今泉判決は崩れた(その2)〜地下水位低下も地下水汚染も水源転換の理由にならない〜

2013年6月6日

●水源転換には有効性が必要だ

栃木県が2市3町における水需要の増加の可能性を自ら否定したにもかかわらず、それでもなお思川開発事業への参画が必要だと主張するためには、栃木県は、水源転換の効果が顕著であることをこれまで以上にきちんと説明できなければならないはずです。

●栃木県は水源転換の効果を定量的に説明していない

栃木県は、水源転換が必要であることの理由として、地盤沈下の進行並びに地下水位低下及び地下水汚染のおそれを挙げています。

栃木県がそれらのリスクへの対策として水道の水源転換が必要だと主張するのであれば、まずは2市3町において、(1)過去どのような被害があったのか、(2)現在どのような被害が出ているのか、(3)将来どのような被害が生ずるのか、(4)水源転換によってどの程度被害が軽減できるのかについて説明するのが筋です。

栃木県は、かろうじて地盤沈下の現状については裁判でも報告書でも触れていますが、それ以外の点については、裁判でも説明できていませんし、報告書(「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」のこと)にも記載されていません。

野木町を除いた2市2町では、長年にわたり地下水100%で水道事業を経営してきて汚染事故や渇水による断水の経験はないために栃木県は、それらの被害の実績も、将来予測も具体的に説明できないということです。

知事は裁判で栃木県が思川開発事業に参画する理由として「地下水位低下」、「地下水汚染」及び「地盤沈下対策」を挙げます(被告第7準備書面p5、被控訴人第2準備書面p10)が、単語を並べただけであり、栃木県が公金を支出する理由の説明になっていません。

●地下水位低下は水源転換の理由にならない

知事のいう「地下水位低下」とは、「異常気象時の地下水位の低下」(被告第7準備書面p5)を指すと思われます。「異常気象時に渇水リスクが高まる」(報告書p24)と同義と思われます。

しかし、表流水は降水量の影響を受けやすく、少雨による渇水に弱いのは表流水であることは明らかです。

雨が降らなければ、川の水の量が減ります。その後地下水位が低下します。それがものの順序です。

地下水を放棄してその分を表流水に転換すれば、かえって渇水のリスクは高まり、逆効果であることは火を見るより明らかです。

●利水安全度を考えたら地下水を使うのが常道

国土交通省が作成した「今後の地下水利用のあり方に関する懇談会」報告(2007年3月)には、「気象変動を踏まえた利水安全度の確保や、都市部の住民生活や都市機能の持続・維持の観点から、地下水資源への需要が高まる可能性がある。」(p33)と書かれています。

「気象変動を踏まえた利水安全度の確保」を考えたら、「地下水資源への需要が高まる可能性がある。」と考えるのが普通なのです。

「異常気象による渇水リスクが高まる中、県南地域には水道水源として利用できる水資源開発施設がない。」として、「気象変動を踏まえた利水安全度の確保」のために地下水への依存率を下げ、表流水を確保すべきであるという栃木県の考え方は、国の見解をも無視する独自の異常な考え方であり、だれも支持しないと思います。

●今泉判決も地下水位低下を水源転換の理由として認めていない

被告の主張をほぼ鵜呑みにしてきた宇都宮地裁の今泉判決ですが、さすがに地下水位低下を水源転換の理由として認めていません。

今泉判決は、絵に描いたような行政追認型の判決ですが、それでも「地下水位低下」については、行政の言いなりにならなかったのですから、このことからも「地下水位低下」、つまり渇水対策が水源転換の理由にならないことは明らかです。

水源転換の理由として渇水対策を挙げることは論外なのですが、念のため以下に論証します。

●表流水は降水量の影響を受けやすい

報告書には「思川において、思川上流の草久地点における降水量と、下流の乙女地点における河川流量の経年変化等を見ると、両者には相関関係があり、特に、渇水流量を見ると、 昭和 54 年から平成 22 年までの平均が約 6m3/s であるのに対し、平成 8 年の渇水年では 2.7m3/s まで減少している(図表 3-16)。」(p14)と書かれています。

このことは、表流水を水道水源とした場合、河川の上流における降水量の影響を受けやすく、渇水年には水道事業者が大変な苦労をすることになることを栃木県が認めているということです。

降水量と地下水位にも相関関係はあるでしょうが、河川水との相関よりも小さいであろうことは、立証するまでもないほど明らかでしょう。

●地下水の課題には「渇水への対応」に関する記述がない

報告書の「第3章 県南地域の水道水源の現状と課題」の「2 安全で安定した水道水源を確保するための課題」(p13以下)の中で、「(1)表流水」については、「渇水への対応」と「水質事故の発生」について記述されていますが、「(2)地下水」については「地下水利用による地盤沈下」と「水質事故の発生」について記述され、「渇水への対応」に関する記述はありません。

地下水については渇水は課題にならないことを県が認めているということです。

このように栃木県は、報告書の中で、一方では地下水については異常気象時の渇水が課題となっていないことを認め、他方では「異常気象による渇水リスクが高まる中、県南地域には水道水源として利用できる水資源開発施設がない。」(p24)と記述して表流水が異常気象時の渇水対策になるかのような記述をしています。

支離滅裂と言うほかないですが、このことは「地下水位低下」が水源転換の理由とならないことの証拠です。

●足利市と佐野市の上水道は渇水に強かった

報告書には、「平成8年においては、(略)足利、佐野では水田のひび割れや稲の立ち枯れが発生し、その対策に追われた」(p13)と書かれています。

なぜ農業用水の例を挙げるのが分かりませんが、報告書の「図表3−25 用途別日当たり地下水採取量の経年変化」(p19)を見ると、「関東平野北部地盤沈下防止等対策要綱」(1991年11月29日、地盤沈下防止等対策関係閣僚会議決定)の対象地域(保全地域及び観測地域)における水道用の地下水採取量が1996年度だけ突出して多いとか少ないという現象は見られません。足利市と佐野市は、その観測地域に含まれます。また、水道水源を100%地下水に依存しています(根拠は「栃木の水道」(2011年度版)p18。それ以前の年度版でも両市の水道水源が100%地下水であることが確認できます。)。

つまり、水道水源が地下水100%の水道事業体では、表流水に依存する稲作農業で被害が出るような渇水年にも上水道の原水は安定して確保できることを報告書は示しています。

●桐生市は渇水に弱い

報告書には、おそらく1996年のことと思われますが、「群馬県桐生市では、上水道の減圧給水がされたことにより、高台では給水活動が行われた。」(p13)と書かれています。

桐生市の現有水源は141,920m3/日で、そのうちわずか4,090m3/日が地下水源です(「桐生市水道再生マスタープラン」(2007年、桐生市発行)p10)。地下水依存率は約2.9%です。

もし、桐生市が現在も渇水被害に苦しんでいるとすれば、表流水に依存することが渇水リスクを高めることを示していると思います。

●表流水では2/20渇水時には供給可能水量が2割以上減る?

栃木県は、「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書に基づく水道水源確保について」という文書において、「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」(2008年 7 月 4 日 閣議決定)を根拠に、2/20渇水時には、供給可能水量が(「平常時に比べて」という意味と思われますが、正確には不明。)78.6%に低減すると書かれています。この低減率に科学的な根拠があることが証明されているとは思いませんが、事実だとすれば、表流水がいかに渇水に弱いかを示しています。

地下水では、渇水時に供給可能水量が極端に落ちることはないと考えられます。

地下水源の場合でも渇水時に水位低下に悩むことはあるでしょうが、ダムの水を使うのではなく、利用者に節水してもらうことが先決です。水道当局としては、利用者に節水癖がつくことを恐れるかもしれませんが。

どうしても供給能力が不足するなら、予備水源としての井戸の数を若干増やすことで対応できると思います。ただし、今後水需要が減少することが見込まれるのですから、給水能力の拡大には慎重であるべきです。

●栃木県から国等への回答文書でも「地下水位低下」は削除されていた

栃木県知事は、2013年3月22日付け砂水第315号で関東地方整備局長と水資源機構理事長あてに「思川開発事業の利水参画者の水需給計画の点検・確認、参画継続の意思確認及び利水の代替案の検討について(回答)」という文書を発しており、その別紙として「栃木県南地域における水道水源確保の方針及び思川開発事業への対応方針について」という文書を作成しています。国による検証では、栃木県が思川開発事業で確保した水を何に使う必要があるのかが問われているのですから、そこには水源転換の明確な理由が書かれていなければならないはずです。

しかし、そこには2市3町が表流水を確保する理由らしきものとしては、「地盤沈下や地下水汚染が危惧される中、地下水のみの依存は望ましくない。」とのみ記述されているだけで、「地下水位低下」という記述はありません。

報告書には、「異常気象による渇水リスクが高まる中、県南地域には水道水源として利用できる水資源開発施設がない。」(p24)と、ダムによる表流水の確保が渇水リスクを低下させるようなこと書きながら、国等に報告する段になると渇水リスクの低減を思川開発事業への参画の理由から外してしまうのですから、実にいい加減なものです。

知事は水源転換の理由を場当たり的に述べているだけであり、栃木県における水源転換の真の理由がないことの証左です。

●南摩ダムの水収支は成り立たない

南摩ダムは水が貯まらないダムであることは、3ダム訴訟の原告準備書面11の全体及び原告準備書面24のp25以下で証明されています。

1984年から2002年までの「19年間のうち、延べ14年は貯水が底につくことがある。」(告準備書面24のp27)のです。

百歩譲って、一般論としてダムが地下水位が低下したときに役立つとしても、水の貯まらぬ南摩ダムに限っては、渇水時に水が確保できる保証は全くありません。

●南摩ダムは1/5渇水に対応する計画だ

何度も書いてすみませんが、「南摩ダムの計画策定にあたっては、利水基準年を昭和35年とし、おおむね5年に1回程度発生する渇水に対処する計画として策定しています。」(1998年に建設省が発行した「思川開発事業」p3ー8)。

1994年の計画当時、総貯水容量が1億500万立方メートルもあった南摩ダムでも、おおむね5年に1回程度発生する渇水に対処することしかできないとされていたのに、総貯水容量が5100万立方メートルに半減した現計画の南摩ダムが渇水のときに役に立つはずがありません。

南摩ダムは1/10の渇水には対応できないのです。

水が貯まらないという批判をかわすために無理に水を貯めようとすれば、黒川と大芦川は容赦なく水を収奪され、流域の農業用水や地下水利用が悲惨な状況に陥ることは必至です。

逆に黒川と大芦川の流域に影響が出ないように導水すれば、南摩ダムに水は貯まらないことになると思います。

●上水道の水源で地下水汚染が起きた例は少ない

次に地下水汚染のおそれが水源転換の理由になるかを検討しましょう。

報告書のp22の図表3−30を見ると、全国を探しても地下水を水源とする上水道の水質事故による健康被害は、少なくとも2003年から2009年までの7年間に1度も発生していません。

行政としては未曾有の事態にも備えるのが理想ですが、予算は有限なのですから、発生する確率が大きいリスク、例えば水道施設の老朽化による断水事故等喫緊の課題に投資すべきです。

●汚染地区数は増加しているわけではない

報告書には、「汚染が収束せず継続している地区数を見ると、地下水汚染箇所は増加してきており、ここ数年は 90 地区程度で推移している。これを地域別に見ると、思川地域における汚染箇所は、地域の面積の割りに多い状況にある(図表 3-28)。」(p21)と書かれています。

しかし、「地下水汚染箇所は増加してきて」いるという見方が妥当かは疑問です。

確かに、グラフを見ると、栃木県内の最近の汚染地区数が1999年以前に比べ倍増しているように見えますが、「平成9年(1997 年)3月には、地下水の水質汚濁に係る環境基準が設定され、平成 11 年(1999 年)2月には硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素、ふっ素、ほう素の3項目、平成 21 年(2009 年)11 月には塩化ビニルモノマー、1, 4- ジオキサンの2項目に加え、シス - 1, 2- ジクロロエチレンに代わり、1, 2- ジクロロエチレン(シス体及びトランス体の和)が新たに地下水環境基準項目として追加された。」(「日本の水資源」(2012年8月国土交通省 水管理・国土保全局 水資源部発行)p137)ことによると見るべきです。

環境基本法第16条に規定する環境基準を参照してください。

環境基準の項目数が増えれば、地下水汚染の地区数が増えるのは当然であり、地区数の増加は地下水汚染が進んだことを意味するものではありません。

したがって、汚染地区数が2000年以降増加しているから、今後も地下水汚染が進むだろうと考えるべきではないと思います。

むしろ、今後、人口も産業も縮小していくので、汚染地区数も減ると思われます。

負の遺産としての地下水汚染も想定されますが、後記のように対策は表流水確保だけではありません。

●自家用井戸の水質事故を持ち出すのは問題のすり替えだ

報告書では、「全国における水質事故が発生した際の健康への影響について見ると、平成 15 年から平成 21 年までに 16 件発生しているが、大半が井戸水(地下水)や簡易水道(地下水)によるものであり、表流水によるものは3件であった(図表 3-30)。」(p22)と、あたかも表流水の方が安全であるかのように書かれていますが、問題のすり替えです。

報告書は、県南関係市町の上水道の水源は、地下水がいいのか、表流水がいいのかをテーマとしている(p1参照)のですから、自家用井戸の水質事故を持ち出す意味はありません。

個人で飲料水を確保するとしたら、水利権が得られないので河川水ではあり得ず、地下水であることがほとんどであり、かつ、個人の井戸の水質管理は水道におけるほど十分にはできないのですから、水質事故の事例の範囲を自家用井戸にまで広げたら、地下水における水質事故件数の方が多くなるに決まっているからです。

水質事故の事例の範囲を、上水道における事故だけでなく、簡易水道(計画給水人口が101人以上5,000人以下の水供給事業)における事故にまで広げる意味はあるでしょう。報告書の図表3−30によれば、簡易水道における3件の水質事故のうち2件は表流水を水源としています。

報告書の図表 3-30から、水質汚染による事故のリスクを低減させるために表流水を確保することが有効であるという結論を得ることは無理です。

●地下水汚染の防止に努力するのが筋だ

地下水汚染の防止は簡単ではありませんが、「水質汚濁防止法」、「土壌汚染対策法」、「大気汚染防止法」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」等の法律を適切に運用することで地下水汚染の発生を未然に防止することが相当程度まで可能であると考えられます。

担当部署としては、今の人員体制では大したことができないと言うでしょうし、きちんとやるとしたら費用もかかるでしょうが、ダムの負担金と水道用水供給事業の施設建設費と維持管理費に使うカネがあるなら、それを予防措置に回せば相当のことができると思います。

●地下水汚染対策は表流水だけではない

予防の甲斐なく上水道の地下水源が汚染されてしまうことがあるとしても、その対策はいろいろ考えられているようです(「土壌・地下水汚染: 原位置浄化技術の開発と実用化」前川 統一郎 (監修), 平田 健正 参照)。

例えば、揮発性有機化合物の除去装置が開発されており、レンタルも可能なので、汚染が発生してから有害物質を除去して地下水を使い続けることも可能と考えられます。

他の対策を検討せずに、表流水の確保だけを汚染対策として採用するとしたら、裁量権の行使に逸脱又は濫用があり、違法と言えると思います。

●表流水が放射能汚染に弱いことも致命的だ

「地下水の資質事故は、表流水に比して汚染の発生から収束まで長期間にわたることとなる」(p21)のが地下水の欠点だとしても、表流水では放射能汚染のリスクが高いことが重大な欠点であり、このリスクは、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故により、栃木県では、表流水を水源とする宇都宮市と野木町で現実のものとなっており、報告書でもこの事実を記載しています(p16)。

2013年2月28日における東京電力の発表によると、事故発生から約2年後も同発電所からは毎時1,000万Bqの放射性セシウムが放出され続けており(2013年3月1日付け福島民報)、日本中の水源となるダム湖や河川に降り注いでいます。

宇都宮市の今市浄水場では2013年1月25日に採取した浄水発生土(取水した原水から水道水をつくる過程で取り除かれた河川中の濁り(土砂)や浄水処理に用いられた薬品類などの沈でん物を集めて脱水処理したもの)から1,241Bq/kgもの放射性セシウム(134+137)が検出されています。

このことは、浄水に失敗すれば、市民が汚染された水道水を飲んでしまい内部被曝する可能性があるということを意味するし、検査されていない核種が水道水に混入している可能性もあります。

放射性物質の放出が今後も続くこと及び住民の健康を考えた場合、これからわざわざ地下水を放棄してダムの水を使うことに合理性があるとは思えません。

3月25日付け朝日は、「水の放射性物質 基準を下回る」という見出しの記事で「県生活衛生課の担当者は、2008年度の県内の取水量2億6762万トンのうち、1億5536万トンが地下水だったことを挙げ、「栃木は鬼怒川、那珂川、渡良瀬川から取水しているが、水源は大半が地下水なので安全性は高い」と話している。」と報じています。

栃木県は、放射能汚染事故のときには、水道水源の58%は地下水ですから安全ですと言いながら、ほとぼりが冷めると、栃木県の水道の地下水依存率は「全国平均の23.7%を大きく上回る高依存率となっている。」(報告書p12)と嘆くのですから、いい加減なものです。

また、2012年5月には利根川系水道水でホルムアルデヒトの原因物質であるメチレンテトラミンによる汚染で「千葉県では、柏市や流山市など5市で計34万世帯以上が断水しました。」(2012年5月20日付け下野)。この時も汚染と無縁であったのは地下水を水源とする水道水でした。

地下水は汚染されると回復に時間がかかるという欠点がありますが、表流水が汚染の機会が多く、特に放射能汚染に弱いという欠点に比べれば、重大な欠点であるとは言えないこと、汚染物質を除去して利用を続けることが可能な場合があること、地下水は一般に清浄で浄水費用も少ないこと、降水量に影響されにくく渇水に強いこと、特に栃木県では多くの水道事業者が地下水を水源として安全な水を安定的に供給してきた実績があること、などを総合考慮すると、地下水は優れた水源であると認められ、直ちに水源転換が必要であるとする科学的根拠は存在しないにもかかわらず、栃木県知事が思川開発事業に参画を続けることは、考慮すべきことを考慮せずに裁量権を行使しているものであり、裁量権を逸脱して使用していると言えると思います。

●放射能汚染は短時間で回復したわけではない

報告書では、宇都宮市と野木町の上水道における放射能汚染事故は、「15時間程度で摂取制限が解除になっている。」から、大した事故ではなかったように書いていますが、知事がそのような認識ならとんでもないことです。

2011年3月25日付け下野新聞には、次のように書かれています。

野木町の水道水も乳児の基準値超える
24日採取分は下回る
http://yambasaitama.blog38.fc2.com/category37-1.html

野木町は25日、町内の水道水に利用している思川浄水場の水道水から食品衛生法に基づく乳児に対する暫定基準値(水1キログラム当たり100ベクレル)を超える142ベクレルの放射性ヨウ素が検出された、と発表した。検体は23日午前11時に採取した。その後、24日に採取した検体を検査したところ、78・2ベクレルと暫定基準値を下回った。いずれも放射性セシウムは検出されなかった。
思川浄水場は野木町と茨城県古河市総和町で共同利用している。

野木町が15時間程度で摂取制限を解除したのは、放射性ヨウ素の量が暫定基準値(100Bq/kg)を下回ったからにすぎません。78・2Bq/kgは暫定基準値未満だから問題ないとして給水されたということです。

実際は、放射性ヨウ素は次のとおり検出されていました。

採取日      検出量(Bq/kg)
2011年3月23日   142
2011年3月24日   78.2
2011年3月25日   69
2011年3月26日   34

野木町上水道では、検出限界(10Bq/kg)を超える放射性物質が4日も出ていたのです。

水道水の放射線基準値)2011年3月17日従来の30倍甘いものに「改訂」というページによれば、2011年3月17日までは、日本では水道水のヨウ素131の基準値は10Bq/Lだったといいます。

根拠は、「WHO 飲料水水質ガイドライン」(社団法人 日本水道協会発行)のp203だそうです。

これを栃木県は、15時間程度で摂取制限が解除され、収束したことにしているにすぎないのです。

事故後国が勝手に基準を変えることによって収束時間が短くなったということであり、このことをもって、表流水の放射能汚染がたった15時間で収束したように言うのは失当です。

また、仮に放射性ヨウ素については4日で収束したとしても、ストロンチウムなどの測定されなかった核種については、15時間又は4日では収束していなかった可能性もあります。

いずれにせよ、放射性物質は内部被曝すると長期にわたり遺伝子を損傷するのですから、表流水が放射能汚染に弱いことはその致命的な欠点です。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
フロントページへ>思川開発事業(南摩ダム)へ>このページのTopへ