自治体財政は下水道で破たんする

2008-12-07

●吉兆弁護士

2008-11-30に"ストップ八ツ場(やんば)ダム住民訴訟4周年報告集会"が東京都新宿区の日本青年館で開催されました。230人が参加しました。

この報告集会で聞いた話ですが、私たちが起こしている住民訴訟が行政側弁護士に巨額の利益をもたらしているそうです。

群馬、埼玉、千葉の3県から代理人を依頼された弁護士は、各県から1000万円もの報酬をもらっているようです。そのくせまともな証人尋問もやらないというのです。準備書面も内容が同じものをあて先だけを変えて各県の裁判所に提出すればいいのですから、準備書面の使い回しができるわけで、非常に効率的な弁護をやっているというわけです。

それに引き換え、住民側弁護団の先生方は、ほとんど手弁当で闘ってくださっています。もちろん私たち市民も手弁当です。実に理不尽なことです。もっとも、地方自治法の改正により、住民側が勝訴した場合には、弁護士費用は税金でまかなわれるようになりましたが。

●自治体財政は下水道で破たんする

報告の前に、新党日本代表で参議院議員で作家の田中康夫氏が「「脱ダム宣言」は、脱ムダ宣言」と題して講演しました。

相変わらずのマシンガントークで、意味が分からない部分もありました。早口だから分からないのではなく、情報量が多すぎるということでしょう。田中氏は「これから自治体は下水道で破たんしていく」と言っていました。

これから日本の人口は1年に80万人ずつ減少していく。毎年、世田谷区(人口82万)や大阪府堺市(人口83万)並の都市が消えていくということ。人口が減れば維持費を支払う人が少なくなる。下水道料金を上げればいいかというと、そう高い料金もとれない。だから下水道会計の赤字を税金で埋めていく。こうして自治体の財政は破たんしていくというわけです。

データの年度はメモできませんでしたが、彼の話によると、公共下水道を使う人口は8161万人で全人口の70.5%になる、これまで80兆円が使われた、合併処理浄化槽は1114万人(8.8%)の利用者で、3兆円が使われた、農村集落排水は361万人(2.8%)で4.27兆円が使われたそうです。未処理人口が2237万人(17.6%)いるそうです。

未処理の世帯を水洗化するには、公共下水道なら47.2兆円かかる上に、期間はどれだけか分からないのに対し、合併浄化槽なら6兆円のカネと3年の期間でできると試算されているそうです。

それが分かっているのに方向転換ができない今の日本はどうなっているんでしょうね、こんな日本でいいんですか、というのが田中氏の言いたいことなのでしょう。

なぜ公共下水道に重点が置かれているのか。合併浄化槽設置工事ではゼネコンが入れないからだという説があります。

●「だれも知らない下水道」

田中氏の主張は別に目新しいことではありません。初版が1993年に出た「だれも知らない下水道」(加藤栄一著・北斗出版)に「下水道事業の巨額の赤字のために財政がガタガタになっている自治体もあります。」(p33)という指摘が既にあります。15年も前に指摘されていたことです。

下水道の建設投資を施設別に見ると、運搬施設に7割、処理施設に3割が使われているといいます。「下水道事業は下水処理事業というより下水運搬事業というほうが実態に合っているようです。」(p17)と書かれています。事業規模によって違うかと思うと、「雨水対策に多額の投資をしている大都市でも、汚水処理だけをしている小都市も、運搬施設の比率はともに7割程度となっている」(p18)といいます。だから効率が悪いというわけです。

著者の加藤氏が言いたいことを結論だけ書くと、「(工場排水はもちろん)家庭排水も発生源処理を基本とすべきだ」(p238)ということです。大規模になるほど駄目だということでしょう。汚物を目の前から消して、遠くに運んでも浄化されないから、運ぶ部分を極力省かないと効率が悪いということでしょう。

「下水道ができると川がきれいになる」という常識も、科学的に検証すると疑わしいものであることが書かれています(p105以下)。

「地下鉄よりも大きな下水管を作ってそのムダを指摘されると「核シェルターになる」と抗弁した下水道関係者もいます。」(p236)という話にはあきれてしまいました。

誤解のないように書きますが、私は公共下水道を全否定しているわけではありません。加藤氏が説いているように、今の公共下水道中心主義には問題があるということです。様々な技術を使い分けるのが当然ではないかということです。

そもそも水洗トイレが最善のトイレではないでしょう。バクテリアの入ったおがくずで汚物を処理する方法だってあります。

●著者は公務員だった

驚くべきことに、当時、加藤氏は、大阪市下水道局勤務の職員で、自治労の役員だったということです。本当の公務員であり、組合員だと思います。大阪市の組合自体が自治体の業務改革に取り組んでいたと思います。自治体を改革しなければ、夕張市のように、組合員が働く職場がなくなってしまいますから、自治労は、管理運営事項に口出しできないなんて言っていないで、自治体の業務全般について研究し、提言する権利と義務があると思います。事実、自治労は、自治体研究活動みたいな活動をやっているはずです。

鹿沼市の職員組合では、環境破壊であり、かつ、明らかな公金の無駄遣いであるダム事業に問題があるとは一言も言いません。ダム事業に問題があると組合が言ったら、ダム促進室=水資源対策室で働く組合員の仕事にケチをつけることになり、組合員がクサッてしまう(=組合員の組合離れを生む)から、そんなことは言えないという考え方が今でも主流だからでしょう。

職員組合が支援する民主党系の市議会議員がダムに関する質問を全くと言っていいくらいしない理由が分からないという市民もいます。確かにダム反対は日本共産党の芳田利雄議員の専売特許みたいになっているのも奇妙な現象です。

鹿沼にダムができて、環境も財政もボロボロになったとしても、ダムを促進したり容認したりする市長を選んだ市民に責任があるのであり、組合の関知するところではないというのが職員労働組合の考え方でしょう。

ダムで鹿沼市の財政がボロボロになるかという点ですが、佐藤信市長は10月の車座集会で「ダムができると、市に固定資産税がたくさん入るんですよ」と述べたとのことです。

水源地対策特別措置法がらみの事業の初期投資額の約3分の1と、 それによってできた施設の維持経費の全額を市が負担すること、そして生態系はカネで購えないことも同時に言っていただけたのかが気にかかります。

(文責:事務局)
フロントページへ>その他の話題へ>このページのTopへ