南摩ダムはなぜ違法か

2010-04-14

●水資源機構とは

思川開発事業は、独立行政法人水資源機構が事業主体です。この法人は、2003年10月に設立されましたが、前身は、特殊法人水資源開発公団です。(水資源機構のホームページの「沿革」を参照)

Wikipediaにも次のように書かれています。

水資源機構(みずしげんきこう、Japan Water Agency)は、主に国土交通省を中心として農林水産省・厚生労働省・経済産業省の四省庁が所管する独立行政法人水資源機構法に基づく独立行政法人である。旧称は水資源開発公団。

では、水資源開発公団とは、どのような法人だったのでしょうか。

Wikipediaには、次のように書かれています。

1961年(昭和36年)、従来の多目的ダムに産業発展の為の利水目的を増強するため、自然湖沼や用水路・堰などを総合的に運用する事で系統的な利水供給体制を整備するための法整備が行われた。これが「水資源開発促進法」であり、事業を進めるための執行機関の骨格を定めた「水資源開発公団法」と共に国会で可決・成立した。そして翌1962年(昭和37年)5月1日に両法は施行され、ここに水資源開発公団が発足した。

水資源開発公団(現・水資源機構)とは、「水資源開発促進法」による事業を進めるための執行機関です。

●水資源開発促進法は産業の開発又は発展及び都市人口の増加を前提としている

では、水資源開発促進法の目的は何でしょうか。

第1条の目的規定には、次のように書かれています。

この法律は、産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保するため、水源の保全かん養と相まつて、河川の水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の促進を図り、もつて国民経済の成長と国民生活の向上に寄与することを目的とする。

水資源開発促進法は、産業の開発又は発展と人口の増加に伴い用水を必要とする地域が増えることを前提としています。

産業の開発又は発展は必ずしも多量の水を必要としなくなってきたにもかかわらず、産業の開発又は発展が必然的に水需要の増加をもたらすという前提で書かれた法律なので、この法律は時代錯誤と言えます。制定当初は、工場での水のリサイクルの技術は普及していなかったので、工業用水の増加を予測したことは仕方ない面もありますが、水のリサイクルが普及しても、法律を見直さないことが問題です。

そもそも水を大量に使う重厚長大産業の発展も終わっています。

一番問題なのは、水資源開発促進法は、人口の増加を前提としていることです。

●「人口の増加」という前提が成り立たない

栃木県と鹿沼市の最近の人口の推移を見てみましょう                              
年(10月1日現在)栃木県鹿沼市(粟野町を含む)旧鹿沼市
2005年2,016,631104,14893,744
2006年2,015,105103,86793,893
2007年2,015,233103,67893,794
2008年2,014,650103,27893,521
2009年2,010,732102,96093,290
    

栃木県人口は2005年から減少していますし、旧鹿沼市では2000年から減少を始めています。2008年度と2009年度を対比すると、栃木県人口は0.19%、旧鹿沼市人口は、0.25%減少しています。     

要するに、少なくとも栃木県と鹿沼市では、「都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域」(水資源開発促進法第1条)ではなくなっていることは確実です。     

    ●思川開発事業は違法だ     

この法律を適用する前提となる事実が存在しないのです。栃木県と鹿沼市は、思川開発事業にかかわってはいけないのです。(小山市長は、同市の人口が増えているので、参画する資格があると威張るでしょうが、増加はせいぜいあと5年でしょう。)     

人を殺していない人に殺人罪を適用する裁判が違法であるように、人口が増加していない地域に水資源開発促進法を適用することは違法であると考えます。     

水を使う産業の発展も終わり、人口も減少すれば、水余りになるのは当然です。Wikipediaには、次のように書かれています。     

    1990年代以降にはバブル崩壊や産業の空洞化、人口増加速度の鈍化・減少によって次第に当初の計画から需要が減少する「水余り」現象を指摘する声が多くなり、公共事業の見直し論議が高まるに連れてダム建設の是非が公団ダムでも論じられる様になり、中止したダム事業が次第に現れた。1982年(昭和57年)の板取ダム(板取川)を始め、戸倉ダム(片品川)・平川ダム(泙川)・栗原川ダム(栗原川)などが建設中止となった。その反面、地球温暖化による1994年(平成6年)の渇水や2005年(平成17年)の渇水といった深刻な被害も近年増加しており、こうした観点から水資源整備の必要性を訴える声も多い。     

ダムを造りたい側にとっては、水需要の増加の理由は何でもいいわけです。産業の発展も人口の増加も見込めないことがはっきりしてくると、今度は地球温暖化という新しい理由を持ち出すというわけです。

もしも地球温暖化によって水需要が増えて、ダムが必要になるなら、法律を改正して、地球温暖化に対応するためにダムを建設するという法律をつくるのが筋です。

水資源開発促進法をそのままにしておいて、新たなダム造りの理由をこじつけて、ダムや河口堰の建設を続けることは、法治国家においては許されないことです。

「産業の開発又は発展及び都市人口の増加」が見込めないのに、思川開発事業を進めることは違法と言わざるを得ません。

●お題目を変えればいいという話ではない

「もしも地球温暖化によって水需要が増えて、ダムが必要になるなら、法律を改正して、地球温暖化に対応するためにダムを建設するという法律をつくるのが筋です。」と書きましたが、文章を変えればいいという話ではありません。

本来、政策には科学的合理性が必要なはずです。地球温暖化に対応するためにダムを建設するという政策に、科学的合理性の裏付けが必要です。

しかし、地球温暖化説にはデータ捏造疑惑があり、ダムの必要性を科学的に論証することは無理だと思います。

この疑惑については、日経ネットの[急]地球温暖化データにねつ造疑惑(09/11/26)を参照してください。一部を引用します。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が採用した、人為的な地球温暖化の有力な証拠とされるデータにねつ造の疑いがあることが分かり、先週末から欧米主要メディアの報道が相次いでいる。かつてのウォーターゲート事件をもじった「クライメートゲート(Climategate)」という言葉も作られた。

来月デンマークのコペンハーゲンで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)に影響が及ぶ可能性がある。  疑惑の舞台となったのは、国際的な温暖化研究の拠点のひとつである英イーストアングリア大学。何者かが気候研究ユニット(CRU)のコンピューターに侵入し、1996年から最近までCRUが外部とやり取りした1000通以上の電子メールをハッキングして匿名サーバーに置いた。さらに、温暖化懐疑派のブログなどにその存在を知らせ、メールの内容が明るみに出た。

 そこで注目されたのが有名な「ホッケースティック曲線」だ。過去1000年間にほぼ横ばいだった気温が、温室効果ガスの排出が増えた20世紀後半に急上昇したことを示す。IPCC報告書でもたびたび引用されたが、あいまいなデータ処理が以前から問題視されていた。メールの中で、フィル・ジョーンズCRU所長は1960年代からの気温下降を隠すことで、80年代からの上昇を誇張するデータのtrick(ごまかし)があったことを示唆している。  
 

池田信夫blogには、次のように書いてあります。  

  このように「初めに結論ありき」で研究が進められることは珍しくない。特にIPCCのように一つの大学に数億ドルの補助金が出るような大プロジェクトでは「結果を出す」ことが求められるので、なるべく温暖化が起きているようにデータを解釈するインセンティブが生じるが、このホッケースティックのように意図的に原データを改竄するのは、科学的な論争のルールを逸脱している。  
 

ダム官僚や御用学者が地球温暖化対策のためにダムが必要だと主張するには、いつものように、エセ科学を駆使するしかないでしょう。  

(文責:事務局)
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