宇都宮市は湯西川ダムに参画する必要がなかった

2016-06-21

●絶対にたたかれない人たちがいる

最近、自動車の排ガス規制や燃費に関して、フォルクスワーゲンや三菱自動車やスズキが行った不正が報道されて、それなりの制裁を受けていますが、デタラメをやっても、なぜか絶対にたたかれない人たちがいます。

それは、公共事業についてデタラメな需要予測をやった公務員です。デタラメを見逃して予算を承認している議員も同罪です。

例えば、足利市と佐野市は、草木ダムが完成した1976年にそれぞれ0.3m3/秒の水道用水と工業用水を確保したはずですが、40年たっても使われておらず、先行投資の失敗事例と言えると思います。調べていませんが、過大な需要予測が原因としてあったと思われます。しかし、過大な需要予測で誰かが責任をとったという話は聞きません。

首長や役人は、「予測には誤りが付き物」と言い訳をするでしょう。確かに誤りであれば、責任追及は酷かもしれません。

しかし、宇都宮市や小山市や鹿沼市の水需要予測を見ると、誤りではなく、偽装と言う方がふさわしいと思います。

公務員が偽装をしてもたたかれないのは不公平だと思います。

●宇都宮市水道施設再構築基本構想の策定で宇都宮市が湯西川ダムに参画する必要性がなかったことが一層明白になった

宇都宮市は湯西川ダム建設事業に1985年から参画しましたが、2004年には市民からダム建設負担金の差止め等を求める住民訴訟を提起され、同事業からの撤退を求められました。ところが宇都宮市は撤退するどころか、湯西川ダムへの参画の必要性を強調しました。そして湯西川ダムは2012年に完成し供用が開始されました。

しかし、私は、宇都宮市が宇都宮市水道施設再構築基本構想を策定したことにより、宇都宮市が湯西川ダムに参画する必要性がなかったことが一層明白になったと考えます。

●湯西川ダム事業への参画

宇都宮市は、1985年7月25日、特定多目的ダム法第15条第1項に基づき建設大臣に対し、1日最大取水量5万2700m3で湯西川ダム使用権の設定を申請し、同年8月に承認されました(下記経緯参照)。(宇都宮市のダム建設負担金は、最終的に約92億円となりました。)

●水需要の過大予測

宇都宮市は、下図のとおり、その後2015年までに3回にわたり水需要が増加するとする推計(旧河内町分を含む。)を行いました。
宇都宮市1日最大給水量

1992年度推計では1日最大給水量32万m3(2006年度)、1998年度推計では31万6140m3(2025年度)であり、いずれも荒唐無稽と言うべき過大予測でした。さすがに2002年度推計では大幅に下方修正し22万6000m3(2019年度)となっています。

2004年10月には、1日最大取水量が2万5900m3と約半減に変更されたものの、宇都宮市は、上記推計を湯西川ダム参画の根拠としてきました。

しかし、現実には、宇都宮市上水道における1日最大給水量のピークは1992年度の22万7810m3であり、その後着実に減少傾向をたどっています。

2014年度の1日最大給水量は17万9449m3ですから、ピーク時からの22年間で約21%も減少しており、28年前の1986年度の1日最大給水量(18万1026m3/日)とほぼ同じ給水量に戻っています。(人口は、40万7001人(1986年)から51万7696人(2014年)へと11万0695人(約27%)も増えています。)

湯西川ダムが供用開始された2012年度の1日最大給水量は18万0499m3ですから、やはりピーク時よりも約21%も小さい値です。

宇都宮市は、湯西川ダム完成後の2016年3月に宇都宮市水道施設再構築基本構想を策定し、その中で今後の水需要が減少の一途をたどるという推計を初めて行い、2039年度の1日最大給水量を15万1196m3と推計しています。

宇都宮市は、1日最大給水量のピークを記録した1992年度には、湯西川ダムによる暫定水利権分を除いても26万m3/日の水源を保有しており、その後水需要は減少し、2016年に至り、将来も減少の一途をたどると予測したのですから、結果として湯西川ダムによる開発水が必要ではありませんでした。

ところが宇都宮市は、湯西川ダムの水を確保しました。宇都宮市は、なぜ誤った判断をしたのかを検証すべきだと思います。

●保有水源の評価

宇都宮市は、水需要の過大予測を行う一方で、保有する水源の過小評価を行っています(上記グラフ参照)。

宇都宮市は、2003年度に水源構成の見直しを行い、それまで湯西川ダムなしで26万m3あるとされていた保有水源量を20万2000m3しかないと評価しました(下記経緯参照)。

その理由は、白沢水源(地下水)の取水能力を過小評価し、宝井水源(地下水)を放棄したことです。

●白沢水源の評価

宇都宮市は、2003年度に地下水位観測調査や地下水源能力調査をした結果、年間を通じて安定的に給水できる白沢水源の水量は6万m3であることが判明したとして、それまでの7万7000m3から1万7000m3を削減しました。(根拠は、湯西川ダム住民訴訟の第1審被告最終準備書面(その一)(2008-07-16)p4)

しかし、そこには次のようなカラクリがあります。(根拠は、湯西川ダム住民訴訟の第1審原告最終準備書面(2008-07-16)p44)

白沢水源の水源能力は、夏季10万8000m3、冬季6万1400m3だから、冬季の能力で判定して6万m3としたというのが宇都宮市の言い分です。

その根拠として、水道施設の技術的基準を定める省令第2条第3項第5号に地下水の取水施設については、「一日最大取水量を常時取り入れるのに必要な能力を有すること」とされていることを挙げますが、嶋津暉之氏(水源開発問題全国連絡会共同代表)が厚生労働省の担当者に確認すると、「常時取水可能な取水量を冬季の値に固定するか否かは、水道事業体が判断すべきことであって、省令では定めていない。」と回答しており、宇都宮市が省令の条文を曲解しているだけで、水源を夏季の能力で判定することに問題はありません。

1日最大給水量は夏季に発生するのですから、水源能力は夏季の能力で評価すべきであり、冬季の能力で評価することは不当です。

白沢水源の適正な評価は、上記のとおり夏季には10万8000m3/日の能力があることが確認されているのですが、安全側に立っても、これまでどおり7万7000m3/日であると見るべきです。

●宝井水源の評価

宇都宮市は、上記水源調査により宝井水源の能力(従来の評価は4万1000m3/日)は1万8000m3/日であると評価しました。(根拠は、湯西川ダム住民訴訟の第1審被告最終準備書面(その一)(2008-07-16)p5)

これも白沢水源と同様、冬季の能力ですから不当な評価です。夏季の能力は4万7000m3/日もあります。

しかも、宇都宮市は、宝井水源からはクリプトスポリジウムの指標菌が検出されたことから、水質汚染のおそれが認められたとし、水質事故の未然防止という観点から2004年11月に取水を休止してしまいます。

その結果、宝井水源の能力はゼロとなりました。

しかし、宝井水源の夏季の供給能力は4万7000m3/日もあり、クリプトスポリジウムが検出されたわけでもなく、仮に検出されるとしても、地下水については経費の少ない紫外線処理が認められており、取水を休止する必要性はありません。

宝井水源の適正な評価は、百歩譲って冬季の能力で評価しても、1万7000m3/日はあると見るべきです。

●松田新田浄水(川治ダム)の評価

松田新田浄水場(水源は川治ダム)の評価は、見直し後も10万m3/日のままですが、浄水ロスが7%(7500m3/日)と大きく、これを相場の3%程度にまで改善すれば、10万4000m3/日の取水が可能となります。

●保有水源の適正な評価

したがって、宇都宮市の保有水源を適正に評価すれば、下記のとおり湯西川ダムなしで24万m3/日になります。
今市   1万4000m3/日
川治ダム 10万4000m3/日
県受水  2万8000m3/日
白沢(地下水) 7万7000m3/日
宝井(地下水) 1万7000m3/日
計  24万0000m3/日

●結論

宇都宮市の1日最大給水量は、 同市が1992年度及び1998年度において、どんなに荒唐無稽な過大予測をしようとも、現実は1992年度に22万7810m3/日でピークを記録した後、減少の一途をたどり、同市自身が宇都宮市水道施設再構築基本構想(2016年3月策定)で今後も減少の一途をたどること(24年後の2039年度には15万m3/日程度になること)を認めています。

他方、宇都宮市が保有する水源については、湯西川ダムなしで26万m3/日もあり、2003年度の水源構成の見直し後も、適正に評価すれば24万m3/日もあります。

したがって、湯西川ダムによる開発水のうち毎秒0.3m3/、日量にして2万5900m3/日を確保する必要性は皆無でした。

水需要予測が過大であることも、遅くとも2004年11月に提起された湯西川ダム住民訴訟における住民側の主張により分かっていたことでした。

それにもかかわらず、宇都宮市は、何らの反省をすることなく、住民からの要請はねのけてまで湯西川ダムへの参画に固執し、その結果、宇都宮市の水道利用者は本来負担しなくてもよかったダム建設負担金92億円(国庫補助はありますが、国庫補助は天から降ってくるものではないので、宇都宮市民を含めた国民全体の損失になります。)を負担することになりました。

住民訴訟は、住民側の控訴審敗訴で確定し、負担金の支出が違法でないこととなりましたが、裁判所が適法のお墨付きを与えたからといって、妥当性に関する事後評価が不要になるわけではありません。

今後の不要な公金の支出を避けるためには、湯西川ダムへの参画という水源政策を検証し、総括することが必要だと思います。

【宇都宮市上水道と湯西川ダムに関する経緯】
○1984年3月、宇都宮市水道事業の設置等に関する条例の一部改正。
[内容]
給水区域の拡大
給水人口 52万5700人
1日最大給水量 31万m3

3月28日、厚生大臣が水道法第10の認可をした。(第5期拡張事業)○1985年7月25日、宇都宮市が特定多目的ダム法第15条第1項に基づき建設大臣に対し、1日最大取水量5万2700m3で湯西川ダム使用権の設定を申請した。

同年8月、建設大臣は、特ダム法第4条第4項に基づき、宇都宮市長に対して湯西川ダムの基本計画について意見照会を行い、宇都宮市長は、了承する旨回答した。
○1986年3月11日、建設省は、特ダム法第4条に基づき、湯西川ダムの建設に関する計画を作成し、宇都宮市長に対して通知した。
○1992年度、宇都宮市が水需要予測を実施した。
○1994年3月、宇都宮市水道事業の設置等に関する条例の一部改正。
[内容]
給水区域の拡大
給水人口 56万5300人
1日最大給水量 32万m3
同月31日、厚生大臣が水道法第10条の認可をした。(第6期拡張事業)
○1998年、宇都宮市が水需要予測を行った。 ○2000年3月、宇都宮市水道事業の設置等に関する条例の一部改正。
[内容]
給水区域の拡大
給水人口 55万0700人
1日最大給水量 31万m3
○2002年、宇都宮市は、宇都宮市総合計画を改定し、将来推計人口を下方修正した。 ○2003年3月、宇都宮市総合計画の改定に基づき水需要予測を見直し、次のとおり修正した。
給水人口 49万0500人(2013年度がピーク)
1日最大給水量 22万6000m3(2019年度がピーク)
○2003年度、宇都宮市は、水源構成の見直しを次のとおり行った。
今市 1万4000m3/日(変更なし)
白沢(地下水) 7万7000m3/日→6万m3/日
宝井(地下水) 4万1000m3/日→0
川治ダム 10万m3/日(変更なし)
湯西川ダム 5万m3/日→2万4000m3/日
県受水  2万8000m3/日(変更なし)
合計  31万m3/日→22万6000m3/日

○2003年11月11日、宇都宮市は国土交通大臣に対し、湯西川ダム使用権設定申請について1日最大取水量を2万5900m3とする変更申請を行った。
○2004年3月、宇都宮市水道事業の設置等に関する条例の一部改正。
[内容]
給水人口 49万0500人
1日最大給水量 22万6000m3

11月14日、国土交通大臣が湯西川ダムの基本計画について宇都宮市の1日最大取水量を2万5900m3に変更した。
○2007年、宇都宮市水道事業及び下水道事業の設置等に関する条例の一部改正。
[内容]
給水人口 52万1270人
1日最大給水量 22万6900m3
○2016年3月、宇都宮市が「宇都宮市水道施設再構築基本構想」を策定した。
[内容]
給水人口 47万4302人(2039年度)
1日最大給水量 15万1196m3/日(2039年度)

出典:湯西川ダム住民訴訟宇都宮地方裁判所判決(2009年1月28日)、「宇都宮市水道施設再構築基本構想」

(文責:事務局)
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