南摩ダムのこのごろ(その3)

2009-11-06,2009-11-12追記,2009-12-02追記,2009-12-04追記

●赤旗は朝日と真逆の論調

朝日は、2009-10-30には「政権交代@とちぎ/南摩ダム凍結(上)巨大事業 中止に壁」、2009-10-31には「政権交代@とちぎ/南摩ダム凍結(中)中止の根拠、提示は困難」と書き、南摩ダムを中止するわけにはいかないという論調でまとめています。

しかし、赤旗の論調は真逆です。2009-11-05赤旗北関東のページには、次のように書かれています。団原敬記者の記事です。

ダム建設をストップさせるとどうなるのか。県内では、同じく鹿沼市に建設予定だった県営東大芦川ダムという、全国でもまれな先例がある。

無駄な大型公共事業の中止を求める国民世論におされ、前原国交相が凍結対象にしたもののうち、栃木県にかかわるのは▽鹿沼市の南摩ダム(思川開発)▽日光市の湯西川ダム▽群馬県の八ツ場ダム▽茨城県の霞ヶ浦導水ーーの4事業です。

 利根川水系にかかわる4事業費の総額は約1兆一千億円にのぼります。主たる名目は都市用水、洪水調節です。南摩ダムの導水路工事の入札は延期されましたが、県道の付け替え工事がすすめられています。湯西川ダムは24時間体制で工事が継続中です。霞ヶ浦導水事業は、ポイントとなる那珂川の取水工事をすすめることにしています。  

 被害と無駄遣い  

 もともと各事業の目的の根拠は崩れていました。南摩ダムの集水面積は12.4平方キロメートル。利根川・栗橋地点(埼玉県)の流域面積8588平方キロメートルのわずか0.14%にすぎません。思川・利根川の洪水被害を防ぐとした治水効果は微々たるものです。  

 利水面でも、地元・鹿沼市は水利用を考えていません。同ダムで県が確保する水利権は0.4立方メートルですが、供給先としている県南水道供給事業計画はまったくの白紙状態です。  

 湯西川ダムについては、将来の最大需要(日量約20万トン)を20%上回る水源(24万トン)を宇都宮市は保有しており、事業への参画は不要です。治水の面でも、すでに五十里(いかり)、川俣、川治の3ダムで対策は完結しています。  

 霞ヶ浦導水業(ママ)では、那珂川下流に取水口が建設され、取水されれば、アユの稚魚などの吸い込みによる資源減少で栃木県内の漁協は甚大な被害を受けます。  生態系の違う河川の水を利根川に霞ヶ浦ではさんで融通させることは、生態系や環境破壊につながります。  

 県が10億円の資金をつぎ込む八ツ場ダムは、県内での治水効果に根拠がないことに加え、ダムサイト崩壊や周辺の地すべりの危険性が高いことが問題となっています。  
 

赤旗は、中止の根拠を提示しています。朝日は、なぜ困難だと言うのでしょうか。  

 ●民主党県連が南摩ダム、湯西川ダムを視察(2009-11-12追記)  

「民主党県連は9日、日光市の湯西川ダムと鹿沼市の思川開発(南摩ダム)建設予定地をそれぞれ視察」(2009-11-10下野)しました。朝日、毎日、読売もこの視察を報じています。  

「視察に参加したのは、ダム建設地を選挙区内に抱える福田昭夫衆院議員(栃木2区)と谷代表の国会議員2人に加え、佐藤栄県連幹事長ら県議、宇都宮・日光両市議ら計16人。」(朝日)。「水没予定地から移転した住民はこの日の意見交換に参加していない。」(下野)。  

議員と地元住民との意見交換会で「湯西川では地元の湯西川温泉旅館組合」の「伴久一組合長が」「2011年度完成予定のダム建設を「国と約束したこと」と容認する一方、「清流をこのまま残してほしい。新しく建設する道路は完成させてほしいが、川沿いの旧道も残してほしい」と述べた。」そうです。  

ダムを造ることに賛成するが、清流を残してほしい。それは無理です。組合長の発言の意味が分かりません。  

「見交換終了後に伴組合長は記者団の取材に応じ、意見交換での発言について「矛盾していることは分かっている。観光資源の清流を大切にしたいが、ダム工事現場で働いている人たちもいる」として、ダム建設の賛否を明確に主張できない苦しさを訴えた。」そうです。  

伴組合長は、ダムが観光資源にならないことは分かっており、本音はダム反対なのでしょう。読売の記事では、「「最も大切な観光資源の清流や渓流がなくては、観光の発展もない」とも述べ」たと書かれています。旅館の経営者が「観光資源の清流を大切にしたい」と言っているのですから、斎藤文夫日光市長だって清流こそが日光市の観光資源であることが分かっていてもおかしくないと思います。  

「ダム工事現場で働いている人たち」の雇用も大事かもしれませんが、湯西川の将来の雇用も大事です。要は、目先の雇用をとるのか、将来の雇用をとるのかという問題です。  

日光市長は、闇雲に湯西川ダムを促進していますが、観光の利益を切り捨ててまでダムを促進する理由が分かりません。湯西川ダムが治水上も利水上も役に立たず、温泉街の利益にもならず、環境に不可逆的な損失を与えることも分からないのだとしたら、洞察力も理解力も先見性もない政治家の証明ですから、日光市民のために次期の出馬をしない方がいいと思います。  

ダム問題への対処を見ていると、政治家の資質が見えてくるものです。  

 

毎日の記事には、「伴組合長は「ダムは11年度に完成するというのが国と地元との約束」と強調しつつ、「清流は大切な観光資源だと訴え続けてきたが、水没者ではないという理由で要望を聞いてもらえなかった」とこれまでの経緯を説明した」と書かれています。  

分からないことだらけです。「水没予定地区住民でなければ、ダムに反対する資格はない」というのが役人の考え方だったようですが、とんどもない話です。税金が使われる以上、一般国民だって反対する資格はあります。清流が消えて観光客が減少するおそれがあるのですから、旅館組合は直接的な利害関係者ですから、なおさら反対する資格があります。  

不思議なのは、反対する資格のないとされていた旅館組合がなぜ2011年度にダムを完成させることを約束したのかということです。ダムが旅館組合に利益をもたらさないのなら、ダムを建設する約束などしなければよかったと思います。約束したということは、旅館側にも見返りがあったということでしょう。付け替え道路が見返りとは思えません。見返りが何なのかがどの記事にも書かれていないので、組合と国との約束が片務契約のように見えてしまいます。しかし、片務契約なんてそうあるものではありません。  

日米安保条約にしても、アメリカは見返りもないのに一方的に日本を守る義務を負う片務契約だと一部の政治家や学者は言いますが、アメリカは日本を守るためでなく、アジアににらみをきかせるために日本に軍隊を駐留させているのですから、見返りはあります。「日米安保は片務契約」という宣伝はペテンです。  

それはともかく、伴組合長は、清流を守りたいが事を荒立てたくないのでしょう。まさに、「善人の沈黙」が「ダム・マフィア」の暴挙を許してしまうのです。  

 ●知事の発言はどれが本当(2009-12-02追記)  

2009-11-29下野に「合併など知事と意見交換/鹿沼/元気フォーラムに100人」という見出しの記事が載っています。  

「福田富一知事と県民が県政について意見交換する「とちぎ元気フォーラムin鹿沼」が28日、鹿沼市の市民情報センターで開催された。」ようです。  

福田知事は、南摩ダムに関し、「国の事業なので県は受け身の立場。国の判断を待ちたい」と言ったようです。  

福田知事は、8月25日には、さらに突っ込んで、「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」(2009-08-26下野)と言っていました。「受け身」じゃないんですね。ここまで言うからには、ニュースとして伝わってきませんが、栃木県で検証作業をするとか、国に対して検証を求めるなどの行動を起こしているはずです。「口だけ」ではないと思います。  

「埼玉県では水が必要だと言っている。本県だけで(ダム建設の是非を)決められないことなので、流域圏全体で判断する必要がある」(2009-10-16下野)も8月25日の発言と似ています。  

かと思うと、「治水、利水の面から南摩ダムは必要」(2009-10-16下野)とあっさり言ってのけたりもしています。  

要するに福田知事は、南摩ダムについて、「必要型」、「判断放棄型」、「検証すべき型」の三つのパターンを持っており、その場の雰囲気に応じて使い分けていると言えます。県民は愚弄されていると思います。マスコミには、この矛盾を追及してほしいと思います。  

 ●12月議会では「検証すべき型」(2009-12-04追記)  

2009-12-03下野によると、福田富一・栃木県知事は、「2日の県議会代表質問で、全国のダム事業見直しについて「個別のダムごとの議論にとどまらず、国は流域全体の水需給を見直すべきだ。その中で本県の治水利水についても検証が必要」との考えを示した。」そうです。  

「治水、利水の面から南摩ダムは必要」(2009-10-16下野)と言っていたのに、今議会では、「検証すべき型」で答弁したようです。  

「国は流域全体の水需給を見直すべきだ」と言われても、真面目に見直しをやらないのですから、栃木県が自らやるしかないでしょう。  

福田知事は、埼玉県で水が必要だと言うので、南摩ダムに反対できないと言います。それなら、埼玉県で本当に水が足りないかを検証すべきです。  

少なくとも、栃木県内の水需要を検証して、水が足りているならダム事業から即刻撤退すべきです。自分のところは水余りなのに、他県とのお付き合いでダム事業に参画するなど許されることではないはずです。  

今後の水需給の見直しについて「本県の発展と県民の安心安全な生活を確保するという長期的な視点に立って対応する」と述べたそうですが、具体的にどうしたいのかが分からず、意味不明です。  

栃木県の水需要は減る見込みです。ダム訴訟で原告が論証していますし、県自身も減ると予測しています。福田知事は、訳の分からない議会答弁をしていないで、1日も早くダム事業から撤退する決断をすべきです。  

(文責:事務局)
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