アメリカンフットボール危険タックル事件の何が問題か

2018-07-07

●不祥事の後始末の問題ではない

日本大学アメリカンフットボール部による傷害事件でも、選手と監督らとどちらがウソをついているかが問題となりました。

2018年5月6日の日本大学対関西学院大学のアメリカンフットボールの試合で起きた危険タックル事件の本質を、起きてしまった不祥事の後始末的な意味での危機管理の問題ととらえるのが一般的な見方のようです(例えば、日本テレビのバンキシャ(5月20日)での社会学者・古市憲寿やTBSのサンデーモーニング(6月3日))が、妥当かは疑問です。

この事件の本質は、指導者や権力者が他人の痛さを想像することができず、ウソつきで、ルールを守らないということだと思います。どうしたら、このような指導者や権力者をなくしていけるのかが課題だと思います。

●前監督の発言はウソを判断せざるを得ない

内田正人前監督がウソを言っていることは、関東学生アメリカンフットボール連盟が暴いているだけでなく、「週刊文春」5月31日号によって内容が公開された試合直後の囲み取材での音声データと5月23日に日大が開いた緊急記者会見で内田前監督の言うことが矛盾することからも明らかです。

内田前監督は、囲み取材では、問題の危険タックルを見ていることを前提に「あれくらいラフプレーにはならない」「宮川はよくやったと思いますよ」「ミスしちゃダメよ、反則しちゃダメよと言うのは簡単なんですよ。(中略)内田がやれって言ったって(記事に書いても)、ホントにいいですよ、全然」「法律的には良くないことかもしれない」とか言っていたのに、23日の会見では、「(そもそも)ボールを追っていて、(1回目の)反則プレーは見ていない」と言い、関東学生連盟の聴取には、「インカムを落としたので見ていなかった」と言ったようで、要するに言うことに一貫性がありません。

それに引き換え、加害選手の言うことには、一貫性があり、試合時の映像との整合性もあるので、内田前監督がウソを言っていると判断せざるを得ないと思います。

加害選手は当日の先発メンバー表には入っていませんでしたが、井上コーチに言われたとおり、「1プレー目で相手クオーターバックを潰してきます。」と監督に言ったので試合に出られたと5月22日の記者会見で言いました。内田前監督は、「やらなきゃ意味ないよ。」と言ったと加害選手は言いましたが、前監督は否定しました。

23日の内田前監督の記者会見で、「先発メンバー表に名前のなかった宮川選手が急遽試合に出ることになったのはなぜなのか」と質問された内田前監督は、「春はメンバーを固定しない方がいいと思う」「当該選手は中心選手になってもらいたいので、(そういう選手には負荷を与えて)試合から外したり、試合に出したりすることはある」とか一般論を言うだけで、具体的な理由を答えませんでした。

都合の悪い質問には一般論で逃げて結局答えないという手法は、若狭勝弁護士も指摘しているところです。

加害選手を試合に出した理由を具体的に答えると、「相手選手をケガさせるという決心をする」という課題をクリアしたから、という話になってしまうので、一般論を展開してケムに巻こうしたとしか思えません。

●「ダメなものはダメ」と指導者が考えていないことが問題

究極の問題は、「ダメなものはダメ」と指導的立場にある者が考えていないということだと思います。

上記のとおり内田前監督は、「反則しちゃダメよと言うのは簡単なんですよ。」と言います。裏を返せば、「勝つためにはそんな建前論は言っていられない。ルールを破ってもよい」ということです。勝つためには、相手選手を負傷退場させてもかまわない、と考えているということです。目的を達成するためには、禁じ手もいとわないということです。(サッカーではイエローカードをもらう覚悟のファウルも戦術のうちのようですが、意図的にケガをさせる行為は、刑事事件であり絶対に容認できません。)

「ダメなものはダメ」という認識のない人が指導者になっているのが日本の社会の問題だと思います。世界でも同様ですが。

企業も経営状況をよく見せるためには粉飾決算をするし、製品の性能をよく見せるためには検査データの改ざんもする。違法な命令でも拒否しないで遂行する。それが昨今の風潮になっています。

首相も
「(加計孝太郎は)私の地位を利用して何かを成し遂げようとしたことはこの40年間、一度もない」
「日本での原発事故は起こり得ない」
「福島の放射能はコントロールされている」
「山口敬之氏と特に親しい関係ではない」
「TOC条約を締結できなければ東京オリンピック・パラリンピックを開けないと言っても過言でない」
「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」
「“広域的に、限る、1校だけ ” は獣医師会等からの要望」
「採択されている多くの教科書で『自衛隊が違憲である』という記述がある」
「年金額が減るなどということは、ありえません。」
「(消えた年金記録は)最後のお一人にいたるまできちんと年金をお支払いしていく」
「私自身は、TPP断固反対と言ったことは一回も、ただの一回もございませんから。まるで私が言ったかの如くのですね発言は慎んでいただきたい」
「籠池氏側から妻に留守電が幾度となくあった後、谷さんが自発的にやったもの」
など、ウソを言うのは当たり前で、ルールを守るつもりがないから、「海外で武力行使しない」や「武器輸出はしない」というルールそのものを変えてしまいます。

公文書改ざんという前代未聞の禁じ手は、財務官僚が自発的にやったことになっていますが、菅義偉・内閣官房長官が2017年2月22日に、改ざん前の決裁文書を見ず、説明も受けないまま長時間にわたり財務省と国交省から森友問題についての経緯を調査した、という不合理な説明をしていることから、官邸が改ざんを指示した疑いは払拭されておらず、いずれにせよ官僚機構の幹部を含め、権力を握る者に「ダメなものはダメ」という意識がないのが日本の社会現象になっているということです。

スポーツの指導者が相手チームの選手にケガを負わせることを指示する、首相が夫婦共々教育勅語を暗唱させる学校を応援する。カジノを成長戦略の柱とする。認可する側とされる側が何度も会食やゴルフをする。指導者が正気を失っていると思います。

正気を失った人でないと指導者になれないような社会の仕組みがあることが問題だと思います。

(文責:事務局)
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