思川開発事業の費用対効果は0.49だった

2016-09-30

●検討主体は思川開発事業の費用対効果を約1.2と計算した

本稿は、嶋津暉之・水源開発問題全国連絡会共同代表が『八ッ場ダム/思川開発/湯西川ダム裁判報告』(八ッ場ダム住民訴訟弁護団、八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会、2016年自費出版)のp141以下での「思川開発事業の「流水の正常な機能の維持」の便益計算の虚構」という指摘に基づきます。

2010年12月から始まった思川開発事業の検証において、検討主体(関東地方整備局及び水資源機構)は、その費用対効果は、約1.2(総便益約2414億円÷総費用約1991億円)であると結論付けています(「思川開発事業の検証に係る検討報告書(原案)」2016年6月、国土交通省関東地方整備局/独立行政法人水資源機構p5-4)。

●費用対効果が1未満の事業は実施すべきでない

費用対効果とは、「かけた費用に対して、どのくらい効果があるか」ということであり、経済学では「費用便益分析」と呼んでいるようです。

土地改良事業については、土地改良法施行令第2条に土地改良事業の施行に関する基本的な要件が規定されていて、その第3号に「当該土地改良事業の全ての効用がその全ての費用を償うこと。」と書かれています。

難しい言い回しですが、総便益と総費用を計算してみて、総便益÷総費用が1以上でなければ事業を実施してはいけないことを意味します。

ところが、ダム事業については、このような規定はおそらくありません。

しかし、事業を実施する場合に、いわゆる「費用倒れ」になることを避けるべきことは当然であり、ダム事業においてのみ費用倒れが許されるとする理由はありませんから、土地改良法施行令第2条第3号はダム事業にも類推適用されるべきだと考えます。

したがって、費用対効果が1未満のダム事業は実施すべきでないことになります。

なお、厚生労働省は、水道の費用対効果分析という資料で「事業の投資効率性の判断基準は、費用便益比(B/C)が 1.0以上であることを原則とする。」と明記しています。あくまで原則なので、場合によっては、1未満でも効率性を認めるということではありますが。

●検討主体が示す便益と費用の額

検討主体が示す便益と費用の額は、次のとおりです(上記報告書のp5-3〜5-4)。

思川開発事業の費用便益比
現在価値化後  〔現在価値化前〕
1 総便益
(1)洪水調節に係る便益  約493億円   〔約1572億円〕
(2)流水の正常な機能の維持に関する便益 約1863億円〔約1362億円〕
         (異常渇水時の緊急水の補給を含む。)
(3)残存価値                 約57億円
(4)総便益((1)+(2)+(3))          約2414億円

2 総費用
(1)建設費(河川事業分)    約1890億円   〔約1382億円〕
(2)維持管理費         約101億円    〔約 321億円〕
(3)総費用((1)+(2))      約1991億円

3 費用便益比(総便益/総費用) 
B/C 約2414億円/約1991億円 =約1.2
    
〔注〕思川開発事業の建設が実施計画調査に着手した1969年度から始まって2024年度に完成するとし、洪水調節便益については、ダム完成後50年間の便益が計算されています。     
    
    
●検討主体は「不特定」の便益計算の方法を明らかにしていない

検討主体は、「流水の正常な機能の維持」に関する便益(異常渇水時の緊急水の補給に関する便益を含む。以下「不特定」という。)の便益計算の方法を明らかにしていません。

「パブリックコメントや学識経験を有する者、関係住民より寄せられたご意見に対する検討主体の考え方」(2016年7月14日)を見ると、p18の「整理番号48」の「ご意見を踏まえた論点」欄には、次のように書かれています。

・算定方法(代替法)と結果だけしか示されていないが、総便益の約80%を占める当該便益の算定方法(代替法とはどのような方法か)および算定過程をできるだけ詳しく示すべき。
    
・計算過程が示されていないので、適正かどうか評価できない。計算過程を明らかにすべきである。代替法による場合は、費用対効果が必ず1を上回るのであり、不当である。    

この論点に関する検討主体の考え方は次のとおりです。    

・流水の正常な機能の維持のための容量の便益算定については、「不特定容量、渇水対策容量を有するダムの事業評価について 」(2005年11月30日 河川局事務連絡)に基づき、最新データを用いて算定を行っております。
・代替法とは、評価対象とする事業と同様な便益をもたらす他の市場財で代替する場合に必要な費用で当該事業のもたらす便益を 計測する手法となっております。
・なお、本検証に係る便益の算定根拠については、「思川開発事業の費用便益比算定資料」を別途お示しいたします。        

「本検証に係る便益の算定根拠については、「思川開発事業の費用便益比算定資料」を別途お示しいたします。」という考え方を受けて水資源機構のホームページに掲載された資料が「思川開発事業の検証に係る検討 「費用便益比算定」 参考資料」です。

しかし、この資料には「不特定」に関する便益についての記述はほとんどなく、p138以下の様式-5の中でダム完成までの整備期間に割り振られた便益額がいきなり書かれているだけで、各年度の便益額をどうやって算出したかは分かりません。

検討主体は、パブリックコメントで出た意見に対し「本検証に係る便益の算定根拠については、「思川開発事業の費用便益比算定資料」を別途お示しいたします。」と言いながら、「不特定」に関する便益について、ほとんど何も説明していないのです。

検討主体がこんなインチキをやっても、「事業評価監視委員会」や「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」からお叱りを受けることはないのです。
   
●不特定に関する便益計算のルールはどうなっているのか

会計検査院は、2009年度決算検査報告の「ダム建設事業における費用対効果分析の算定方法を明確にするなどして、費用対効果分析が適切に実施されるよう意見を表示したもの」に、次のように書いています。    

貴省(国土交通省)は、費用対効果分析の実施に係る計測手法、考え方等に関して各事業分野において共通的に考慮すべき事項について、「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)」(以下「技術指針」という。)を策定している。
そして、貴省河川局は、河川事業及びダム建設事業について費用対効果分析を実施するための標準的な調査方法を定めた「治水経済調査マニュアル(案)」(以下「治水マニュアル」という。)を策定している。    
ダム建設事業の費用対効果分析は、治水マニュアルによると、次のとおり行うこととされている。
(略)
また、不特定容量の便益については、治水マニュアルには記載されていないものの、貴省河川局の事務連絡「不特定容量、渇水対策容量を有するダムの事業評価について」によると、原則として代替法(注1) により算出して費用対効果分析を実施することとされている。

(注1)
代替法  評価対象とする事業と同様な便益をもたらす他の市場財で代替する場合に必要な費用で当該事業のもたらす便益を計測する手法    

つまり、不特定に関する便益の計算方法については、上記「不特定容量、渇水対策容量を有するダムの事業評価について」 (2005年11月30日 河川局事務連絡)が原則として代替法により算出することというルールを決めているようです。

しかし、会計検査院は、「前記の事務連絡では、不特定容量を有するダムの事業評価に当たっては、原則として、不特定容量の便益については代替法により算出することとされているが、その具体的な算定及び計上方法について記載はなく、治水マニュアルにおいても何ら言及されていない。」と書いています。

「原則として、不特定容量の便益については代替法により算出する」と決まっているだけで、代替法の内容まで決まっているわけではないということです。    
   
●代替法とは何か

会計検査院は、代替法の説明を上記のようにしますが、あれだけでは意味が分かりません。

代替法とは、思川開発事業の例で言えば、不特定のための貯水容量は2825万m3なので、その規模の専用ダム(「身替りダム」と呼ばれている。)を建設することを想定し、その建設費をもって不特定の便益とみなすという方法です。

現実離れした計算方法です。単独の目的のためのダムの建設費は、多目的ダムにおける当該目的の負担額よりも高くなります。スケールメリットの逆の原理が働くからです。そして、世の中には、100億円投資して100億円の利益が得られる(元本保証の)事業なんてそうそうあるものではないにもかかわらず、国土交通省で行っている代替法では、身替りダムの建設費=便益となるのです。

したがって、ダムを建設する場合には、身替りダムの建設費で便益を計算する不特定の容量が大きいほど費用対効果を大きくできます。

つまり、「流水の正常な機能の維持のための容量」や「異常渇水対策容量」は、増量剤の機能を果たしているということです。(そもそも、南摩ダムの不特定容量が有効貯水容量の56.5%も占めていることが異常です。)

だから、一般論として、費用対効果の分析で代替法を用いることが不当ではないとしても、国土交通省で行っているような身替りダムの建設費をそのまま便益とみなす代替法で計算すること自体がインチキなのです。    
   
●不特定に関する便益が整備期間中に発生することにしていた

検討主体が不特定の便益について算定根拠を示すと言いながら示さないことが不当であることはもちろんですが、それはさておいても、最も不当なことは、不特定に関する便益が思川開発事業の整備期間である1969年度から2024年度までの56年間にわたり毎年度発生していると計算していることです(「思川開発事業の検証に係る検討 「費用便益比算定」 参考資料」p138の「不特定」の欄参照)。

また、上記検討報告書(原案)のp5-3には、「利根川及び思川における流水の正常な機能の維持に関する効果を金額に換算するため、代替法を用いて算出し、整備期間中の各年度に割り振って計上し、社会的割引率(4%)を用いて現在価値化を行い算定。」と明記されています。

「整備期間中」とは、実施計画調査に着手した1969年度に遡って、南摩ダム完成予定年度の2024年度に至るまで、という意味です。

不特定に関する便益が整備期間中に発生するものと算定したため、その単純合計が約1362億円であるにもかかわらず、現在価値化すると約1863億円(約1.37倍)に増えることになりました。    
   
●現在価値化とは

「現在価値化」とは、「発生の時期を異にする貨幣価値を比較可能にするために、金融用語では将来の価値を一定の割引率(discount rate)を使って現在時点まで割り戻」(Wikipedia)すことです。「将来に発生する価値を,割引利子率などを用いて割り引き,現在の価値に直したもの」(大辞林第3版)という定義もあるように、主として将来に発生する価値を現在の価値に換算することをいいます。

仮に年利4%の複利を預金に付ける銀行があるとすれば、現在、約14万円を預金すれば、50年後に100万円を手にすることができるので、現在の14万円と50年後の100万円はほぼ等しいと評価することが現在価値化です。

過去に発生した価値を現在の価値に換算する方法は役所によって違うようです。

厚生労働省は、上記「水道の費用対効果分析」(作成時期不明)で、「過去に投資した費用及び既に発現している便益は、デフレータで、基準年度の価格に調整する。将来の費用及び便益は社会的割引率を用いて、現在価値化する。社会的割引率は、当面の間 4%とし、水道の事業評価に共通的に適用する。」とします。「デフレータ」とは、物価指数です。]    

これに対し、会計検査院は、「評価時点より前に計上されるダム建設費等について、社会的割引率を用いて現在価値化することを明確にすること」(2009年度決算検査報告)という意見を示しています。

評価時点より前に計上される価値の現在価値化についてはデフレータではなく社会的割引率を用いるべきであるという明確な見解を持っている会計検査院が不特定に関する便益の発生時期については下記のとおり無頓着なこと(統一されていればいいという見解しか持っていないこと)は、ちぐはぐだと思います。    
   
●整備期間中に身替りダムの便益が発生すると計算した根拠は国土交通省の事務連絡だった

国土交通省が整備期間中に不特定の便益が発生すると計算した根拠は、2010年11月24日付けの「ダムの不特定容量の便益算定について」という河川局河川計画課長、河川環境課長及び治水課長からの各地方整備局河川部長等や都道府県河川事業担当部長あての通知です。

そこには、次のように書かれています。    

不特定容量の便益を代替法により算定する際は、今後、原則として、対象ダムの整備期間中の各年度に割り振って身替りダムの建設費を計上する方法により算定されたい。    

国土交通省がこのように決めた理由は不明ですが、その経緯は、会計検査院が上記2009年度決算検査報告において、「身替り建設費(身替りダムの建設費のこと)を推定して不特定容量の便益を算定しているダムについて、当該便益が計上される時点及び方法をみると、身替り建設費をダム整備期間中の各年度に割り振って計上したり、ダム完成の翌年度等にまとめて計上したり、ダム完成後の評価期間(50年間)等の各年度に割り振って計上したりしている状況となっていた。その結果、身替り建設費をダム整備期間中の各年度に割り振って計上すると評価時点より前の期間が含まれるため現在価値化後の便益は比較的大きく算定されるのに対し、ダム完成の翌年度等にまとめて計上すると評価時点より後であるため現在価値化後の便益はこれより小さく算定されることとなる。また、身替り建設費をダム完成後の評価期間(50年間)等の各年度に割り振って計上すると、現在価値化後の便益は更に小さく算定されることとなる。」ことを問題視し、「不特定容量の便益について、算定及び計上方法を確立するよう検討すること」という意見を示したことを受けて、国土交通省が算定方法を国土交通省にとって最も有利な方法に統一したものです。

会計検査院は、算定方法が統一されていないことだけを問題視し、どの算定方法が最も妥当かという問題には全く興味がないようであり、国土交通省と落としどころを決めた上で問題点を指摘しているように思えます。    
   
●洪水調節の便益はダム完成後の評価期間に割り振っている

不特定に関する便益が整備期間中に発生するという計算方法は不当だと思います。

「思川開発事業の検証に係る検討 「費用便益比算定」 参考資料」のp138を見ると、「治水」(洪水調節)の便益はダム完成後50年間の評価期間に割り振られています。当然のことです。

不特定の便益が洪水調節の便益と異なり、ダム完成前に発生するという計算をする理由が見当たりません。    
   
●八ッ場ダムの検証では、不特定に関する便益はダム完成後に発生すると計算している

国土交通省が八ッ場ダムの費用対効果では、流水の正常な機能の維持に関する便益を代替法ではなく、仮想評価法(CVM)で計算するという違いはあるものの、ダム完成後の評価期間に割り振って現在価値化しています(八ッ場ダムの費用対効果の検討p5-6)。

国土交通省が南摩ダムについては整備期間中に遡って不特定の便益が発生すると計算するのはダブルスタンダードです。    
   
●なぜダブルスタンダードなのか

国土交通省が不特定の便益の発生時期について、八ッ場ダムと南摩ダムでダブルスタンダードになっている理由としては、八ッ場ダムの検証では費用対効果は6.3もあり、不特定の便益の発生時期についてまともな方法を採用しても有利な結論を得られるのに対して、南摩ダムについては、不特定の便益が1969年から発生するというインチキな方法によっても、費用対効果は約1.2にしかならないため、まともな方法を採用したら、後記のように、費用対効果が1を下回ることになるので、インチキな方法を採用せざるを得なかったということが考えられます。    

ダム検証で代替法を使ったのは、マニュアルである2005年の通知に従ったまでだと国土交通省では言うかもしれませんが、そうだとしたら、2007年度の第4回再評価と2011年度の第5回再評価で、代替法を使わなかった理由が説明されておらず、説得力がありません。    
   
●思川開発事業の費用対効果は0.49だった

「思川開発事業の検証に係る検討 「費用便益比算定」 参考資料」のp138を見ると、洪水調節に関する便益については、毎年度31億4300万円の便益があるとされ(現実にそんなことはあり得ないが)、ダム完成後50年間の合計は、1571億円5000万円となるという計算をしています。

そして、各年度に割り振られた便益を現在価値化すると、493億3800億円になるとします。縮小率は約31.4%です。

整備期間中に割り振った不特定の便益の合計額約1362億円も、洪水調節の便益同様、ダム完成後に便益が発生するとして計算すれば、現在価値化により約31.4%に縮小され、約428億円となりますから、総便益は、洪水調節便益493億円と残存価値57億円を足しても978億円にしかならず、これを総費用1991億円で割ると、費用対効果は0.49となり、1をはるかに下回ります。    

したがって、事業は当然ながら中止すべきことになります。        
   
●国土交通省は不特定容量の便益の算定方法を変えていた

最近気付いたことですが、国土交通省は2011年度に実施した第5回再評価までは、不特定容量の便益をCVM等により算定していたのに、2016年度にダム検証で実施した費用便益比分析では、身替りダムの建設費による算定に変えたと思われます。

会計検査院のホームページの「国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)」の「大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果について」の「南摩ダム」を見ると、2011年度までの事業評価の実施状況を紹介し、「不特定容量の便益の算定及び計上方法」は「CVM等により便益を算定」と書かれているからです。

なぜ、ダム検証における費用対効果の分析では、身替り建設費による算定方法に変えたのでしょうか。

洪水調節便益について、従来、評価時点の河道の整備(堤防の新築、改修や河床の掘削)状況で算定していたものを、今回のダム検証における費用対効果の分析では、南摩ダム完成時点(2024年度)での河道の整備状況を想定して算定した(「検討主体の考え方」p17)ため、洪水調節便益が1401億円(2015年度)から470億円(検討報告書素案)へと1/3に激減したことと関係があるのでしょうか。

そうだとしたら、ご都合主義というものです。    
   
●河道の整備は2024年度以降止まるのか

南摩ダムの洪水調節に関する便益の計算が不当であることについては触れないつもりでしたが、ダム完成時点の河道の整備状況を固定して洪水調節便益を計算しているのもおかしな話です。

費用対効果の評価期間は、2025年度から2074年度までの50年間です。その間、南摩ダムは、毎年度31.43億円の便益を発生し続けることになっています。

しかし、現実的に考えれば、その50年間に河道の整備も進むはずです。そうなれば、想定されるダムの便益も小さくなるはずです。

洪水は、ダムと河道でそれぞれ受け持って水害を防ぐというのが今の河川行政の考え方です。

きめ細かく計算すると面倒なのは分かりますが、南摩ダム完成後50年間、思川と利根川の河道の整備が全く進まないという想定は、余りにもダムに有利な想定です。

南摩ダムの検証では、従来の費用対効果分析では、従来、評価時点での河道の状況でダムの洪水調節便益を計算していたものを、ダム完成時点まで遅らせたことは、まともな計算に近づいたものと評価すべきでしょうが、河道の整備がそこで止まると想定することは、やはり現実無視の想定です。    
   
●洪水調節の便益はもっと小さくなる可能性がある

なお、検討主体は、南摩ダム完成時点(2024年度)での河道の整備状況を想定して洪水調節の便益を算定したと言いますが、河道整備の程度を明らかにしていないのは不当です。

南摩ダムの完成までは河川事業の予算の多くを南摩ダム建設のためにつぎ込まなければならないので、南摩ダム完成時点(2024年度)での河道整備はあまり進んでいないという想定をしているのではないでしょうか。

しかし、思川開発事業という計画が存在しなければ、南摩ダム建設のために使う予算を河道整備に充てることができるので、南摩ダム完成時点での河川整備は相当進んでいるはずであり、そうなれば流下能力がずっと高まり、水害が起きにくくなるということですから、南摩ダムの洪水調節効果は、南摩ダムありきで想定した河道整備状況を前提とした洪水調節効果よりも小さくなる可能性があります。

今のところ推測の上での話になりますが、ダム事業のために河道整備に予算が回らないことを前提にした今後の河道整備状況を想定しているとしたら、「予断なき検証」とは言えません。    
   
●南摩ダムの検証は無効だ

確かに、「思川開発事業の検証に係る検討報告書(素案)」(2016年4月)p5-3に「利根川及び思川における流水の正常な機能の維持に関する効果を金額に換 算するため、代替法を用いて算出し、整備期間中の各年度委(ママ)に割り振って 計上し、社会的割引率(4%)を用いて現在価値化を行い算定。」という記述があったのですから、パブリックコメント(2016年4月12日〜5月11日実施)や意見聴取の時点で指摘することも、理論的には可能だったのですが、検討主体が「思川開発事業の検証に係る検討 「費用便益比算定」 参考資料」を作成して、水資源機構のホームページにアップしたのは、2016年7月14日以降だったこともあり、パブリックコメントの実施時期には、この問題に気付きませんでした。

国民が指摘したか否かにかかわらず、思川開発事業の費用対効果は、まともな計算をすれば0.49であり、約1.2という検証結果は事実の基礎を欠いているという瑕疵があるのですから、パブリックコメントや事業評価監視委員会、今後の治水対策のあり方に関する有識者会議といった手続を経たとしても無効です。

(文責:事務局)
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