「栃木県水道ビジョン」は「ダムありき」だ

2015年4月23日

●栃木県水道ビジョンが策定された

栃木県は、2015年3月10日に「栃木県水道ビジョン」(以下「県ビジョン」という。)を策定しました。

県ビジョンに法的根拠はなく、「広域的水道整備計画及び都道府県水道ビジョンについて」(2014年 3 月 19 日付け厚生労働省健康局水道課長通知)という通知を策定の根拠とし、「(1983 年に策定した)「栃木県水道整備基本構想」を全面的に見直しした「栃木県水道ビジョン」としてとりまとめる」ことが目的とされています。

「水道整備基本構想」も法的根拠はなく、県に策定義務はないのですが、水道水源開発等施設整備費国庫補助金交付要綱を策定の根拠としているので、策定が国庫補助の要件とされている場合があり、無視するわけにもいかないようです。

しかし、県ビジョンには、広域的水道整備計画策定の前提としての圏域再編の意味があり、県南地域での水道用水供給事業の認可取得に向けた手続を進め、2012年6月以来凍結状態にある思川開発事業に係る検証作業の停滞を打開するねらいがあるとも思え、また、形式的にも内容的にも「ダムありき」で書かれた印象を受けます。

思川開発事業を前に進めるためには水道用水供給事業の認可を取得する必要があり、そのためには県南2市2町からの要請を受けて広域的水道整備計画(水道法第5条の2)を策定する必要があり、そのためには「水道整備基本構想」=「県ビジョン」を策定する必要があるということでしょう。

「「都道府県水道ビジョン」作成の手引き」(厚生労働省)には、記載事項が8項目挙げられていますが、栃木県がやりたかったことは「圏域の区分の設定」だと思います。

栃木県としては、県南地域で広域的水道整備を進めるためには、「栃木県水道整備基本構想」で設定した圏域の区分をどうしても再編する必要があります。

旧・南河内町は県央地域広域圏に、旧・石橋町と旧・国分寺町は県南地域広域圏に区分けされていましたが、これら3町が2006年1月に新設合併し下野市が誕生したため、県南地域広域圏と県央地域広域圏の境界線が途切れたからです。

県ビジョンでは、栃木県全体の水需要予測もなされており、栃木県の水道がどうあるべきかを根底から見直すせっかくの機会であったにもかかわらず、そして、現在、思川開発事業は、国のダム事業検証の対象となっており、関係自治体は同事業への参画を根底から見直すことが国からも要請されているにもかかわらず、栃木県が同事業に参画することを既定路線として都道府県水道ビジョンを策定したことは、国益にも県民益にも反することです。

●策定過程に透明性がない

2015年4月1日現在、「都道府県水道ビジョン」と位置づけられるものは12しかなく、栃木県の策定は、多分11番目の早さです。栃木県は、なぜ急いだのでしょうか。

県ビジョンの策定過程は公表されておらず、不明です。2015年1月から2月にかけてパブリックコメントを実施しましたが、ほとんどの県民は気づかなかったためか、意見提出者は5人でした。

熊本県では、熊本県水道ビジョンの「策定の経緯」を公表しており、学識経験者を入れた検討委員会会議が4回開催され、市町村説明会が開催され、公明正大に策定されました。秋田県でも秋田県水道整備基本構想検討委員会を設置して検討しました。

2015年1月17日付け日刊建設新聞によると、県ビジョンでも「有識者への意見照会」は行われたようですが、有識者が誰なのかは不明です。

県ビジョンには、「事業内容を積極的に開示し、透明性の高い事業を実施する。」(p80)と書かれていますが、このような方針を指導する側が透明性の高い事業を実施しておらず、矛盾を感じます。

●経営環境が厳しくなるならダム事業への参画は矛盾

「今後は、人口減少に伴う給水収益の減少と水道施設の耐震化や更新に伴う支出の増加によって、さらに経営環境が厳しくなることが予想される。」(p67)ことを十分認識していながら、効果が不明な水源転換のために栃木県が64億円を投じて思川開発事業に参画して広域的水道を整備することは矛盾していると思います。

県ビジョンには次のように書かれています。

本県の水道においても、今後の人口減に伴う水需要(料金収入)の減少、水道施設の老朽化に伴う更新需要の増大、水道技術者の退職に伴う技術力の低下、水道未普及地域の解消、水道料金の地域間格差の存在、東日本大震災を踏まえた新たな危機管理体制の構築の必要性等、多くの問題を抱えている。

要するに、人口減少により料金収入が減少するのに、解決にカネのかかる課題が山積しているというわけです。ダム事業に参画している場合ではないことは明らかです。

●地盤沈下は栃木県の課題ではなかったのか

栃木県は、思川開発事業に係る住民訴訟において地盤沈下と地下水汚染の懸念こそが栃木県が思川開発事業に参画して県南地域の水源転換を図る理由であると主張していたのに、県ビジョンに「地盤沈下」の文字はありません。

県南地域の「主な課題」(p88)に「地盤沈下」も「地下水汚染の懸念」も挙げられていないことは理解できません。「地下水利用比率の高さ」(p88)自体が課題として挙げられていることは、奇妙なことです。

●埼玉県は地盤沈下を課題に挙げている

埼玉県は、八ツ場ダム住民訴訟において、埼玉県が八ツ場ダムに参画する理由の一つに地盤沈下防止を挙げています(被控訴人準備書面(7)p3〜4)。

そして、埼玉県水道ビジョンでは、「利水安全度、地盤沈下を考慮した水源確保」を課題に挙げています。

したがって、栃木県とは違い、それなりに一貫性があります。

ただし、埼玉県水道ビジョンには、2008年度の「最大地盤沈下量は 1.1cm であり、過去最大の年間沈下量 27.2cm(昭和 49 年)と比べて低くなっている」(p9)と書かれています。

つまり、最近の埼玉県の最大地盤沈下量は、過去最大の年間沈下量の4%でしかないということです。この程度の沈下が、水道水源としての地下水利用とどれほどの因果関係があるのかは疑問です。

1.1cmの年間最大地盤沈下量が八ツ場ダムへの参画によって、あと何mm沈下量を減らせるのかの説明はありませんから、埼玉県の水道政策は費用対効果を無視しています。

●地下水汚染対策にダム水を勧めるのは矛盾

県南地域での水源水の汚染の懸念への対応として「総トリハロメタン、有機物 (TOC)、無機物については、 適切に浄水処理が行えるよう注意を払う必要がある。」(p71)と言うのですから、地下水汚染についても「適切に浄水処理」を行えばよいはずなのに、「平成 24 年度に策定した「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」に沿い、 地下水依存率の高い地域における表流水とのバランスを確保できるよう表流水への一部転換となる広域的水道整備を推進する。」(p88)という目標を示すことは矛盾しています。

そもそも地下水汚染が危惧されると言うなら、表流水の汚染も危惧されるので、表流水を確保した分の地下水源を放棄することは、リスクを低減させることにならず、かえって渇水リスクという別のリスクを増大させることにもなるという点でも、地下水汚染の危惧は思川開発事業に参画する理由になりません。

●供給量が記述されていない

「「都道府県水道ビジョン」作成の手引き」には、「将来における水道水の需要量の推定と供給の見通しについて記述する。」(p10)こととされており、この記述は重要項目だと思いますが、県ビジョンには「供給の見通し」についての記述がありません。

また、「なお、現状において需要に対し供給量の見通しが立っており、将来に向けて需要の伸びが予想されない圏域については、現行の供給量又は削減される供給量を算出することに十分留意する。」というルールにも従っていません。

供給の見通しを示さない県ビジョンには重大な欠陥があると思います。

なお、「埼玉県水道ビジョン」のp45には、「供給の見通し」が示されています。ただし、2/20渇水時の供給可能量です。「「都道府県水道ビジョン」作成の手引き」には、渇水時の供給量を書くように指示されておらず(p10)、埼玉県の記述は、マニュアルに違反しています。埼玉県がなぜマニュアルに反してまでも渇水時の供給可能量を記載したのかと言えば、マニュアルどおりに記述したら、水源の不足を演出できないからでしょう。

●県南地域広域圏の設定は妥当か

県ビジョンは、県南地域広域圏(足利市、栃木市、佐野市、鹿沼市、小山市、下野市、壬生町、野木町)について、「本地域では、現在各市町とも個別に水道施設を整備し経営しているが、水源としては、地域上流地点以外に適地が望めないことから、一体の圏域として上流部に水源を求め有効かつ合理的利用を図っていく必要があることも考慮し、圏域を設定した。」とありますが、何を言っているのか理解できません。

上記住民訴訟で県職員が、渡良瀬川水系の足利市と佐野市が草木ダムに保有する未利用水を思川水系の市町に融通することは現実的でないと証言しているのですから、思川水系に係る地域と渡良瀬川水系に係る地域を「一体の圏域」とすることには無理があると思います。

群馬県の桐生市、太田市、館林市及びみどり市と栃木県の足利市及び佐野市は、2006年7月11日に「両毛6市水道災害相互応援に関する協定書」を締結しています。

「管理の共同化や危機管理時の広域的な応援体制などでは、都道府県を越えた範囲の設定 もありうる」(「「都道府県水道ビジョン」作成の手引き」p8)とされています。

●漏水率の高さを無視するのか

「図 7.5 老朽化と維持管理に関連する業務指標」(p69)のグラフは、漏水率の2011年度全国中央値が2%程度であるのに対し、県南地域広域圏では12%程度であり、また、県内他地域よりも高いことを示していますが、そのことについての記述がなぜか全くありませんが、不当ではないでしょうか。

●またしても過大予測

栃木県は、下図のとおり、総合計画において過大な水需要予測を繰り返しており(実績値は上水道と簡易水道の年間給水量の合計で「栃木の水道」から)、県にはそもそも予測をする能力も資格もないと思います。
栃木県年間給水量予測

要するに栃木県は、何度予測をしても過大な予測しかしないのです。

県ビジョンにおいても、下図のとおり、県南地域広域圏の上水道の1日最大給水量は、ほとんど減らないと推計しており、2035年度は281,985m3/日で2012年度の実績値294,951m3/日よりも4.4%しか減らないという推計は、当該広域圏の人口が16%以上、給水人口が12%以上も減少すると県自身が推計している(「県南地域広域圏の給水人口及び給水量の算出根拠」参照)ことからも非常識なものです。
県南1日最大給水量

「栃木県南地域広域圏上水道1人1日最大給水量の実績と推計」(下図。出典は県ビジョン)を見ても、1人1日最大給水量が減少傾向にあったことを無視して、増加傾向に転じることを見ても、県の推計がいかに異常かが分かります。
県南1人1日最大給水量

●県南地域広域圏の生活用原単位の推計は不当

栃木県は、下図のとおり、県南地域の上水道の生活用原単位を、相関係数が0.7を超える予測式が得られないことを理由に、これまでの減少傾向を無視して過去10年間実績値の平均値(265.8L/人・日)が2013年度から2035年度まで一定して続くと推計しましたが、極めて不当です。
県南生活用原単位

県南地域の上水道の生活用原単位が2005年度をピークとして減少していたのに、2010年度に急に上昇した原因は、同年度から栃木市が給水人口の算定方法を変えたからです。栃木市(栃木地区)の給水人口は、算定方法を変えた結果、下図(出典:「栃木の水道」、「栃木市水道事業第2次拡張計画認可申請書」)のとおり、2009年度78,055人から2010年度66,272人へと一気に11,783人も減少しました。

栃木市の給水人口の算定方法を統一すれば、県南地域の上水道生活用原単位は、なだらかな減少曲線を描くはずです。
栃木市給水人口の推移

本来、栃木市の給水人口の算定方法を2010年度の前後で統一した上で推計すべきですが、最悪でも上記算出根拠資料に示された逆ロジスティク曲線式(249.8 L/人・日(2035年度)にまで減少傾向)を採用していれば、最終的な推計需要量は相当小さかったはずです。

上記の事情を知悉しながら敢えて考慮せずにした県の推計に科学性はなく、需要量を水増しする意図があったと言われても仕方のないものでしょう。

●未普及地域の解消は現実的か

全広域圏において「水道事業者は未普及地域の解消に努める」ことを目標として示していますが、現実的とは思えません。現在、給水区域でない地域は過疎地であり、今後更に過疎化が進むでしょう。そこに水道管を引いて水道経営が成り立つでしょうか。本気で水道普及率100%を目指したら、大変なことになると思います。

国の「新水道ビジョン」には、水道未普及地域には、水道管を引くことだけが解決策ではないと書かれており、未普及地域の解消にこだわるのは、国の方針にも反すると思います。

水道未普及地域は、山の中だけとは限りません。

特に県南地域は、地下水の豊富な地域であり、現在、井戸水で暮らしている住民は、安くて旨い水を手放すはずがありません。

水道の配水管が近くまで通れば、汚染に備えて保険として水道に加入する住民もいるでしょうが、井戸水に問題が起きない限り、水道水を使うことはないと思います。したがって、普及率を上げても料金収入はそれほど増えないと思います。

●「活用を図る」に本音がうかがえる

県南地域の課題への対応策に「新たに開発される水源の活用を図り、将来的に安定した水道の供給方策を検討する。」(p88)とありますが、主体性の感じられない表現です。

明確な目的があって南摩ダムの水を買うのではなく、買うことが決まってしまったので、せいぜい無駄にしないように、活用方法を検討しましょうという本音がうかがえるニュアンスです。

これから活用方法を検討するくらいなら、思川開発事業から即刻撤退すべきです。

●水源余裕率が高くなりすぎることへの警鐘を鳴らすべきだ

県ビジョンは、熊本県水道ビジョンと違い、水源余裕率について分析しておらず、水道事業等が目指すべき方向性を十分に示していません。

水源余裕率とは、[(確保している水源水量/1日最大配水量)−1]×100 という式で求め、最大需要量に対してどれだけゆとりを持って水源を確保しているかを示すもので、渇水に対する安全度を示す指標です。

数字が大きければ大きいほど渇水安全度が高いのですが、反面、水源余裕率を高めることは水源開発のために過剰投資をして、経営の健全性を害するおそれもあります。

県南地域の上水道における2012年度の計画1日最大取水量は427,053m3/日で、同年度の1日最大給水量は294,951m3/日、2035年度の計画1日最大給水量は281,985m3/日です。

つまり、現在の計画1日最大取水量を基準とすると、水源余裕率は45%(2012年度)から51%(2035年度)に上がります。上記のとおり、県の需要推計は過大ですから、実際は2035年度にはもっと高い水源余裕率になります。

水源余裕率を分析した上で、それが高くなりすぎることに警鐘を鳴らさない県ビジョンは無責任だと思います。

●熊本県水道ビジョンとは大違い

熊本県水道ビジョンには、「本県は水道用水の約8割を地下水に依存していますが、将来悪化が懸念される水質課題項目の濃度上昇が継続した場合、現状の浄水処理方式では水質基準値の遵守が困難となることも考えられます。」(4-44)と書かれており、水質悪化が懸念されるとしても、基本的には浄水処理方式を変えることで対応できるという認識が示されています。

栃木県のように、地下水汚染のおそれがあるからダムの水が必要だという飛躍した方針を示していません。

また、熊本県水道ビジョンは、「地下水は水利権を必要とせずに開発できるため、水道用水として欠かすことの出来ない貴重な水源となっています。」、「本県では平成 24 年 4 月に熊本県地下水保全条例を改正し、県民が豊かで良質な地下水の恵みを将来にわたって享受できるよう、地下水の更なる保全に努めています。」とも書かれており、貴重な水源である地下水を保全しながら使う姿勢が示されています。

熊本県は、栃木県のように、「地下水利用比率の高さ」自体を問題視したり、「地下水依存率の高い地域における表流水とのバランスを確保できるよう表流水への一部転換となる広域的水道整備を推進する。」という目標を示したりしていません。地下水100%の水道をあってはならないものとする栃木県とは大違いです。

●鳥取県の水道行政はあってはならないものなのか

「見えない巨大水脈 地下水の科学」(日本地下水学会/井田徹治、講談社、2009年)のp33によると、「水道水の中で地下水への依存度が最も高いのは鳥取県でなんと99.3%。県民が使用する水のほぼ全量を地下水でまかなっていることになる。」そうです。もっとも、これは2005年度のデータによるもので、伏流水も地下水として扱っています。

「2位は、豊かな地下水がそんざいすることで有名な熊本県の86.9%、3位は福井県の74.1%、4位は三重県の69.6%だった。」そうです。

栃木県の主張によると、鳥取県や熊本県は、地下水汚染等への備えを真面目にやっていない不届きな県だということになりますが、果たしてそう言えるかは疑問です。地下水100%がいけないと言っているのは、栃木県だけだと思います。

●足利市と佐野市はダムによる表流水を保有しているのに利用していない

県南地域広域圏のうち、足利市と佐野市は、次のとおりダムによる表流水を保有しています。
足利市  草木ダムからの工業用水  0.3m3/秒
足利市  松田川ダムからの生活用水  0.06m3/秒
佐野市  草木ダムからの生活用水  0.3m3/秒

合計すると、0.66m3/秒になります。日量で57,024m3/日です。

ピンときませんが、これを県南地域広域圏の上水道における1人1日最大給水量394.8L/人・日で割ると144,438人分の水道水の量ということになります。

しかし、足利市と佐野市は、これだけ大量の表流水を保有していながら、全く利用しておらず、両市の水道水源は100%地下水です。

草木ダムは1977年に、松田川ダムは1996年に完成したので、それぞれ38年間と19年間も未利用でした。

佐野市は、草木ダムの水を利用するための取水施設を設置したものの、浄水場は建設せず、結局、渡良瀬川の水を利用していないようです。

栃木県の考え方によると、県南地域広域圏では、おそらくは地盤沈下と地下水汚染が懸念されるという理由により、「地下水利用比率の高さ」自体が課題なのですから、足利市と佐野市の水道水源が100%地下水であることは大問題であるはずです。

したがって、「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」で示された考え方によれば、両市の地下水依存率を40%にまで下げる必要があるはずです。

思川開発事業への栃木県の公金支出が違法であるとする住民訴訟において、住民側代理人は、足利市と佐野市でも地盤沈下が起きているのだから、栃木県の考え方によれば、両市でも水源転換を促す必要があるということにならないのかと元・栃木県砂防水資源課長の印南洋之証人に尋ねました(尋問調書p38〜39)。

この尋問に対し、印南証人は、「足利、佐野については、先ほど弁護士さんからも話があったように、もう既にダムの水というものを確保しております。そういった点で、要するに、今現在は(両市の水道水源は地下水が)100%になっておりますけれども、表流水は既に確保している地域だということです。」と答えました。

住民側代理人は、更に、「でも、表流水を使えと(栃木県が両市に対して指導すると)いうことだってあると思うんだけれども。」と尋問しました。

これに対して印南証人は、「それは、個々の市町村の考え方によって、今現時点で使うか、それとも将来において使うのか、まちまちだと思うんです。」と言いました。

印南証言は、ダムの水を確保することが重要なのであって、確保した水を使うかどうかは重要ではないと言っていることになります。

しかし、県の考え方によれば、実際にダムの水を使って水道水源の転換をしないと、地盤沈下が防止できないことになるはずです。

印南証言から分かることは、栃木県にとって重要なことは、ダム事業を推進し、又は促進することであって、地盤沈下の防止なんてどうだっていい問題だということです。どうだっていい問題とは考えていないとすれば、上水道用の地下水採取が地盤沈下に影響を与えていないことを知っているということです。

いずれにせよ印南証言は、地盤沈下防止がダム建設の口実にすぎないことを証明した証言です。

栃木県は、草木ダムが使われないことに関心がなく、自ら建設した松田川ダムについても使われないことに関心がないのですから、これからも南摩ダムで確保した水を使わないことに反省することはないと思います。

●おわりに

栃木県は、県南2市2町(栃木市、下野市、壬生町、野木町)の水需要は減ると見込んでいます。

水需要が減ると見込まれるのに、南摩ダムの水が必要であるということは、水源転換の必要があるということです。今使っている地下水源を表流水の水源に切り替える強い必要があるということです。水源転換の理由は、栃木県にとって重大な課題であるはずです。

ところが、県ビジョンには、不思議なことに、水源転換が必要な理由が全く書かれていません。

県ビジョンは、水道料金収入が減る、水道施設が老朽化するから更新するための費用がかかる、水道事業の経営の効率化が必要だという当然のことを言っておきながら、一向に具体化しない県南の広域的水道事業のために思川開発事業に参画することを既定路線としているので、支離滅裂となっています。

未だに使い道のはっきりしない南摩ダムの水を確保し続けることが県民益に反することは明らかです。福田富一栃木県知事は、どうして県民のための政治をしてくれないのでしょうか。「国の方針にはどんなに理不尽なものであっても逆らえない」と言うのであれば、知事を辞めるべきではないでしょうか。

私たちは、福田知事に対して違法な政治をやってくれと言っているのではありません。水需要も水源転換の理由もないのに、ダムの水を確保することは違法だから、ダム事業から撤退してくれと言っているのです。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
フロントページへ>思川開発事業(南摩ダム)へ>このページのTopへ