栃木市長も鹿沼市長も南摩ダムの水が必要だとなぜ言わないのか

2016-10-06

●栃木県内の参画団体は5団体である

思川開発事業に利水参画する栃木県内の自治体とその負担額は、次のとおりです。括弧内は参画水量。
栃木県(0.403m3/秒)負担額約64億円
小山市(0.219m3/秒)負担額約35億円
鹿沼市(0.200m3/秒)負担額約54億円(ただし、15.81億円を超える額は協定により栃木県が負担)

栃木県は、水道用水供給事業者として確保したものであり、県から受水する団体は、栃木市、下野市及び壬生町です。2001年から野木町も受水団体として予定されていましたが、2013年11月5日開催の2013年度 県南広域的水道整備事業検討部会(第2回)の資料である「県南広域的水道整備事業経費試算」によると野木町に割り当てられた水量はありませんので、野木町は思川開発事業からめでたく撤退したようです。

したがって、栃木県内で思川開発事業に参画する市町は、小山市、鹿沼市、栃木市、下野市及び壬生町の5団体ということになります。

なお、栃木市、下野市及び壬生町が利用する予定の水量は、上記試算によれば、次のとおりです。
栃木市(0.239 m3/秒。2014年に合併した岩舟町を含む。)
下野市(0.101 m3/秒)
壬生町(0.063 m3/秒)

●下野市長の意見は「表流水の確保が必要」

南摩ダム検証の検討主体である国土交通省関東地方整備局と水資源機構は、2016年6月22日付けで思川開発事業の検証に係る検討に関する意見聴取(協議)(2016 年度 第2回関東地方整備局事業評価監視委員会の資料「思川開発事業の検証に係る検討に関する意見聴取(協議)」に対する関係地方公共団体の長、及び関係利水者の回答の中に収録)という文書を関係都県の知事あてに出して、「思川開発事業の検証に係る検討報告書(原案)案」についての意見を求めています。検討主体は、河川法第16条の2に準じた方法での意見提出を求めているので、知事は、河川法施行令第10条の4第2項により関係市町村長の意見を聴いた上で、それらの意見とともに自分の意見を提出することになります。

栃木県を通して思川開発事業に参画する下野市の広瀬寿雄市長は、栃木県知事に次のように回答しました(6月29日付け上記資料p40)。

水道水を地下水に100%依存する本市においては、リスク分散の観点から、表流水による水源確保が必要であると考える。
なお、事業実施に際しては、近年の異常な豪雨等に鑑み、治水等にも十分に配慮しつつ、より一層のコスト縮減に努めていただきたい。

これまで思川の氾濫で下野市が水害にあったことはないと思われるのに、広瀬市長がなぜ治水のことを言うのか理解できません。普通は、南摩ダムが下野市の治水に役立つと考えるかを言うべきでしょう。

確かに、市長というものは、自分の市のことばかりを考えていればいいというものでもないでしょうが、広瀬市長が普段から他市町村の水害の状況にまで気を配っている人なのか疑問です。南摩ダムの建設によって生物多様性が損なわれることについてグローバルな視点から言及しないのは、ご都合主義ではないでしょうか。

利水についても、危機管理対策として表流水を確保することは不可欠ではありませんし、妥当な政策とは思えません。

不当な政策を妥当と言いくるめる点で悪質ですが、下野市が栃木県を通して利水参画している以上、建前としては、「表流水による水源確保が必要であると考える。」という意見を述べることは、筋ではあります。

●小山市長も利水に言及

大久保寿夫・小山市長は、6月30日付けで回答しています(上記資料p32)。

コピペができませんので、全文引用はしませんが、「安定した取水量を確保できますよう早期に事業の再開をしていただきたい。」と書いています。

小山市長も不当な政策を妥当であると言いくるめるもので悪質ですが、建前としては、このように書くのが筋だと思います。

●栃木市長は利水に触れず

ところが鈴木俊美・栃木市長は、次のように回答しています(6月24日付け上記資料p24)。

本市においては、平成27年9月の関東・東北豪雨において、死者1名、床上浸水635戸、床下浸水1,990戸のほか、収穫を迎えた農作物の被害や中小企業の施設への被害など、個人の財産のみならず本市の経済活動に多大な影響を被った。

渡良瀬遊水地を抱える本市としては、近年、益々気象変動が激しさを増す中で、日頃から治水事業の大切さと必要性を認識していることころではあるが、昨年の被害により改めてその重要性を再認識したところである。

従って、本報告書において最も有利とされる思川開発事業に期待をするところである。

鈴木市長は、「本市においては、平成27年9月の関東・東北豪雨において、死者1名、床上浸水635戸、床下浸水1,990戸のほか、収穫を迎えた農作物の被害や中小企業の施設への被害など、個人の財産のみならず本市の経済活動に多大な影響を被った。」と書いた意見を提出したわけですが、それが思川開発事業と何の関係があるというのでしょうか。

●鈴木市長が挙げる栃木市内の被害は思川と関係がない

鈴木市長が挙げる上記栃木市内の被害は思川とも思川開発事業とも関係がありません。

「2015 年 9 月関東・東北豪雨災害に関する検証報告書(概要版)」(2016年3月)p3以下を見ると、河川等の氾濫状況として次の7箇所が記載されています。

  1. 巴波川の溢水と市街地の浸水被害(約 171ha)
  2. 栃木地域片柳市営住宅周辺の浸水被害(約 11ha)
  3. 吹上地区赤津川の氾濫(約 20ha)
  4. 大平町蔵井地内の浸水被害(約 4ha)
  5. 大平町真弓地内の浸水被害(約 13ha)
  6. 藤岡町西前原の浸水被害(約 233ha)
  7. 都賀町臼久保の土砂災害

どれも思川と関係がありません。

思川の支流の南摩川にダムを建設することによって軽減できる被害なんてありません。

鈴木市長は、水害のイメージとして上記被害を挙げているだけです。イメージ操作です。

仮に思川流域での被害がいくらかはあるとしても、南摩ダムでどれだけ減らせるのかを説明しなければ、南摩ダムが必要な理由にはなりません。

思川開発事業のために1907億円の公金が投じられます。その必要性が検証されているときに、同事業では防げない水害を挙げるのは、あまりにも不誠実であり、同事業が破綻している証拠でもあります。

●一般論しか言えないということはダム計画が破綻している証拠だ

鈴木市長の上記意見書の第2段落でも、「渡良瀬遊水地を抱える本市としては、近年、益々気象変動が激しさを増す中で、日頃から治水事業の大切さと必要性を認識していることころではあるが、昨年の被害により改めてその重要性を再認識したところである。」と、一般論として治水事業が重要だと言っているだけです。

一般論として治水事業が必要だという理由でダムを造られては、国民はたまったものではありません。

ダムを造る理由として、治水が需要という一般論しか言えないということは、計画が破綻しているということです。

●利水について触れていない

それはともかく、鈴木市長は、治水の問題を挙げているだけで、利水については全く触れていません。

冒頭でお知らせしたように、栃木県の試算では、栃木市が利用する南摩ダムの開発水量は0.239 m3/秒であり、栃木市は県内で最大の需要者です。

その栃木市が思川開発事業の検証の中で意見を聴かれて、利水について全く触れないのは異常だと思います。

栃木市が表流水を必要としているのなら、南摩ダムの水が是非とも必要なので、早く事業を完成させてほしいという意見を提出するのが筋ではないでしょうか。

利水予定者が水が必要だと言わないのですから、思川開発事業は、建前としての筋論さえ成り立たないほど破綻しているということです。

●鹿沼市長も水道について触れていない

佐藤信・鹿沼市長の意見はどうでしょうか。

上記資料p28に出ています(6月27日付け)。

コピペができませんので引用はしませんが、やはり南摩ダムの水が必要だとは書かれていません。

●壬生町長は「意見なし」

小菅一弥・壬生町長の意見(6月28日付け)は、上記資料のp52に掲載されています。

小菅町長は、「意見なし」で回答しました。

壬生町は、県の試算では、0.063 m3/秒の開発水を使うことになっています。

菅町長は、なぜ早く南摩ダムを完成させてくれと言わないのでしょうか。壬生町が表流水を確保する必要はないからではないでしょうか。

●水需要の不在を無視する検証はデタラメだ

以上見てきたように、栃木県内の思川開発事業への五つの利水参画団体のうち、3団体(栃木市、鹿沼市及び壬生町)が検証の中で同事業への意見を求められて「南摩ダムの水が必要だ」と言いませんでした。

正直と言えば正直な話ですが、検証の中で利水予定者が水が必要だと言わないのですから、異常だと思います。

上記3団体の参画水量は、次のとおりです。
栃木市  0.239 m3/秒
鹿沼市  0.200 m3/秒
壬生町  0.063 m3/秒
合計   0.502 m3/秒

思川開発事業の開発水量は全体で2.984 m3/秒ですから、開発水量の約18%に当たる水量を使う予定の市町長が検証の過程で「ダムの水が必要だ」と言わないのです。緊急の需要がないということです。水資源開発促進法が水資源開発基本計画の要件とする緊急性がないのに事業が進められているということです。

こんな異常な事実があるのに、検討主体も事業評価監視委員会も今後の治水対策のあり方に関する有識者会議も問題視せずに、事業継続の結論を出すのですから、検証がデタラメであることは明らかです。

(文責:事務局)
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