なのかをはっきりさせるとともに、節水その他の水需要抑制策や広域的な見地からの既存水源の活用、転用等の可能性についても真剣に検討し、投資規模の抑制を図ることが何よりも重要です。  

同時に、「右肩上がりの時代」が終わり、人口も減少に転ずる見通しとなっている今日においては、既にダムや水道施設の建設に着手している場合であっても、惰性に流れず、随時水需要の動向を検証しながら、必要とあらば、建設投資計画の大胆な見直しも辞さないという姿勢が特に重要だといえるでしょう。  
 

市は、表流水を確保する科学的根拠を示さないのですから、佐藤市長がいつ使うかも分からない水利権を取得するのは、「政治的な思惑」があってのこととしか思えません。  

 ●太田正氏の主張  

これも資料とは関係ありませんが、懇談会の座長の太田氏は、宇都宮市長等を相手とする湯西川ダム訴訟の控訴審で控訴人側証人として2009年12月に意見書を提出しています。太田氏は、2009年7月8日の総務省の次のような通知を引用しています。通知の標題は、「公営企業の経営に当たっての留意事項」で、これは、地方自治法第245条の4に基づく「技術的な助言」とされるもので、差出人は総務省自治財政局公営企業課長ほかであり、あて先は各都道府県総務部長、各都道府県企業管理者、各指定都市総務局長、各指定都市企業管理者ほかです。  

経営計画への建設投資の計上及びその実施に当たっては、社会経済情勢の推移に伴うサービス需要の動向等を踏まえつつ、新規事業についてはもちろん、継続事業についても、投資規模の適正化、整備進度の調整等に配慮し、過大投資ないしは過度の先行投資となることのないよう留意する必要があること。特に、継続事業であっても、将来における需要が明確に見通せない場合には、休止等を含め適切に対処する必要があること。
水道事業については、水道普及率が97%を超え、建設投資の内容が新設拡張事業から改良・更新事業へと移行しつつあること、人口減少時代の到来とともに節水型社会への移行などにより水需要見通しに状況変化が生じうることを踏まえ、その運営に当たっては、地域住民のニーズの的確な把握と適切な建設改良計画の策定に努め、投資規模の適正化を図ること。特に、ダム等水源施設整備への参画に当たっては、長期水需給計画を適宜見直した上で必要量、採算性、建設期間及び負担内容を精査し、関係機関との調整に十分配慮する必要があること。
 太田氏は、結論として、「宇都宮市が湯西川ダムによる水資源開発に参画するにあたっては、上記総務省の指摘等を十分に斟酌し、過大な利用者負担とならない投資規模の適正化に配慮したか否かが問われなければならないであろう。」と主張しています。  

 ●「ダムありき」か  

これまでの鹿沼市の水道行政では、すべて「ダムありき」で計画が立てられてきました。  

市長が代わっても、ダムの呪縛から逃れることができないのかが問われると思います。  

昨年の12月議会で佐藤市長は、「市民のことを考えればダムは中止でよい」(日本共産党鹿沼市議団の「新しい鹿沼」2010-01-19)と言ったのですから、期待してもいいのかもしれません。

(文責:事務局)
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