利根川の洪水が足利市と佐野市まで来るのか(その2)

2009-09-22

●八ツ場ダムと栃木県の関係が新聞報道された

栃木県が八ツ場ダムにどうかかわっているのかについて、2009-09-18下野がおそらく初めて、次のように報道しました。

国交省が作製した想定氾らん区域によると、利根川で大規模な洪水が発生したら足利、佐野、藤岡の3市町の一部25平方キロが浸水するとされる。利根川の本川が流れていないにもかかわらず本県が治水負担金を支出する根拠となった。住民訴訟では最大の争点でもある。

市民団体側は「浸水したとしても藤岡町のごく一部。被害額も1億円程度」と主張。その上で八ツ場ダムの治水効果も否定して「1億円の負担すら不要」としている。

利根川の洪水が最も近いところでも4キロメートル以上離れた栃木県を襲ったことはこれまでありません。

物事は確率的に考えないと政策の優先順位が付けられないと思います。確率的に考えたら、利根川の洪水が足利市、佐野市、藤岡町まで来ることはないでしょう。

上記記事によって、多くの栃木県民が八ツ場ダムのうさん臭さを感じ取ったと思います。

●福田富一知事の意見はどっちなんだ

2009-09-18下野によれば、「前原誠司国土交通相が17日未明の就任会見で利根川水系の八ツ場ダム(群馬県)の中止を明言」しました。

「八ツ場ダムをめぐって福田富一知事はこれまでの定例会見で「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」」(2009-09-18下野)と発言しています。

ところが、2009-09-18の日経新聞には、次のように書かれています。

栃木県の福田富一知事は「八ツ場ダムは治水のために必要。流域住民の意見を反映せずに中止を決めるのであれば、国は治水や利水を説明する必要がある」と語った。

福田知事の意見は、一体どっちなのでしょうか。見直しなのか促進なのか。はっきりさせてほしいと思います。

下野では、「これまでの定例会見で」「検証するべきだ」と発言したと書かれているのに対して、日経では鳩山由紀夫首相と前原誠司国土交通相が「八ツ場(やんば)ダム建設を中止する考えを明らかにしたことに対して、関係各県の知事から批判が相次いだ。」という記述の後に書かれています。

すると、下野で紹介された知事の発言は、前原大臣の発言の前のものであり、日経で紹介されたそれは、前原発言の後の知事発言ということになりそうです。

そうだとしたら、短期間にそんなに考え方が変わるのは無責任ではないでしょうか。

「治水のために必要。」が本気ならば、1947年のカスリーン台風が再来したとしても、八ツ場ダムの治水効果がゼロであることを事業者である国自身が認めているというのに、福田知事は八ツ場ダムの治水効果をどう説明するのでしょうか。

雨が想定どおりの降り方をした場合には効果があるという程度のダムのために9,000億円も使うことは許されないと思います。

●「説明する必要がある」のは知事だ

福田知事は、「流域住民の意見を反映せずに中止を決めるのであれば、国は治水や利水を説明する必要がある」と語ったのですが、福田知事も歴代知事も、八ツ場ダムのために10億4,000万円も払うことについて、栃木県民にどれだけ説明したのでしょうか。

栃木県は強制的に八ツ場ダムに参画させられたのではなく、自らの意思で参画したのですから、八ツ場ダムによって栃木県にどのような利益がどれだけあるのかを栃木県知事が説明する義務があるはずです。

そもそも栃木県民が利根川の恩恵や害を受ける流域住民なのでしょうか。栃木県民が流域住民だとしても、「流域住民の意見を反映」させるために何をしたのでしょうか。負担金の予算について議会の議決を経ていますが、「栃木県政だより」で八ツ場ダムの負担金の根拠が説明されたことがあったでしょうか。

中止の説明を国に説明を求める前に、八ツ場ダムが栃木県にどのような恩恵をもたらすのかを知事が県民に対して説明すべきでしょう。

●受益地にアンケートすべきだ

福田知事が八ツ場ダムの中止問題に「流域住民の意見を反映」すべきだと考えているなら、八ツ場ダムに参画すべきという民意がどれくらいあるのか証明してほしいと思います。

そのためには、今からでも、少なくとも八ツ場ダムの受益地とされる足利市、佐野市、藤岡町の住民に対して無作為抽出でアンケートを実施すべきだと思います。

●公明党が八ツ場ダムを検証する

公明党は、「八ツ場ダム(群馬県)建設事業の是非を検証するチームを設置する方針を決めた。(同党は)当初、建設中止に否定的な考え方を示していたが、世論の動向を見極めることにした。」(2009-09-18下野)そうです。

「17日の中央幹事会で「首長らは反対だろうが、一般世論がどう思っているかが問題だ」との指摘が出た。」そうです。

正鵠を射た指摘だと思いますが、「一般世論」とはだれの意見と考えているのかが気になります。移転対象者の意見でしょうか。

水没地区住民はダム計画に翻弄されてきてひどい目に遭ってきたわけですが、だからといって、彼らにダムを売り渡す権利もなければ、自然環境を滅茶滅茶にする権利もありません。

公明党には、しっかりと納税者の民意を見極めてほしいと思います。公共事業は当事者の情にかなうだけで決めるべきものではありません。「検証」という以上、八ツ場ダムが治水と利水に役に立つのかを科学的に見極めてほしいと思います。

●ダムを観光資源のために造るのか

2011年度の完成を目指して工事が進む湯西川ダムについて「日光市の斎藤文夫市長は「市でも水没など関係住民の生活再建に向け、インフラ整備や生活再建施設づくりを急ピッチで進めている」とした上で「治水、利水はもとより関係住民の生活再建策でも欠かせない観光資源で、地域振興には欠かせない。建設事業の推進を強く希望する」とコメントした。」そうです。

斎藤市長が、湯西川ダムが「治水、利水」のために「欠かせない」と本気で考えているとは思えません。日光市の人口推計はまともだ(その2)に書いたように、総合計画に人口が増えるというウソを書く鹿沼市と比べて、正直に人口が減ると予測した日光市は立派だと評価していましたが、日光市長も市長という立場でものを言うようになってしまったのでしょうか。

治水と利水のために役に立つならプラスアルファで観光資源に生かすという考えも悪くないでしょうが、観光資源や地域振興だけのためにダムを造られてはたまりません。それが分かっているからこそ、斎藤市長は、「治水、利水はもとより」という前置きを付けたのでしょう。

でも建て前でものを言うのは良くないです。湯西川ダムの虚構を見抜けない斎藤市長ではないと思うのですが。

斎藤市長は、湯西川ダムは治水に欠かせない施設だと言います。そうだとしたら、観光資源にはならないと思います。なぜなら、ダムが治水機能を果たすには、洪水の季節には、洪水に備えて水位を予め下げなければならないからです。水位を下げれば水質が悪化します。湖底の一部が姿を表します。醜い湖底と汚い水を見るために人が来るでしょうか。

実際、五十里ダムや川俣ダム、川治ダムにどれだけの集客力があったのでしょうか。ダムが観光資源になるなら、旧栗山村では、なぜ村は衰退し、日光市に吸収合併されてしまったのでしょうか。五十里ダム湖畔のドライブインもなくなってしまいました。水陸両用バスにどれほどの集客力があるのか疑問です。

ダムは、治水や利水のためにどうしても必要な場合に最後の手段として建設するものです。

(文責:事務局)
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