栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)に対するパブリックコメントのワナを見抜け(1)

2013年1月3日

● 栃木県がパブリックコメントを実施した

2012年11月26日に栃木県(砂防水資源課)のホームページに次のような記事が掲載されました。

栃木県では、栃木県南地域における安全で安定した水道水源確保に関する検討を進めています。これまでの検討状況を取りまとめた「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)」を作成しましたので、県民の皆さんの御意見をお寄せください。

意見募集の対象となる案は、次のとおりです。

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)」(PDF:4,990KB)

29ページもありますので、県が別のページに作成した概要は、以下のとおりです。

県南地域における水道水源確保に関する検討(要旨)
1 基本方針
県南地域において、以下の点を踏まえ、将来にわたり安全な水道水の安定的供給を確保するため、 地下水から表流水への一部転換を促進し、地下水と表流水のバランスを確保することとする。

1) 県南地域における地下水依存率は高く、栃木市をはじめとする2市2町は全量を地下水のみに 依存しており、地下水の代替水源としての表流水を全く有していない。
2) 県南地域においては、地盤沈下や地下水汚染が危惧されており、水道水源を地下水のみに依存し続けることは望ましくない。
3) 異常気象による渇水リスクが高まる中、県南地域には水道水源として利用できる水資源開発施設がない。
4) 水資源開発には相当な期間を必要とすることから、長期的な展望に立って、事前対策を講じていく必要がある。
2 検討の対象区域と目標年度
1) 今回検討の対象区域は、県南地域における地下水依存の状況や水道広域化を図る点を勘案し、 栃木市、下野市、壬生町、野木町及び岩舟町の 2 市 3 町とする。
2) 目標年度は、水道施設設計指針に基づき、20年後の平成42年に設定する。

3 将来の需要推計
1) 行政区域内人口 289,825人(H22) _ 252,180人(H42推計)
2) 給水人口 262,038人(H22) _ 248,397人(H42推計)
3) 一人一日使用水量 243リットル/人/日(H22)_ 232リットル/人/日(H42推計)
4) 一日最大給水量 103,305m3/日(H22) _ 96,200m3/日(H42 推計~計画一日最大給水量)

4 地下水と表流水のバランス確保のための目標設定
将来の地下水の状態を現時点で把握することは困難であることから、本県の他地域の状況、更に は県南地域と同様な環境にある隣接県の現状や取組状況を参考に政策的に目標を定めるものとする。

1) 基本目標の設定
現時点の全県下平均的な安全性を確保するため、地下水依存率 40%(※)を基本目標として設定 する。これにより、同様な環境にある隣接県の現時点の状況と概ね同等の水準とすることができる。

※・県内他地域(鬼怒川・那珂川地域)の地下水依存率(H22) ~ 約40% ・隣接県の地盤沈下防止等対策要綱対象地域の地下水依存率(H22)と概ね同等の水準
~ 約20%~約60%(中間の値 約40%)

2 )中間目標の設定
基本目標の達成には多額の費用と多くの期間を要するため、段階的な整備か_必要である。また、これにより、段階達成後の実態や成果の検証結果を次の段階に反映させることで効率的な整備を図 ることができる。このため、当面、基本目標の半分を達成することとし、地下水依存率 65%(※) を中間目標として設定する。

※・県南地域の現時点の地下水依存率約90%と基本目標の40%との中間値に相当 ・隣接県の中でも地下水依存率が高い群馬県の保全・観測地域 (約62.2%)と概ね同等の水準

5 目標年度における地下水取水量
目標年度である平成 42 年度において、計画一日最大取水量(計画一日最大給水量に取水時のロ スを見込む10万m3/日)の65%に相当する6万5千m3/日を地下水の最大取水量の目標とする。


●ムダなダムをストップさせる栃木の会が意見書を提出

この案に対し、ムダなダムをストップさせる栃木の会は、2012年12月26日に「「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)」に対するパブリック・コメントへの意見書」を栃木県知事あてに提出しました。

原文は、「どうする、利根川? どうなる、利根川? どうする、私たち? 2」というサイトの 南摩ダムに反対 市民団体意見書 というページにリンクしていただいています。(上記サイトは優れものですので、是非ほかのページもご覧ください。)

意見書の内容は、以下のとおりです(図は省略)。

第1 意見の趣旨
本パブリック・コメントは、必要性のない「思川開発事業への栃木県の参加」を強引に推し進めることを企図したもので、その対象となる検討案の基本方針そのものも不要ですので、その撤回を求めます。

第2 意見の理由
1 意見の理由の要旨
(1) 使う当てのない栃木県の思川開発の予定水利権のために、巨額の県税を使い続けることは許されません。
(2) 県南地域の水道用地下水削減基本方針(以下「基本方針」といいます)は、思川開発事業への参加を続けるために栃木県が窮余の策としてつくった机上の計画であり、実現性が皆無です。
(3) 栃木県は地盤沈下沈静化のグラフを表に出さないようにして、地盤沈下の心配を煽っていますが、実際には県南地域の地盤沈下は沈静化しており、水道用地下水を減らす必要はありません。
(4) 県南地域の地下水揚水量のうち、水道用水が占めるのは2割だけですから、もともと水道用地下水の削減を考えること自体が筋違いです。栃木県はその事実も表に出さないようにしています。
(5) 県南地域の水道用水源井戸は地下水汚染の問題はなく、地下水汚染の面でも水道用地下水を減らす必要はありません。栃木県が一般井戸の汚染データで誤った印象を与えるのは欺瞞です。
(6) 栃木県が思川開発の水を2市3町に供給するためには巨額の追加投資が必要であり、費用の面でも実現性が皆無です。県は県南地域水道の地下水依存率を基本方針どおりに下げるための必要な追加投資額を明らかにすべきです。


2 使う当てのない栃木県の思川開発事業の予定水利権
栃木県は巨額の負担金を支出して、思川開発事業から0.403m3/秒の水源を得ることになっていますが、この水源は使う当てのない水源です。かつては栃木県南部の各市町村に水道用水を供給する栃木県南部水道用水供給事業の構想がありましたが、地盤沈下が沈静化し、水需要の増加がストップしたことにより、この構想は消えてしまいました。
その結果、栃木県の思川開発の水源0.403m3/秒は思川開発が完了しても、使う当てがなく、栃木県がただ抱えているだけの水源になってしまいました。このように無意味なことに巨額の県税を使い続けることは到底許されることではありません。

3 基本方針は机上の計画であり、実現性が皆無であること
(1)検証の過程で明らかになった栃木県の水道事業の不存在
思川開発事業の検証が、ダム事業者である(財)水資源機構(引用者注:独立行政法人の誤り)と国交省関東地方整備局によって進められてきました。その検証項目の一つに「水道事業認可の状況」という項目があり、検証の過程で栃木県の認可水道事業の不存在が浮き彫りになりました。
 2012年6月29日の思川開発検証の「検討の場・第3回幹事会」で、事業者からの照会「水道事業認可の状況」に対して栃木県はあいまいな回答しかできなかったので、追加の回答を求められました。栃木県は窮地に陥り、それ以降、思川開発の検証作業も中断されることになりました。
  ダム検証の項目「水道事業認可」はダム事業に参画する水道利水予定者が得ておかなければならない必須の条件ですが、栃木県は上記2のとおり、その必須の条件を確保していないことが明るみになったのです。

(2)栃木県の窮余の策は「基本方針」という机上計画の策定
そこで、栃木県はこの窮地を乗り切るため、思川開発事業の水源が長期的には必要となるという県南地域・水道用地下水の削減基本方針をつくり、それを水道事業認可に代わるものとして提出することを考えました。その始まりが今回のパブリック・コメントなのです。
栃木県はこのパブリック・コメントのあと、関係市町の意見、公共事業評価監視委員会の意見を順次聞いた上で、県南地域・水道用地下水の削減のために、思川開発事業の水源が長期的には必要となるという基本方針を今年度中に策定することを考えています。
この基本方針は全く机上のもので、「将来は県南地域の水道用地下水を減らすから、思川開発の水が必要となる」とただ語っているだけのものです。制度的な裏付けがない実現性が皆無のものですから、常識的には「水道事業認可」の代わりになり得るはずがないのですが、栃木県はこの基本方針で思川開発の検証で課せられた課題を乗り切ろうとしています。

4 栃木県の基本方針の誤り

(1) 水道用地下水削減の理由1)の誤り
基本方針1)は、「県南地域における地下水依存率は高く、栃木市をはじめとする2 市2 町は全量を地下水のみに依存しており、地下水の代替水源としての表流水を全く有していない。」としていますが、水道の地下水依存率が高いことは何も問題ではありません。
全国的に見れば、水源を地下水のみを依存している水道は数多くあります。例えば、よく知られているように、熊本市水道は地下水のみを水源としているので、低廉、安全でおいしい水道水を市民に供給することが可能となっています。 水道水源を地下水のみを依存することが問題となるとすれば、次の三つのケースです。

1)) 水道の需要が増加して、地下水源だけでは対応できなくなる。  栃木県の「検討案」27ページに書かれているように、県の水需要予測でも県南地域の給水量は将来は人口減少とともに減ることになっており、1))のケースは考える必要はありません。
  2)) 地盤沈下が進行しているため、地下水依存率を下げなければならない。  後記(2)1)で述べるように県南地域の地盤沈下は十分に沈静化しているので2))のケースも考える必要はありません。
  3)) 水道用地下水の汚染が起きているため、その使用の一部が困難になっている。
後記(2)3)で述べるように、県南地域の水道用地下水は汚染の問題がないので、3))のケースも考える必要はありません。
以上のように、「栃木市をはじめとする2 市2 町は全量を地下水のみに依存して」いることは上記の1))、2))、3))のいずれにも該当していないのですから、何も問題はありません。

(2)水道用地下水削減の理由2)の誤り
基本方針2)は、「県南地域においては、地盤沈下や地下水汚染が危惧されており、水道水源を地下水のみに依存し続けることは望ましくない。」としていますが、そのようなことはありません。
1) 県南地域の地盤沈下は沈静化しています。
「地盤沈下防止対策のための地下水採取規制のあり方について 」(中間報告)(平成23年11月 栃木県環境審議会) によれば、県南地域の地盤沈下の推移は図-1のとおりです。問題となる地盤沈下(年間2cm以上)は1997年以降、2004年、2010年に若干観測された以外は見られなくなっています。2004年、2010年は5〜8月の降水量が例年より少ない特異な年です。
このように年間2cm以上の沈下面積は過去13年間、ほぼゼロ行進が続いており、県南地域の地盤沈下は十分に沈静化していると言っても過言ではありません。
しかし、栃木県の「検討案」にはこの図は記載されておらず、「地盤沈下が進行している」という事実とは異なる記述がされています。
県はなぜ地盤沈下沈静化のグラフを示さないのでしょうか。

2) 県南地域の地下水揚水量のうち、水道用水が占めるのは2割だけです。
   栃木県はその事実を表に出さないようにしています。
    栃木県環境審議会の上記「中間報告」は県南地域・地下水採取量の用途別内訳の図も示しています。その図-4を見ると、最新年2009年は農業用65%、水道用19%、工業用14%、建築物用2%であり、水道用は2割弱に過ぎません。地盤沈下は上述のとおり、沈静化しているので、地下水揚水の削減は不要ですが、そのような状況下で、なぜ2割に過ぎない水道用地下水を問題にしなければならないのか、不可解です。仮に県の基本方針のとおり、水道用地下水を35%削減としたとしても、全地下水揚水量は7%減るだけです。
 百歩譲って地下水の削減が必要だとすれば、農業用地下水の削減に取り組むべきであり、水道用地下水のみの削減を考えるのは筋違いです。
  なお、栃木県の「検討案」19ページにも県南地域の地下水採取量の用途別内訳の経年変化図が示されていますが、そこでは上記の図−4とは異なり、農業用水と都市用水(工業用+水道用+建築物用)だけが示されており、水道用地下水が2割弱しか占めていない事実が分からないようになっています。県の「検討案」では図の恣意的な作成がされているのです。

栃木県の「検討案」21〜22ページには栃木県内の地下水汚染地区数の経年変化図が示され、あたかも県南地域の水道用地下水にも水質汚染の危機が迫っている印象を与えています。
しかし、そこで取り上げている地下水汚染は一般井戸(農業用や家庭用等の浅井戸)のデータであり、水道水源井戸ではありません。栃木県砂防水資源課によると、県南地域における水道水源井戸の汚染はゼロだとのことです。
県南地域の水道水源井戸は非常に清浄です。たとえば、栃木市の薗部浄水場の2011年度の水道水質を見ると、地下水汚染の水質項目であるトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンはゼロに近く、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素は水質基準の2割程度で、非常に良好な水質を維持しており、地下水汚染の心配は皆無です。
水道水源井戸は清浄であるにもかかわらず、栃木県の「検討案」は地下水が危ないという先入観を植え付けるような恣意的な作成がされており、きわめて問題です。

(3)水道用地下水削減の理由3)の誤り
基本方針3)によると、「異常気象による渇水リスクが高まる中、県南地域には水道水源として利用できる水資源開発施設がない。」とのことです。
異常気象による渇水リスクが実際にどの程度あるのか、不明ですが、仮にそのような渇水があった時に、降雨の影響を直接影響するのは地下水ではなく、表流水の方です。ですので、この問題は地下水依存率を減らす理由には全くなりません。栃木県は正反対の話をしています。

(4)水道用地下水削減の理由4)の誤り
基本方針4)は、「水資源開発には相当な期間を必要とすることから、長期的な展望に立って、事前対策を講じていく必要がある。」としています。
長期的な展望に立てば、人口の減少で水道の需要が次第に減っていくことは必至ですから、新たな水源の必要性が今後はますます失われていきます。この問題についても栃木県は逆のことを言っています。

5 更なる問題
(1)開発水を2市3町に供給することは費用の面でも実現性が皆無です。    県は県南地域の水道の地下水依存率を基本方針どおりに下げるための必要な追加投資額を明らかにすべきです。
    栃木県が思川開発の予定水利権0.403n3/秒を得るために負担する金額は64億円(国庫補助金を含む)にもなります。水資源機構ダムの場合は、利水負担金はダム完成までは水資源機構が起債で立て替えて負担し、ダム完成後に水資源機構がその起債の元利償還金の支払いを利水予定者に求める仕組みになっていますので、いずれ、県民は思川開発の高額負担金の負担を強いられることになります。
そして、思川開発事業の開発水を仮に栃木市、下野市、壬生町、野木町、岩舟町に供給する場合は、思川から取水して各市町まで配水するまでの取水施設、導水施設、浄水施設、配水施設を新たに建設しなければなりません。その建設は巨額の費用がかかります。通常は水源開発負担金の3倍以上はかかりますので、200億円を上回る追加投資が必要となります。
そのように巨額の投資を今後行うことはありえないことですから、費用の面から見てもその実現性は皆無です。
今回の県の基本方針は実現性が全くないことが書かれているのです。
栃木県は県南地域の水道の地下水依存率を基本方針どおりに下げるために、どれほどの追加投資をしなければならないのか、県民にどれほどの負担を求めることになるのかを具体的に示すべきです。机上の話だけで、思川開発への参加を続けることは許されることではありません。

(2)県南地域は小山市も含めると、地下水依存率は目標値をすでに達成
 栃木県の目標設定では県南地域の水道の地下水依存率を現状(平成22年度)82.4%を目標年度である平成42年度に65%(中間目標値)まで引き下げることになっています。
  しかし、この目標設定は、あくまで思川開発の予定水利権の必要性を示すためにつくった机上の話であり、実現性が皆無であることは(1)で述べたとおりです。
しかも、この地下水依存率の数字は、県南地域の中心部に位置する小山市を除いた数字です。小山市は地下水依存率が低く、水道の規模が大きいので、小山市〔注〕を含めた現在の地下水依存率を求めると、大幅に下がり、現状ですでに66%になっています。目標値をほぼ達成しているのです。
地下水依存率を下げなければならないと栃木県はしきりに主張していますが、県南地域全体で見れば、その目標はすでに達成されているのです。
これを見ても、今回のパブリック・コメントで示した栃木県の基本方針・目標設定は、思川開発への参加を続けるために、無理矢理作ったものであることが明白です。
以上
〔注〕小山市は思川開発に別途参加しているため,除外されている。


●保全地域について考えるべきである

意見書のp5に「栃木県環境審議会の上記「中間報告」は県南地域・地下水採取量の用途別内訳の図も示しています。その図-4を見ると、最新年2009年は農業用65%、水道用19%、工業用14%、建築物用2%であり、水道用は2割弱に過ぎません。」と書かれていますが、注意が必要です。

栃木県環境審議会の上記「中間報告」のp4には、「県南地域(対策要綱に基づく保全地域及び観測地域)における地下水採取量の推計値 及び推計方法について図-4に示す。」、「栃木県では実際の地下水採取量が把握できていな いため、統計資料等から地下水採取量を推計しているが、これによると、地下水採取量 は平成 6 年が過去最大で、平成 9 年以降は概ね減少傾向にある。」と書かれています。

水道用の地下水採取量が2割弱という話は、保全地域と観測地域で採取量を合計した上での話です。

観測地域には、足利市、佐野市、真岡市、上三川町、二宮町などの思川開発事業と関係がなく、地盤沈下も問題となっていない地域が含まれています(「地下水年報(第26回)」2005年、栃木県生活環境部環境局環境管理課発行、p308)。

足利市と佐野市では、地盤沈下は問題になっていません。もし100%地下水源の水道用水が原因で地盤沈下が問題になっているなら、足利市は草木ダムの工業用水0.3m3/秒を有し、佐野市は草木ダムの水道用水0.3m3/秒を有しているのですから、それらを転用・利用して水源の切り替えを行っているはずですが、両市は現在も地下水100%の水源を使い続けており、水源転換の話は聞こえてきません。

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)」(以下「案」という。)に書かれているように、栃木県は、思川開発事業の検証作業において国から「追加資料を提出するよう要請があった。」(p1)ので、パブコメを実施しているのですから、足利市や佐野市や真岡市における地下水採取量は除外して考えるべきです。

●野木町と旧藤岡町の採取量は保全地域における採取量の3.5%にすぎない

では、保全地域での地下水採取量とそのうち水道用水の割合はどうかというと、少し古いデータですが、私たちが提起している3ダム訴訟において2006年10月26日に提出した原告準備書面10のp65及びp66をご覧ください。

環境省「全国地盤環境情報ディレクトリ」(2004年度版)によると、1998年における保全地域での地下水採取量は、次のとおりです。 工業用 53,890m3/日
建築物用 8,685m3/日
水道用 16,082m3/日
農業用 124,411m3/日
合計 203,068m3/日

「このように、小山市、野木町及び藤岡町における地下水揚水量のうち、水道用水の占める割合は、8%(16,082m3/日÷203,068m3/日)にすぎない。」のです。

そのうち、小山市の採取量の占める割合が約56%(原告準備書面10p65表6−1)ですから、野木町と旧藤岡町の採取量は、保全地域における採取量の3.5%にも満たないのです。

で、思川開発事業について栃木県が確保した0.403m3/秒によって、保全地域における水道用水16,082m3/日をすべて表流水に切り替えるのかというと、野木町の転換予定水量はゼロで、旧藤岡町の転換予定水量は689m3/日です。

小山市の転換予定水量1,400m3/日を加えても、当初の計画では、栃木県の保全地域の地下水採取量を思川開発事業で削減できる水量は、2,089m3/日÷203,068m3/日=1.0%にすぎないのです。

こうした事実を隠して県民に意見を求めるのは、フェアではありません。

仮に保全地域の地下水採取量の全量を思川開発事業による開発水で転換できたとしても、最大で8%しか採取量を削減できないのですから、思川開発事業が保全地域の地盤沈下対策にならないことは明らかです。

● 地下水依存率は92.2%

意見書のp9に「県南地域の水道の地下水依存率を現状(平成22年度)82.4%」と書かれていますが、誤りです。

案のp13の図表3−14のグラフには県南関係市町平均の地下水依存率は92.6%と書かれています。

p25には、「現時点の地下水依存率約90%」と書かれています。

正解はどこにあるのでしょうか。

「栃木の水道」(2010年度版)を見てみましょう。

検討の対象区域である栃木市、下野市、壬生町、野木町、岩舟町の2市3町の保有する水源の量は、次のとおりです。

栃木市(栃木) 33,900m3/日
栃木市(大平) 16,600
栃木市(藤岡)  11,000
下野市  27,433
西方町(現在は栃木市)  4,060
壬生町  25,000
野木町  14,500
岩舟町  12,900
合計   145,393

そのうち、野木町の11,300m3/日だけが表流水ですので、145,393m3/日−11,300m3/日=134,093m3/日が地下水源ということになります。

したがって、2市3町の地下水依存率は、134,093m3/日÷145,393m3/日=92.2%となります。

案にある約92.6%との差は何かというと、案は、保有水源量ではなく、実績の取水量で依存率を計算しているようです。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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