栃木県知事は公開質問に回答しなかった

2013年5月5日

●栃木県知事への公開質問の回答書が届いた

思川開発事業を考える流域の会は、2013年4月1日に栃木県知事に思川開発事業に関する公開質問書(PDファイル250KB)を送付しました。回答期限を4月25日でお願いしました。

「改めて調査や検討をしないと回答できない質問はないと思料しますが、万一ある場合は、「現時点で不明」等とご回答ください。」というお願いもしました。

ところが、4月27日に届いた回答は、ゼロ回答でした。回答文は以下のとおりです。

砂水第37号
平成25年4月26日
思川開発事業を考える流域の会 代表 (ここでは省略) 様
栃木県知事 福田富一
思川開発事業に関する公開質問書について(回答)

本県がまとめました「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」は、国のダム事業検証の検討にあたり、思川開発事業の「検討の場(幹事会)」において、検討主体から求められた本県の思川開発事業に係る利水参画根拠の妥当性を確認するための報告書であります。

思川開発事業については、現在、国などが進めている「検討の場」において検証が進められることになっておりますので、ご理解下さいますようお願い致します。

砂防水資源課
ダム水資源担当
TEL 028-623-2565
FAX 028-623-2456

いくら年度切り替えの忙しい時期とはいえ、たった6行の回答文を書くのになぜ3週間以上もかかるのでしょうか。

●知事の回答拒否は初めてではない

思川開発事業を考える流域の会は、2011年2月1日にも次の文章で始まる公開質問状を福田富一知事に送付しましたが、訴訟係属中を理由に回答を拒否されました。

 栃木県は、八ツ場ダムの総事業費が約4,600億円であった場合、そのうちの約10億4,000万円を支払う予定となっています。
 この八ツ場ダムの必要性について、政府は昨年12月に国と関係自治体の首長らによる「検討の場」を設け、再検証作業を開始しました。  
 報道によれば、貴職は、この「検討の場」に関係自治体の知事として参加されます。貴職の考え方が、栃木県が約10億4,000万円を払うか払わないかについての命運を決する可能性がありますので、私たちは、栃木県民として貴職のお考えを是非知りたいと考えております。
 そこで、別紙の質問にお答えくださるようお願い申し上げます。
 勝手ながら2月28日(月)までにご回答をいただければ幸いです。
 回答は、同封の返信用封筒にてご返送ください。  
 

2012年8月28日にも、ムダなダムをストップさせる栃木の会、思川開発事業を考える流域の会及びダム反対鹿沼市民協議会は、連名で「思川開発事業からの撤退等を求める申入書を砂防水資源課職員に手渡し、どう対処するのか回答を求めましたが、県から送付された2012年9月18日付け砂水第139号の「思川開発事業からの撤退等を求める申入れ書について(回答)」には、「利水に関するひとつのご意見として承らせて頂きます。今後とも、本県県政の推進にご協力いただけますようお願い致します。」と書かれており、回答拒否でした。  

質問に答えない福田富一知事に協力できるわけないと思います。  
 
●知事の対応は総合計画に違反している

知事が答えない理由は、思川開発事業については国と水資源機構で検証を進めているので、県民に説明責任を果たす必要がないということのようです。
しかし、栃木県が2011年2月に策定した総合計画である「新とちぎ元気プラン」(計画期間 2011〜2015年)の第3章のp78に次のように書かれています。

1 協働によるとちぎづくり
「地域をともに創る」 という考え方に立って、多様な主体が積極的に社会に参画し、様々な課題を解決しながら、よりよい 地域を創っていくため、県民に開かれた県政とともに、地域における協働を推進していきます。

(1) 県民に開かれた県政の推進
目指すべき将来像に向かって、多様な主体による協働を広く展開していくためには、県民との間に信頼と責任あるパートナーシップを構築することが重要です。
このため県では…
・県政に関する様々な情報の積極的な発信と説明責任の徹底により、県民との情報の共有化を図っていきます。
・様々な機会を通じて県民の意見やニーズを把握し、県政への反映を図っていきます。

「多様な主体による協働」、「県民との間に信頼と責任あるパートナーシップを構築する」、「県政に関する様々な情報の積極的な発信と説明責任の徹底」、「県民との情報の共有化」と真っ当なことが書かれています。

しかし、知事は、総合計画に書かれていることを実行していないと思います。

県政に関する県民からの質問に答えないのでは、「説明責任の徹底」になりませんし、「県民との間に信頼と責任あるパートナーシップを構築する」ことはできません。

計画は、実行できたかどうかを評価しなければ、ただ計画を作っただけで終わってしまいますから、評価しないと意味がありません。

栃木県総合政策課に「県民に開かれた県政の推進」が実行されたかどうかを評価しているのかを質問したところ、この課題については評価の対象となっていないとのことでした。

つまり、守るつもりがないことを書いても、総合計画の手続上は問題がないというわけです。

もし、知事が説明責任を果たさないことを県民が問題視するなら、それは政治の問題であり、選挙で知事を落とせばいいという理屈になります。

しかし、知事選は2012年11月18日に執行されたばかりです。有権者の28.6%が福田氏に投票して福田氏は再選を果たしました。栃木県民にリコールするエネルギーはありません。したがって、今の福田知事はやりたい放題です。

栃木県は、思川開発事業について治水負担金として130億円、利水負担金として64億円、合計194億円を負担することになっています。そのほか水源地域対策基金に対する利水・治水関係負担金も支払うことになります。ダム完成後は、維持管理費も支払うことになります。借金の利息も払うことになります。

そのような大事業について、福田知事は、県民からの質問には答える必要がないと考えています。国と水資源機構が検証を進めている間は説明責任がなくなるという考え方は、到底理解できるものではありません。

「県政に関する様々な情報の積極的な発信」と総合計画に書いてあるのですが、福田知事は、知事が進める県政にリコールでもしてみろ、訴訟でも起こしてみろという考え方をしているのだと思います。情報が欲しければ情報公開請求をしなければ教えてやらないぞというわけです。

●「選択と集中」と矛盾しないか

総合計画と言えば、「新とちぎ元気プラン」を紹介するホームページには、「「新とちぎ元気プラン」の特徴として、従来の網羅的な総合計画から、重点的な戦略としたことが挙げられます。限られた行財政資源を有効に活用しながら、優先度や重要度に基づく選択と集中よる(原文のママ)施策の重点化を図っています。」と書かれています。

冒頭の知事のあいさつには、次のように書かれています。

そこで、私は、限られた行財政資源を有効に活用しながら、県民益の最大化を追求していくため、とちぎづくりの原点である「人づくり」を着実に推し進めながら、思い切った「選択と集中」による政策の重点化を図ることとしました。

知事は、「限られた行財政資源を有効に活用」とか「県民益の最大化を追求していく」、そのために「思い切った「選択と集中」による政策の重点化を図る」と言いながら、なぜ時代錯誤の思川開発事業を選択し、2013年度にも4億円の県予算を計上し、国等に200億円以上も払うのか理解できません。

栃木県がやるはずの水道用水供給事業は全く具体性がなく、南摩ダムの水は使う当てがないのですから、税金の無駄遣いをやめるという視点があるなら、真っ先に切る事業のはずです。

南摩ダムの治水効果もほとんどありません。その流域面積は12.4km2と非常に小さく、小山市の乙女地点の流域面積760km2の1.6%、栗橋(埼玉県久喜市)の流域面積8,588km2の0.14%しかないからです。

●県は情報公開請求をされなければ情報を出さない

「栃木県環境審議会地盤沈下部会報告書−地 盤 沈 下 防 止 対 策 の た め の地下水採取規制のあり方について−」(2012年1月 26 日栃木県環境審議会地盤沈下部会)のp4に図−4 県南地域における地下水採取量(推計値)の推移のグラフが記載されています。そしてホームページに掲載されています。

グラフの基となるデータを知りたいと思い、データを教えてくれるよう栃木県環境保全課にメールを送りました。数日後も返事が来ないのでこちらから電話をかけると、電話に出た職員は、「今返信するところだった。公表しているデータではないので教えられない。」と回答しました。

私が「メールでは教えられないが、情報公開請求をすれば公開するということですか。」と聞きますと、そのことについては今回答できない、請求書が出されてから判断する、とのことでした。

結局、情報公開請求をして開示されたのですが、どうせ公開するなら、お互いにとって無駄手間だと思います。

「公表しているデータではないので教えられない。」という理由は、理由になっていません。

グラフを公表した以上、基となるデータを公表しないわけにはいきません。グラフを公表してデータを公表しなかったら、グラフが虚偽だったと疑われることになりますし、訴訟にまで発展すれば、知事は必ず負けるからです。

いちいち情報公開請求の手続を経ることが無駄であろうとも、とにかく簡単に情報を出さないというのが福田知事の政治姿勢です。

少なくともこんな時代があと3年は続くことになります。

私は、必要なダムなら建設したらいいと思いますが、造りたい人たちが建設のための合理的な説明をしようとしないのですから、どうしようもありません。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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