南摩ダムを造られたらどうなるのか

2012年5月28日

●水源が河川だったら鹿沼市上水道はどうなるか

鹿沼市水道部が2月1日に検針票とともに「節水のお願い」のチラシを全戸配布しました。節水チラシの配布は久々のことです。

チラシの文面は、次のとおりです。

節水のお願い

鹿沼市の水道水源は、全て地下水です。冬季は、地下水位が低下するため、例年、取水調整を行っていますが、今年は、雨が少なく井戸の水位が著しく低下しています。今後、取水に支障をきたすことも予想されますので、利用者の皆様には節水のご協力をお願いいたします。

これを読んで、鹿沼市の水道水源が地下水でなければ、つまり、河川水も水源にしていたら、水道原水の取水に支障を来すことはなかったと勘違いする市民がいるかもしれません。

しかし、河川の水量は、地下水の水量よりも降水量の影響を受けやすいことは明らかです。

もしも、予定どおり2010年に東大芦川ダムが完成し、鹿沼市の水道水源が河川水と地下水のブレンドになっていたとしたら、渇水被害が現実に発生していたかもしれません。

鹿沼市の水道から放射性物質が検出されたことはありませんが、これは、鹿沼市の水道水源が全て地下水だからだと言えると思います。

宇都宮市のように河川水を水源としていたら、検出されていたと思います。

地下水は最高の水道水源であり、鹿沼市は、水道水源が100%地下水であることを誇りとすべきことなのです。

●鹿沼市の方針は南摩ダム建設推進

ところが鹿沼市は、南摩ダムの建設が必要であるという立場です。

鹿沼市にとって南摩ダムが必要な理由は、将来水源が不足する場合に備えるということです。

それなら、河川水を水源とするための浄水場を建設するのかというと、建設しないのです。

ダムの水がいつ必要になるか分からないが、とにかくダムの建設負担金を支払い、ダムを使う権利だけは確保しておくというのが鹿沼市の方針です。

いつ使うか分からない物をとりあえず買っておくという、あいまいな理由でのカネの使い方は、費用対効果の観点から許されないと思います。鹿沼市では、行政評価はやっているはずなのですが。

●取水地点は大芦川

しかも、東大芦川ダムは不要だったことが証明されたに書いたとおり、不思議なことに、鹿沼市で水道水源が地下水だけでは不足したときに、どこから水を取るのかというと、南摩ダムのダム湖からでも、ダムの下流の南摩川からでもなく、大芦川の水を御幣岩橋付近から取水するのです。

鹿沼市は、将来水源が不足したときに南摩ダムの水を使うと言いながら、万一そうなったときには、ダムの水を使わずに大芦川の水を使うのです。

鹿沼市上水道にとって南摩ダムは物理的には意味がありません。鹿沼市が南摩ダムの水を使うといっても、それは計算上の話にすぎないのです。

「いやいや、南摩ダムから大芦川へ逆送する計画だから、鹿沼市上水道が大芦川から取水するということは、南摩ダムの水を使うことになる」と言う人がいるかもしれません。

しかしそれは勘違いです。南摩ダムから黒川、大芦川への逆送は原則としてありません。

特別な渇水のときだけ逆送します。

頻繁に逆送していたら、ダムに水がたまりません。

●なぜダムの水を使わないのか

なぜ南摩ダムの下流から取水しないのでしょうか。理由は確認していませんが、推測するに、南摩ダム下流から取水する場合は、給水区域までの距離が長く、また、南摩ダム下流の標高が低いことから、配水管の布設費用や水をポンプアップするための電気代など、水を運ぶことに相当のコストがかかってしまい非効率的であること、もう一つは、ダム湖の水はアオコが張り水質が悪化しますから、浄水に高いコストがかかることが予想されること、さらにコストだけの問題ではなく、そもそもダム湖の水はカビ臭が強く、水道水源として使い物ならない可能性があることでしょうか。

要するに、鹿沼市が南摩ダムの水をダムの下流から取水して使うことは、有害無益なのです。

●黒川、大芦川の水が1〜2割減る

南摩ダムを建設されることのデメリットは、カネの問題やダム湖の水が使用できないことだけにとどまりません。

南摩ダムの利水容量は、3500万トンです。

南摩川の年間流量は、1100万トンです(1955年〜1984年の平均値)から、自流だけで南摩ダムに水をためることはできません。

そこで大芦川と黒川から導水する必要があるわけです。

栃木県が作成した「東大芦川ダム建設事業の中止に伴う対応について」(2004年10月)によれば、大芦川の導水量は、自流1億900万トン/年のうち2000万トン/年(18%)です。

黒川の導水量は、自流7600万トン/年のうち800万トン/年(11%)です。

1992年度から2001年度までの大芦川の流量観測結果からは、大芦川からの年間可能導水量は3440万トンであると上記県の資料に書かれています。

●取水量は守られるのか

そもそも水資源機構が決めた、この取水量が妥当なのかという問題があります。

また、仮にこの取水量が妥当だとしても、水資源機構が決められた取水量を守るのかという問題があります。

私たちは南摩ダムに水はたまらないと主張してきました。この警告を無視して水資源機構はダムを建設するのですから、「だから言わないこっちゃない。」と言われないためにどんな手段を使っても水をためようとするはずです。

水資源機構が取水量を守らない動機は十分にあります。

JR東日本が1998年から2007年の間に信濃川の水を約1億8000万トン不正取水していた事件もありましたし、東京電力が塩原発電所で13年間で約8000万トンの不正取水をして2007年に水利権が取り消されたこともありました。

群馬県みどり市が31年間にわたり不正取水(許可水量の5倍)を続けていたという事件がありました(2011年3月10日付け福井新聞「水道用水を31年間不正取水/群馬県みどり市を処分へ」及び国土交通省のホームページの「群馬県みどり市水道の水利使用の河川法違反事件について」参照)。

●みどり市の水利権はバーチャルだった

ちなみに、みどり市が渡良瀬川に持つ水利権は、非常に奇妙です。

みどり市は、群馬県の奈良俣ダムの建設費負担と引き換えに草木ダム放流水の水利権を得たというのです。

みどり市は渡良瀬川流域に位置し、奈良俣ダムの放流水を使うことは、物理的に絶対にできません。

みどり市が渡良瀬川に持つ水利権は、仮想の水利権なのです。

●導水の影響を想像してほしい

大芦川と黒川の流量が1割ないし2割減少したらどういうことになるのかを考える必要があります。

両河川に依存する農業用水が不足する可能性があります。

流域の地下水も減少し、流域の住民の使う井戸の水位が下がる可能性があります。

鹿沼市上水道の水源は地下水ですが、その地下水も結局は黒川と大芦川に依存しています。

したがって、黒川と大芦川の流量を減らされるということは、上水道の水源である地下水の水位が下がることであり、上水道の取水に支障が出る可能性があるということです。

川の流量が減るということは、河川の持つ浄化能力が低下し、どぶ川に近くなるということです。

鹿沼市の公共下水道の処理水は上殿町で黒川に放流しています。ダムへの導水で流量の減った黒川に下水道の処理水を放流することは、黒川の河川環境を悪化させることになると思います。

そしてその下流の沿岸には第4浄水場と第5浄水場があります。導水により両浄水場の井戸の水位が低下する可能性があります。

荒井川は導水の対象河川ではないから、影響はないと考えている人がいるかもしれませんが、導水管は荒井川の下を通すらしく、そうだとすると、荒井川への影響も懸念されます。

南摩ダムができても鹿沼市内の川がこれまでと変わりなく流れ続けると考えている市民がいるかもしれませんが、甘い考えだと思います。

川を失ってから後悔しても遅いのです。

鹿沼市は清流が多いことが特徴です。清流を失ったらどうなるのかを想像することが必要です。

まだ見ぬ子孫たちに清流を残すには何をすればいいのかを市民一人一人が考えてほしいと思います。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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