八ツ場ダムのウソ(その3)

2009-11-10,2009-11-13追記,2009-11-16追記,2009-11-18追記,2009-11-20追記,2009-12-01追記,2009-12-03追記

●暫定水利権を解消するために必要というウソ

2009-11-04下野に「八ツ場ダム問題/水利権譲れぬ自治体/人口増で「安定」悲願」という見出しの記事が載りました。埼玉県の上田清司知事のために書かれたような記事です。ダム反対派の反論には全く触れていません。

「八ツ場ダムの利水に参加する5都県に許可された暫定水利権は毎秒計10.93トン。うち埼玉県は7.45トンと依存度が高い。」ので、埼玉県では、八ツ場ダムを建設して、暫定水利権を安定水利権にすることが悲願だというのです。

「人口増で「安定」悲願」と言いますが、国は、埼玉県の人口は2010年をピークに減少していくと推計しています。2005年の国勢調査人口705万人を基準にすると2035年には626万人(88.7%)にまで減少すると推計しています。国立社会保障・人口問題研究所のホームページで確認できます。

ダム建設の負担金を払わないと安定水利権を許可しないという国土交通省の水利権行政を前提とする限り、記事の内容はもっともな話ということになります。

しかし、今、国土交通省のつくりあげてきた前提を疑うという視点を持つべきです。

埼玉県が持つ八ツ場ダム関係の暫定水利権は、農業用水を冬季に転用するもので、古いものは37年間も取水実績のあるものもあり、その間、冬期の取水に支障を来したことがありません。安定水利権を認めても問題ないのです。国土交通省は、水利権の許可権限を「ダム事業推進の手段に使っていると言っても過言ではない」(「水源連だよりNo.51」嶋津暉之氏)のです。

埼玉県は、八ツ場ダムが中止になったら、利根川からの暫定水利権を取り上げられてしまうのでしょうか。徳島県の細川内ダムと新潟県の清津川ダムは、2000年と2002年に中止になりましたが、暫定水利権は消失していません。ダムを造らないと水を使わせないという不合理な前提が既に崩れています。だから、八ツ場ダムが中止になっても、関係都県が取水を続けれることを国交大臣が認めればよいのです。

上記記事には、「利根川水系では、平成に入ってからも6回の渇水があり、10〜30%の取水制限が行われた。」と書かれていますが、「給水制限は給水圧の調整にとどまり、断水にはほとんど至っていないから、生活への影響は小さなものであった。最も最近の渇水である平成13年渇水は取水制限が実質わずか5日間で終っており、利根川水系では最近十数年間は渇水らしい渇水を経験したことがない。」(「八ツ場ダム建設事業に関する1都5県知事共同声明」の事実認識の誤りp5、八ツ場あしたの会のサイト参照)のです。

●ダムができれば安定して取水できるというウソ

八ツ場ダムができれば、安定して取水できるように宣伝されていますが、疑問です。八ツ場ダムの利水容量は9,000万m3ありますが、夏期は洪水に備えるため、満水位から28mも水位が下がり、利水容量は2,500万m3となってしまいます。利根川水系の11基の既設ダムの夏期利水容量の合計は4億3,329万m3ですから、八ツ場ダムができても、利根川水系のダムの利水容量は約5%増えるだけです。合計の利水容量は現状とそう変わらないのですから、八ツ場ダムができたからといって、利水状況が劇的によくなることないと思います。

●石原都知事の詭弁(2009-11-13追記)

2009-10-19に1都5県の知事が八ツ場ダム建設予定地を視察しました。視察後の地元住民との意見交換会で、「東京都の石原慎太郎知事は「災害はいつくるかわからない。(八ツ場)ダムは完成すべきだし今後政府に進言するつもりだ」と話した」(2009-10-20日経)そうです。

災害がいつくるか分からないという命題は正しい。しかし、だから八ツ場ダムを造るべきだということにはなりません。八ツ場ダムを造るべきだと言えるためには、八ツ場ダムで災害を防げることが論証されていることが最小限必要です。

ところが国は、1947年のカスリーン台風が再来した場合、八ツ場ダムの治水効果が全くないことを認めています。

私たちは、ダムは有用なものだと学校で教えられてきているせいか、八ツ場ダムに治水効果があることを当然の前提として、「災害はいつくるか分からない。だから八ツ場ダムを完成させるべきだ」と言われると、だまされそうになります。

前提を疑う癖をつけないと、政治家にだまされます。

茨城県の橋本昌知事は「ダムの必要性はこれまで以上に増してきている」(2009-10-20日経)と話したそうです。論証もせずにウソ宣伝をする政治家の存在を茨城県民はいつまで許しておくのでしょうか。

●小渕優子議員がダムに賛成するわけ(2009-11-16追記)

2009-11-16赤旗に「"八ツ場ダム マネー" 自民還流/小渕中曽根佐田氏ら支部に/受注企業が742万円/08年収支報告書」の見出しの記事が載っています。一部を引用します。

八ツ場(やんば)ダム工事の関連事業を受注した22社から地元群馬県の自民党支部へ2008年に総額742万円もの献金があったことが、本紙の調べでわかりました。こうした受注企業からの献金は、"八ツ場ダムマネー"が自民党に還流する格好になっています。

 最新の08年政治資金収支報告書によると、受注業者から献金を受けているのは、中曽根弘文(前外相)、山本一太の両参院議員、小渕優子(前少子化担当相)、佐田玄一郎(元行革担当相)の両衆院議員、尾身幸次(元財務相)、谷津義男(元農水相)の両元衆院議員(ことし8月の総選挙で落選)が支部長を務める支部など、群馬県の自民党8支部です。

 中曽根氏は、受注企業9社から176万円、山本氏は10社から130万円、小渕氏は36万円、佐田氏は42万円、尾身氏は62万円、谷津氏は96万円などです。

 この他に、自民党群馬県ふるさと振興支部は受注企業9社から132万円を集めています。同支部は、小渕優子後援会に献金するなど小渕氏と深い関係のある支部です。  
 

2009-09-25産経が「【金曜討論】八ツ場ダム/ 小渕優子氏、嶋津暉之氏」を掲載しています。もちろん小渕氏は、熱心にダムの必要性を強調しています。その理由が受注企業からの献金と無関係だと思えと言われても無理です。  

八ツ場ダムが本当に必要なものならば、なぜ事業費が自民党の政治家に還流するという利権の構造が存在しなければならないのでしょうか。自民党議員が本当に八ツ場ダムが必要だと主張するのなら、受注企業からの献金をすべて返して、今後ももらわないと宣言して、身ぎれいになってからにしてほしいと思います。  

ダムマネーの自民党への還流こそ八ツ場ダムが無駄であることの証拠と考えざるを得ません。  

 ●小渕優子氏への献金額は1180万円だった(2009-12-01追記)  

上記赤旗記事では、「中曽根氏は、受注企業9社から176万円、山本氏は10社から130万円、小渕氏は36万円、佐田氏は42万円、尾身氏は62万円、谷津氏は96万円などです。」と書いてありましたが、12月3日号の週刊文春には、新聞広告なので献金の期間は分かりませんが、「民主逆襲の切り札「八ツ場ダム」受注企業献金リスト」の見出しで、「小渕優子に1180万円、中曽根弘文に690万円、山本一太に490万円……」と書かれています。  

結局、小渕氏が一番たくさんもらっているようです。36万円と1180万円ではエラい違いです。  

小渕氏ら自民党議員は、国民の命と財産を守るためにダム推進を主張しているのか、カネのために主張しているのか、私たちはよく考える必要があると思います。    

 ●小渕優子議員の主張は非科学的(2009-11-18追記)  

ダム利権の恩恵に浴している小渕優子議員が産経記者に語っている八ツ場ダムが必要である理由を見てみましょう。治水面では次のとおりです。  

 利根川水系の吾妻川上流で治水をコントロールできる施設はない。ダムでなく堤防を造成すればいいという話もあるが、そうなると下流域まで結構な距離の堤防を作らなければならないし、用地買収が必要になる。
 豪雨や台風による被害が必ずしも利根川上流で起こるとはいえず効果がないとの声もあるが、さまざまな洪水パターンなどを試算した上で建設に至った経緯がある。
 温暖化で集中豪雨も増え、場所や時期が不安定となっている中、その必要性は増している。  
 

「ダムでなく堤防を造成すればいいという話もあるが、そうなると下流域まで結構な距離の堤防を作らなければならないし、用地買収が必要になる。」と言いますが、意味が分かりません。  

現在、利根川に堤防がないとでも言うのでしょうか。それとも、八ツ場ダムを造れば、堤防はなくても大丈夫だとでも言うのでしょうか。  

利根川に堤防はあります。そして、堤防には弱い部分もあります。補強が必要です。しかし、限られた治水予算をダムに付けてしまうので、必要な堤防の整備が遅れているのが現状です。「八ツ場ダムは治水効果が希薄なだけでなく、真の治水対策を遅らせる要因にもなっている」(嶋津暉之氏)のです。  

「国民の命と財産を守るためにダムを造る」という役人や政治家の極め台詞は、詭弁です。  

「豪雨や台風による被害が必ずしも利根川上流で起こるとはいえず効果がないとの声もある」は、1947年のカスリーン台風が再来した場合に八ツ場ダムに治水効果がないという話です。  

「さまざまな洪水パターンなどを試算した上で建設に至った経緯がある。」とは、国土交通省の役人の計算どおりに雨が降ってくれた場合にのみ、八ツ場ダムに治水効果があるということです。  

しかし、自然は、役人に都合良く雨を降らせてくれません。小渕氏は、ダム推進側にとって都合良く雨が降った場合には、机上の計算では効果があると言っているのです。自分の都合で世の中が動くと思っているのは、幼児の考え方です。幼児の考え方で税金を使われては、納税者はたまりません。  

税金を使う以上、物事は確率的に考えなければダメです。台風が八ツ場ダム予定地の吾妻川上流に大雨を降らす確率は低いのです。  

「温暖化で集中豪雨も増え、場所や時期が不安定となっている中、その必要性は増している。」も、再三書くように、非科学的な話です。  

温暖化による集中豪雨による被害を八ツ場ダムがどれだけ軽減する効果があるのかが全く検証されていないのですから、「その必要性は増している。」などと言えるはずがありません。ダムは想定した流量を超えた流量には耐えられません。想定できないような雨量にも耐えられるかのように言うのは詭弁です。  

小渕氏に知恵を付けているのは国土交通省の役人に決まっていますが、優秀なはずの役人がこんな理屈しか並べられないということです。  
 

では、小渕氏は、利水についてはどう言っているでしょうか。  

 現在1都5県の約200万人分の水を利根川水系の暫定水利権で補っている。
 何もない日が繰り返されるなら問題はないかもしれないが、もし今、渇水となった場合はどうするのか。市民の安全安心を守ることが自治体の役目でもあり、政治がすること。
 治水面と同様に、将来的な気候変動が読めない中、水の確保は大きな責任になってくる  
 

いざ渇水のときに「暫定水利権」ではダメだという話ですが、八ツ場明日の会のサイトの八ッ場ダムの暫定水利権問題のページには、「 農業用水転用水利権は長年の取水実績があります。埼玉県水道の場合は古いものは1972年から(37年間も)利用されていますし、群馬県の場合でも十数年の取水実績があり、実際に冬期の取水に支障をきたしことがありません。」と書かれています。暫定水利権でも支障を来していないのですから、ダムがなくても問題ないのです。実績や実態を見て、ダムが必要かを判断すべきです。  

逆に、暫定水利権を安定水利権に変えれば万全なのでしょうか。倉渕ダム建設凍結をめざす市民の会のサイトには、「安定水利権でまかなっている地方にも、渇水問題は起っている。」と書かれています。権利はあっても流れていない水は取れないのです。  

「ダム建設で新たな水源を開発し、関東地方の暫定水利権を全て安定水利権に変えるには、あと幾つダムを作れば足りるのだろうか。」という指摘も重要です。  

国がやるべきことは、ダムを造ることではなく、歪んだ水利権行政を改めることです。  

小渕氏は、「もし今、渇水となった場合はどうするのか。」と言いますが、「 過去50年間において利根川で冬期に取水制限が行われたのは、1996年と1997年だけであって、冬期の渇水はきわめてまれなことです。それもそのときの取水制限率は10%で、具体的な渇水対策は節水のよびかけをする「自主節水」だけであって、渇水による被害は皆無でした。」(八ツ場あしたの会)。小渕氏の話は、現実を無視した机上の空論です。  

「治水面と同様に、将来的な気候変動が読めない中、水の確保は大きな責任になってくる」と小渕氏は言いますが、八ツ場ダムの洪水期の利水容量は2,500万m3程度であり、大渇水に堪えるように設計されていません。  

吾妻川の水は強酸性であり、品木ダムで石灰を投入し、中和しています。その費用が年10億円もかかります。中和生成物で品木ダムの総貯水容量は8割が埋まっています。こうした費用対効果の悪さも小渕氏は無視しています。  

環境の時代に生物多様性の価値を度外視しているのも、底の浅い議論です。性物多様性を害することが国民の安全安心につながるのでしょうか。  

小渕氏は、「もし今、渇水となった場合はどうするのか。」と脅しますが、小渕氏は、貴重な生物がいなくなったらどうしてくれるのでしょうか。  

要するに、小渕氏の主張は、八ツ場ダムに効果がないという指摘に科学的な反論をせずに、ダムに効果があるという結論にしがみついているだけです。  

嶋津暉之氏「利水も治水も効果ない」を読んで、どちらの言うことがまともかを判断してください。  

  ●ヒ素データ隠しというウソ(2009-11-20追記)  

2009-11-19赤旗が「八ツ場上流 国交省ヒ素データ隠し/情報取りまとめ業務/天下り法人に集中/受注はすべて随意契約」という見出しの記事を載せています。  

リードは、次のとおりです。  

  群馬県の八ツ場(やんば)ダム建設予定地の吾妻川とその支流で、環境基準を超えるヒ素を長年にわたり検出しながら、国土交通省が公表していないことが明らかになっています。こうしたダム建設にかかわる情報の調査、取りまとめ業務は、国交省OBの天下り法人が随意契約で受注。隠ぺいの背景にある癒着構造が浮かび上がります。  
 

「吾妻川は魚も住めない"死の川"と呼ばれていました。上流の草津温泉や硫黄鉱山跡地から出てくる強酸性の水に高いヒ素が含まれています。」(上記記事)。国土交通省は、ヒ素のデータを隠しており、情報のとりまとめ業務は天下り法人が随意契約で受注していたとのこと。八ツ場ダムをやめる理由は、 これでもかというくらいに、次から次へといくらでも出てきそうです。  

19日の参議院国土交通委員会で脇雅史議員が八ツ場ダムに利権構造があるからといって中止するのは短絡だ、福祉に利権構造があるからと言って福祉をやめるのか、と言っていました。脇議員は、国土交通省河川局の出身です。よくぞここまで居直ったかという感じです。  

福祉行政や河川行政に利権構造があるからといってやめてしまうわけにはいきませんが、八ツ場ダム事業が利権まみれなら、やめてしまってもよいと思います。八ツ場ダムだけが河川行政ではありません。  

ちなみに、脇議員は、八ツ場ダムを「役に立つに決まっているダム」と言いましたが、ウソであることは、これまで説明したとおりです。  

2009年10月2日(金)「しんぶん赤旗」には、「自民の官僚OB議員/関係業界が多額献金/港湾・農業土木ノ深いつながり」の見出しで次のように書かれています。

  脇議員の「自由民主党東京都参議院比例区第43支部」と「脇雅史政策研究会」には40を超える建設業者や業界団体から1020万円の献金。  
 

国民のために社会資本を整備したいと主張するなら、建設業者や業界団体から政治献金をもらうのをやめてからでないと、説得力がありません。  

「役に立つか」と「利権」は無関係という理屈に国民は納得しません。だから自民党は負けたのです。そこが理解できない自民党に再生の余地は当分ないでしょう。  

  ●何のための八ツ場ダム推進決議か(2009-12-01追記)  

2009-11-25下野に「八ツ場ダム建設/推進の意見書案近く県議会提出」という見出しの記事が載っています。  

八ツ場ダムの建設事業について、栃木県議会の「自民党議員会(32人)と公明党・新政クラブ(3人)は、建設推進を求める意見書案を、県議会12月定例会に提出することを決めた」そうです。30日の本会議で可決される見通しとのこと。  

自民党県議たちがダムを推進したがる理由は何でしょうか。記事には次のように書かれています。  

  意見書案では、地元住民の生活再建のためには、ダム湖の完成、国道・JR付け替え工事の早い完成が必要とし、ダム建設事業の中止を撤回したうえで、予定通り完成させるよう求めている。  
 

この記事だけを見ると、八ツ場ダムが治水や利水に役に立つかどうかは、どうだっていいと言っているように思えます。地元住民の生活再建のためにダムの完成が必要だと言っているのですから。  

栃木県は、八ツ場ダムのために10億4000万円を国に払うのですから、自民党県議たちは、第1番目に、足利市などの栃木県内の自治体住民を利根川の水害から守るために必要だと言うのが筋です。栃木県議会が栃木県に関係のない決議をするはずはないので、当然、治水の便益には触れているはずです。とにかく、情報公開請求で確かめてみます。  

自民党県議たちは、公共事業をなぜやるのかという根本のところが分かっていないのではないでしょうか。  

生活再建のためにダムを建設するという理屈がなぜ間違いかというと、地元住民をダム事業者が苦しめれば、そこのダムは造るべきだということになってしまうからです。ほとんどのダムで住民は苦しめられますから、結局、すべてのダムを造るべきだということになってしまうからです。  

自民党と公明党の県議は、他県の住民の気持ちを思いやる余裕があるなら、地元南摩の室瀬地区でダムに反対している3世帯の住民の気持ちを思いやったらどうでしょうか。  

  ●八ツ場ダム建設推進意見書のウソ(2009-12-03追記)  

11月30日に栃木県議会が可決した八ツ場ダムの建設推進を求める意見書は、下記のとおりです。  

  議第1号

八ツ場ダムの建設推進を求める意見書

八ツ場ダムは、下流都県に住む480万人を洪水被害から守るとともに、首都圏約430万人の都市用水を開発することを目的に、国と地元住民、1都5県との約束のもとに行われている共同事業であり、本県にとっても、利根川の氾濫区域に含まれる渡良瀬川右岸の足利市、佐野市及び藤岡町の一部地域区を洪水被害から守る上で必要不可欠な施設である。

地元水没関係住民は、昭和27年の建設方針提示以来、激しい反対闘争や長い歳月にわたる議論を経て、苦渋の選択としてダム事業を受け入れてきたところであり、また、総事業費4600億円のうち平成20年度末までに3210億円が執行され,平成27年度の完成に向け、残すところ本体工事費と生活再建事業費の1390億円で完成する状況である。

しかしながら、9月に発足した新政権により、「無駄の見直し」の名の下、関係自治体への連絡調整もなく、「政権が替わった、マニフェストに記載されている」ことのみを理由にダム建設が中止されることは、関係1都5県の状況はもとより、ダムの完成を前提とした住宅建設など、新生活へ向けて既に歩み出した地元住民の心情を無視した暴挙と言わざるを得ず、この段階に至っての中止は断じて容認できるものではない。

たとえ政権が替わっても、八ツ場ダムがもつ治水及び利水上の極めて重要な役割は変わるものではない。

よって、国においては。これまでの経緯を十分斟酌するとともに、全ての関係者が八ツ場ダムの早期完成を望んでいるという実態を十分認識し、下記の事項を実現するよう強く要望する。



1 八ツ場ダム建設事業の中止を撤回し、国の責任において事業の推進を図り、予定どおりに全事業を完成させること。

2 地元住民の生活再建事業のためには、ダム湖の完成、国道・JR付け替え等の工事の1日も早い完成が必要であり、最大限の努力のもとで取り組むこと。 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

平成21年11月30日

栃木県議会議長 青木克明

内閣総理大臣 様
財務大臣
国土交通大臣
衆参両院議長  
 

「八ツ場ダムは、下流都県に住む480万人を洪水被害から守る」はウソです。八ツ場ダムは、1947年のカスリーン台風が再来しても効果がないことは、国会での政府答弁でも明らかです。  

「利根川では1998年9月の洪水が過去50年間で最大のものです。この時に八ツ場ダムがあった場合の治水効果を計算すると、最大で水位を13センチ(群馬県伊勢崎市の八斗島地点)下げるだけです。しかも、このときの最高水位は堤防のてっぺんから4メートルも下にありましたから、治水対策として何の意味もありません。」(水源開発問題全国連絡会共同代表・嶋津暉之氏の話。2009-11-08赤旗)。  

「首都圏約430万人の都市用水を開発することを目的に」と言いますが、首都圏の水は足りています。福田富一・栃木県知事は、「埼玉県知事が水が必要だと言っている」とよく言いますが、「1996年以降、埼玉県では荒川調整池、浦山ダム、北千葉導水路、合角ダム、利根中央用水の各事業の完成にともなって、(日量)90万トン以上の水源を新たに確保しています。一方で、水需要は減少傾向にあります。こうした水余り現象は、首都圏では、すでに常態化しています。」(2009-11-08赤旗)。  

「1996年に埼玉県では117日間の渇水が起きた。八ツ場ダムがあれば渇水が17日で済んだ。」というデマが流れています。しかし、「この話は国交省の試算をもとにしたものであって、渇水が起こる直前まで八ツ場ダムが満水になっている前提で計算しています。ダムは貯水量が増減を繰り返すのが普通ですから、この試算は机上の計算でしかありません。夏場の八ツ場ダムは、大雨に備え水位を28メートルも下げて、貯水量は2500万トンに減らすので、渇水時にさほど役立つダムではありません。」(嶋津暉之氏の話。2009-11-08赤旗)。  

「本県にとっても、利根川の氾濫区域に含まれる渡良瀬川右岸の足利市、佐野市及び藤岡町の一部地域区を洪水被害から守る上で必要不可欠な施設である。」とありますが、全くのウソです。「利根川の氾濫区域に含まれる」と言いますが、国が勝手に含めているだけで、利根川の氾濫が栃木県に及んだ歴史的事実はありません。2005年に国が作成した利根川の氾濫想定区域図では、少なくとも足利市と佐野市は、氾濫想定区域には含まれていません。国自身が八ツ場ダムの根拠がデタラメであることを証明してくれています。  

また、地元足利市長が八ツ場ダムは中止すべきと言っているのですから、必要ないと見るべきです。意見書では「関係自治体への連絡調整」もなく新政権が中止を決めたのはけしからんと言いますが、自民党県議たちは中止の撤回を求めるに当たって、八ツ場ダムは要らないと言っている足利市長への「連絡調整」はしたのでしょうか。  

「苦渋の選択としてダム事業を受け入れてきた」と言いますが、反対運動をしている人間にも「苦渋の選択」はあるのですから、「苦渋の選択」はダム推進論だけを正当化する根拠にはなりません。  

「総事業費4600億円のうち平成20年度末までに3210億円が執行され,平成27年度の完成に向け、残すところ本体工事費と生活再建事業費の1390億円で完成する状況である。」もウソです。水特法事業、基金事業、起債の利息、東電への減電補償、追加の地すべり対策費等を含めれば、総事業費は9000億円を超えるはずです。完成させた方が得ということには絶対になりません。完成させれば、美しい景観も生物多様性も失われます。  

中止が「地元住民の心情を無視した暴挙」と言いますが、「昭和27年の建設方針提示」だって「地元住民の心情を無視した暴挙」だったと思います。建設宣言は問題ないが、中止宣言は暴挙だと言い立てるのはご都合主義というものです。  

「たとえ政権が替わっても、八ツ場ダムがもつ治水及び利水上の極めて重要な役割は変わるものではない。」には、科学的根拠がありません。  

「全ての関係者が八ツ場ダムの早期完成を望んでいる」もウソです。中止を喜んでいる地元住民もたくさんいます。中止を支持すると村八分に遭うのが怖いと言っています。    

以上要するに、自民党と公明党の栃木県議会議員は、科学的な検証を無視し、「ダム神話」とでも言うべき信仰に基づいて意見書を可決していると言わざるを得ません。政治家も人間ですから、信仰をやるのは結構ですが、政策が信仰で決められては、納税者はたまりません。  

上記意見書は、論理的には全く意味のない文章ですが、選挙で選ばれた公務員が作成しているので、民意であるかのように受け取られるのが問題です。政治家は票で生きている以上、民意を気にして行動するものですが、県民は八ツ場ダムのことをよく知らないから、非科学的な意見書を決議しても文句は出ないだろうと思われているのかもしれません。

(文責:事務局)
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