アーミテージ・ナイ報告書は自民党の裏マニフェストだった

2015年8月31日

●山本太郎議員が戦争法案の立法事実について質問した

多くの場合、ダム建設の理由はウソの固まりです。したがって、当サイトはウソの解明をテーマとしています。

2015年8月19日に山本太郎・参議院議員が戦争法案に関する特別委員会で戦争法案の立法事実について質問しました。

私の言いたいことをすべて言ってくれています。

そうであれば、私が同趣旨の本稿を書かなくてもいいのですが、本稿は山本議員が上記質問をする前に用意していたものなので、ご了承ください。「私にも言わせて」ということで。

山本議員の上記質問については、リテラで野尻民夫という人が「山本太郎が安倍首相の「ネタ元」リポートを暴露! 安保法制はすべて米国のリクエストだったという証拠が」という記事を書いており、非常によくまとめられています。

なお、山本議員が言うように、集団的自衛権行使容認がアメリカの命令によるものであることは、山本議員の発見ではありません。田原総一朗氏も日経BPnetに「安保関連法案は「第3次アーミテージ・ナイレポート」の要望通り?」(2015年6月11日)という記事を書いています。

●憲法解釈の変更理由にはウソがある

安倍晋三首相は、2014年7月1日に集団的自衛権を行使できると憲法解釈を変更したのは、「国民の命と平和な暮らしを守るため」(安倍内閣総理大臣記者会見)であると言います。

しかし、その理由はウソだと思います。

安倍政権に「国民の命と平和な暮らしを守るため」という理念があるなら、なぜ事故があってもなくても生物の遺伝子を破壊する毒を出し続ける核発電を続けるのでしょうか。なぜ核発電事故被災者に対して棄民政策がとられているのでしょうか。なぜ福祉予算が削られ、軍事費が増大するのでしょうか。

安倍首相は、言っていることとやっていることが違います。「言行不一致が政治家の仕事だ」と居直られる可能性がありますが。

●理由はアメリカから命令されたから

「CSIS 国際戦略研究所 日本講座 報告書」というものがあります。いわゆる「アーミテージ・ナイレポート」と呼ばれるもので、2012年8月15日に「第3次アーミテージ・ナイレポート」(IWJのサイトから)が公表されました。2000年と2007年にも公表されています。

この報告書は、後記のように、海上自衛隊幹部学校のサイトにも掲載されています。

たかがアメリカの民間の一シンクタンクの報告書が、なぜ日本国が運営するサイトに掲載されているのかと言えば、日本国がこの報告書を大変重要視し、日本国の全政策の基本としているからとしか考えられません。

原文は、CSISのサイトにThe U.S.-Japan Allianceとして掲載されています。

CSISとは、戦略国際問題研究所のことで、Wikipediaによれば、「1962年にアメリカ合衆国のワシントンD.C.に設立された超党派のシンクタンク」です。「現在、CSISは、アメリカ陸軍・海軍直系の軍事戦略研究所でもある。」そうです。

次のような解説もあります。

日本人では小泉進次郎や、浜田和幸、渡部恒雄などが一時籍を置いた。現在では日本から多くの将来有望な若手官僚や政治家(候補含む)がCSISに出向して学んでくる慣習が確立している。CSISの日本部には、防衛省、公安調査庁、内閣官房、内閣情報調査室の職員の他、ジェトロや損保会社、NTTの職員も、客員研究員として名を連ねている。また、日本の現役政治家とも縁が深く、麻生太郎や安倍晋三なども度々CSISを訪れ、講演でスピーチを行っている。

「麻生太郎や安倍晋三なども度々CSISを訪れ」ているのですから、自民党政権がCSISを重要視していることは明らかです。

「第3次アーミテージレポート」の執筆者は、リチャード・L・アーミテージとジョセフ・S・ナイです。

彼らはジャパン・ハンドラーズと呼ばれているようです。

ほかにマイケル・グリーン、カート・キャンベル、ウィリアム・マーティンがいるようです(日本を操るアメリカの政府高官”ジャパンハンドラー”って何?から)。

ハンドラー(handler)とは、ウマやイヌの調教師という意味だそうです。

アメリカ人にとって、日本人は調教の対象(家畜)だということです。

IWJ Independent Web Journalは、このレポートを次のように解説しています。

奇観というべきは、日本の政官財各界が、このレポートに書かれた米国からのアジェンダを、忠実に遂行しようとしている姿である。民主党から自民党へ政権が交代してからも、そうした従属的姿勢は変わらない。これに新聞・テレビなどの既存大手メディアが後押しをして、対米従属の列に加わる。本メルマガ第61号〜63号、72〜74号で何度も論考した「改憲・憲法第9条の改正(集団的自衛権の行使)」の問題をはじめ、「原発の推進」、「TPP交渉参加推進」、「中国との緊張の維持」など・・・、現実に起こりつつあるこれらの政策の裏に、米国の要求があるのは明らかである。

レポートには、次の八つの見出しがついています。
はじめに 
エネルギー安全保障
経済と貿易
近隣諸国との関係
新しい安全保障戦略に向けて
結論
提言
執筆者について


そして、「提言」は、次の三つに分かれています。
日本への提言
日米同盟への提言
米国への提言

このレポートの訳文が海上自衛隊幹部学校のサイトにも掲載されています(第3次アーミテージ・ナイレポート“The U.S-Japan Alliance ANCHORING STABILITY IN ASIA”が公表される。)。

幹部学校第1研究室  井上 高志 による訳文で見ていきます。

「日本への提言」から見ていきます。

●核発電再稼働はアメリカの命令である

(1)原子力発電の慎重な再開が日本にとって正しくかつ責任ある第一歩である。原発の再稼動は、温室効果ガスを2020年までに25%削減するという日本の国際公約5を実現する唯一の策であり、円高傾向の最中での燃料費高騰によって、エネルギーに依存している企業の国外流出を防ぐ懸命(「賢明」の誤り)な方策でもある。福島の教訓をもとに、東京は安全な原子炉の設計や健全な規制を促進する上でリーダー的役割を果たすべきである。

アメリカは日本に核発電所を再稼働せよと言っています。

もっとも、この要求は、日本の核マフィアからの要望で入ったという説もあります。つまり、外圧の利用です。

●ホルムズ海峡での機雷掃海もアメリカの命令である

(2)日本は、海賊対処、ペルシャ湾の船舶交通の保護、シーレーンの保護、さらにイランの核開発プログラムのような地域の平和への脅威に対する多国間での努力に、積極的かつ継続的に関与すべきである。

(7)イランがホルムズ海峡を封鎖する意図もしくは兆候を最初に言葉で示した際には、日本は単独で掃海艇を同海峡に派遣すべきである。また、日本は「航行の自由」を確立するため、米国との共同による南シナ海における監視活動にあたるべきである。
ホルムズ海峡に自衛隊を派遣しろと言っています。

●TPP参加もアメリカの命令である

(3)環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加に加え、経済・エネルギー・安全保障包括的協定(CEESA)など、より野心的かつ包括的な(枠組み)交渉への参加も考慮すべきである。

TPPに参加しろと言われています。

●防衛力拡大もアメリカの命令である

(6)新しい役割と任務に鑑み、日本は自国の防衛と、米国と共同で行う地域の防衛を含め、自身に課せられた責任に対する範囲を拡大すべきである。同盟には、より強固で、均等に配分された、相互運用性のある情報・監視・偵察(ISR)能力と活動が、日本の領域を超えて必要となる。平時(peacetime)、緊張(tension)、危機(crisis)、戦時(war)といった安全保障上の段階を通じて、米軍と自衛隊の全面的な協力を認めることは、日本の責任ある権限の一部である。

米軍と協力し防衛力を拡大しろと言われています。

●特定秘密保護法の制定もアメリカの命令である

(4)日本は、韓国との関係を複雑にしている「歴史問題」を直視すべきである。日本は長期的戦略見通しに基づき、韓国との繋がりについて考察し、不当な政治声明を出さないようにするべきである。また、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)や物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向けた協議を継続し、日米韓3か国の軍事的関与を継続すべきである。

(8)日本は、日米2国間の、あるいは日本が保有する国家機密の保全にかかる、防衛省の法律に基づく能力の向上を図るべきである。

秘密保護の法整備をやれと言われています。

●PKO参加もアメリカの命令である

(9)国連平和維持活動(PKO)へのさらなる参加のため、日本は自国PKO要員が、文民の他、他国のPKO要員、さらに要すれば部隊を防護することができるよう、法的権限の範囲を拡大すべきである。

PKOに参加せよと言われています。

次に「日米同盟への提言」を見てみます。

●米軍と自衛隊の協力及び共同訓練もアメリカの命令である

(7)米陸軍及び海兵隊と陸上自衛隊との協力は、相互運用性の向上と、水陸両用で機敏かつ展開容易な部隊への進化を、発展させるものであるべきである。

(8)米国と日本は、民間空港の活用、「トモダチ作戦」の教訓検証、そして水陸両用作戦能力の向上により、共同訓練の質的向上を図るべきである。また、米国と日本は、二国間あるいは他の同盟国とともに、グアム、北マリアナ諸島及びオーストラリア等での全面的な訓練機会の作為を追及すべきである。

行動訓練をやれと言われています。

●兵器の共同開発もアメリカの命令である

(9)米国と日本は、将来兵器の共同開発の機会を増やすべきである。短期的には共通の利益や作戦上の要求に沿った特別の計画について考慮すべきである。一方で日米同盟は共同開発にかかる長期的な運用要求を共有すべきである。

兵器の共同開発をやれと言われています。

次に「米国への提言」を見てみます。

●武器輸出もアメリカの命令である

(5)米国は、「武器輸出三原則」の緩和を好機ととらえ、日本の防衛産業に対し、米国のみならずオーストラリアなど他の同盟国に対しても、技術の輸出を行うように働きかけるべきである。米国は、時代にそぐわない障害と化している有償軍事援助調達(FMS)手続きを見直さなければならない。

武器を輸出しろと言われています。

●自民党の裏マニフェストは昔からあった

上記のことから、アーミテージ・ナイレポートが自民党の裏マニフェストになっていることは明らかです。政府のホームページに堂々と掲載されているのですから、「裏」でもないですが。

中谷元・防衛大臣や岸田文雄・文部科学大臣は、集団的自衛権行使容認は主体的に判断したと言います(2015年8月19日、山本太郎の勇気ある質問)が、中谷大臣は米軍のニーズがあるから自衛隊の任務を拡大したと、2015年7月30日に福島瑞穂委員に答弁しており、支離滅裂です。

自民党の裏マニフェストは、以前からありました。

1989年には日米構造協議が始まりました。

「その後、同協議は1993年からは日米包括経済協議に衣替えして継続され、94年には、相互に規制緩和を求める年次改革要望書がスタートした。」(2015年8月26日付け東京新聞)のです。「相互に」といっても、「日本側からアメリカ側への要望の一切は実現されていない。」(Wikipedia)と言われています。

年次改革要望書は、2009年に鳩山内閣時代に廃止されている(Wikipedia)と言われていますが、米国時間2015年4月1日,米通商代表部(USTR)が公表した「2015年外国貿易障壁報告書」が年次改革要望書に代わる外圧になっているようです。詳しくは、「日本のゆくえ」というブログの「2015年度版、年次改革要望書が出ましたよ!」というページをご覧ください。

結局、今の日本は、アメリカからアーミテージ・ナイ報告書と外国貿易障壁報告書という2種類の要求、というより命令を突きつけられており、自民党の政策は、その命令を忠実に実行するだけの売国政策になっています。

そして、山本太郎議員によれば、自民党の政策がアーミテージ・ナイ報告書の完全コピーであることは永田町の住人なら誰でも知っているというのですが、マスコミではタブーになっているらしいです。

上記山本議員の質問は、東京新聞(8月20日付け)が報道しただけで、ほかのメディアは黙殺したようです(のんきに介護というサイトの「東京新聞だけが取り上げた「8月19日、山本太郎参議院議員の質疑」」)。

●なぜ植民地支配から脱却しようとしないのか

なぜ日本がアメリカによる植民地支配から脱却しようとしないのかについては、ほとんどの政治家がふぬけであることと、そもそも多くの国民が植民地支配されていることに気付いていないので政治家を動かす力になっていないことが理由だと思います。羽田飛行場や成田飛行場を利用しているのに、「横田ラプコン」の存在を知らない日本人も結構多いのではないでしょうか。シェアしたくなる法律相談所の「日本の空なのに航空機が飛べない「横田空域」はなぜ存在しているのか」も参照してください。

真実を探すブログの「【在日米軍不要】首都圏の空域は未だに米軍の管理下!民間機は入ることすら出来ない横田空域の危険性!」もご参照を。横田ラプコンは、過去7回の一部削減がなされましたが、現在も巨大な空域であり、ニアミスの危険もCO2削減の余地も大きいままです。

なお、そもそも「主権在米」をやめたら日本人は生きられないと信じている人たちがいます。そういう人たちにとって、植民地支配からの脱却は不要ということになります。

「日本がアメリカの属国にすぎないということは、この先、何年たとうと解決できる問題ではない。」、「現在もこの先も、日本にアメリカの属国をやめる選択はありえないのだ。」(2015年8月21日付け「ヤフーニュースの山本太郎リアル爆弾がついに炸裂!ただし、彼の世界認識は間違っている」)と奴隷根性をむき出しにする山田順氏もその一人です。

山田氏は、上記記述に先立ち、次のように書いています。

そこで、山本議員の指摘は正しいとしても、「没落間近の大国」という認識は完全に間違っていると言うほかない。なぜなら、アメリカはいまも世界最強の覇権国家であり、没落などしていないからだ。むしろ最近では、ドル高、原油安政策により、反米国家群を次々に窮地に追いやっている。ロシアはウクライナ問題で失敗し、いまや経済崩壊寸前だ。中国もまた経済崩壊寸前まできている。

資源高にあぐらをかいてきた反米ベネズエラも国家崩壊に瀕しているし、ブラジルも経済的に立ちいかなくなっている。キューバもイランも結局、アメリカの言うことを聞かざるをえない状況に陥っている。

しかし、日米安全保障条約(正式には「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」)を解消すると、日本がどういうことになるのかの説明はありません。

山田氏は、次のように書いています。

安保法制だけについてだけ言えば、自衛隊はそもそもアメリカ軍の補完軍である。自衛隊の兵器はほぼすべてアメリカ製である。たとえば戦闘機やミサイルシステムは、アメリカからシステムのソースコードをもらえなければ使い物にならない。だからもしアメリカと敵対関係になったときは、日本を守れない。さらに、現代では核兵器を持たななければ外交自主権がない。

「自衛隊の兵器はほぼすべてアメリカ製である。たとえば戦闘機やミサイルシステムは、アメリカからシステムのソースコードをもらえなければ使い物にならない。」とありますが、それは現状を前提とした議論であって、将来、自衛隊の兵器をヨーロッパ製に置き換えれば、「アメリカからシステムのソースコードをもら」う必要はありません。兵器はアメリカから買うしかないという前提は間違いだと思います。

山田氏は、「現代では核兵器を持たななければ外交自主権がない。」と、核兵器保有を肯定します。ヒロシマ・ナガサキの被爆者が中心となり、長年にわたり核兵器の廃絶を訴えてきましたが、山田氏の心には届いていないようです。

戦争をする国に戻るのも一つの考え方ですが、日本国憲法の規定する平和主義に明らかに反しますから、憲法を改正してから実現を図るべきですが、戦争法案を推進し、これに賛成する人たちは、憲法を守るというようなきれいごとを言っていては、国民の命と平和な暮らしを守れないと考えているのだと思います。つまり、物事を法の枠の外で考えています。アウトローの思想です。

法治国家の国防を議論する際に、ヤクザと同じ発想になってはいけないと思います。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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