栃木県公共事業評価委員会は茶番だ(賛成意見を検証してみた)

2013年2月25日

●賛成意見(その1)

前回紹介したように、栃木県南地域における水道水源確保に関する検討(案)に賛成する意見は、21件のうち2件でした。

賛成意見を検証しましょう。

まずは、19番の栃木市民の意見です。

19
栃木市に生まれ育った者です。
今回の検討案を読ませていただいて、自分の住む栃木市の水道水がすべて地下水からのものであることを知りました。
今まで大きな問題もなく、水道水に困った記憶はありませんが、最近世界的に異常気象が頻発していることを考えると、今後、他からも水道水が採れるように準備しておいていただけるとありがたいと思います。
なお、この検討案を読むと、表流水よりも地下水のほうが悪いように感じられますが、コストや味など地下水のほうが良い点もたくさんあります。
問題なのは、地下水だけしか取っていないで、いざというときの備えがないことだと思います。県の考えたバランスが良いのかはよくわかりませんが、徐々に様子を見ながら転換していくことがよろしいと思います。


●漠然とした不安は公共事業の根拠にならない

この意見のどこが問題でしょうか。

「最近世界的に異常気象が頻発していることを考えると、今後、他からも水道水が採れるように準備しておいていただけるとありがたい」と言っており、異常気象による渇水が心配な方のようです。

この意見は、異常気象により上水道における地下水の採取が困難になることを前提としています。

異常気象とは具体的にどのような現象を指すのかがこの意見からは明らかではありませんが、異常気象で地下水の採取が困難になるという事実があるかどうか証明されていないのに、そういう事実があるという前提で立論していることが不当です。この意見は、事実に基づいて判断しているとは評価できません。

今後の水道行政において現実に起こりうる不安と言えば、設備の故障や大規模な漏水による断水でしょう。データは持っていませんが、多くの水道事業体でほとんどの施設・設備は耐用年数を超えて使用されていると思います。

水道行政にカネを使うなら、老朽管の更新や施設の耐震化でしょう。

ダムで大体水源を確保するのは、完全にピントがずれています。

●コスト意識が欠落している

次に問題なのは、この意見にはコスト(環境コストも含めて)意識がないということです。

これまでどのような異常気象が原因で地下水の採取がどの程度困難になったのかを科学的に説明できなければ税金を使うべきではありません。「何となく不安だから」という理由で公共事業を実施することが許されるなら、事業費はいくらあっても足りませんし、そもそも「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」(地方財政法第4条第1項)という法律に違反します。

この意見は、法律に違反すると思います。

地下水源の代替水源を用意するということは、ダムを建設するということであり(本当は栃木県内の未利用水利権を転用するという方法も考えられますが、栃木県は、それはできないと裁判の中で主張しています。)、環境を破壊し、導水管工事で鹿沼市の地下水脈は絶たれ、黒川と大芦川の水量が減少し、農業用水や両河川で涵養される地下水を水源とする水道水の取水に障害が出る公算が大です。そのほか栃木県が利水で64億円(プラス治水負担金146億円)のダム建設負担金を支払い、水道用水供給事業の実施に要する施設建設費もかかり、それらを参画市町に転嫁することになります。

この意見の主は、代替水源を用意することでどのようなコストが発生するのか、悲惨な事態が起きるのか、ご存知ないのだと思います。

この意見は、代替水源を確保するために失うもののことを考えていないとしか思えない点で不当です。

●表流水はもっと渇水に弱い

3番目の問題点は、この意見の主が表流水が地下水源の代替水源として有効なものと考えていると思われる点です。

異常気象のため地下水位が低下し、地下水の採取が困難になったときには、表流水の取水はもっと困難になっていると考えるのが常識的な考え方ではないでしょうか。ダムでためた水を流せば大丈夫と言うのでしょうか。

ダムがあっても雨が降らなければ渇水被害は起きますし、特に南摩ダムは水のたまらないダムです。地下水が使えないほど水位が下がったときに、ダムの水が使えると思うのはあまりにも楽観的です。自然は人間の思うようには動いてくれません。

降雨が少なく断水騒ぎになるのは、表流水への依存率が高い地域であることは周知の事実です。地下水を水源としている県南関係市町で渇水で断水した話など聞いたことがありません。

表流水、特に水がたまらないことが証明されている南摩ダムの水が地下水源の代替水源となると考えるのは、あまりにも楽観的で不当です。

物事を判断するには、考慮すべきものを考慮し、考慮すべきでないものは考慮してはいけないことは当然のことですが、この意見は、考慮すべきでないものを考慮し、考慮すべきものを考慮しないでなされた判断と評価せざるを得ず、不当です。

なお、この意見は、「コストや味など地下水のほうが良い点もたくさんあります。」と真っ当なことも言っています。

「(栃木市の水道水源が地下水100%でも)今まで大きな問題もなく、水道水に困った記憶はありません」と言っていることも重要です。

●賛成意見(その2)

次に、21番の宇都宮市民の意見を見てみます。

21
今回の検討案を見て、県南の他地域に比べ県南地域の地下水依存率が非常に高いことに驚きました。県南地域に住んでいる方々は、この現状に納得しているのでしょうか。
人口や産業が集積している県南地域の水道水源がこのような状況では不安であろうと感じます。
私の住む宇都宮市においては、地下水と表流水をバランスよく使用していると聞いています。どのくらいの割合で表流水を確保すればよいのかは分かりませんが、将来何らかの理由により、地下水が使用できなくなった場合の代替水源は必要であると思います。
県の方針は、県民として理解できます。


● 地下水依存率が高くて何が悪いのか

この意見の主は、地下水依存率が高いことは望ましくないという栃木県の論証されていない説明を頭から信じています。

では、地下水依存率はどれくらいが良いのかという点について、栃木県は、「現時点における全県下平均的な安全性を確保することとし、40%を基本目標として設定する。」(検討(案)p25)と言っています。

このような非科学的な主張を信じてしまうことは、犯罪的であると思います。

●宇都宮市上水道が自慢できるのか

宇都宮市では、「地下水と表流水をバランスよく使用している」という宇都宮市の説明を信じているようですが、「水道水における放射性物質対策/中間取りまとめ/2011年6月」(水道水における放射性物質対策検討会) のp17には、2011年3月18日から5月1日まで宇都宮市の水道水から放射性ヨウ素が検出されたことが記載されています。

3月下旬には宇都宮市のホームページに次のような記事が掲載されたことをこの意見の主は忘れてしまったのでしょうか。

http://utsunomiya.mwjp.jp/mobile/?page=1409

地震関連情報
水道水の「放射能測定結果」及び「1歳未満の乳児への飲料水の配布」について

_ペットボトルの配布については、3月25日午後6時をもって中止いたします。
水道水の放射能測定結果及び乳児の摂取制限解除について

_市内水道水の放射能測定をしたところ、乳児向けの飲用基準を超える放射性ヨウ素が検出されました。
_大人や乳児以外の子どもが飲んでも健康に影響を与える量ではありませんが、当分の間、乳児への水道水の使用を控えるようお願いします。
_このため、1歳未満の乳児に対し、粉ミルクなどで使用する飲料水を1人当たり1リットル配布しますので、ご希望の方は、3月25日(本日)、午前11時から午後6時までに、各地区市民センター・地域自治センター、市役所本庁舎、上下水道局庁舎まで、母子手帳とペットボトルを入れるバッグをお持ちの上、お越しください。
_乳児向けの飲用基準は、長期にわたり飲用した場合の健康影響を考慮しているため、代替となる飲料水が確保できない場合には、水道水を使用しても差し支えありません。
_測定結果(3月24日)栃木県保健環境センターの蛇口水(松田新田浄水場からの供給水)を検査
単位:Bp/kg(ベクレル/キログラム)
_放射性ヨウ素108Bq/kg、放射性セシウム4.8Bq/kg、
_指標値_放射性ヨウ素300Bq/kg(乳児基準値100Bq/kg)、放射性セシウム200Bq/kg、
_主な連絡先について
_詳しくは、電話で、上下水道局経営企画課へお問い合わせください。
経営企画課
028-633-3230

この意見の主は、乳児を持つ親の気持ちになれないのでしょうか。

宇都宮市で乳児に飲ませるミルクを水道水で作れなくなってしまったのは、宇都宮市が表流水を水源としていたからです。

今でも宇都宮市の浄水汚泥(浄水発生土)からは、放射性物質が出ています。ということは、浄化に失敗すれば、また、水道水の中に放射性物質が入ってくるということです。

県南関係市町は宇都宮市を見習え、みたいな発想には理解しがたいものがあります。

そして、この宇都宮市民も、県南関係市町が代替水源を確保すれば、その代償として何が失われるのかを考えようともしないように見えます。

考慮すべきことを考慮しないでした判断が正しいとは思えません。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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