御用学者も観念した

2010-06-07

●基本高水とは

「基本高水(きほんこうすい、きほんたかみず)は、洪水防御に関する計画の基本となる洪水のことをいい、河川法施行令第十条の二で定義されており、河川整備基本方針において定められるものである。」(Wikipedia)。

河川法第10条の2は、「河川整備基本方針に定める事項」を規定しています。「 河川整備基本方針には、次に掲げる事項を定めなければならない。」として、第2号のイで「基本高水(洪水防御に関する計画の基本となる洪水をいう。)並びにその河道及び洪水調節ダムへの配分に関する事項」と規定しています。

基本高水流量とは、平たく言えば、上流にダムがなかったらどれだけ流れるかということです。

利根川水系河川整備基本方針では、治水基準地点の八斗島(やったじま・群馬県伊勢崎市)での基本高水流量は22,000m3/秒となっています。この基本高水を基に八ツ場ダムも計画されています。

●松浦教授が22,000m3を否定

八ツ場ダムをストップさせる茨城の会の会報である八ツ場ダム住民訴訟通信-59(2010-04-26発行)によると、2010年3月16日の衆議院国土交通委員会で松浦茂樹・東洋大学教授が次のように発言しました。

ここで非常に大きな問題がございます。キャサリン台風の直後で毎秒17,000トンと評価されながら、なぜ昭和55年計画で22,000トンと約3割も増大したかという問題です。利根川の場合、キャサリン台風時に観測された地点より上流を見ましても、平地はそんなに広くない。それほど氾濫していないと考えています。

なぜ3割も増えたのか私は非常に疑問に思っています。これは流出モデルに問題があったと思います。

小さな洪水に基づいて作成された流出モデルに大降雨を与えますと、実際より大きくなる可能性は十分ございます。

高度経済成長時代の手法から脱却して、治水計画では実際に生じた洪水をベースに考えるべきだと思います。
利根川の場合、昭和22年洪水をベースに、八斗島で毎秒17,000トンの計画で行うべきだと考えております。

松浦茂樹教授は、彼のホームページの経歴のページを見れば分かるように、建設省の土木研究所の出身で各地の地方建設局をわたり歩いた経験がある人で、旧建設省と国土交通省の計画に理論付けをしていた学者と目されています。

そんな学者が、22,000m3は過大だった、17,000m3で計画すべきだとあっさり言いだしたのです。

●虫明名誉教授も「鉛筆をなめたかも」と発言

田中康夫議員が虫明功臣(むしあけかつみ)・東京大学名誉教授に対して、「今後の治水対策の在り方に関する有識者会議で、鈴木雅一東京大学大学院教授は、利根川上流の54流域、そのすべてが一次流出率0.5というのは大きすぎないか。逆に飽和雨量が48ミリは小さすぎないかと申しております。この点に関してご見解を」と質問しました。

虫明名誉教授は、次のように答えました。

私、それは資料で見て、それから松浦先生も言われましたけれども、かなり過大であるというのは私自身もそう思っています。

ここに私が申し上げましたのは、カスリーン台風から30年たって、当時よりもはるかに人口、試算が集中したところで、安全度を上げようという治水計画の意図があったのではないか、これは私は全然関与していませんから、そう考えられると。

もう一つは、水需要が増えてゆく中で、やはり治水担当者というのは安全度をできるだけ上げたいという意図を持っているのは事実でして、水資源に乗って、多目的ダムとして、6,000というような、おそらく、悪く言えば多少鉛筆をなめて高くした意図があるかも分かりません。

「虫明名誉教授は利根川の基本高水22,000トンを決めた平成17年9月の河川整備基本方針小委員会の委員であり、国土交通省社会資本整備審議会・河川分科会会長という八ツ場ダム推進側の重鎮であった人です。」(上記通信)。

「6,000」という数字については、毎秒22,000トンの洪水のうち、16,000トンを河道の整備で対応し、6,000トンをダムで調節するという計画の中の6,000トンではないかと思います。

いずれにせよ、利根川の基本高水が22,000m3/秒であるとして、八ツ場ダムの建設を推進してきた学者が22,000m3/秒は、「多少鉛筆をなめて高くした」と言いだしてしまったのです。

●22,000m3/秒は修正すべきだ

ダム推進側の重鎮二人がそろって、利根川水系の基本高水が22,000m3/秒であることを理論的に根拠づけることは無理だと白状したのですから、この数字は下方修正すべきです。

「ひごろ思うこと」というブログの「利根川訴訟における原告・被告の証言に思う」というページに「既に河川整備基本方針検討小委員会で審議済みの河川整備基本方針では、基本高水は22000m3/sで流下能力は 16500m3/sになっています。」、「原告側も被告側も八斗島での流下能力については主張の差はなく、16500m3/sと認識している」と書かれています。

利根川の基本高水を16,500m3/秒程度に引き下げれば、これ以上利根川上流に洪水調節施設を建設する理由はなくなります。

問題は、裁判所と民主党政権がどこまで道理を尊重するかということです。

(文責:事務局)
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