鬼怒川大水害で河畔砂丘の掘削量は150m×2mではなかった

2018-01-20

●鬼怒川大水害は河畔砂丘を掘削した箇所から起きた

2015年9月10日に茨城県常総市で約40km2が浸水した水害(「鬼怒川大水害」と呼ぶべきだと思う。)は、常総市上三坂地区での堤防決壊地点からの氾濫水によることはもちろんですが、若宮戸地区での溢水(無堤防地区から洪水が溢れること)によることも事実であり、国も『平成27年9月関東・東北豪雨』の 鬼怒川における洪水被害等について(2015年10月29日)のp19、20で「10.鬼怒川25.35k(常総市若宮戸地先)等の被災状況の調査結果について」と記載しています。(なお、八間堀川から鬼怒川への排水が遅れたことが被害を大きくした。)

「(若宮戸地区からの)溢水量の総ボリュームは 1,159 万 m3 と算出され, 国土交通省の資料によれば,常総市の氾濫水量 が約 3,400 万 m3 であることから,概ね 1/3 が若 宮戸地先からの溢水によるものと考えられる。」(「平成 27 年 9 月関東・東北豪雨に伴う茨城県常総市における溢水量の推定と大型土嚢の効果」中村要介(三井共同建設コンサルタント株式会社) 近者敦彦(三井共同建設コンサルタント株式会社) 土屋十圀(中央大学理工学研究所))という論文もあります。

若宮戸地区の溢水は、正確には2箇所で起こっています。鬼怒川と利根川の合流点から起算して24.75km地点付近と25.35km地点付近です。

25.35km地点付近での溢水は、太陽光発電事業者が、長年堤防の役割を果たしてきた河畔砂丘を2014年の3月から5月にかけて掘削した地点で発生しました。

国は、掘削と溢水の因果関係について明言していませんが、上記報告書のp20で、その掘削についての情報を記載せざるを得ないほど重要な事実でした。

太陽光発電事業者について2015年9月16日付け日刊ゲンダイは、次のように書いています。

不動産登記などによると、丘陵地を含む一帯を13年12月に購入したのはB社。同じタイミングで資本金500万円で会社設立し、再生可能エネルギーによる発電などの事業を始めている。


●掘削量の根拠は常総市議会一般質問の答弁だと思われる

ソーラー発電事業者がどの程度砂丘を掘削したのかが問題になるはずですが、矛盾する情報が流れています。

例えば、J-CASTニュースの鬼怒川の越水箇所は以前から危険が指摘されていた ソーラーパネル設置のため自然堤防削るという記事には、次のように書かれています。

越水した茨城県常総市の若宮戸地区は、なんと人工堤防のない場所だった。1キロほどにもわたるその場所は、民有地になっている鬼怒川沿いの丘陵地が自然堤防の役を果たしていた。

ところが、千葉県の業者が2014年3月下旬、ソーラーパネル設置のため横150メートル、高さ2メートルにわたって自然堤防を削ってしまった。

また、2015年9月14日 鬼怒川氾濫 常総市若宮地区 洪水被害の責任は!? 特ダネ!!テレ朝モーニングバードの6:19でも、「高さ2m 長さ150mにわたる自然堤防の掘削を開始した」というテロップが出ています。

それらの根拠は、2014年6月2日に開かれた常総市議会一般質問の都市建設部長答弁(No.160)にあると思われます。

風野芳之議員の質問に対し、飯田昭典・都市建設部長が次のように答弁しています。

都市建設部長(飯田昭典君)
それでは、風野議員の御質問にお答えいたします。
 鬼怒川左岸の若宮戸地区につきましては、堤防が築かれていない無堤部が約1キロメートルにわたり存在しておりますが、通称十一面山の丘陵部が自然の堤防の役目を果たしておりました。
 御指摘の若宮戸地先におきましては、ことし3月下旬に若宮戸地区の住民の方より丘陵部の一部が掘削されているとの通報があり、現地を直ちに確認し、鬼怒川を管理している国土交通省関東地方整備局下館河川事務所へ報告したところでございます。当該地区は民有地であったため、民間事業者の太陽光発電事業により丘陵部が延長約150メートル、高さ2メートル程度掘削されたものでありました。
 今年度の出水対策といたしまして、下館河川事務所で検討をしていただいた結果、太陽光発電事業者の土地を借りて丘陵が崩された付近に掘削前と同程度の高さまで大型土のうを設置することとし、現在常総市とともに交渉を進めている状況であります。また、今後は下館河川事務所において築堤の事業化に向けて検討していると聞いております。  
 
 
   ●常総市都市建設部長答弁は国土交通省の説明と合致しない  

国土交通省は、上記報告書のp20において、太陽光発電事業者による掘削量を文章では表記せず、「洪水時の溢水状況 比較(イメージ)」で図示するだけです。  

「洪水時の溢水状況 比較(イメージ)」の一番上の図をご覧ください。下図は、上記資料から切り取った画像です。斜線部が太陽光発電事業者が掘削した砂丘の縦断面積ということになるはずです。
   若宮戸掘削イメージ図  
 

国土交通省は、2014年7月3日に、太陽光発電事業者の事業用地内に大型土のうを設置しました(根拠は『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る 洪水被害及び復旧状況等について2016年1月29日p20)

大型土のうの設置高の標高は測量してあり、「大型土のうの設置高の平均値から推定した掘削後の地盤高はY.P.+19.7m程度」で、砂丘の高さは一番低い所が21.36mで、一番高い所が24.22mですから、太陽光発電事業者による掘削した砂丘の高さは、少なくとも21.36ー19.7=1.66m、多くて24.22ー19.7=4.52mということになります。単純平均で約3mです。

2015年9月14日 鬼怒川氾濫 常総市若宮地区 洪水被害の責任は!? 特ダネ!!テレ朝モーニングバードの9:49を見ても、太陽光発電事業者が掘削した河畔砂丘の高さが2mでないことは見て取れると思います。

国土交通省は、掘削の幅は約200mとしています。

したがって、太陽光発電事業者が掘削した河畔砂丘の縦断面積は、ざっと見で200m×3m=600m2となります。

一方、上記のとおり、常総市議会での飯田昭典・都市建設部長の答弁では、150m×2m=300m2であり、国土交通省の説明と全く合致しません。

話がちょうど倍も違います。

実際に掘削された砂丘の縦断面積が約600m2だとすると、約181坪の縦断面積を持つ堤防が消えてしまったことになります。しかもその堤防は、砂でできているとはいえ、厚さ2〜3mのカミソリ堤防ではありませんでした。

飯田昭典都市建設部長が、なぜ「民間事業者の太陽光発電事業により丘陵部が延長約150メートル、高さ2メートル程度掘削された」と答弁したのかを是非とも知りたいところですが、飯田氏は、既に常総市を退職しているようなので、市役所に行って飯田氏に話を聞くことはできません。しかし、議会の答弁書は、部長が個人的に書くものではなく、常総市の執行部という組織として作成したものですから、その根拠は組織として保有しているはずです。

下の写真(逆井正夫氏が2014年4月21日に撮影)は、太陽光発電事業者が重機で砂丘を掘削しているところです。掘削した砂丘の高さが2mどころではないことが分かると思います。
若宮戸掘削作業

太陽光発電事業者が掘削した砂の量を数字で示すことはできませんが、莫大な量であったことは、下の写真(逆井正夫氏が2014年5月4日に撮影)からも分かります。
若宮戸掘削砂の量

●太陽光発電事業者は「3mでも4mでも積んでもらっても結構だった」と言った

2015年9月14日 鬼怒川氾濫 常総市若宮地区 洪水被害の責任は!? 特ダネ!!テレ朝モーニングバードの6:36では太陽光発電事業者が「(下館河川事務所の職員から)2mの土のうを積ませてほしい」と頼まれたことについて、7:31で「私の方は3mでも4mでも積んでもらっても結構だったんですけれども」と語っています。

太陽光発電事業者が砂丘を2mしか掘削していなかったとしたら、「(土のうを)3mでも4mでも積んでもらっても結構」と言うでしょうか。

太陽光発電事業者が「(土のうを)3mでも4mでも積んでもらっても結構」と言ったということは、太陽光発電事業者が掘削した砂丘の高さが4m台に及んだことの状況証拠ではないでしょうか。

●土のう2段の高さは2mにならない

ちなみに、下館河川事務所の職員が「2mの土のうを積ませてほしい」と頼んだというのもおかしな話であり、実際に積んだ土のうの高さは、2段で約1.6mです。根拠は、『平成27年9月関東・東北豪雨』の 鬼怒川における洪水被害等について(2015年10月29日)のp20の図です。「大型土のうの高さ=1.6m程度」と書かれています。

●なぜ「2mの土のうを積ませてほしい」と頼むのか

そもそも、なぜ河川事務所が「2mの土のうを積ませてほしい」と頼んだのかが分かりません。

上記のとおり、太陽光発電事業者は最大で約4.52mも砂丘を削ったと思われます。それなのに、なぜ国は「2m(実際は約1.6m)の土のうを積ませてほしい」と頼むのでしょうか。約1.6mでは、原状回復になっていません。2mでも同じことです。

国は、「発電用地にはパネルが敷き詰めてあって、土のうを3段以上積む場所がなかった」という言い訳をすると思います。発電用地にスペースがないなら、河川区域内にある市道の周辺にでも土のうを積めばよかったのです。

それなのに、太陽光発電事業者は「敷地境界から2m位の離隔を取りソーラーパネルを設置するのでソーラーに支障がない限り問題ない。」と言い、下館河川事務所は「通路部分への設置をお願いしたい。」と言っている(根拠は市が作成した協議記録)のですから、下館河川事務所は土のうの高さは2段で十分と考えたのだと思います。

常総市と付近住民がうるさく要請するので、下館河川事務所として対策を講じた形をつくればいいと考えたとしか思えません。

●土のうの使用数量からも長さ150mではない

国土交通省は、『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る 洪水被害及び復旧状況等について(2016年1月29日)p20において、2014年7月3日に設置した大型土のうの高さばかりを問題にしており、設置した土のうの長さ(=太陽光発電事業者が掘削した砂丘の長さ)について言及しないのは不当なことです。

国土交通省が使用した大型土のうの数は、794個だと考えられます(根拠は、平成27年関東・東北豪雨災害 〜鬼怒川水害〜というサイトの若宮戸 大型土のう設置経緯。ちなみに設置費はおよそ900万円と思われる。)。

2段積みで幅1mの土のうを積むには、土のうが3個必要ですから、794個の土のうを使うと、3で割って、264mの幅で積めます。

設置された土のうの形は、直線ではありませんから、砂丘が長さ約200m掘削されたという話なら辻褄が合います。

逆に常総市の部長が答弁したように、掘削の長さが150mだとすると、そこに土のうを2段積みするには、450個程度の土のうが必要です。設置された土のうの形が直線でないことを考慮したとしても、その約1.76倍の794個もの土のうは必要ないはずです。

したがって、掘削の長さは約150mではなく、国土交通省の報告書の図に記載されているように、約200mだったと見るべきだと思います。

●話が作られたのではないか

常総市執行部は、なぜ太陽光発電事業者が掘削した砂丘の高さが2mであると答弁したのでしょうか。

河川事務所が2mの高さの土のうを積ませてくれと業者に頼んだことと関係していないでしょうか。

太陽光発電事業者が砂丘を2mの高さで掘削したことに対して、河川事務所が高さ2m(実際は約1.6mなので0.4mの差があるが)の土のうを積んだことになれば、河川事務所としては、やれることはほぼやった、という話にできるということではないでしょうか。

●なぜ河畔砂丘を河川区域指定しなかったのか

ちなみに、河川管理者が若宮戸の河畔砂丘を河川区域に指定しておけば、砂丘が民地であっても許可なく掘削はできない(河川法第27条第1項)ので、河川管理者が許可しなければの話ですが、太陽光発電事業者が掘削することはなかったはずです。

鬼怒川の河川管理者(国土交通大臣)がなぜ河畔砂丘を河川区域指定しなかったのかについて、J-CASTニュースの上記記事には、次のように書かれています。

この点については、河川事務所によると、以前は鬼怒川沿いまで小高い山になっており、そこまでが河川区域になっていた。その後、川側の山が削られて現在の丘陵地になったため、丘陵地が区域から外れた。
なぜその後に丘陵地も区域に含めなかったかについては、「鋭意、計画を進めて、人工堤防を作ろうと考えていた」からだと説明した。つまり、ずるずると放置したままの状態だったわけだ。

下館河川事務所の説明はよく分かりませんが、おそらくは、「河畔砂丘に堤防の機能を求めなくとも、河畔砂丘の河川側(西側)に堤防を建設すればよいと考えていたので河畔砂丘を河川区域に指定する必要はない」ということだと思いますが、「考えていた」だけだったということです。

「築堤を考えていれば、築堤しなくても責任はない」というのが河川事務所の論理のようです。

結局、国は、築堤はせず、かといって、河畔砂丘を河川区域に指定して掘削を規制することもせず、「ずるずると放置」したのです。

こんな説明で納得する被害者はいるのでしょうか。

●常総市執行部は議会答弁を誤りと認めるべきだ

災害の再発を防ぐには、事実を明らかにすることが必要です。

常総市執行部は、太陽光発電事業者による砂丘の掘削について、国土交通省の報告書や住民の撮影した証拠写真と異なる答弁をしました。答弁が誤りであることを認めるべきだと思います。

(文責:事務局)
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