下野新聞が南摩ダム関係の水需要を検証

2009-12-23

●だれが検証しても水余り

2009-12-20下野が南摩ダムの利水について次のように報じています。1面トップの力作です。2面にも関連記事があります。

給水量1.5倍の水源保有 南摩ダム参画の県南2市6町

鹿沼市の思川開発(南摩ダム)事業に県を通じて参画している県南の2市6町は、年間で最も給水量が多い日(1日最大給水量)の実績値に対して平均で1・5倍の水源を保有していることが、下野新聞社の調べでわかった。人口減少期を迎えていることなどから現状でも十分な給水能力を備えていることがうかがえるが、南摩ダムへの参画理由について多くの自治体が「安定した水道供給のため地下水から河川水への転換が必要」などと回答している。

 南摩ダムに県を通じて参画しているのは栃木、下野、西方、壬生、野木、大平、藤岡、岩舟の2市6町。給水量は2007年度の数値で計算した。参画水量の合計は県保有分を含め1日あたり約3万5千立方メートル。各市町の1人1日あたりの最大給水量実績値の平均で割ると、約8万7200人分の水量を現在の保有水源以外に求めようとしている。同ダム建設で県は、利水分として64億円の負担を求められている。

 1日最大給水量の実績値と保有水源量の差が最も大きいのは壬生町と藤岡町の1・8倍。南摩ダムへの参画に当たり壬生町は約8500人分、藤岡町は約5400人分の水を求めており、これを加えると実績値との差は両町とも2倍を超える。

 逆に差が最も小さいのは西方町の1倍。同町水道課では「07年度は突出した数字で漏水か、火災か、水量の読み違いか理由がわからない」と説明。08年度は1・1倍だった。同町は「万が一に備えて井戸を1本掘った。今は若干の余裕がある」としている。

 2市6町に南摩ダムの水道水を供給する県は「計画上の1日最大取水量しか分からない」として、個別の保有水源量を把握していなかった。下野新聞社の調査結果について県生活衛生課の担当者は「水源に余裕のない西方町以外は適正な範囲ではないか。水道行政はある程度の余裕がないとできない。南摩ダムへの参画は各自治体の判断」と話している。

 県内でこの2市6町のほか、鹿沼市と小山市が南摩ダムに単独自治体として参画。水需要は県を相手に南摩ダムなどへの負担金支出差し止めを求めた住民訴訟で、争点の一つとなっている。

 【ズーム】
 保有水源量
 公表されていないため各市町への聞き取り調査で割り出した。渡瀬遊水地に安定水利権のある野木町を除き、2市5町の水源はすべて地下水。認可された給水量から未掘や休止中の井戸を差し引き、現状で見込める最大の給水能力を保有水源とした。水道施設で生じる給水ロスは見込んでいない。  
 

記者が「人口減少期を迎えていることなどから現状でも十分な給水能力を備えていることがうかがえる」と書いており、「県生活衛生課の担当者は「水源に余裕のない西方町以外は適正な範囲ではないか。」」と言っているように、思川開発事業に参画する自治体は、だれが検証しても水余りであるし、県もそれを認めざるを得ないのです。  

県生活衛生課の担当者は、西方町以外は適正な水源量を確保していると言いながら、「水道行政はある程度の余裕がないとできない。南摩ダムへの参画は各自治体の判断」と話していますが、県は、県内の水道事業体がつぶれないように、あるいは県民が払う水道料が不当に上がらないように指導する責任があると思います。そのためには、「ある程度の余裕」とは、どの程度の余裕なのかをはっきり言うべきですし、記者も突っ込んで聞いた方がよかったと思います。  

「南摩ダムへの参画は各自治体の判断」と言われると、各自治体が自由に判断したような印象を受けますが、実際は、県があの手この手を使って参画するように働きかけたという経緯があります。そのことは別のページで書く予定です。  

 ●河川水に転換すると安定するか  

「南摩ダムへの参画理由について多くの自治体が「安定した水道供給のため地下水から河川水への転換が必要」などと回答している」そうですが、本気でそう考えている職員がいるのでしょうか。  

水道職員がバイブルとしている水道設計指針(2000年版)p22には、「地表水、特に河川表流水は降水の影響を強く受けるという特性を有する。」と明記しています。反面、地下水は、降水の影響を強くは受けないということです。  

鹿沼市でも、晴天が続き、黒川や大芦川の流量が相当減ることがありますが、それでも鹿沼市上水道が断水しないのは、地下水を水源としているからです。地下水源の方が安定しているのです。地下水源を放棄して河川水へ転換していったら、安定度は下がります。  

そんな素人でも分かる真実を水道職員が否定しているということです。  

水道部職員はサラリーマンだから市長の方針には逆らえない、という理由で「安定した水道供給のため地下水から河川水への転換が必要」と言っているとしたら、例えば組合を通すなどして「職員にウソをつかせるな」と市長に抗議し、方針の転換を求めるのが筋ではないでしょうか。  

給料をもらうためには市民に対してウソをつくこともやむを得ないと考えている職員がいるとしたら、おかしな考え方だと思います。  

 ●地下水100%で何が悪いのか  

厚生労働省は、「安定した水道供給のため地下水から河川水への転換が必要」などという通達を出していません。本当にそういう通達がないかどうか証明できませんが、もしあるのなら、ダム事業に参画したい首長や職員が錦の御旗のようにして、裁判でもとっくに示しているはずです。すべての水道事業体ではなく、ダム事業に参画する自治体の水道事業体だけがそんなことを勝手に言っているだけです。  

熊本市では、67万人が地下水100%の水道で暮らしています。そのどこがいけないのでしょうか。鹿沼市や小山市の市長や水道職員は、「熊本市は危機管理ができていない」とでも言うのでしょうか。それとも、「水利権は取得するが、ダムの水(河川水)を使うつもりはない」と公言している鹿沼市長の場合、自らを危機管理能力がないと自己批判するのでしょうか。ヨーロッパでも、地下水源を優先的に使っているようですが、危機管理ができていないとでもいうのでしょうか。地下水と河川水の両方を使うことが危機管理だ、なんていう常識は世界的には存在しません。  

市民の払った税金で食べている市長や職員が、なぜ市民にウソをつき、市民の利益に反する政策を執行しようとするのか。そしてほとんどの議員がそれをチェックせずに加担するのか。未だに分かりません。  

 ●記者がだまされた  

西方町では、1日最大給水量の実績値と保有水源量の差がほとんどありません。西方町の2007年度の1日最大給水量は4,026m3/日です。保有水源量は4,060m3/日です。確かに水源に余裕がないことになります。  

このことについて同町水道課では「07年度は突出した数字で漏水か、火災か、水量の読み違いか理由がわからない」、「08年度は1・1倍だった。」と説明したそうです。  

私の聞き取り調査によると、西方町の2008年度の1日最大給水量は3,637m3/日でした。保有水源量4,060m3/日÷3,637m3/日=1.1ですから、「08年度は1・1倍だった。」は正しいわけです。  

分からないのは、「07年度は突出した数字」という部分です。西方町の1日最大給水量の推移は次のとおりです。
                                                                
年度1日最大給水量(m3)
1997年度3,921
1998年度3,826
1999年度3,455
2000年度3,735
2001年度3,768
2002年度3,751
2003年度3,906
2004年度4,038
2005年度4,055
2006年度4,026
2007年度4,026
2008年度3,637
    
    出典:「栃木の水道」(栃木県作成)     

2007年度の数字(4,026m3/日)は突出していません。2005年度には、それよりも29m3/日多い4,055m3/日を記録しています。2004年度以降、4,000m3/日を超えているのです。     

1997年度にも既に3,921m3/日を記録しています。保有水源量4,060m3/日÷3,921m3/日=1.04ですから、12年前から既に、「1日最大給水量の実績値と保有水源量の差が」、「1倍」だった、つまり、水源の余裕はゼロだったのです。     

「07年度は突出した数字」ではないことは明らかです。2008年度の数字の方が急激に落ち込んだ数字なのです。     

そんなわけで、西方町水道課職員は事実に反することを言っています。記者がだまされたというわけです。分からないのは、なぜ西方町水道課職員が事実に反することを言わなければならなかったのかということです。     

    ●ダム事業に参画する資格がない     

「同町水道課では「07年度は突出した数字で漏水か、火災か、水量の読み違いか理由がわからない」」と話したそうですが、火災(消防用水)を持ち出すのは変です。     

西方町の2007年度の1日最大給水量は4,026m3/日であり、この数字は、2007年8月13日に記録された数字です(出典:「栃木の水道」(2007年度版))。この日に、西方町の水道水源がカラになるほどの消火活動をした大火災が同町にあったという記憶はありません。仮にあったとしても、上記のように、西方町の1日最大給水量は2004年度以降、4,000m3/日を超えているのですから、消防用水では説明がつかないと思います。     

西方町上水道で漏水が多いのは事実です。西方町の2007年度の有効率は64.6%です。西方町では、給水量の3分の1が漏水で消えているということです。2007年度の1日最大給水量4,026m3/日は、給水量の64.6%にすぎないのです。では、給水量はいくらだったのか。4,026m3/日÷0.646=6,232m3/日だったのです。西方町は、6千m3/日を超える給水能力があるのです。漏水をゼロにするのは無理ですが、大幅に減らすことはできますから、大きな水源が生まれる余地があります。ダム事業に参画するより、漏水を減らす方が先でしょう。     

「水量の読み違いか」というのも分からない話です。水量の読み違いが何年も続くのでしょうか。そうだとしたら、西方町の水道統計は、統計としての意味がないということです。     

西方町では、給水量の3分の1が漏水しており、まともな水道統計もないのですから、ダム事業に参画する資格がないと思います。     

ちなみに、西方町上水道では、1日平均給水量と1日最大給水量がかけ離れています。2007年度で見ると、1日平均給水量は2,672m3/日で、1日最大給水量は4,026m3/日です。負荷率(=1日平均給水量/1日最大給水量)は、66.4%です。これは渡良瀬川水系の自治体で最低です。隣の壬生町の負荷率は87.5%です。西方町の負荷率を壬生町並みに上げれば、西方町の1日最大給水量は、1日平均給水量2,672m3/日÷0.875=3,054m3/日となります。水源の余裕率は、保有水源量4,060m3/日÷3,054m3/日=1.3倍となります。西方町のやるべきことは、ダム事業に参画することではなく、1日最大給水量が上がる原因を突き止め、これを減らす努力をすることです。     

    ●井戸が掘れるならダムは不要     

「同町(西方町)は「万が一に備えて井戸を1本掘った。今は若干の余裕がある」としている。」そうです。     

西方町は、人口は2004年の6,993人を、給水人口は2003年度の6,985人をピークに減少しているのですから、取水能力がどれだけある井戸を掘ったのか分かりませんが、井戸で水源を確保できるなら、ダム事業に参画する必要はないと思います。

(文責:事務局)
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