昔のデータにしがみつく水資源機構

2010-06-01

●ダムを造ると環境にいい?

思川開発建設所のホームページには、南摩ダムが必要な理由が書かれています。

水利用の現状というページには、次のように書かれています。

私たちが毎日利用している水道の水は、主に川の水を利用していますが、雨の降らない日が続くと川の水が少なくなり、取水ができなくなったり、動植物に影響したりなどの問題が起きてきます。しかしダムがあると貯めてある水が利用でき、安定した取水が期待できます。

ダムのない川では、雨が降らない日が続くと動植物に悪影響があるそうです。ということは、ダムを造れば、動植物に悪影響がないとでも言いたいのでしょうか。

世間一般では、ダムは川殺しとも呼ばれ、生態系を破壊すると考えられていますが、水資源機構では、ダムはかえって生態系に良い影響を与えるものと認識されているようです。

●現在の水利権行政は正しくない

続いて、次のように書かれています。

水が不足していて、思川開発事業の完成が待てない利水者には、「暫定水利権」といって、河川の水量が多いときのみ取水できる権利が与えられます。既に思川開発事業を前提に2市2町1水道企業団に暫定水利権が認められています。「小山市水道における日平均実績取水量」からわかるように、暫定水利権分も取水することで、水の需要を賄っているのです。

水資源機構は、ダムなどの水源開発施設を建設しないと、水利権を与えないという現在の水利権行政が正しいという前提で書いています。

これまで長年ダムがなくて取水しても問題がなかったのですから、取水実績を重視して、安定水利権を与えればいいのです。

ダム官僚が利権を守るために、「ダムを建設しなければ水利権を与えない」というルールを維持しようとしているだけです。

正しくもない前提を正しいかのようにして立論する詭弁に注意しましょう。

●今後水需要が増加するはずない

新規利水の開発というページには、「水需要の今後の増加について」という項目があり、次のように書かれています。

関東地域の水の使用量は核家族化の進行や生活様式の変化などにより、増加傾向を続けています。生活用水の全体使用量は、関東全体で平成6年の実績で年約57億と10年前(年約49億)の1.16倍となっており、今後も増加するものと予想されています。

この予想は、全く外れています。関東地方の生活用水使用量は、1995年度をピークに減少傾向にあり、2006年度は52億m3で平成6年度(1994年度)より5億m3(8.8%)も減少しました(国土交通省編集2009年版「日本の水資源」p218)。

書かれた数字にウソはありませんが近年のデータを無視しています。そもそも南摩ダムの建設理由を説明するのに、どうして1994年度のデータを持ち出すのでしょうか。

●地盤沈下は沈静化している

地盤案沈下が起こる理由というページには、次のように書かれています。

地盤沈下は地下水の過剰な汲み上げにより起こる現象です。厚い粘土層に覆われている低地では、粘土層の周りにある帯水層(水の地層)がなくなると、粘土層からも水が絞り出されてしまいます。その結果粘土層が収縮してしまい、地盤沈下が起こるのです。

現在地域で見ると、栃木県南部で特に地盤沈下量が多くなっています。栃木県は他県と比べて河川水への切り替えが遅れており、特に栃木県南部地域では、水道水源の配給量ベースの約7割が地下水に依存しており、これが地盤沈下進行の一因と考えられます。

前半は正しいと思います。しかし、「現在地域で見ると、栃木県南部で特に地盤沈下量が多くなっています。」は、正しくありません。

1997年以降、2cm以上沈下した地域は県南にありません(「栃木県地盤変動・地下水位調査報告書(2007年度)参照)。

このページの最下段に「栃木県内で地盤沈下した地域の面積の推移というタイトルの表が掲載されていますが、わざわざ10年前の2000年度の資料を使っています。沈下実績があるのは、1996年度までだということが分かります。

水資源機構の掲げる数字にウソはありませんが近年のデータを無視しています。県内で1997年以降2cm以上地盤沈下した地域はないのです。

●水資源機構のホームページから言えること

水資源機構では「現在」とは1990年代を意味するようです。

思川開発は、ひと昔以上前のデータでしか正当化できないということです。昔のデータにしがみつくしか、事業を正当化する方法がないことを示しています。最近のデータを出したら、無駄がばれてしまうということです。

思川開発が「前世紀の遺物」であり、中止が必然であることを事業者である水資源機構自らが証明しています。

●思川開発は悪質商法である

要するに、水資源機構は水需要と地盤沈下に関する近年のデータを示さず、事業が完成しても無駄になることを隠しています。都合の悪い事実にはほおかむりというやつです。

これは消費者契約法の概念である「重要事項に関する不利益事実の不告知」であり、悪質商法の手口そのものです。

ダム官僚たちが必要のない欠陥ダムを国民に買わせようとしているのですから、建設理由の説明はどうしたって悪質商法にならざるを得ないということです。

(文責:事務局)
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