治水効果の及ぶ範囲を勝手に変えてしまう国土交通省

2009-06-25,2009-08-10追記

●南摩ダムの治水効果は利根川に及ばない

1998年2月に建設省関東地方建設局(当時)と水資源開発公団(当時)が連名で作成した「思川開発事業」という冊子に思川開発事業の当初構想と現計画の対比表(PDFファイル136KB)というページがあります。

構想当初は「南摩川、思川の洪水被害を軽減する。」だったのが、1994年5月の変更で、「南摩川、思川、利根川の洪水被害を軽減する。」に変わりました。どこが変わったのかと言えば、「、利根川」が付け加えられたということです。

国は、構想当初は、思川開発事業の治水効果は、利根川には及ばないと言っていたのに、1994年5月からは、利根川にも及ぶことにしてしまったのです。ご都合主義ではないでしょうか。

1994年5月を境に思川開発事業の構造は変わったのでしょうか。確かに、この年の変更で行川ダムが加わりました。しかし、表には南摩ダムだけでも「利根川の洪水被害を軽減する」と書かれています。

また、行川ダムが中止された現在でも、思川開発事業の治水効果は利根川にも及ぶと国は主張しています。

したがって、行川ダムの存在に関係なく、南摩ダムの治水効果が利根川まで及ぶというのが国の主張です。

当初構想も計画変更後も、思川開発事業の洪水調節の仕組みとは、南摩ダムの500万m3の治水容量でダム上流の12.4km2の集水面積から流出する洪水を調節することであるはずです。洪水調節の仕組みを変えていないのに、南摩ダムの治水効果が渡良瀬遊水地を越えなかったり、越えたりするのは、誠に不可解です。

●渡良瀬遊水地が存在しなかったことにした上での治水効果の計算

私たちが栃木県知事を相手とする三ダム訴訟において主張したことを2007年6月に裁判所に提出した治水準備書面から引用します。

そして、南摩ダムの利根川・栗橋地点への治水効果に関しては、さらに重要な問題がある。それは、思川と利根川との間に大きな洪水調節池、渡良瀬遊水地が存在していることである。図5に示すとおり、渡良瀬川、思川、巴波川の最下流に渡良瀬遊水地があって、それら支川の洪水が利根川の洪水ピーク流量に影響しないように、渡良瀬遊水地内の三つの洪水調節池に越流させる仕組みがつくられている。

渡良瀬遊水地は洪水調節容量が現状で17,180万m3もある、巨大な洪水貯留施設である。利根川の治水計画では、同図のとおり、渡良瀬川、思川、巴波川の計画高水流量、それぞれ4,500m3/秒、3,700m3/秒、1,200m3/秒が渡良瀬遊水地で調節され、利根川・栗橋地点の洪水ピーク流量への影響をゼロにすることになっている。国土交通省および水資源機構の開示資料にある「利根川・栗橋地点に対する思川ダム群の治水効果」はこの巨大な洪水貯留施設がないという前提で計算したものであるから、現実と遊離したものとなっている。

渡良瀬遊水地は、洪水調節容量が現状で1億7180万m3もある、巨大な洪水貯留施設ですから、その下流の利根川では、南摩ダムなんてあってもなくても関係ないのです。

●費用対効果のデタラメ

国が2002年ごろに公表した思川開発事業の治水の費用対効果計算では、
便益=444億7900万円
費用=197億3900万円
費用対効果は、2.25ということになっています。

しかし、その前提として、年平均被害軽減期待額は、
利根川本川で25億3400万円
思川で5億3100万円
合計で30億6500万円
となっています。

ということは、利根川本川での治水効果がゼロであれば、上記444億7900万円の治水便益は、比例計算すると
444億7900万×5億3100万円/30億6500万円=77億円
ということになります。

そうすると、費用対効果は、
77億円/197億3900万円=0.39
ということになります。

費用対効果が1を大きく下回りますから、当然、事業を実施する価値がないという結論になります。

当初構想のように、南摩ダムの治水効果が渡良瀬遊水地を越えて、利根川には及ばないとすると、思川開発事業の費用対効果が成り立たない。そこで、1994年5月の変更後は、南摩ダムの治水効果が利根川まで及ぶことに国が勝手に決めたというのが実情ではないかと推理します。

●思川と南摩川の年平均被害額は2億円だった(2009-08-10追記)

先日、栃木県河川課から公共土木施設災害被害額調書を情報公開請求により入手しました。

物価が現在とあまり変わらない1991年度から2008年度までの18年間の南摩川と思川の年平均被害額は次のとおりです。
南摩川 17,017千円
思川  205,590千円

合計しても222,607千円にすぎません。

実際の年平均被害額はそんなものです。

ところが、国は、南摩ダムを建設すれば、年平均で思川において5億3100万円の被害を軽減できると計算しているわけです。

国は、南摩ダムによる被害軽減額が実際の被害額よりも大きいという倒錯した計算で費用対効果をはじき出しているわけです。

年平均2億円程度の被害しか発生していないのに、南摩ダムで年平均5億円の被害を軽減できるはずがないじゃありませんか。しかも、南摩ダムが完成すれば南摩川と思川の被害がゼロになるわけではありませんから、南摩ダムによる被害軽減効果は、年平均1億円に満たないと思います。栃木県は、50年で50億円の便益は得られないと思います。

そうだとすると、栃木県が思川の治水のために130億円を負担する理由はありません。

(文責:事務局)
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