栃木県知事は霞ヶ浦導水事業にNOを突きつけよ

2008-07-01,2008-07-02追記,2008-07-03追記,2008-07-04追記

●「事業の是非についてコメントを差し控えたい」

国(国土交通省)が事業主体の霞ヶ浦導水事業における那珂川取水口建設(水戸市内)が大問題になっています。天然アユの遡上に影響があるとして、那珂川流域の漁業協同組合の反対を受けて、栃木県内では、茂木町議会や那須烏山市議会で反対の動きがあります。

同事業について、福田富一知事は6月17日の定例記者会見で記者の質問に答えています。栃木県のホームページには、会見でのやりとりが次のように書かれています。

4.霞ヶ浦導水事業への県の対応について

記者:流域の茂木町議会などでは中止を求める請願が可決されるなど、流域の市や町では中止の機運が高まっています。また、昨日は国交省の方が県庁で説明をされたと聞いておりますが、今後、県として対応を考えていらっしゃることがありましたらお聞かせください。

知事:霞ヶ浦導水事業につきましては、河川法に基づく国の直轄事業であるということ、更に本県は利水上も治水上も関係していないということから、法的には意見を述べる立場になく、事業の是非についてもコメントを差し控えたいと考えています。
 しかし、那珂川の豊かな自然環境への配慮や漁業への影響防止、あるいは漁業関係者の不安の払拭、これらについて国が精一杯努めてもらうことは重要なことであると考えておりますので、国に対しても、各漁協をはじめとする地域住民の皆様方の理解促進に向けての働きかけをしていきたいと考えています。
 その中でそういう動きが出てきたということは歓迎していきたいと思いますが、これからが理解促進への重要な時期になっていくのではないかと考えています。  
 

「事業の是非についてもコメントを差し控えたい」とは情けないではありませんか。日本の首相がアメリカの言うことに逆らえないのと同じように、知事は国のやることに文句を言えないのでしょうか。記者会見では、奇しくも「地方分権改革推進」栃木県大会の開催についても議題とされたようですが、国を批判できないようでは、地方分権はないでしょう。  

那珂川と長年つきあってきた川漁師たちが、那珂川取水口ができれば、アユの遡上に影響があると言っているのですから、彼らの意見は尊重すべきです。漁協が発足させた「霞ヶ浦導水事業による那珂川の魚類・生態系影響評価委員会」(委員長・川崎健東北大学名誉教授)の委員となった学者も同事業が生態系に悪影響を与えると主張しています。大丈夫だと言っているのは、国土交通省の役人とその御用学者だけでしょう。県民を守るのが知事の仕事なら、知事は同事業の中止を訴えるのが筋です。少なくとも、「待った」を掛けて、同事業の影響をきちんと評価すべきです。国がやらないなら、県が独自ででもやるべきです。  

 ●理解が欠けているのはどっちだ  

ところが福田知事は、「事業の是非についてもコメントを差し控えたい」と言った舌の根も乾かぬうちに「国に対しても、各漁協をはじめとする地域住民の皆様方の理解促進に向けての働きかけをしていきたい」とも述べました。どういうことでしょうか。「漁業関係者の不安の払拭」とか「これからが理解促進への重要な時期」とも述べています。これらの発言は、すべて同事業が正しいことを前提としています。知事によれば、事業の正しさを住民が理解していないということです。「事業の是非についてもコメントを差し控えたい」と言いながら、同事業への賛意をきちんと表明しているではありませんか。こんな矛盾した話はありません。  

知事は、「各漁協をはじめとする地域住民の皆様方の理解促進」と言いますが、川への理解が欠けているのは、むしろ知事や国土交通省の役人の方ではないでしょうか。

 ●なぜ知事になったのか    

那珂川の生態系を守る気もなく、無駄なダム事業のために環境が破壊され、県民に多額の負担を強いる思川開発事業にも賛成する福田知事には、県民を守るという気概が感じられません。彼は、なぜ知事になったのでしょうか。知事になることだけが目的だったのでしょうか。知事になっても県民を守らなければ、知事になった意味がないと思いませんか。大阪府の橋下徹知事は、どこまで本気でやるのか知りませんが、関西空港の負担金を払わないかもしれないぞ、などと言っています。6月29日付け産経新聞から引用します。  

 大阪府の橋下徹知事は29日、同府高石市で開かれた中山太郎衆院議員のタウンミーティングに出席。中山衆院議員、渡辺喜美行政改革担当相との議論で、府民の支持があれば関西空港振興のために府が支出している負担金を削減することもあり得るとの意向を示した。

今年の栃木県知事選で、橋下さんのようなことを言う人が立候補したら、大量得票すると思います。

●言行不一致が甚だしい

6月3日付け下野新聞別冊に掲載された知事の書いた文章を以下に掲載します。

栃木の誇り・夢
豊かな自然
優れた歴史・文化
多彩な食
大切に受け継がれてきたものと
そこに暮らす律儀な人々
誇れるとちぎの恵みを育み
時代の流れを見据え
活力と美しさに満ちた
郷土とちぎを目指し
ともに歩みつづけたい
栃木県知事
福田富一

とかく政治家や教育者は、やっていることよりも言っていることの方が美しくなりがちですが、福田知事の場合、その程度が甚だしくはないでしょうか。那珂川取水口建設は、
栃木の誇り・夢
豊かな自然
優れた歴史・文化
多彩な食
を無惨に破壊するものではないでしょうか。福田知事のいう「豊かな自然」には、那珂川流域の自然は含まれないのでしょうか。営々と受け継がれてきた那珂川のアユ漁は、知事のいう「優れた歴史・文化」や 「多彩な食」や「大切に受け継がれてきたもの」に該当しないのでしょうか。漁協の組合員たちは、「そこに暮らす律儀な人々」に該当しないのでしょうか。天然アユの遡上を守ることが「誇れるとちぎの恵みを育」むことではないでしょうか。地方分権の流れの中で、地球温暖化や環境破壊が懸念されている時代に、福田知事は「時代の流れを見据え」ているのでしょうか。

思川開発事業や霞ヶ浦導水事業に賛成するなら、美しいことを言ってはいけないと思います。

●なぜ知事は国にNOが言えないのか(2008-07-02追記)

霞ヶ浦導水事業が栃木県にとって百害あって一利もないことは、だれの目にも明らかです。栃木県以外の自治体にとってメリットはあるのでしょうか。霞ヶ浦導水工事事務所のホームページには、「霞ヶ浦導水事業により確保される新規都市用水のうち、水道用水の計画取水量7.226m3/sは約150万人が1日に使用する水量に相当します。」と書いてありますが、利水者の茨城県、東京都、埼玉県、千葉県はいずれも水余りの状態ですし、これらの地域で人口が150万人も増えるはずがありません。ゼネコンと役人のための事業です。

少なくとも栃木県にはメリットがないのに、なぜ知事は国に駄目なものは駄目と言えないのでしょうか。現在の県の内部事情についての情報がないので、推測になりますが、中央集権が一因と思われます。以前は、栃木県の土木部長(現在の県土整備部長)と河川課長は、建設省(現在の国土交通省)からの出向職員と生え抜きの県職員が2年交代で就任していました。県の建設行政は、国と一体であったというか、国に牛耳られていたのです。もしも県が国からの出向を断れば、国からいじめられ、県に補助金が来ないでしょう。

今もこうした人事が行われているとしたら、豊かな自然を守ろうとする栃木県知事は、国の役人の書いた原稿を心ならずも読まされているだけなのかもしれません。そうだとしたら、知事がこうした中央集権の構造を変えられなければ、国家権力の横暴から県民を守ることはできないことになります。

●栃木県が国に説明責任を果たすよう求めた(2008-07-03追記)

08-05-28下野によれば、霞ヶ浦導水事業について、栃木県は「27日、県民への説明が十分でないとして、生態系への影響など課題を整理し、県民に説明責任を果たすよう国に求めることを決めた」そうです。栃木県は、3月にも、「関係者らの不安解消に務めるよう国交省に要望書を提出したが、国への働き掛けを強める」ということのようです。

栃木県としてはがんばったのかもしれませんが、知事発言で明らかなように、事業が正しいことを前提に、国は栃木県民を騒がせるなということであり、当事者意識はまるでありません。今年は、栃木県知事選がある年であり、県民が同事業に反対しているので、県としても、せめて国に説明責任を果たすよう求めることくらいはせざるを得なかったのではないでしょうか。

那珂川は、アユの漁獲量日本一を誇ります。同事業により、この誇りが傷つけられる可能性が相当高いのです。同事業は、国と栃木県民の間の問題ではなく、栃木県の問題なのですから、知事は当事者意識を持つべきです。

●共産党と民主党が健闘している(2008-07-04追記)

霞ヶ浦導水事業については、日本共産党の野村節子県議が2007年10月23日に那珂川取水口の現地調査を行っています。詳しくは、野村節子議員のホームページ参照。「野村県議は「栃木県はH22年までの5カ年で天然アユの漁獲を20万尾から200万尾に 10倍加させる計画で、取水口建設は絶対に許せません。上流にダムがない那珂川は四万十川に匹敵すると言われており、那珂川の生態系を守るために、栃木県 から反対の声を広げたい」と話していました。」と書かれています。

そして、08-06-10下野によれば、栃木県議会民主系会派の県民ネット21の佐藤栄代表が9日、県土整備常任委員会で質問に立ち、「那珂川の自然環境をいかに守るかの問題。県として工事中止を言うべきだ」と主張したそうです。だれだってそう思いますよね。ところが「県側は「全庁的な課題だと思っている」と述べるにとどまった」そうです。

佐藤議員は、県土整備部幹部が「県内では水産資源の問題となっており、農政部が窓口となって対応している」と説明したことに反発したそうです。「那珂川の自然環境をいかに守るかの問題」なのですから、「水産資源の問題」に矮小化してほしくないということでしょう。

県が国に「説明責任などを求めたことについても、佐藤氏は「(栃木県は)つくることを前提としているが、栃木県として何のメリットもない事業だ」とし、反対の意思を表明した」そうです。やはり、県執行部が事業を是認することを前提として国に説明責任を果たすよう求めていることは、だれの目にも明らかです。

佐藤議員は、下野の取材に対し、「超党派の議連を立ち上げたい」と話したそうです。自民党と公明党は、どうせ無駄な公共事業に賛成なのでしょうから、せめて日本共産党と民主党が手を組んで事業廃止に追い込んでほしいと思います。

なお、県民ネット21がLRTに反対していることも、お家の事情(関東自動車との関係)もあるでしょうが、財政破たんを避ける観点からは、結果としては評価すべきことだと思います。

●県の存在意義が問われている(2008-07-04追記)

思川開発や霞ヶ浦導水の問題では、県の存在意義が問われていると思います。県が県民を守れないのなら、橋下知事が言うように、府や県は解体して、道州制に移行した方がいいという意見に賛成したくなります。

●下野新聞は変わったのか(2008-07-04追記)

民主系県議だけでなく、下野新聞が健闘していると思います。今年の元旦には、田中正造を再評価する方針をブチあげ、今も精力的に田中関係の記事を載せており、最近では、"霞ヶ浦導水を問う"シリーズを掲載し、国土交通省にとって不愉快な記事を書いています。なぜか、最近、"企画特集"という名目の国土交通省の政府広報(とちぎの道シリーズ、砂防ダムシリーズなど)も見かけません。年度末まで見極める必要はあるでしょうが。

下野新聞は、「大口スポンサー重視」から方針転換したのでしょうか。

(文責:事務局)
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