若宮戸溢水はいつ始まったのか(鬼怒川大水害)

2019-02-20

●05:48より前に撮った土のうの写真があるはずだ

過去記事に書いたとおり、2015年9月10日に鬼怒川左岸若宮戸地区25.35k付近で溢水した時に国土交通省は、05:48から土のう積みを撮り始めたことになっていますが、そんなわけないだろうと思います。したがって、写真が22枚しかないことには、疑問を持っています。

国土交通省関東地方整備局河川局の9月17日記者発表資料出水時における下館河川事務所から常総市への情報提供について【速報版】によると、下館河川事務所から常総市長に次のような電話連絡がありました。

ホットライン

若宮戸に関する部分を抜き出します。

9月9日
22時54分 ホットライン 「若宮戸で越水の可能性が高い。避難勧告、避難所の準備をしてください。」
9月10日
2時06分 ホットライン 「水位上昇中。避難指示を出して下さい。」 ※若宮戸地点から氾濫した場合の浸水想定区域図を送付
4時48分 ホットライン 「万が一の場合、浸水想定区域図を活用してください。」
5時58分 ホットライン 「若宮戸地点で越水が始まります。」
6時30分 はん濫発生情報 「常総市若宮戸(左岸25.35k)付近より越水しました。」
*ホットライン:国土交通省から常総市長へ、電話連絡による水位等の河川情報の提供

つまり、国土交通省は、被災前日の9月9日22時54分には、「若宮戸で越水の可能性が高い。避難勧告、避難所の準備をしてください。」と言っていて、10日02時06分には避難指示を出すように市長に伝え、浸水想定区域図まで送付しているのですから、職員はそれに近い時刻には現地で土のう積みを観察に行って、いつ溢水するのかと固唾をのんで土のうを見つめていたと思います。

現地では写真や動画を撮るくらいしか仕事はなかったと思います。

それなのに、土のうを撮った写真が22枚しかないというのはおかしいと思います。

ちなみに、5時58分のホットライン で「若宮戸地点で越水が始まります。」という文章は変ですが、土のうの隙間や底からの水漏れから、土のうの天端を乗り越える越水に変わるという意味なら理解できる表現です。

●金子晃久市議がツイートしていた

2017年8月に茨城県議会議員に初当選した金子晃久(てるひさ)氏(自由民主党)は、2015年9月10日時点では、常総市議会議員でした。

https://twitter.com/josokaneko/status/641688061764472832https://twitter.com/JosoKanekoからは、次のツイートが見られます。

金子市議(当時)がツイートした時刻が2015年9月9日12:02と表示されています。

金子ツイート12

他方、iOSでログインせずにTwitterを開くと、次のような画像を得られます。

金子ツイート04

こちらの表示時刻は9月10日04:02です。

この時差については、人跡既踏というサイトのTwitterでの、未ログイン時の時刻表示 (日本標準時とは16〜17時間のズレあり)に次のように解説されています。

TwitterのWeb上での 投稿時刻等の時刻表示(※未ログイン時)は、サンフランシスコでの時刻である。
したがって、日本標準時(JST)とは 16〜17時間のズレ(時差)がある。(表示されている日時に +16時間 または +17時間 すると、日本での日時になる)
(中略)
太平洋夏時間(PDT)が適用される期間は「3月半ば〜11月初 (3月の第2日曜日午前2時から11月の第1日曜日午前2時まで)」である。
まとめると、未ログイン時のTwitterのWeb上での表示日時は、+16時間を足すと、日本での日時に変換できる。
ただし、冬(11月初〜3月半ば)の期間は、代わりに +17時間を足す。

「サンフランシスコは、Twitter本社の所在地である。」と説明されています。

というわけで、2015年9月9日12:02に16時間を足すと10日04:02になりますから、金子氏は、同時刻に次のツイートをしたと見て間違いないと思います。

【鬼怒川氾濫警戒!】若宮戸のソーラー発電開発者によって無堤防地域になっていた場所に到着すると50センチ下まで水が迫っています。途中車が水にはまり危うく乗り捨てるところだった。避難警報が発令されています!対象地区は至急避難してください!

ここで問題なのは、金子氏の状況を正確に把握する能力です。治水の素人と思われる人が夜目遠目でどれほど正確に事態を把握できるのかということです。

常総市の9月10日の日の出時刻は05:18なので、04:02は真っ暗の時刻です。おまけに雨天で月明かりはありませんから、人工の光源がないと何も見えないと思います。

どの地点のどこと水面との差が50cmであると言っているのか、なぜ50cmだと判断したのか、何m離れた地点で観測したのか、光源は何だったのか、など明確にしてほしい点はあります。

また、「途中車が水にはまり危うく乗り捨てるところだった。」という文章も意味深長で、それは一体どこなのか、若宮戸付近で内水氾濫する場所があるのか、04:02で既に土のう積みでない場所からの外水氾濫があったのかなどが気になります。

それらを私が本人に聞ける状況にない以上、それらの問題は捨象します。映画「12人の怒れる男」に出てくる検察側証人のばあさんの証言は、陪審員から質問を受けるとガタガタに崩れたのですが、金子氏の証言はあてになるという前提で考察を進めます。

つまり、「50センチ下まで水が迫っています」だけを所与の条件として考えてみます。

鬼怒川大水害前後の鎌庭観測所地点(27.34k)の水位の変化がnaturalrightのサイトの鬼怒川決壊前後数日間の水位変化に載っています。

鎌庭観測所は、若宮戸の土のう積みのある地点(25.35k)よりも1.99km上流にあります。

鎌庭地点での9月10日の水位は、
4時 3.43m
5時 3.95m
となっています。

4〜5時の1時間で0.52m上昇しています。

若宮戸より約2km上流の鎌庭で1時間で0.52m上昇したのなら、若宮戸での水位も同様の挙動を示すはずです。

したがって、金子氏の04:02に投稿した、「50センチ下まで水が迫っています。」というツイートを真に受け、あと50cmで土のう積み付近の最も低い部分から洪水が溢れると解釈するならば、若宮戸での溢水は05:00頃に始まったと考えることもできます。

金子氏の証言を割り引いて考え、溢水まであと75cmだったとしても、05:30に溢水が始まったと考えることもできます。

金子県議は、若宮戸溢水を知る貴重な証人です。自民党県議なので政府に不利なことは言わないのか、有権者の利益のために、そして後世への教訓を伝えるために真相を語ってくれるのか、注目したいと思います。

●常総市の報告書では05:40に溢水を観測

常総市水害対策検証委員会による平成27年常総市鬼怒川水害対応に関する検証報告書2016 年 6月 13日の平成27年常総市鬼怒川水害時の常総市の災害対応の時系列記録の9月10日05:40の災害対策本部ホワイトボード記載内容には、「若宮戸は土のうの間から水があふれている状態」と書かれています。

国土交通省が隠しておきたかったことを常総市がばらしてしまいました。

この情報は誰が得て発信したのでしょうか。市の職員が目撃しているのではないでしょうか。

市民や民間人からの通報なら、「若宮戸は土のうの間から水があふれている状態」とは書かないと思います。

匿名の人物からの情報を「検証報告書」という歴史に残すべき公文書に記載するとは思えません。

「若宮戸は土のうの間から水があふれている状態」は、たったの1行にもならない文章ですが、信頼性は高いと思います。この情報に言及する学者、研究者が皆無に等しいことは理解し難いことです。

●05:30に溢水開始という情報もある

国土問題研究会シンポジウム「最近の水害問題から」で国土問題研究会理事長の上野鉄男氏が「鬼怒川の洪水被害と水位分析」という論文を書いています。そこには次のように書かれています。

越水区間の上流端から 50m 上流で川から 200m 離れた地点の住宅では,避難せずに家にいたが,朝の 5 時 30 分頃に洪水が越水していたのを見た。6 時には家の周りで浸水が始まった。

家にいたのでは、土のう積みでの溢水状況は見えなかったと思われ、何を見て「越水していた」と言っているのか分からず、記述が不十分ですが、「6 時には家の周りで浸水が始まった。」という証言は、情報公開で出た22枚の写真と符合するので、ウソではないと思います。

そうだとすると、鬼怒川大水害訴訟の答弁書の「9月10日午前6時頃に(若宮戸で溢水が)発生した」は誤りということになると思います。

(文責:事務局)
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