日本学術会議の評価は茶番

2011年9月6日

●日本学術会議が利根川の基本高水について検証結果を発表した

2011年9月2日付け東京新聞は、次のように報じています。

‐国交省の再計算 学術会議「妥当」‐

日本学術会議は一日、都内で幹事会を開き、八ッ場ダム(群馬県)建設の根拠とされる利根川水系の最大流量(基本高水)について、国土交通省が再計算した数値は妥当とする同会議分科会の検証結果を妥当とし、国交省に伝えた。
 幹事会は「専門家の意見を聴いており問題ない」と説明。治水面でのダム建設の必要性を追認した形となった。
 従来の最大流量は森林の保水力を過小評価しているとの批判があったため国交省が再計算し、第三者機関の分科会が検証。六月に妥当との見解を明らかにしている。
 再計算した最大流量は、過去最大とされるカスリーン台風(一九四七年)時の同県伊勢崎市の基準地点での推定値で毎秒約二万一千トン、同台風を上回る二百年に一度の洪水時は毎秒約二万二千トン。従来の同台風の際の降雨量などから最大流量を毎秒約二万二トンと算出していた。

この件については、八ツ場あしたの会のサイトの日本学術会議、国交省の基本高水計算を容認にうまくまとめられています。

「国交省みずからによる八ッ場ダム検証は、ダム本体工事着工のための儀式と化しており、馬淵元大臣が指示した「基本高水」検証も結局は国交省に都合のよいように利用されただけで終わりました。」という指摘は的を射ています。

日本学術会議のホームページに河川流出モデル・基本高水の検証に関する学術的な評価が掲載されています。

●日本学術会議の検証のどこがおかしいのか

日本学術会議の回答の主要部分を引用します。

■20ページ
5 結論
本分科会では、現行モデルについての十分な情報を得ることは難しかったが、モデルの内容の理解に努め、現行モデルに含まれる問題点を整理し、水収支に着目した有効降雨モデルに基づく貯留関数の新モデルの開発方法を推奨した。次に、新モデル、現行モデルの双方について、分科会自身でプログラムを確認し、動作をチェックし、基礎方程式、数値計算手法について誤りがないことを確認した。さらに、感度分析やシミュレーション結果の整理により、新モデルの物理的意味合いを検討した。その上で、観測データのない場合や、計画策定へ適用する場合に必要となるモデルの頑健性をチェックし、さらにそのような場合に適用したときの不確定性を評価した。これらの評価は、両モデルのみならず、分科会独自のモデルをもって実施した。その結果、国土交通省の新モデルによって計算された八斗島地点における昭和22年の既往最大洪水流量の推定値は、21,100m3/sの‐0.2%〜+4.5%の範囲、200年超過確率洪水流量は22,200m3/sが妥当であると判断する。
■21ページ
6 附帯意見
既往最大洪水流量の推定値は、上流より八斗島地点まで各区間で計算される流量をそれぞれの河道ですべて流しうると仮定した場合の値である。一方、昭和22年洪水時に八斗島地点を実際に流れた最大流量は17,000m3/sと推定されている[6]。この両者の差について、分科会では上流での河道貯留(もしくは河道近傍の氾濫)の効果を考えることによって、洪水波形の時間遅れが生じ、ピーク流量が低下する計算事例を示した。既往最大洪水流量の推定値、およびそれに近い値となる200年超過確率洪水流量の推定値と、実際に流れたとされる流量の推定値に大きな差があることを改めて確認したことを受けて、これらの推定値を現実の河川計画、管理の上でどのように用いるか、慎重な検討を要請する。
■18ページ
エ 洪水時の森林の保水力と流出モデルパラメータの経年変化
流出モデル解析では、解析対象とした期間内に、いずれのモデルにおいてもパラメータ値の経年変化は検出されなかった。戦後から現在まで、利根川の里山ではおおむね森林の蓄積は増加し、保水力が増加する方向に進んでいると考えられる。しかし、洪水ピークにかかわる流出場である土壌層全体の厚さが増加するにはより長期の年月が必要であり、森林を他の土地利用に変化させてきた経過や河道改修などが洪水に影響した可能性もあり、パラメータ値の経年変化としては現れなかったものと考えられる。しかしながら、人工林の間伐遅れや伐採跡地の植林放棄などの森林管理のあり方によっては、流出モデルのパラメータ値が今後変化する可能性も十分あることに留意する必要がある。

日本学術会議は、国が利根川の基本高水を200年確率で22,000m3/秒としていることについて妥当との結論を出しましたが、「昭和22年洪水時に八斗島地点を実際に流れた最大流量は17,000m3/sと推定されてい」ることについては合理的な説明がされていません。

日本学術会議は、「この両者の差について、分科会では上流での河道貯留(もしくは河道近傍の氾濫)の効果を考えることによって、洪水波形の時間遅れが生じ、ピーク流量が低下する計算事例を示した。」(付帯意見)としていますが、流量が5,000m3/秒も低減することの説明になっているのかどうか疑問です。

日本学術会議は、この点について合理的な説明をなし得ていないからこそ、付帯意見で「これらの推定値を現実の河川計画、管理の上でどのように用いるか、慎重な検討を要請する。」と逃げを打っているのでしょう。自信も責任もないのです。

分からないことは分からないと言うのが科学者ではないでしょうか。

「利根川の基本高水は22,000m3/秒で正しい」と言いながら、「これを真に受けて実際の河川計画などで使ってはダメよ」という結論が科学的と言えるでしょうか。

日本学術会議が「これらの推定値を現実の河川計画、管理の上でどのように用いるか、慎重な検討を要請する。」と言っているのですから、国土交通省はこの結論を八ツ場ダム推進のお墨付きとすることは許されないはずです。

森林の保水力についての記述は難解ですが、建設省と国土交通省は、流出モデルにおいてパラメータ値を変えなかったと言っているようです。

日本学術会議は、このことをおかしいとは考えないようです。

しかし、「人工林の間伐遅れや伐採跡地の植林放棄などの森林管理のあり方によっては、流出モデルのパラメータ値が今後変化する可能性も十分あることに留意する必要がある」と記しています。

今後、流出量が増加する方向で係数が変化する可能性はあると言っています。

日本学術会議にかかったら、雨水の河川への流出量は増えることはあっても減ることはないのです。

●そもそも日本学術会議とは何か

そもそも日本学術会議とはどういう存在なのでしょうか。

そのホームページには、「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。」と書かれています。

内閣府の下部組織なのです。

鬼蜘蛛おばさんの疑問箱Part.2というサイトの基本高水の検討を依頼された日本学術会議の正体に次のように書かれています。

藤原信氏の著書「緑のダムの保続‐日本の森林を憂う」(緑風出版)のことを思い出した。「緑のダム」に関わって利根川の治水のことが書かれていたと記憶していたからだ。

 「第2部-緑のダム-の保続」の頭から、日本学術会議の批判だった。日本学術会議は設立当初は科学者の自主的組織として独立性が尊重され、会員の選出が公選制であった。そして、かつては政府に対しても原子力政策批判、ベトナム戦争反対、天然林の保護を求めるなどといった活動をしていた。ところが、1984年に日本学術会議法の一部改正が行われ、会員の選出は推薦制となり、政府の監督権限が強まったという。かくして、昨今では政府の御用機関の傾向が強くなっているというのだ。  
 

予想していたことですが、日本学術会議による利根川の基本高水の検証は、所詮茶番だったようです。

日本学術会議の評価は、「学術的な評価」ではなく、ダムありきの「政治的な評価」と言うべきです。

(文責:事務局)
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