みんなの党が八ツ場ダム推進

2010-07-02

●八ツ場あしたの会が参議院選挙アンケートを実施

八ツ場あしたの会が参議院選挙を前に八ツ場ダムに関して政党へのアンケートを実施しました。

その結果、「関連事業を継続し、本体工事に着工」すべきだと答えたのは、自民党とみんなの党だけでした。

みんなの党は、次のように答えています。

過去に問題があったかということとともに、未来志向で工事続行により得られる便益と費用を比較して、続行すべきか否かの結論を出すべきと考えます。

ここから言えることは、みんなの党は、過去の問題も全く不問に付すわけではないが、事業を継続するか、本体工事に着工すべきかという観点からは、「関連事業を継続し、本体工事に着工」すべきだという結論を出しているのですから、過去に費やした事業は不問に付すということです。

みんなの党がどのような費用便益計算をして「関連事業を継続し、本体工事に着工」すべきだという結論を出したのかは不明です。「未来志向で」と書いているのですから、既に支出した事業費を度外視したものと思われます。また、国ではこれから時間をかけて個別のダム事業を中止するか継続するかを検討していくのに、みんなの党がどうしてアンケートへの回答の中で短時間で事業継続の結論を出せるのかが不思議です。

みんなの党は、「過去に問題があったか」も問題にしないわけではないように答えていますが、過大な水需要予測と過大な洪水流量の予測をした公務員やコンサルタントの処分をするという意味なのかは、不明です。「過去に問題があったか」を考慮するというのなら、間違った予測をした者や予測の見直しを怠った者の責任を問うのが筋です。

●みんなの党の考え方は有識者会議と同じ

2009年11月に国土交通省大臣は、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」を設置しました。この組織の役割については、国土交通省のサイトの「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」についてによれば、「「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるとの考えに基づき、今後の治水対策について検討を行う際に必要となる、幅広い治水対策案の立案手法、新たな評価軸及び総合的な評価の考え方等を検討するとともに、さらにこれらを踏まえて今後の治水理念を構築し、提言する。 」ことです。

有識者会議の委員の人選がひどすぎることは、ダム推進派による見直し に記載したとおりです。

その有識者会議が2010年6月16日の第10回の会議で「中間とりまとめ」を発表しました。そのp34には、ダム事業の「評価に当たっては、現状(又は河川整備計画策定時点)における施設の整備状況や事業の進捗状況等を原点として検討を行う。すなわち、コストの評価に当たり、実施中の事業については、残事業費を基本とする。また、ダム中止に伴って発生するコストや社会的影響等を含めて検討することとする。」と書かれています。

もう一度書きます。「コストの評価に当たり、実施中の事業については、残事業費を基本とする。また、ダム中止に伴って発生するコストや社会的影響等を含めて検討する」というのです。

要するに、ダム事業を継続する場合には、コストの評価は残事業費だけを考えればいいよ、中止する場合には、中止に伴って発生するコストはきっちり算定するよ、ということです。

ほとんどのダム事業は、これだけ下駄を履かしてもらえば、継続ということになってしまうのではないでしょうか。「新たな評価軸」とは、残事業費でコストを評価するということだったようです。

これで、「「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進める」ことができるとは思えません。

これが「有識者」に御用学者ばかりを並べた意味だったようです。

有識者会議の「コストの評価に当たり、実施中の事業については、残事業費を基本とする。」は、みんなの党の「未来志向で工事続行により得られる便益と費用を比較して、続行すべきか否かの結論を出すべき」という考え方は、そっくりです。

民主党もみんなの党も「脱官僚支配」と言っていますが、結局、ダムを造り続けたいという官僚と相互依存しているように見えるのが不思議です。

●みんなの党の考え方は国土交通省の技術指針と同じ

国土交通省「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」(2004年2月)は、再評価の際の費用便益分析を、「事業継続による投資効率性を評価する『残事業の投資効率性』」と「事業全体の投資効率性を評価する『事業全体の投資効率性』」の二つに整理しています。

事業継続・中止の判断に当たっての判断材料は一般的には前者であり、「既投資分のコストや既発現便益を考慮せず、事業を継続した場合に今後追加的に必要になる事業費と追加的に発生する便益のみを対象」とするべきとされています。

みんなの党の考え方は、この路線に乗ろうとしているものと考えられます。 ●みんなの党の考え方は池田信夫氏と同じ

経済評論家の池田信夫氏のブログには、「八ツ場ダムとサンクコスト」というページがあり、次のように書かれています。

今後の追加的費用の見積もりにも不確実性が残りますが、国交省の計算によれば、今ダムの建設をやめると、生活関連の補償などで770億円かかり、事業継続によるネットの費用は(1400−770=)630億円ということになります。ただし反対派は、東電への補償などによってさらに1000億円以上のコストがかかると主張しており、これを上限とするとネットの費用は約1600億円です。

この場合もサンクコストは無視してよいので、建設を中止することが合理的になるのは(総事業費ではなく)今後の追加的費用である1600億円よりダムの便益が小さいときです。だから長期事業の大部分が終わったところで中止するのは--その事業の総事業費が便益を上回るとしても--不合理になることが多い。

今後も事業費がふくらむリスクを見込んでも、残るコストの2倍の3200億円以上の便益があれば継続は正当化できるでしょう。

八ツ場ダムの事業費は、私たちは少なくとも8,800億円、悪くすると1兆円以上と見ていますが、国による概算では4,600億円です。池田氏は、「3200億円以上の便益があれば継続は正当化できるでしょう。」と書きます。

どんなに少なくとも4,600億円を投資して3,200億円の便益があればいいというのです。私はおかしいと思います。

池田氏の主張の根拠は、「どうあがいても取り戻せないコストは考えてはいけない」という考え方です。

池田氏は、「まず必要なのは、こうしたダムの費用対効果を(サンクコストを無視して)計算し直すこと」だと書きます。

みんなの党や国土交通省の技術指針は、サンクコスト理論に由来しているのではないでしょうか。

●サンクコストとは何か

「埋没費用(まいぼつひよう)ないしサンク・コスト(sunk cost)とは、事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用をいう。」(Wikipedia)とされています。

「ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指す。埋没費用の別名。」(Wikipedia)とも書かれています。

いつだれが言いだしたのか、という起源はよく分かりません。「経済学の初歩」(池田信夫ブログのサンクコストと言われていますが、

●サンクコスト理論はどっちの味方か

「八ツ場ダムの総事業費4600億円のうち、既に7割の3200億円が使われ、残る事業費は1400億円だ。だから乗りかかった舟で、完成させてしまおう」という議論がありました。これに対して、ある事業に今までこれだけ金をかけたから、完成するまで事業費を払い続けるのはおかしいとするのがサンクコスト理論なのです。

ベムのメモ帳というサイトのサンク・コストとコンコルド効果というページにも「もう既に予算の7割を費消している。いままで多額の出費をしているのだから、継続すべきではないか」という意見を否定する方向で埋没費用の理論が用いられています。

しかし、費用便益分析を行うときに、既に払った費用は度外視してようということになると、ダムを造りたい人たちに限りなく有利になります。だからこそ、「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」(2004年2月)がこの理論を取り込んだのではないでしょうか。

池田信夫氏は、ダム推進派というわけでもないのでしょうが、「今後も事業費がふくらむリスクを見込んでも、残るコストの2倍の3200億円以上の便益があれば継続は正当化できるでしょう。」と書いています。サンクコスト理論を使うとこのような議論がまかり通ることになります。

会社も公器であるという考え方もありますが、私企業の経営者がこれまでつぎ込んだ投資額をきれいさっぱり忘れて、未来志向で費用便益計算を行うのは、経営者の勝手ですから仕方がありませんが、公共事業においてこれまでつぎ込んだ税金の額を忘れて費用便益計算をしてよいという考え方が正しいとはどうしても思えません。

なお、2010-07-01赤旗で「各党は八ツ場ダムどうする NGOアンケート/自民推進 民主「中止」言わず/みんなの党 ムダ一掃いいながら「推進」」をご参照ください。

みんなの党について、「各都県の「八ツ場ダムをストップさせる会」が選挙区候補に行ったアンケートでも、同党のあやふやな態度が浮かんできます。埼玉県選挙区の公認候補は中止に賛成しています。茨城県の候補者は「わからない」と回答。東京選挙区の松田公太候補は、アンケートに回答していません。」と書いています。

(文責:事務局)
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