ダムありきの地盤沈下対策

2011年7月28日

●栃木県が地下水採取規制条例を制定する動き

7月23日付け下野は、次のように報じています。

県、地下水規制を条例化へ 9年越しの具体化

県は地盤沈下を防ぐための地下水採取規制を条例化する方向で検討に入ることを決め、22日の県環境審議会地盤沈下部会で、たたき台となる中間報告の骨子案を示した。地下水採取の届け出義務化や、違反した場合の罰則を盛り込むことが柱。
県は2002年に条例化について同審議会に諮問した後、地盤沈下と地下水位との関係などについて調査を続けてきたが、基礎資料がまとまったとして、9年越しで議論を具体化させることになった。

県は04〜06年度に地盤沈下の著しい野木町で実態を調査。08年度には旧藤岡町と小山市、野木町で、地盤沈下と地下水採取の関係を詳しく調べた。その結果、地下水利用は農業用水が主で、沈下量や稲作期間の地下水採取量、降水量との間に密接な関係があることなどが分かった。

県は「地盤沈下防止対策を進めるには、地下水採取の実態把握が必要。現行の地下水揚水施設指導要綱では不十分で、緊急時の採取抑制にも実効性が伴わない」として、採取施設の届け出と揚水量の報告の義務化、違反時の罰則、地下水採取の削減勧告などを条例化検討のための骨子案に盛り込んだ。

地盤沈下部会では「豊富な地下水の恩恵を享受するためには、健全に使うことを(条例検討の)基本スタンスにすべき」「地下水以外にため池など他の水利用の代替策があるのかも検討しないと(規制に)実効性がない」などの意見が出された。

同部会は10月の次回会合で、県環境審議会への中間報告案を審議する。県民からの意見募集を経て同審議会が報告書をまとめ、福田富一知事に答申する。

県によると、国土交通省が地盤沈下被害の著しい地域として指定した「関東平野北部」の5県(埼玉、千葉、茨城、群馬、本県の一部)で、地下水規制条例を制定していないのは本県だけという。


●栃木県は地盤沈下対策をやる気があるのか

栃木県の地盤沈下は、1997年以降沈静化しています。

それ以前の10〜15年において沈下量が大きかったのです。さしたる被害はありませんでしたが。

地下水採取規制のための条例制定について知事が2002年に環境審議会に諮問するというのは遅すぎませんか。

基礎資料をまとめるまでに9年かかっています。

旧藤岡町、小山市、野木町での地下水利用は農業用水が主であることが分かったと言いますが、既に私たちが裁判で主張してきたことです。

地下水採取規制の内容は、「採取施設の届け出と揚水量の報告の義務化、違反時の罰則、地下水採取の削減勧告など」です。

届出と報告の義務化と採取の削減勧告だけです。

東京都、埼玉県、千葉県では、条例で井戸の新設を禁止することまで盛り込まれているそうですから、栃木県の規制は緩やかです。

埼玉県生活環境保全条例第86条では、揚水機の吐出口の断面積の合計が6cm2を 超える場合は、知事の許可を必要とすると規定していますが、栃木県はこのような規制を行うつもりはないようです。

「豊富な地下水の恩恵を享受するためには、健全に使うことを(条例検討の)基本スタンスにすべき」は、何が言いたいのか分かりません。

「国土交通省が地盤沈下被害の著しい地域として指定した「関東平野北部」の5県(埼玉、千葉、茨城、群馬、本県の一部)で、地下水規制条例を制定していないのは本県だけ」なのです。

栃木県は、地盤沈下量が大きかった1980年代や90年代には条例による地下水採取規制の検討も行わず、沈静化してから、栃木県だけ条例で規制しないと格好が悪いから渋々やることにしたという印象が否めません。

●南摩ダム参画は虚構の地盤沈下対策だ

栃木県は、地盤沈下は地下水の過剰な利用が原因だと分かっていながら、条例による採取規制を行わず、地盤沈下を防止するには南摩ダムの水を水道用水として使うことが必要だと主張してきました。

3月24日の宇都宮地裁判決(p18)は、栃木県の主張を次のように要約しています。

県南地域は、(中略)地盤沈下も依然進行しているため、表流水への転換を進めることによりリスクを分散して危機管理を強化する必要があり、栃木県が思川開発事業により表流水を水道の用に供することとした

地盤沈下が起きた地域での地下水利用は「農業用水が主」なのですから、「表流水を水道の用に供すること」としても地盤沈下を抑制する効果はほとんどありません。

栃木県は、思川開発事業に参画する口実として県南の地盤沈下を利用してきただけだとしか思えません。

栃木県が本当に地盤沈下対策に取り組む気があるのなら、思川開発事業が栃木県の地盤沈下対策にならないことを認め、一定規模以上の地下水採取を知事の許可にかからしめるべきです。

(文責:事務局)
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