山口嘉之著「水を訪れる」を読んでみた

2018-02-02

●「水を訪れる」という本がある

古い話ですが、山口嘉之という人が「水を訪れる〜水利用と水資源開発の文化〜」(中公新書、1990年)という本を書きました。

山口氏は、1941年生まれで、京都大学土木工学科、同大学院終了。1966年建設省入省のダム官僚です。水資源開発公団に出向した経歴もあります。

ダム反対派の書いた本はたくさんありますが、ダム推進側の人間の書いた本は少ないと思います。その意味で貴重な本だと思います。

●山口氏は水需要が伸びると予想していた

山口氏は、p162で次のように書いています。

将来の日本の水需要はどのようになるであろうか。昭和62年6月、「第4次全国総合開発計画」(四全総)が国土庁により作成された。これによれば全国を14のブロックに分けて想定した2000年の水需要は、年間約1095億トン程度に増加する。1983年の水需要、年間約892億トンと比較すると203億トン、19%の増加である。(中略)

全体の量が膨大なためなかなか実感ができないが、このように、水利用量は今後とも増加が予想されている。

国土庁の予測によれば、という話になっていますが、その予測を無批判に著書で吹聴し、これからも「水資源開発を積極的に進めていかなければならない。」(p163)と説いたのですから、山口氏はその予測を是認していたと言えます。

山口氏は、「これら(朝シャンと水洗便所)はいずれも生活を快適に、清潔にするもので、水文化の新しい形成要因であるが、方向としては今後とも水利用量の増加を示している。」(p200)と書いており、今後日本の水利用量が増加することを確信していました。

●山口氏の予測は外れた

国土交通省のホームページの「2017年版 日本の水資源の現況について」p6の「全国の水使用量」のグラフ(下図)によると、2000年の水需要は、年間約870億トンです。

日本の水使用量

国土庁の予測は、年間約1095億トンですから、約26%もの過大予測だったことになります。

国土庁の上記予測は、1987年に行ったものです。普通、わずか13年後の予測を約26%も外すものでしょうか。

国土庁の予測を支持する山口氏の予測も外れたということです。

上記グラフによると、1990年の日本の水需要は889億トンで、2014年のそれは800億トンですから、24年間で約10%減少しました。朝シャンがはやり、水洗便所が普及したにもかかわらず。

山口氏は極めて博識であり、知能指数的には優秀なはずです。国土庁の役人も同様です。なぜ水需要予測を外すのでしょうか。それはダム事業を推進する立場にあったからでしょう。

需要予測が当たるか外れるかは、予測する人が優秀かどうかではなく、どのような立場の人が予測するかで決まると言えると思います。

(文責:事務局)
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