鹿沼市長に申入書を提出した

2009-01-08,2009-01-11追記

●鹿沼市長に申入書を提出した

2008-12-08に鹿沼市役所市長公室において市民ら12名が市長と面会し、当協議会などの団体や個人が連名で佐藤信鹿沼市長に対してダム問題に関する申入書を手渡しました。一貫してダムに反対してきた芳田利雄市議も参加しました。申入書の内容は以下のとおりです。

2008年12月8日
鹿沼市長 佐 藤   信 様
ダム反対鹿沼市民協議会 会長 広田義一
黒川の水を守る会 会長 (略)
鹿沼の水を守りダムに反対する市民の会 会長 (略)
立ち木トラストの会 代表 (略)
前西大芦自治会協議会 会長 (略)
鹿沼を変えよう市民の会 (略)
鹿沼市御成橋2丁目 (略)
鹿沼市民の会 会長 (略)
鹿沼市民の会(略)


   
ダム問題に関する申入書

 師走の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 さて、貴職は、今年5月の市長選において現職に大差をつけて当選されました。
 現職候補者がダム促進一辺倒だったのに対し、新人候補者であった貴職は、「ダムの水は水道に使わない。」と発言したことで、ダム問題の改善に期待した市民も多かったと考えます。
 これまで市長は、南摩ダム(思川開発事業)に関して次のような考え方を述べてきたと思います。

【市長就任前の貴職の考え方】
(1)県議時代の2002年ごろ、公衆の面前で「水没予定地等の住民の生活再建が果たされた後に南摩ダムは建設しないのがベスト」と発言。
(2)「ダムの水は水道に使う必要はない。余計なカネがかかるからだ。」と発言(2008年5月16日、板荷地内の足立区休暇センターでの演説会)。
(3)「ダムの水を水道に使うための浄水場も建設しない。」(選挙前、市民運動団体役員に対して)。

【市長就任後の貴職の考え方】
(1)南摩ダムの水利権は取得する。(2008年7月22日芳田利雄議員への答弁)
(2)「でき得る限り地下水でしのいでいくほうがベター、ベストである」、「地下水でもって賄えるよう精いっぱい努力をしていきたい」。理由は、「当然表流水を使うということになりますと、取水堰、浄水場等々の工事費用を含めると莫大な投資をすることになり」、「したがって、水道料金にも当然大きくはね返って(くる)」から。(2008年7月22日芳田利雄議員への答弁)
(3)したがって表流水利用のための取水堰、浄水場等々もでき得る限り建設しない。
(4)水道事業に関する審議会は設置しない。(2008年9月議会での芳田利雄議員への答弁)

【前市長との違い】
 ダム問題に関する前市長の政策との違いは、「水道用水はでき得る限り地下水で賄う」ということ、したがって、「取水堰、浄水場はでき得る限り建設しない」ということです。
 しかも、どちらも「でき得る限り」という条件付きになってしまいました。
 しかし、前政権に比べれば、大きな前進であり、評価しなければなりません。

  【思川開発事業のもたらす災い】
 私たちは、南摩ダム(思川開発事業)は、次のような災いをもたらすと考えます。
(1) 南摩ダムの建設により南摩地区の環境が破壊され、絶滅危惧種のクマタカやオオタカが生息する豊かな生態系に不可逆的な損失を与えるおそれがある。
(2) 導水管により地下水脈が断たれ、板荷地区、東大芦地区及び加蘇地区で井戸水や沢水がかれるおそれがある。
(3) 大芦川と黒川から導水されることにより、両河川の水量が減少し、両河川の水質の悪化と流域の地下水の水量減少を招くおそれがある。
(4) 思川開発事業の水利権を約16億円も支払って取得しても、鹿沼市の人口は2000年をピークに減少しており、1人当たりの給水量も減少傾向にあるから、実際に水利権を行使する可能性は皆無であり、無駄な出費になる。

 したがって、 市長が述べている「水道用水はでき得る限り地下水で賄う」、「取水堰、浄水場はでき得る限り建設しない」というだけでは、ダムのもたらす災いから鹿沼市民を救うことはできません。

【市長就任後の方針の問題点】
 ダム問題に関する市長就任後の方針は、マニフェストやまちづくりの基本姿勢に照らして次のような問題があると考えます。
(1) マニフェストに「環境保全」を掲げながら、南摩ダムを容認することは、南摩地区で最も豊かな生態系を保っている水没予定地周辺に生息する絶滅危惧種の動植物をさらなる絶滅の渕の追いやり、国の犯そうとしている生物多様性条約違反に手を貸すことになり、公約違反である。
(2) 「水資源保護」及び「豊かな水と緑を守る」ことをマニフェストに掲げながら、導水管工事及び河川からの導水を容認することは、板荷地区、東大芦地区及び加蘇地区の地下水脈の切断と河川流量の減少という水環境の破壊をもたらす。
(3) 市は、 “花と緑と清流のまち”をスローガンにしているが、鹿沼市を代表する二大清流である黒川と大芦川からの導水を認めることは、両河川の水質の悪化を招き、鹿沼市が「清流のまち」でなくなる。
(4) 鹿沼市を「第二の夕張市」にしないために「借金を減らします。」と財政健全化を公約に掲げながら、使わない水利権に16億円も支払うことは、公金の無駄遣いであり、公約違反である。“「費用対効果」の評価を重視する”というマニフェストにも違反する。市が現在進めている“もったいない運動”の精神にも反する。市の借金を5年間で50億円減らすという公約からも遠ざかる。「子や孫にツケを回さない市政」にも違反する。

【国営ダムは市長が中止できる】
 2008年9月11日、熊本県議会の9月定例会の席上、蒲島郁夫熊本県知事は、「私は、現行川辺川ダム計画を白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追及するべきであると判断した」と発表しました。
 川辺川ダムは国が事業主体ですから、河川法上は、知事が反対しても法的拘束力はなく、国がダム建設を強行することも法的に支障はないものの、福田康夫前首相が蒲島知事の発言を受けて、「よく検討した上で最終判断すべきだが、地元の意向は優先、尊重されるべきものだと思う」と発言しているように、地元知事の判断は重く、国は川辺川ダム計画を中止せざるを得ないと見られています。  徳島県では、木頭村長の反対により細川内ダム計画が中止となりました。
 貴職は、南摩ダムについて地元自治体の首長であり、貴職の反対により南摩ダムを中止にできる権限を持っていることになります。貴職が南摩ダム計画を中止するのか、あるいは中止できるのに中止しないのかが問われています。

【申入れ事項】
 私たちは、ダムの水を水道に使わない、浄水場も建設しないと公言された貴職の判断に敬意を表しています。貴職との良好な関係を構築したいと考えています。そこで、以下の事項を申し入れます。
  1. “ダムの水を水道に使わない、したがって浄水場も建設しない”という方針を堅持すること。
  2. 思川開発事業から撤退すること。言い換えれば、南摩ダムの水利権を返上すること。「使われることのない水利権」は、子孫への負の遺産である。
  3. 水道事業第5次拡張計画の第1回変更計画の全容を“広報かぬま”で明らかにすること。
  4. 水道事業に関する審議会を設置すること。
  5. 導水管の建設に反対すること。その前提として、導水管の建設によってどのような環境破壊が起きるかを正しく認識すること。
  6. 貴職は公衆の面前で“水没予定地等の住民の生活再建が果たされた後に南摩ダムは建設しないのがベスト”と発言していたのであり、住民の生活再建が果たされ、貴職が市長の座に着いた今こそ、本音を貫き、南摩ダムの建設に反対すること。
  7. 貴職は、南摩ダムを中止する権限を有していることを認識すること。
  8. ダム建設予定地周辺の豊かな生態系の価値を正しく認識すること。
  9. 生物多様性条約及び生物多様性基本法を遵守し、国の犯そうとしている環境破壊に手を貸すことをやめ、生物の多様性を保全する責務を果たすこと。
以上
お問い合わせ先(略)
●市長との会談(2009-01-11追記)

ダム反対鹿沼市民協議会の広田義一会長が市長に申入書を手渡した後での会談では、次のような発言がありました。

(広田)
申入書は、10年も前からの考えをまとめたもの。思いは強いので提出した。佐藤市長とはできるだけ良好な関係をつくりたい。
(市民A)
1週間から10日前に水資源機構は、久保田堀改修の誓約書をとりまとめた。県道の拡幅工事をやることになっている。導水管工事に必要なダンプが通るためだ。住民は大変危険であるという認識を持っている。2年で自治会長が交代するので、自治会長が取水対策協議会の理事なのに状況を把握していない。水資源機構は、堀の管理までやってくれないだろう。久保田堀関係世帯は100世帯ある。久保田堀を暗渠にした場合、蓋が開いていたら怪我をするという心配をしている。
(市民B)
加蘇地区では、ダンプが通るための道路工事をしている。導水管が通れば、沢水がかれる、地下水がかれる、荒井川もかれるだろう。水資源機構は、井戸がかれたら水道を造ると言っている。導水管もダムも造るべきではない。市内の水道も地下水でまかなえばいい。ダムの水を使えば、水道料金は2倍、3倍になる。
(市民C)
思川開発は三つのダムを一つにしたことで無理がある。導水ダムは全国で例が少ない。導水管は地下水脈を切る。どういう結果になるかは素人でも想像がつく。費用もいくらかかるか分からない。市民は勉強している。南摩ダムは問題のあるダムだ。工事が始まってからでは遅い。
(市民D)
ダムの存在自体が必要ないという立場で反対している自治体もある。鹿沼市でも検討してほしい。
(市長)
古澤市長は南摩ダムに真っ向反対だった。当時は地元も了解していなかった。自分は、補償はしっかりやれという立場だった。移転が完了した現在、ダムそのものは造らなくていいのなら、造らないのがベストだ。 近ごろ大阪、京都、滋賀、三重の知事がダムの白紙撤回を求める共同声明を出した。相当注目度の高い知事たちだ。一自治体の長が真っ向から止める力があるか。あるという考えは過大評価だろう。
思川開発が動き出していることは事実。思った以上に事が進んでいる。今、自分が駄目だと言うのは至難の業。政治的なうねりの中で決着を図ってもらいたい。ダムにまつわる危惧が現実とならないよう努力したい。
ダムの水を使うとなれば、設備投資が必要。ダム水には水質の不安もある。そんなわけでダムの水は使うつもりはありませんと言った。
水道を引いてほしいという要望はある。新しい井戸を掘ることを含め、地下水の活用でしのいでいきたい。日光市、宇都宮市との水融通も視野に入れる。ダムの水を使わないという方針を堅持したい。
板荷の県道拡幅や久保田堀改修については、交通安全や堀の維持管理について支障がないかを確認しなければならない。何らかの取り決めをしたい。
(広田)
上南摩の自治会は当初ダムに反対だった。地域整備事業の話が持ち上がると賛成に転じてしまった。ダムが必要かという議論はなかった。地域整備事業だけで賛否を決めた。
下流に水需要がないということを聞いて必要のないダムだと判断して反対している。治水でも困っていない。
(市長)
南摩ダムは既に下流で水を使っているので、ほかのダム計画とは違う。
●首長はダムを止められる(2009-01-11追記)

佐藤市長は、「一自治体の長が真っ向から止める力があるか。あるという考えは過大評価だろう。」と言いましたが、地元の首長が反対しているのに国が強行に建設に踏み切ったダムは全国に一つもありません。

申入書に書かれているように、2008-09-11に熊本県知事は川辺川ダムに反対を表明しました。これによりどうなったか。2008-12-20読売Web版には次のように書かれています。

各省庁に対する2009年度予算の財務省原案が20日、内示された。

 地元の知事が建設反対を表明した二つのダム事業が要求の4〜5割の大幅カットとなる一方、来年5月に始まる裁判員制度には79億円が認められた。

 国土交通省が計画する川辺川ダム(熊本県)と大戸川ダム(滋賀県)の両事業は、地元の知事らによる反対表明を受け、治水対策の見直しが始まっていることから、本体工事に関連する設計、地質調査などの費用が認められない異例の事態になり、建設中止の可能性がさらに高まった。

 川辺川ダムでは、国交省が建設事業費として計34億円を要求。07、08年度はいずれも満額の34億円を確保していたのに対し、今回は本体工事前に必要なボーリング調査など各種の調査費用は軒並み削られ、水没予定地の500世帯近くが移転した五木村で付け替え道路や代替農地を造成するなど、移転住民の生活再建費21億円が認められただけだった。

 国交省と熊本県、流域の市町村は来月からダムに代わる治水対策の模索を始めるだけに、査定にあたった財務省の担当者は「今からダム建設を進める前提で予算を付けるわけにはいかなかった」と説明した。

 滋賀、三重、京都、大阪の4府県知事が建設の白紙撤回を求める共同意見を公表した大戸川ダムも、国交省は、水没予定地の道路の付け替え工事費用などに10億円要求したが、認められたのは半額の5億円。「予算がここまで削られたのは初めてではないか」。国交省幹部は驚きを隠さなかった。  
 

したがって、ダムが国の事業でも地元自治体の長が反対すれば中止できます。佐藤市長は、知事と市長では権限が違うと言うかもしれませんが、徳島県の細川内ダムは村長が反対して2001年に中止になりました。

 ●ダムがなくても思川の水が使える(2009-01-11追記)  

市長は、「南摩ダムは既に下流で水を使っているので、ほかのダム計画とは違う。」と言いました。これは、小山市などで思川開発事業に係る暫定水利権として思川の水を水道用水に使っていることを指すと思われます。  

「栃木の水道」(2006年度版。栃木県保健福祉部生活衛生課発行)によれば、小山市上水道の実績1日平均取水量は45,022m3です。水源別内訳は、深井戸が5,444m3、ダム水が39,578m3です。さらに、ダム水39,578m3のうち、渡良瀬遊水池の水利権が30,000m3ですから、9,578m3が思川開発事業に係る暫定水利権に基づくということになると思います。  

まず、渡良瀬遊水池の水利権30,000m3は観念的な数字合わせです。小山市が渡良瀬遊水池の水利権30,000m3を使っていると聞けば、渡良瀬遊水池でためた水を使っていると思うでしょうが、実際は、渡良瀬遊水池のはるか上流で取水しているらしいのです。水源開発施設がなくても川の水を使えるということの証明です。  

暫定水利権とは、埼玉県のホームページの「水に関するQ&A〜「水」なぜ?どうして?〜」によれば、「河川の水量が豊富なときにだけ取水できる非常に不安定な権利です。これには、水需要がひっ迫しているがダムが未完成である時、ダムに参画していることを担保として取得するもの、農業用水合理化事業のうち、非かんがい期の冬水が未手当であるとき などの例があります。」とされています。通常は、前者の意味で使われることが多いものです。河川局長の言葉を借りれば、「ダムが完成した時点で、安定水利になるという性格」(ダム日記2の「暫定」と「安定」水利権参照)の水利権を言います。  

小山市がいつから思川開発事業に係る暫定水利権を行使しているのか知りませんが、上流にダムのない思川から取水しても大きな問題がなかったのですから、ダムがなくても思川の水が使えることを証明しています。したがって、国土交通大臣は小山市に安定水利権を与えてもよいはずです。「ダムを造らなければ安定水利権を与えない」というルールを変えればいい話です。  

暫定水利権は、「河川の水量が豊富なときにだけ取水できる非常に不安定な権利です。」とされていますが、ダムが完成したとしても、渇水時にダムに水がたまっていなければ、河川の水量は豊富にすることはできませんから、事実上安定的に取水することはできません。特に思川開発事業の場合、南摩ダムに水はたまりませんから、ダムが完成しても安定的に取水できる保証は全くありません。  

要するに暫定水利権とは、「ダム事業などの水源開発事業に参画しなければ安定水利権を与えない」という国土交通省の掟を前提とした観念上の数字合わせです。暫定水利権を長期間行使して支障がなければ、安定水利権に変えるのが筋です。  

佐藤市長の「既に下流で使っているからほかのダムと違ってムダとは言いがたい」という趣旨の発言は、国土交通省の観念論にしばられた発言です。  

市長には事実をしっかり見ていただきたいと思います。小山市は、形の上ではダム水を1日に39,578m3取水しています。この量は、小山市の1日取水量45,022m3の約88%です。つまり小山市上水道では、これまで取水量の9割近くを渡良瀬遊水池にも南摩ダムにも頼らずに取水してきたのです。これからもダムなしでもやっていけると考えるのが普通の考え方ではないでしょうか。

 ●小山市に思川開発事業に係る暫定水利権は要らない(2009-01-11追記)  

思川開発事業に係る暫定水利権を除いた小山市上水道の現在の保有水源は、次のとおりです。  
種別水量(m3/日)備考
渡良瀬遊水池の水利権30,000
思川自流5,184
深井戸18,600
深井戸4,000 若木浄水場予備水源
合計57,784

上表のように、小山市は、思川開発事業に係る暫定水利権を除いても57,784m3/日の水源を保有しています。これに対して、小山市の2007年度の1日最大給水量は47,222m3/日ですから、1万m3/日以上の余裕があります。(少なくとも約8,000m3/日の余裕のある年がここ15年以上続いています。)1万m3/日とは、小山市の1人1日最大給水量が340Lですから、29,000人分以上の水量です。小山市の給水人口があと29,000人も増えることは考えられませんから、小山市が思川開発事業の水利権を取得する必要はありません。

(文責:事務局)
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