南摩ダム中止の基準

2009-09-29

●ダム問題が下野1面トップ

2009-09-27下野の1面トップは、「建設継続か中止かーー基準はどこに/事業費執行率/八ツ場ダム下回る」の見出しで、南摩ダムと湯西川ダムの中止問題を大きく扱っています。宗像信如記者の署名記事です。

リードは次のとおりです。

本県で建設中の2ダムを含む全国143ダム事業などの見直しを掲げた前原誠司国土交通相が、事業継続か否かの判断基準の一つに本体工事の着工を挙げたことで、県内ダム事業の行方がさらに混沌としてきた。

日光市の湯西川ダムは本体工事に着工しているが、鹿沼市の思川開発(南摩ダム)は未着工。一方、事業費の執行率で両ダムは、前原氏が中止を明言した群馬県の八ツ場ダムを大きく下回っている。


●八ツ場ダムが中止なら南摩ダムも湯西川ダムも中止

同記事によれば、八ツ場ダム、南摩ダム、湯西川ダムの2008年度末までの事業執行率は次のとおりです。

単位:億円
                   
ダム名総事業費2008年度末までの執行額事業費執行率
八ツ場ダム4,6003,21570%
南摩ダム1,85073740%
湯西川ダム1,8401,06058%
    

「本体着工時期と事業費の執行率で3つのダムを比較すると、南摩ダムの評価が相対的に低くなる。」というのが記事の趣旨です。もっともな見方です。

●知事がダムに参画する理由を説明すべきだ

福田富一栃木県知事が25日の県議会代表質問で、「八ツ場ダムについて「中止にする理由や根拠を説明するべきだ」と政府に注文を付けた。」ことが記事に書かれています。

福田知事の発言は当然のことですが、知事も三つのダムに参画する以上、参画する理由を県民にきちんと説明すべきです。

栃木県は、私たちが提起している反ダム住民訴訟でも、ダムを建設する理由を国に書かせているだけであり、思川開発事業に利水参画する理由についても、調査したら県内市町から要望があったから参画したというだけで、要望水量の精査なんかしてません。

中止する理由よりも税金を使う理由こそ説明すべきです。

●神谷県議は水需要の減少傾向を認識していない

記事には次のように書かれています。

鹿沼市・西方町選挙区の神谷幸伸県議(自民)は事業開始から40年が経過していることを挙げ「中止にするというなら地域振興をどうするか、命の水をどう確保してくれるのか国が示せ」と憤る。

思川開発事業は、1964年の構想発表からは45年経っています。これだけ時間が経過していることを挙げるなら、「必要がないことの証拠だからやめましょう」というのが普通の判断だと思います。

神谷県議は、「中止にするというなら地域振興をどうするか」と言いますが、ダムは治水、利水のために造るのであり、地域振興のために造るのではないということを理解しているのでしょうか。

神谷県議は、「命の水をどう確保してくれるのか国が示せ」と言いますが、佐藤信鹿沼市長が2008年7月22日の鹿沼市議会一般質問で「当然表流水を使うということになりますと、取水堰、浄水場等々の工事費用を含めると莫大な投資をすることになります。」、「水道料金にも当然大きくはね返ってまいりますから、でき得る限り地下水でしのいでいくほうがベター、ベストであることには間違いなかろうかと思います。」と答弁していることを知らないのでしょうか。

鹿沼市だけではなく、県南市町や下流県の水需要を調べた上で、「命の水をどう確保してくれるのか国が示せ」と言っているのでしょうか。

命にとって水は大切なものですが、だからといってダムで確保しなければならないということはありません。「命の水をどう確保してくれるのか」=「ダムを造れ」は短絡思考であり、思考停止です。こんな短絡思考を許したら、電気エネルギーは社会に不可欠だから原子力発電所が必要だという議論もまかり通ってしまいます。

神谷県議こそ、「命の水」などと抽象的なことを言ってないで、どこの自治体にどれだけ水が不足しているのかを定量的に説明すべきです。

ちなみに、ちょっと古いですが、2007年2月17日(土)「しんぶん赤旗」に「自民県議"お手盛り"質問/関連企業が県発注工事受注」という記事が載りました。以下引用します。

問題の企業の一つは自民党県連副幹事長である神谷幸伸県議(鹿沼市選挙区)が社員になっている神谷建設(本社鹿沼市)。神谷議員は一九九七年まで同社で社長をつとめ、株式七千八百五十五株を所有。社員としての報酬も得ています。

 同社は、国土交通省発注で、県も約百億円の負担金を負っている湯西川ダム建設の関連工事「湯西川下地区盛土工事」を、約三千五百万円で二〇〇六年七月に落札しています。

 さらに神谷建設は、県発注の大芦川通常砂防工事も一億三千五百万円で〇五年十一月に落札しています。この砂防工事は県が〇一年に建設を中止した東大芦川ダムの代替事業です。

 栃木県では、〇一年に福田昭夫前知事が財政上の理由から東大芦川ダム建設の中止と、県庁舎建設の計画を凍結。これに反発して県議会では「推進決議」(〇一年三月議会)をあげ、ムダな公共事業だと批判する日本共産党をのぞく全会派が賛成しました。

 神谷議員は、〇五年三月三日の定例会で「(東大芦川ダム中止について)私は個人的にはいささかまだ不満」「代替案についてどのように進めていこうとしているのか」とのべ、代替案の実行を促していました。  
 

ただし、神谷建設は2008年2月に鹿沼建設に事業譲渡された模様です(2008-01-26下野記事神谷建設が事業譲渡/多額借入金収益圧迫/「鹿沼建設」受け皿参照)。  

神谷建設は、湯西川ダム関連事業も受注していたのですね。  

神谷県議のコメントです。  

 本紙の問い合わせに対し神谷議員は「ダムの質問をして、会社に利益を出そうというわけでなく、たまたま受注したということで理解していただきたい」と回答しました。  
 

「たまたま」ですか。  

受注業者にダムの必要性を聞いても意味がないと思います。  

 ●松井県議は水需要の減少を認識している  

松井正一県議は、市議時代にダムに関して3回の質問をしています。2008年3月17日と2007年3月7日にハーベストセンターについて質問しています。2004年7月14日には、東大芦川ダムの中止に伴う代替案の促進について質問しています。  

南摩ダムの建設と東大芦川ダムの中止を前提とした質問であり、ダム建設の是非に関する質問ではありません。松井市議にとって、ダムの是非はタブーだったのかもしれません。  

松井氏がダム建設の是非について発言するのは、今回の取材が初めてではないでしょうか。  

松井県議のコメントは、神谷県議とは対照的に、「水需要は確実に変化している。地元としては南摩ダムに直接のメリットを感じない」というものでした。佐藤市長がダムの水は使わないという方針を示していることを受けてのコメントだと思います。  

松井県議も地域振興のことを言っていますが、ダム本体を建設することによる地域振興を考えていないことは、「地元に賛否両論あるのは事実で、建設中の付け替え道路を仕上げるなどの地域振興は必要。」という発言から明らかです。  

普通の議員なら、どこの自治体でも水需要が減少していることを認識するでしょう。認識できない議員がいることは問題だと思います。

(文責:事務局)
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