本当のことを言うと争訟で負けるのか

2019-03-06

●防衛省が基地建設の工費も工費も言わない

工費も工期も教えない、だけど、予算は付けてくれ、というのが防衛省のやり方です。こんなふざけた話があるでしょうか。

2019年3月4日と5日に参議院予算委員会が開かれました。

辺野古新基地建設については、海面下90mに及ぶ軟弱地盤が存在することが2016年までの調査で分かっていたが、最近になってそのことがばれると、政府は砂杭を7万7000本打つ方法で工事は可能であると言います。

森裕子議員や福山哲郎議員が、全体の工費はいくらかかるのか、完成時期はいつかと質問しました。特に工事は可能とするコンサルタントからの報告書の提出を求めました。

これに対し政府は、2018年10月17日、沖縄県による埋立て承認撤回処分の取消しを求めて行政不服審査法第2条に基づき防衛大臣が国土交通大臣に審査請求をして、結論が出ていない段階なので、コンサルからの報告書を国会に出せないと答弁しています。

(行政不服審査法第1条には、「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」と書かれており、「国民が」「不服申立てをするための制度」を定めるものであり、「国民の権利利益の救済を図る」のが目的なので、国が国民に成り済まして申立てができるか、防衛省が国土交通省に申し立てても最初から結論は見えており茶番劇ではないか、という問題がありますが、それはさておきます。)

●防衛省がデータを隠す根拠とは

政府委員は、基地建設工事に関するデータを出さない理由として、行政不服審査法といわゆる情報公開法(正確には「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」)を挙げます。

そうである以上、野党は、防衛省によるそれらの法律の解釈がデタラメであることを主張することが必要かつ有効だと思います。

●行政不服審査法は情報の開示について触れていないので根拠にならない

まず、行政不服審査法については、その審理手続が公開を前提としていないから情報を出せないと言いますが、同法は、審理手続を公開する規定を置いていないだけであり、情報を出せるとか出せないとかについての規定はありませんから、情報を出さない根拠を行政不服審査法に求めるのは筋違いです。

●情報公開法は「財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」を非公開の要件としている

政府委員が挙げるもう一つの根拠は、情報公開法第5条第1項第6号です。次のように書かれています。

六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

国が「審査請求をしているから」と言っているのは、第6号ロの「争訟に係る事務」だということでしょうが、解釈を間違っています。

つまり国は、訴訟又は不服申立てを起こしたり、起こされたりしたら、その事件に関する情報は一切出さなくてよい、とか、出してはいけない、と解しているようですが、間違いです。

第6号ロを読めば、事件に関する情報を公にすると、「財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」がある場合に限り、非公開にできるという意味であることは明らかです。

野党議員が、この解釈を誤りだと考えるなら、情報公開法を所管する総務省に公式の解釈を確認すべきです。(私が2019年2月に国土交通省関東地方整備局の情報公開担当者に電話し、「係属中の訴訟の準備書面等の資料を公開するのか」と聞いたら、即答はできず、折り返しの電話で「訴訟係属中だから一律に公開しないということではなく、請求された情報を見て公開可能かを判断することになる」旨の回答がありましたので、総務省に確認したものと推測しています。)

コンサルの報告書を公開したからといって、「財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」は、全くないはずです。

コンサルの報告書を公開すると国が争訟で負けるなら、それは国側に正義がないわけですから、そもそも争うべきではないのです。

訴訟係属中だから事件の話はできない、という理屈は民間人では言えても、行政が言うのはおかしいと思います。訴訟係属中には、行政の説明責任がなくなる理由が見当たりません。

したがって野党は、工期や工費を公開すると、なぜ「財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があると言えるのかを説明せよ、と質問した方がよいのではないでしょうか。

また、政府委員は、沖縄県のホームページにある程度情報が載っているから、政府は出さなくてよい、みたいなことも言っていますが、情報公開法に「よそで情報が得られるから行政機関は公開しなくてよい」という規定はありませんから、こんな理屈にだまされてはいけません。

●野党は政府の情報隠しの根拠法の解釈を攻撃すべきだ

政府は、行政不服審査法と情報公開法を盾にして予算委員会で事実を隠したいのですから、野党が情報を引き出すには、それらの法律の解釈論を中心にすえる必要があるのではないでしょうか。

ちなみに、情報公開法で隠せる範囲と国会審議で隠せる範囲が同じであっていいのか、という疑問があります。

少なくとも、情報公開法で隠せない情報を国会審議で隠すことは許されないと思います。

したがって、政府は、情報公開法によっても公開しなければならない情報を予算審議の中で出さない以上、各議院の予算委員会は予算案を認めてはならないことになると思います。

(文責:事務局)
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