職員と知事とどっちが正しいか

2011年4月6日

●「地下水なので安全性は高い」

3月25日付け朝日は、「水の放射性物質、基準を下回る」という見出しの記事で「県生活衛生課の担当者は、(中略)「栃木(県)は鬼怒川、那珂川、渡良瀬川から取水しているが、水源は大半が地下水なので安全性は高い」と話している。」と報じています。

同日付け下野も「23日までの水道水検査、すべて基準値下回る」の記事で、「県保健福祉部は「表流水でも基準を大きく下回った。地下水はより安全と考えられる」としている。県内の水道水の6割は地下水だという。」と大雑把な書き方をしています。

「地下水なので安全性は高い」。

それならば、なぜ栃木県は、市町に安全性の高い地下水源を放棄させ、表流水に切り替えさせているのでしょうか。

●知事は表流水汚染を想定せず

3月24日に3ダム訴訟の判決がありました。判決文の中で思川開発に係る利水について、被告の主張を次のように紹介しています。

県南地域の関係市町は、水道事業者として、将来の水道普及率増に伴う新規需要や地下水位、地下水汚染、地盤沈下対策等を総合的に考慮し、多様で安定的な水源を確保するため、利水行政上の判断により要望水量を決定し、被告もそれを妥当なものと判断し、思川開発事業に参画して毎秒0.821立方メートルの水道水を確保することとしたものである。

表流水確保の必要性は、現時点の状況や水需要の実績値のみならず、将来の人口や経済成長率等様々な要因を踏まえた長期的な水需要予測、現有水源の状況、地盤沈下や渇水発生の危険性等を総合的に考慮して判断しなければならないところ、県南地域は、水源の大部分を地下水に依存しており、地下水汚染や異常気象による地下水位の低下などが懸念される上、地盤沈下も依然進行しているため、表流水への転換を進めることによりリスクを分散して危機管理を強化する必要があり、栃木県が思川開発事業により表流水を水道の用に供することとした判断について裁量権の逸脱濫用はない。

「表流水への転換を進めることによりリスクを分散して危機管理を強化する必要があり」と言いますが、今回の事故で明らかなように、表流水を水源とする水道水が真っ先に放射能汚染されたではありませんか。

水源を地下水から表流水に転換することが「リスクを分散して危機管理を強化する」ことになるとは思えません.

上記被告の主張には、「地下水汚染」が二度も出てきますが、「表流水汚染」は全く出てきません。表流水汚染は想定しないのですから、ご都合主義です。

「異常気象による地下水位の低下」は考慮しても、原発事故による放射能汚染は考慮しないというご都合主義です。

確かに地下水汚染もあり得ますが、これまでの状況を見ると、水の汚染事故と言えば、圧倒的に表流水汚染が多く、水道水源として地下水汚染は滅多に報道されません。

「将来の人口や経済成長率」を考えたら、水需要は増えません。それらはマイナス要因なのに、マイナス要因をプラス要因と強弁する厚かましさには、あきれ果てるしかありません。

「地盤沈下も依然進行している」というのもウソです。ここでは証明しませんが、裁判では地盤沈下が沈静化していることを原告は証明しました。

「渇水発生の危険性」についても、表流水の方が地下水よりも降水量の影響を受けやすく、不安定な水源であることも明らかです。

また、何度も書いてすみませんが、「南摩ダムの計画策定にあたっては、利水基準年を昭和35年とし、おおむね5年に1回程度発生する渇水に対処する計画として策定しています。」(建設省発行の「思川開発事業」p3ー8)。総貯水容量が1億500万立方メートルの南摩ダムでもおおむね5年に1回程度発生する渇水に対処することしかできないのに、総貯水容量が5100万立方メートルに半減した現計画の南摩ダムが渇水のときに役に立つはずがありません。

要するに被告の主張は、ご都合主義とウソで固められています。

水汚染に戻りますが、3月25日付け読売には、「核物理学に詳しい葉佐井博巳・広島大名誉教授は「水に混じった放射性物質は、土などを通ることで約10分の1になる」と指摘、地下水での影響は少ないとみる。」と書かれているように、地下水の方が安全であることは、明らかでしょう。

もしも、東大芦川ダムが予定どおり完成していて、鹿沼市が水源を表流水に切り替えていたら、今ごろ鹿沼市内は、水道水の放射能汚染で大変な騒ぎになっていたでしょう。

本来、知事の主張を否定するようなことを補助職員が職務上言ってはなりません。言ったら処分されるのが筋です。しかし、知事の主張に正当性がなければ処分するわけにもいかないでしょう。

●広報かぬまも「表流水は安全」

広報かぬま2001年5月10日には、「地下水は大丈夫?」、「近年は社会環境の変化により、全国的にも、トリクロロエチレン・クリプトスポリジウム等による地下水汚染が騒がれています。」、「地下水汚染などの環境面も頭におかなくてはなりません。地下水の保全や、安全で安定したこれからの水道事業を考えるとき、水源は地下水一辺倒でなく、表流水による水源の確保も必要です。」と書かれています。

鹿沼市でも、地下水汚染は想定しても表流水汚染は想定しない。

そんなご都合主義の論法で市民を欺き、ダム事業に参画することを正当化していたのです。

地下水を放棄し、表流水を確保しておくことが安全だと主張した市長や職員が不明を恥じることも、責任をとることもないのでしょうか。

●水道水は水源で測定したらどうか

ちなみに、宇都宮市の水道水中の放射性物質の量が新聞に発表されていますが、宇都宮市下岡本町2145-13にある栃木県環境保健センター内の蛇口から出る水で定点観測しています。

松田新田浄水場の水で測定して、汚染度が高ければ、配水をやめるべきではないでしょうか。なぜ市民に飲ませてから測るのでしょうか。

水道水中の放射性物質の量を測定するなら、浄水場と蛇口と両方で水を採って測定してほしいと思います。市民は両方の値を知りたいのではないでしょうか。

東京都の水道水は、金町浄水場などで測定しているようです。浄水場が都の施設だからでしょうか。

栃木県の職員が松田新田浄水場に簡単に入るわけにはいかないので、栃木県は浄水場ではなく県の施設の蛇口の水で測定しているのだと推測します。

そうだとしたら、知事は、水に関する危機管理を言うなら、ダム建設費の負担なんかしないで、いざというときに県職員が市の水道施設に立ち入れるような連携・協力体制を普段から構築しておくことが必要ではないでしょうか。

(文責:事務局)
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