パブリックコメントが署名形式だった

2011年12月15日

●パブリックコメントが署名でいいのか

八ツ場ダムについて国土交通省が募集したパブリックコメントの96%が署名だったことを26日付け毎日新聞が報じています。

毎日新聞夕刊 2011年11月26日

八ッ場ダム:意見公募なのに96%が同一文書に署名だけ

推進派が世論誘導か

建設の是非を検証中の八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)を巡り、国土交通省関東地方整備局が集めたパブリックコメント(意見公募)で、寄せられた意見の約96%が同一文書に署名だけ手書きしたものだったことが分かった。

「八ッ場ダムは必要不可欠」などと印刷され、ダム推進派が組織的に署名を呼びかけた可能性が高い。ダム反対派は「世論誘導の狙いがあるのではないか」と反発。専門家は「パブリックコメントの趣旨から逸脱した行為」と批判している。

同整備局が25日にまとめた「パブリックコメントの結果」によると、寄せられた5963件のうち5739件は全く同じ内容だった。

「八ッ場ダムは利根川水系における治水、利水の安全度を高める対策として、もっとも現実的、かつ確実に効果を見込める事業」「速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきだ」などと推進を求める意見がパソコン文字で印刷されており、署名だけが異なっていた。

パブコメは10月6日〜11月4日に全国から募集。集まった5963件のうち埼玉県在住者の意見が5738件に上っており、同一文書の大半は同県在住者が寄せたとみられる。

同整備局は「パブコメは多数決ではないので、特に問題はない」と説明しているが、八ッ場ダム建設に反対する市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「世論誘導のため組織的に署名を集めたと思われる。非常に問題だ」と話している。【奥山はるな】

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111126k0000e040050000c.html


●署名に係る意見は埼玉県の主張そのまま

上記同一文書の内容は、次のとおりです。埼玉県の主張そのままです。

本検証によって、八ツ場ダムは利恨川水系における治水、利水の安全度を高める対策として、最も現実的、かつ確実に効果を見込める事業であることが明らかになった。

このような結果が示された以上他の選択肢はない。速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきである。

埼玉県の水需給状況は、八ッ場ダムを始めとする暫定水利権が占める割合が大きい。この暫定水利権を解消しなければ、渇水に対する利水安全度が高まらないことは本資料から明らかである。速やかに八ッ場ダムを完成させ、利根川の流況を改善し、暫定水利権を解消することは国の責務である。

利根川の流域での過去最大の洪水はカスリーン台風であり、洪水流量は21,100m3/sであるが、今検証の整備目標流量は今後20から30年間で整備可能な17,000m3としている。

利根川の流域住民は、カスリーン台風による悲劇を忘れていない。

今後30年で整備可能な整備として、完成を目前に控える八ッ場ダム建設は必要不可欠な施設であり、首都圏の治水を担う国は、当然建設を続行すべきである。

「確実に効果を見込める事業」と書いてありますが、官僚と御用学者がそう言っているだけで、事実ではありません。

暫定水利権の問題は、国土交通省が不合理な水利権行政を改めればすむ話です。

整備目標流量の17,000m3/秒も、恣意的に設定された数字です。

2006年12月に国が公表した利根川水系河川整備計画案では、目標流量は15,000m3/秒程度でした。

それなのに、検証が始まると勝手に2,000m3/秒も引き上げてしまうのですから、いい加減なものです。

●動員が推測される

28日付け赤旗は、次のように報道しています。

しんぶん赤旗 2011年11月28日

"賛成"を大量印刷/八ツ場ダム・意見公募/5963件中96%が同一文 /手書き、住所氏名だけ

八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設の是非について、国土交通省関東地方整備局が住民から公募したパブリックコメント約5700件の内容が、全く同じ文言で同じ体裁の賛成意見だったことがわかりました。この賛成意見は、集まった意見全体の96%にのぼり、ダム推進派の大がかりな賛成"動員"と見られます。

"動員"が判明したのは、国交省関東地方整備局が作成した八ツ場ダムの「検討報告書」へのパブリックコメント(意見公募)です。募集は10月6日から1カ月間行われ、5963件の意見が集まりました。

同整備局が25日に公表した公募結果によると、このうち5739人の意見は、一字一句同じ内容の賛成意見でした。

表題や意見は印刷されており、提出者の名前や住所を手書きで書き込む署名用紙のような形式になっています。職業欄に「市議」「議員」と書かれたものも複数ありました。ほとんどが埼玉県在住者から提出されたものとみられます。

この意見は「他の選択肢はない。速やかにダム本体工事に着手し、計画通りに事業を完成すべきである」などと、建設推進を求めています。

パブリックコメントに寄せられた反対意見は、書式や体裁がバラバラで、治水や利水、地すべりの危険性など、多様な論点で書かれています。

パブリックコメントは、行政が政策や手続きの最終決定を行う際に住民の意見を反映する手続きです。

今回、意見公募が行われた「検討報告書」の内容をめぐっては、日本共産党の塩川鉄也衆院議員が質問主意書を提出。塩川議員は、同整備局が想定する同ダム建設で得られる便益が過大で「信頼性に疑問がある」として、その根拠を示すよう求めています。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-28/2011112815_01_1.html

役人は、「パブコメは多数決ではないので、特に問題はない」と言っていますが、「賛成意見が圧倒的多数だったという事実は残ります。」(上記赤旗記事での嶋津暉之・水資源開発問題連絡会共同代表のコメント)。

●署名活動の首謀者は埼玉県議連だった

12月6日付け東京新聞は、次のように報じています。

埼玉県議連が動員/ 「八ッ場建設」賛成意見
八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)建設の是非をめぐる国土交通省関東地方整備局のパブリックコメント(意見公募)で、建設賛成の同一文面が印刷された大量の意見文書が寄せられていたが、埼玉県議会の建設推進派が組織的に動員していたことが分かった。利根川流域の一都五県の住民の意見の大半が建設賛成とも受け取られる恐れもあり、識者は「世論誘導にもつながりかねないやらせだ」と指摘している。 

同整備局は「なるべくダムに頼らない治水」を目指して、八ッ場ダム建設事業の検証を進めてきた。意見公募は「ダムは治水、利水面で最も有利」と結論付けた検討報告書素案に対して住民から意見を聞くために募集。

十月六日〜十一月四日までの三十日間で延べ五千九百六十三件が寄せられた。このうち同一文面の賛成意見への署名が96%にあたる五千七百三十九件で、ほぼすべて埼玉県在住者からのものだった。

提出された文書の用紙は、「八ッ場ダム建設事業の推進を求める埼玉県議会議員連盟」(会長・佐久間実同県議)が作成。治水や利水面で三種類の賛成意見が印刷され、五人分の署名欄がある。同議連は、会長名の通知で会員一人当たり百人分の提出を要請したほか、十月二十四日にさいたま市で開いた「建設推進埼玉大会」で来場者に用紙を配り、協力を求めた。

本紙の取材に佐久間会長は「多くの人が建設に賛成しているということを知ってもらいたかった」と釈明。同整備局は「提出する人の自由であり、とやかくいうことではない」としている。
意見公募はすべて名前や住所などを黒塗りにして同整備局のホームページで公開しているが、動員された用紙分の中には同一筆跡とみられるものも多い。

意見公募に詳しい川上和久・明治学院大教授(政治心理学)は「声なき多数者から多様な意見を集める、といった本来の趣旨に反している。違法でないとはいえ、『建設推進という結論に向けて圧力をかけよう』との手法は不適切だ」と話している。

私も、パブリックコメントと署名活動とは趣旨が違うと思います。

署名活動を仕組んだのは、「八ッ場ダム建設事業の推進を求める埼玉県議会議員連盟」(会長・佐久間実同県議)だったというわけです。

記事(ネット掲載外)によれば、この議員連盟は、自民、公明両党などの埼玉県議74人で構成されるそうです。(定数は94人です。)

●佐久間県議とはこんな人

上記議員連盟の会長である佐久間県議をネット検索すると、北関東新聞社というサイトの夜遊び県議が出世する大きな理由というページが見つかります。

2003年1月16日に「行政視察」と称してタイに行った際に、日本テレビの特報報道プロジェクトで隠密に密着取材され、放送されたことが書かれています。

夜遊びを暴露された議員たちは、マスコミが騒ぐのが悪いと考えているようです。

●結局推進の民意なんかない

八ツ場ダムの事業主体である国土交通省が検証し、検討主体は関係自治体の首長であり、「有識者会議」という名の無識者会議の委員は御用学者ばかり、パブリックコメントの96%は県議が主催した署名だったというのですから、どこからどこまで茶番です。

結局、ダムを造りたいのは役人と政治家と建設業者と御用学者です。ダム推進の民意なんて、ほとんどないのです。

水没予定地の住民が推進派ということになっていますが、官僚に追い込まれてそうなっただけで、言わば「官製の民意」です。

ちなみに、地元長野原町が推進派一色かというと、最近になって、小林みつ江さんたちのように、村八分を恐れながらも、カミングアウトした反対派もいます。STOP八ッ場ダム・市民ネットに12月6日付け東京新聞記事八ッ場ダム建設反対の手紙提出 長野原の町民5人が引用されています。

●いつまで茶番を続けるのか

御用学者と首長と役人を集めた検証スキームでは、まともな結論が出ないことは最初から分かっていました。

こんな茶番劇を仕組んだ「口先番長」前原誠司・民主党政調会長にも、民主党政権にもうんざりです。政権の座から降ろしたいのですが、自民党と公明党の政権に戻れば、もっと露骨にダム建設を推進するでしょう。

ダム問題について最もまともな見識を示しているのが日本共産党ですが、多くの国民は同党を支持しませんし。

政治家がダムを止められない、裁判官も役所の味方。となると、未来は明るくありません。

ただし、推進派も猿芝居みたいな署名集めだの、議会での推進意見書の採択だのをなりふり構わずやっているということは、追い詰められて必死になっているということだと思います。

ダム・マフィアの未来は、原子力マフィアの未来同様、明るいものではないことが救いです。

(文責:事務局)
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