栃木市は説明責任を果たしていない

2018-03-05

●栃木市が広報に水道問題を載せた

栃木市が「広報とちぎ」2017年11月号p5で「〜思川開発事業と本市のかかわりについて〜」という記事を次のとおり掲載しました。

広報とちぎ2017年11月号

おそらくは自発的なものではなく、栃木市民から、水道という重要問題についての政策を市民の知らないところで市長が勝手に進めることは栃木市自治基本条例の趣旨からも許されない、説明責任を果たすべきだ、と催促されて掲載することになったのだと思います。

結論から言って、栃木市は次の理由により説明責任を果たしていないだけでなく、市民に誤解を与えていると思います。
1 地下水100%の水道をやめる理由について科学的な説明をしていない。
2 代替手段や費用対効果の説明をしていない。
3 県の広域的水道への参画について市の態度を決定するまでに時間的余裕があるかのような誤解を与えるような表現をしている。

●県が思川開発事業に参画している理由とは

栃木県が思川開発事業に参画している理由について次のように書かれています。「栃木県南地域における水道水源の確保に関する検討報告書」のp24あたりを要約したものと思います。

県は、県南地域(栃木市、下野市、壬生町、野木町)の水道水源の高い地下水依存率や、地下水の汲み上げ過ぎによる地盤沈下の可能性、さらに地下水汚染による利用制限の実例等の状況から、(栃木市がー引用者)地下水のみに依存し続けることは望ましくないと考え、将来にわたり安全な水道水の安定供給を確保するためにも、地下水と表流水のバランスを取れるようにしておくべきであると考えています。

つまり栃木県は、次の三つを2市1町(栃木市、下野市、壬生町)が南摩ダムの水を使うべき理由としています。
1 水道水源の高い地下水依存率
2 地盤沈下の可能性
3 地下水汚染による利用制限の実例等

●野木町の名前を挙げることは間違い

そもそも野木町は、思川開発事業に間接的にも参画していない(野木町が南摩ダムの水を利用する予定がないことは2017年6月26日付け下野新聞に記載されている。)のですから、2市1町が水源転換をする理由に野木町の名前を挙げること自体が間違っています。

野木町は、2001年3月2日に、2025年の水需要(1日最大給水量)が11,664m3に増えることを想定して、新規水需要量364m3/日で思川開発事業に参画する旨を栃木県に報告しました。

しかし、2025年に11,664m3/日になるという予測は過大でした。野木町の1日最大給水量は、1999年度に7,265m3/日だったので、水需要が26年間で60%も増えると予測したのです。2025年度までにあと7年ありますが、2015年度の1日最大給水量は8,067m3/日です。1999年度の約1.1倍にすぎません。2025年に60%増になるはずがありません。

野木町は、水道水源のほぼすべて(2015年度で99.5%)を思川に依存していますので、地下水依存率を40%に下げる(少なくとも2030年度に65%に下げる。)という栃木県の方針は野木町にとって無意味です。

そして水需要が増加しないことも明らかなので、思川開発事業から撤退したのだと思います。

それでも栃木県が野木町の名前を挙げる理由は、県内の地盤沈下は野木町で最も大きかったので、野木町の名前がないと、「地盤沈下のおそれ」という水源転換の根拠が霞んでしまうからとしか考えられません。

栃木県は、野木町を(水源転換が地盤沈下防止のためでもあるという)印象操作に使っていると思います。栃木市が県の主張を受け売りして、市民を誤解させることは問題だと思います。

●「水道水源の高い地下水依存率」は理由にならない

県は、第1に「地下水依存率が高いから地下水依存率を下げるべきだ」と言っています。

地下水依存率を下げるべき理由は何も言っていません。結論ありき、ということです。

地下水依存率を下げるべき理由として「高い地下水依存率」を挙げること自体が、栃木県が思川開発事業に参画する合理的な理由がないことの証左です。

●渇水を理由にしていない

地盤沈下と地下水汚染については後で触れるとして、ここでは、渇水を理由にしていないことに注目していただきたいと思います。

栃木県砂防水資源課で作成した「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」(2013年3月)のp24をうかつに読むと、県は渇水リスクも水道水源を地下水からダム水に転換すべき理由としているように見えますが、p17〜22の地下水の検討課題として渇水リスクを挙げていないので、県は地下水については渇水リスクを想定していないことになります。

●「表流水を使う権利も確保しておく」は誤解を招く

栃木市は、次のように書きます。

市等が県の考え方に理解を示す理由は?
現在、市は飲料水の 100% を地下水に依存しており、河川等の表流水を使う権利を持っていませんが、次の理由から、これからは表流水を使う権利も確保しておくことが望ましいと考えています。

南摩ダムによる「表流水を使う権利」を確保するのは、栃木県です。

栃木市には、県が水道用水供給事業で供給する水を買うか買わないかという選択肢があるだけです。県から水を買うという約束をしたら、その水を使っても使わなくても料金の支払義務が生じます。それが責任水量制というものです。使った分だけ支払う従量制という制度もありますが、それでは県に赤字が出るので、実際は責任水量制の供給契約になるはずです。

広報とちぎには、「県は、将来的には思川から取水・浄化した水を、県南の市や町に供給する用水供給事業を予定していますが、市がその供給を受けることになった場合の水道料金等は、まだ全く決まっていません。」と書かれているのですから、栃木市は、ダムを使う権利を確保するのは県であり、県が供給する水を買うか買わないかの二者択一だという仕組みは、理解しているのだと思います。

「表流水を使う権利も確保しておく」という表現をすると「確保しておくだけだったら、水もまずくならないし、水道料金も上がるわけじゃないからいいことじゃないの」と誤解する市民もいると思うので問題だと思います。

●経費が分からないのに県の方針に賛成するのか

栃木市は、「表流水を使う権利も確保しておくこと」の経費がおおよそいくらなのか、どの程度の水道料金値上げが必要なのか、を市民に示すことが必要だと思います。

経費が分からなければ、「表流水を使う権利も確保しておく」という政策判断が妥当なのかを市民は判断できません。

また、経費が不明のまま県の水道用水供給事業に参画することは、地方自治法第2条第14項違反でしょう。どんな政策についても、費用対効果の検討は必要なはずです。

水源問題に費用対効果の検討が必要ない、というのが栃木市の考え方なら、その理由を市民に説明すべきです。

●表流水の確保は水源の増加ではない

「表流水を使う権利も確保しておくこと」(県から水を買うこと)は、水源の増加を意味しないことを栃木市民は気付いてほしいと思います。

市民が「表流水を使う権利も確保しておく」という文章を読んだら、水源が増えるのだからいいことじゃないかと誤解するでしょう。

しかし、栃木市が理解を示している県の方針とは、「地下水と表流水のバランス」を取ることです。地下水を放棄し、その分の表流水を使うという水源転換です。水源の量を増やすことではありません。

県の方針とは、仮に栃木市が日量8万m3の地下水源を保有しているとすれば、4万8000m3の地下水を放棄し、4万8000m3の表流水を使え、それが理想的な水源バランスだ、ということです。

●地盤沈下と地下水汚染の程度や水道水との因果関係を説明すべきだ

栃木市は、「市は、地盤沈下や地下水汚染等も経験しています。今後も安心な水の確保のための危機管理を進める必要があります。」と書きます。

地盤沈下、地下水汚染という言葉におそれをなして、危機管理のためじゃあ、費用がいくらかかっても仕方ないよね、と思う市民もいるでしょう。

しかし、栃木市が経験した「地盤沈下や地下水汚染等」とはどのようなものであり、現在の状況はどうなっているのか、そして県から川の水を買うことによってどのように解決するのか、それ以外に解決方法がないのか、が問題であり、それを説明するのが説明責任を果たすことでしょう。

抽象的に「地盤沈下や地下水汚染等」という言葉を並べても説明になっていません。

2017年中に私は、栃木市の総合政策課に電話して、「栃木市はどの場所の地盤沈下を問題視しているのか」と質問したことがあります。回答は「具体的にどこの地点の地盤沈下が問題だということではない。」でした。

栃木市は、どこの地点でのどの程度の地盤沈下がなぜ問題になるのか、について説明する気はないようです。

私は栃木市民ではありませんので、これ以上の追及は困難ですが、栃木市民には、「地盤沈下防止のために栃木市水道の水源転換が必要だ。」とは、どういう意味なのかをきちんと説明してもらうようにお願いしたいと思います。

●川の水を使えば将来の不安は解消するのか

栃木市は「一部地域では地下水の水質が悪く、飲料水として用いるために、現在でも薬剤による浄化をしています。将来の水に対する不安を解消する必要があります。」と書きます。

この問題は、市町が合併したのですから、水の融通で解決できるのではないでしょうか。

できないとしても、「薬剤による浄化」がそれほど問題でしょうか。費用がかかることが問題だというのであれば、その費用と川の水を使う費用とを比較して、川の水を使う方が安いことをきちんと説明すべきです。費用以外にも表流水と地下水の長所と短所を比較衡量して、総合的にはどっちが得かを説明すべきです。

栃木市は「将来の水に対する不安を解消する必要」があるから県の方針を理解すると言いますが、川の水を使えば、雨が少ない年には渇水に悩むことになります。放射性物質などの毒物汚染も心配です。川の水を使っても新たな不安の種を抱えることになるので、「将来の水に対する不安」は解消しないと思います。

●誘致企業への水供給は理由にならない

栃木市は、「市は、産業団地の造成や分譲を進めていますが、進出する企業等に対し、必要な水を安定的に供給するためにも水の確保は必要です。」と書きます。

栃木市の企業誘致は今始まったものでしょうか。昔からやっていたと想像します。それでも企業は思うように集まらず、水需要も減少してきたのです。他の自治体でも企業誘致の努力はしているのですから、そう簡単に自分のところに企業が来るものではありません。

市長が夢を見るのは結構ですが、夢のために水道料金が上がっても、渇水や放射能汚染のリスクが増えてもよいのでしょうか。

昔は、人口が増えるかもしれないからダムの水が必要だという理由でダム建設が正当化されていましたが、さすがに「人口が増える」とは言えない状況になったので、栃木市は企業誘致を挙げたのでしょう。

しかし、日本の人口は減少していくのですから、経済の規模が縮小し、国内需要も減少します。また、近隣市町でも企業誘致の努力をしているはずです。そのような状況において、企業が栃木市だけに押し寄せるはずはないと思います。

栃木市には申し訳ないですけど、企業誘致は相当困難だと思います。

仮にいくつかの企業が栃木市に進出したとしても、水を大量に使う企業は想定しがたいと思います。水の再利用の技術が進んでいることも考慮すべきです。

仮に水を大量に使う企業が進出するとしても、高価な水道用水を工業用水として使うことはあり得ません。

工業用水が必要ない企業でも、従業員の数が多ければ多量のトイレ用水が必要かもしれませんが、ロボット技術も進んでいる中で、今時、大量の従業員を雇う企業など想定できません。

仮に多量のトイレ用水が必要だとしても、企業は井戸水で賄うでしょう。

企業誘致は、いずれにせよ川の水を使う理由にならないと思います。

企業が来るから水源を用意して、実際には来なかったら、誰がどうやって責任を取るのでしょうか。夢のような政策に賭けてみることが地方自治の在り方として許されるとしても、せめて住民投票にかけなければ、次の世代は浮かばれません。

●企業誘致の話は具体的に進んでいるのか

確かに市外の人間が「栃木市に企業は来ないと思う。」と言うのも失礼な話です。

では、具体的に企業誘致の話はどの程度まで具体的に進んでいるのでしょうか。

「進出する企業等に対し、必要な水を安定的に供給するためにも水の確保は必要です。」と言うなら、具体的な企業名は言えないとしても、どのような業種の企業がどういう目的でどの程度の量の水を使うことが予想されるのか、という概要を栃木市は説明すべきだと思います。

広報の書き方は、企業誘致は雲をつかむような話にしか聞こえません。

●栃木市は早期に態度を決定すべきだ

栃木市は、「市が現在策定中である今後 10 年間を見据えた「水道ビジョン」計画では、水源は地下水のみを前提として進めています。まだ暫くは地下水に 100% 依存することになります。今後、県や関係市町と具体的な協議を行う段階になりましたら、市民の皆様にお知らせするとともに、ご意見も伺って参ります。」と書きます。

栃木市の態度は、矛盾していると思います。

栃木市が2013年に市民にも議会にも相談することなく「栃木県南地域における水道水源の確保に関する検討報告書」に理解を示したということは、南摩ダムの水を使いたいから、南摩ダムを建設してくださいと言っていることになります。

国が2010〜2016年に行った南摩ダム検証の際にも、栃木市は、事業促進の立場でした。

他方、市民に対しては、ダムの水を買うとしてもずっと先の話であり、これからゆっくり市民の意見もききながら決めればよいと受け取れる言い方をしています。

2013年3月栃木市議会本会議で市長が「赤羽根部長が申し上げたとおり,市が直接この計画(思川開発事業ーー引用者)に参加するということではありません。ただ,県が今つくろうとしているその考え方には,理解は示せるという答えを市はしようとしています。では,そういう答えをすると,市は表流水を買わざるを得なくなるのかということでありますが,そういうことではありません。ただ,買う段になれば,それは当然有料ということになりますので,そのときにはお金はかかりますが,今回市が,県のつくろうとしている検討案に理解を示すと言ったからといって,そこで栃木市に買わなければならないという義務が発生するわけではないということでございます。」と答弁したように、確かに県の広域的水道に参画しない選択肢は理論的にはあります。

しかし、新聞報道によれば、水資源機構は、今から2年後の2020年には、南摩ダムの本体工事に着手する予定です。

栃木市が県の方針を理解すると言い、2013年度 県南広域的水道整備事業検討部会(第2回)資料(栃木県、2013年11月5日)で県が栃木市は旧岩舟町と合計で日量20,699m3の表流水を使うという試算をしているのに異議を唱えず、ダム本体に着工した後になって、「ダムの水は要りません。」というちゃぶ台返しができるでしょうか。県と国への信頼関係を考えたら道義的にできないと思います。

したがって、栃木市がダムの水を使わないのであれば、すぐに(2018年度中にも)決定して、県と国に伝えるべきだと思います。そのためには住民投票をやってもいいと思います。

少なくとも、「具体的な協議はこれからです。」なんてのんきなことを言っている場合じゃないはずです。

栃木市は手始めに、「地盤沈下」を枕詞のように言うだけでなく、具体的にどこの地盤沈下の何がどの程度問題なのか、ダムの水でどこの地盤沈下がどの程度軽減されるのか、他に方法がないのか、などを数値を示して具体的に説明すべきだと思います。

(文責:事務局)
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