特定秘密保護法を廃止させよう(その1)

2013年12月30日

●特定秘密保護法が成立した

私も「特定秘密保護法案 議員の良識で廃案へ」(2013年11月8日付け東京新聞社説)と願っていましたが、2013年12月6日に特定秘密の保護に関する法律が成立してしまいました。条文は、朝日新聞の特定秘密保護法の全文を参照。

憲法違反の法律ですので、今後は廃止を求めていくしかありません。

秘密指定の範囲が広すぎること、指定期間が長過ぎること、適切なチェック機関が設置される担保がないこと、適性評価により公務員等のプライバシーが侵害されることが問題であることはもちろんですが、新聞や週刊誌でも詳しく解説されていますので、ここでは敢えてそれら以外の問題について書きたいと思います。

●議員はなぜ国会自殺法に賛成したのか

特定秘密保護法は、庶民が処罰の対象となるだけでなく、国会議員の活動まで制約されます。官僚が絶対的な優位に立つことになる法律です。

国会議員がこの法案に賛成することは、質問主意書による質問権や国政調査権を無力にするものであり、議員にとって自殺行為なので、議員がこの法案に賛成することはあり得ないと考えていました。

ところが、自民党にも公明党にも造反者はおらず、成立してしまいました。正気の沙汰とは思えません。

国会議員がなぜ自分の手で自分の首を絞めるのか全く分かりませんでした。

●小選挙区制なので造反できない

昔は自民党にも造反議員がいて、1985年に提出されたスパイ防止法案なんかは廃案になりましたが、今は、そういう現象は起きないようです。

なぜなら、議員は議案についての党議拘束を無視できないからです。

なぜ党議拘束を無視できないかと言えば、選挙制度が小選挙区制だからです。

小選挙区制では、候補者への公認の権限を持つ党執行部が絶大な影響力を持ちます。議員は、次の選挙で党の公認を得たければ、執行部が決めた党議拘束に逆らえないというわけです。

だから、特定秘密保護法案が議員の首を絞める法案であっても、とにもかくにも、党議拘束には従ってしまうわけです。

●国会議員の自殺行為は昔からあった

党議拘束の問題とは別に、国会議員の自殺行為は昔からありました。

1980年代には、社会党のような小さい政党の議員が、小選挙区制は小さい政党にとって不利であることを知りながら、小選挙区制を基本とする選挙制度改革案に賛成してしまいました。

鹿沼市出身の小林守・元衆議院議員も小選挙区制に賛成したそうです。理由は、二大政党制がよいものだと考えたからだそうです(2013年12月21日付け下野)。

小林氏は政権交代が起きることを願ったのでしょうが、多くの死票を出す、非民主的な選挙制度である小選挙区制に賛成したことは、誤った判断だったと思います。

●自民党と公明党は永遠に与党でいられると思っているらしい

自民党議員が特定秘密保護法に賛成するのは、同法が同党にとって都合がよいと考えるからなのかもしれませんが、自民党議員は、今後政権交代は起こらないと考えているからなのでしょうか。つまり、野党に回ったときのことは考えていないのでしょうか。そうだとしたら理解に苦しみます。

新聞に掲載されていた識者の見解によると、自民党は2009年衆議院選挙での大敗をマスコミによる不当な報道が原因と総括しているそうです。マスコミの報道を規制すれば、自民党政権は半永久的に続くと自民党議員は考えているというのです。

●公明党は先人にどう説明するのか

公明党の支持母体である創価学会の初代会長・牧口常三郎氏は、1943年に治安維持法と不敬罪容疑で逮捕・投獄され、翌年獄死したそうです。

二代目会長の戸田城聖氏も牧口氏と同時に投獄され、衰弱した体で出所した後に「心して政治を監視せよ、少しでも目を離すと暴走する」との遺言を残したそうです。

それなのに、治安維持法の時代を彷彿とさせる特定秘密保護法に公明党がなぜ賛成するのか。政権は蜜の味とはいえ、理解に苦しむところです。

新聞の投書欄を見ると、平和の党である公明党こそがこの法案に反対してくれると思っていた国民も多かったようです。

公明党は、2013年夏の参議院選挙の後で、自民党が暴走しないようにブレーキの役目を果たすと言っていたように思いますが、アクセルを踏んでいるという批判もあります。

●主役は公安警察

特定秘密保護法案の主役というか黒幕は、公安警察だと言われています。

「実務を担う(内閣官房)内閣情報調査室には警察庁や外務、防衛両省など、特定秘密を指定する主要省庁からの出向者が多」(毎日新聞 2013年12月01日)く、「内調(内閣情報調査室のこと)には内調生え抜きの職員をはじめとして様々な省庁からの出向者が働いているが、トップの内閣情報官をはじめ、幹部のほとんど(次長のみ外務省から出向)は警察庁から出向している。このため、霞が関では警察庁の出先機関と捉えられており、省庁から情報が集まらない一因ともなっている。」(Wikipedia)と言われているからです。

国の秘密と言えば、外交関係の秘密が思い浮かぶので、この法律は、一見外務省主導で成立したように思いがちですが、この法案が通って一番得をするのは警察庁なので、同庁が主導しているらしいのです。

●特定秘密保護法は恣意的に運用される

安倍政権が特定秘密保護法案を成立させたということは、これからどんどん国民のプライバシーを侵しますよと宣言していると考えてよいと思います。

石破茂・自民党幹事長は、大音量を伴うデモはテロだと言っています。「石破氏自身、12月2日の記者会見で、「大音量のデモはテロリズムと定義されるのか」と問われ、「強要されればそうでしょう」と述べ」(2013年12月3日付け赤旗)たそうですから、デモ参加者はテロリストであり、公安警察は、デモ参加者のプライバシーを徹底して調査するようになるのでしょうね。

石破氏は、法案の条文の解釈としては誤りを認め撤回したようですが、自民党の中枢にいる議員がデモを民主主義と相容れないものと見ていることは確かです。特定秘密保護法を人権を侵害しないように運用することは全く期待できません。

石破氏の考え方は、国民は選挙で自民党に政権を与えたのであるから、政権のやることに国民が文句を言うのはおかしい、次の選挙までは黙って見ていろというものです。いわゆる「選挙の時だけ民主主義」という考え方です。しかし、民主主義=選挙でないことは明らかです。自民党議員が民主主義を理解していないということです。

それにしても、石破氏は正直な人であり、自民党や特定秘密保護法の本質を見事に明らかにしてくれました。

また、石破氏が法案を誤解しデモをテロだと言ったということは、テロの定義などが拡大解釈されるおそれがあるということであり、法律に欠陥があることを如実に示しています。

●歴史が転換する

今でも国や自治体の情報はなかなか公開されませんが、それでも一応は、国民が政府を監視するという体制にはなっていました。日本は、中国や北朝鮮と違い、国民が政府を監視し、自由に批判することが可能な社会とは言えるからです。

ところが、特定秘密保護法が施行されれば、国民が国家に監視されることになります。これまでも市民運動は公安警察や自衛隊によって監視されてきましたが、今後は行政の情報は基本的に出さないことなるのですから、情報を出させようとする市民運動は徹底的に敵視され、監視されることになると思います。

また、特定秘密保護法は、言論規制のための軍事法であり、歴史を変える法律だと思います。関東学院大学教授の足立昌勝氏は、「国民が主権者でなくなる」とまで言います。

今、私たちは歴史の転換点にいるからこそ、多くの人たちが廃止を叫んでいるのでしょう。

様々な団体が特定秘密保護法案に反対する声明や決議を出していました。中でも、刑事法学者が日本に何人いるのか分かりませんが、120人を超える刑事法学者が反対していることが注目されます。多くの憲法学者も反対しています。このことは、特定秘密保護法が欠陥法律であることを示しています。

近代国家でこれほどの欠陥法律がまかり通るという事態は、歴史の転換点ととらえなければならないと思います。

●公務員の守秘義務は実質秘主義から形式秘主義に転換する

最高裁判所は、国家公務員の守秘義務について実質秘説を採っていることになっています。つまり、公務員が秘密を漏らしても、その秘密が実質的に秘密とするに値するものでなければ、処罰されないことになっています。

ところが、特定秘密保護法によって実質秘説が成り立たなくなると考えられます。

本当に最高裁が実質秘説を採用しているかというと、外務省秘密電文漏洩事件(最決1978年 5 月 31 日刑集 32 巻 3 号 457 頁。いわゆる西山事件)では、実際は形式秘説を採用しています。

上記事件の決定で最高裁判所は、「国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密とは、非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいい(最高裁昭和48年(あ)第2716号同52年12月19日第2小法廷決定)」と言い、抽象論としては実質秘説を採っていますが、具体的には次のように説示しています。

原判決が認定したところによれば、本件第1034号電信文案には、昭和46年5月28日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖繩返還協定に関する会談の概要が記載され、その内容は非公知の事実であるというのである。

そして、条約や協定の締結を目的とする外交交渉の過程で行われる会談の具体的内容については、当事国が公開しないという国際的外交慣行が存在するのであり、これが漏示されると相手国ばかりでなく第三国の不信を招き、当該外交交渉のみならず、将来における外交交渉の効果的遂行が阻害される危険性があるものというべきであるから、本件第1034号電信文案の内容は、実質的にも秘密として保護するに値するものと認められる。

要するに、非公知の事実が形式的に「条約や協定の締結を目的とする外交交渉の過程で行われる会談」の内容であれば、その内容が隠密裡に血税をアメリカに差し出す佐藤政権の売国政策のために国民と国会をだますものであっても、「実質的にも秘密として保護するに値する」と言っているのですから、形式秘説を採用していることなります。学者はこれを「形式的実質秘説」と呼んでいるようで、形式秘説と同視しています。

「実質的」という言葉を使っていても、実質的かどうかの判断基準が厳しいものでなければ、形式秘説を採用したのと同じ結果になります。詳しくは、「公務員の守秘義務論」(佐藤英善)のp32以下を参照ください。

ただし、最高裁が実質秘説を採用したと見られる事案も探せばあるようです。

しかし、特定秘密保護法が制定された場合、秘密の内容は裁判になっても明らかにされないと説明されていますから、被告人が漏らした秘密が実質的に秘密とするに値するのかを裁判所が判断することができませんので、裁判所は常に形式秘説を採らざるを得なくなります。法律で判例を変えることになります。

法律の第10条にはインカメラ審理が規定されており、裁判所が秘密の内容を知り得る場合が例外的にあるとしても、被告人が知り得ない以上、被告人は実質秘を争点として争うことができないのですから、事実上形式秘説で裁判が行われることになると思います。内閣情報調査室の説明もそうでした。

判例が法律の改正を促すことはよくあることですし、それが三権分立の基本だと思います。しかし、法律によって判例を変えてしまうことは前代未聞であり、三権分立に反すると思います。

●罪刑法定主義に違反する

Wikipediaによれば、「罪刑法定主義」とは、「ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令(議会制定法を中心とする法体系)において、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め、明確に規定しておかなければならないとする原則のこと」を言います。

日本では憲法第31条が根拠と言われています。

ところが、公務員等の守秘義務違反を問う刑事事件において形式秘説を採用すれば、犯罪の構成要件を、秘密を指定する行政府の職員が決めることになります。しかも、どのような情報を秘密に指定したのかも秘密なのですから、国民は、どのような行為をしたら処罰されるのかを予測することが不可能になります。

犯罪とされる行為の内容が明確に法令で定められないのですから、特定秘密保護法は罪刑法定主義に違反します。

●あいまいな刑罰法規は無効

アメリカにもあいまいな刑罰法規は無効であるとする判例があります。「あいまいさ故の無効」という理論で、「合衆国違憲審査における文面上無効論」(藤井俊夫)という論文で紹介されています。

この理論は、「刑罰法規はその処罰を回避したいと思っている人々に対しては禁止されている行為についての警告を与え、また裁判官や陪審員に対してはその法の適用にあたって道案内をするのに十分な位に明確でなければならないと要求するもので」(前掲論文p408)す。

日本とアメリカでは憲法も裁判制度も違いますが、特定秘密保護法は、「その他」が36箇所で使われているなど、処罰の範囲があまりにもあいまいであり、どこの国で成立したとしても無効と判断されるべき法律だと思います。

●特定秘密保護法は軍事立法である

特定秘密保護法は、日本版NSC(国家安全保障会議)設置及び集団的自衛権の行使容認解釈と3点セットで進めているとしか考えられないものであり、憲法第9条改定の先取りでしょう。NSCとは、有事の際に戦争をするかしないかを閣僚などごく少数の者だけで迅速に判断する戦争司令塔です。安倍政権は、自衛隊がアメリカと一緒になって世界中で戦争ができるようにしようとしていることは明らかです。

政府がやるべきことは、アメリカにつかまされたニセ情報に踊らされて大義のないイラク戦争に加担したことを徹底的に反省することでしょう。

戦争をするには、国民から批判をさせないことが必要であり、批判をさせないためには、国民の目と耳をふさぎ、情報を与えないことが必要というわけです。

特定秘密保護法は軍事立法であることを認識すべきです。

●外国をまねる必要はない

政府は、外国にも秘密保護のための法律が整備されているから、日本でも必要だと言います。

しかし、戦争をしない国に軍事立法は不要です。戦争をする国をまねる必要はありません。

戦争をしない国にも秘密とすべき情報は確かにありますが、民主主義国家にとって秘密は最小限であるべきです。原則は公開で、例外が非公開であるべきです。ところが、特定秘密保護法が施行されれば、重要な情報はほとんどが非公開となるでしょう。

また、政府が外国の例を挙げることにはご都合主義があります。外国に秘密保護法はあっても、同時に秘密指定が一定期間後に自動的に解除される仕組みや強力なチェック機関を設けるなど情報公開への担保が用意されています。

憲法が根本的に違う以上、厳罰に裏付けられた秘密保護法制は外国にもあるから日本にもなければならないということにはならないと思います。

●スパイを取り締まるために社会がどうなってもよいわけではない

スパイを取り締まるための法律があってもよいと私も思います。

しかし、スパイを取り締まるために国民全体の利益がどうなってもよいというものでもありません。治安維持法と軍機保護法の時代に逆戻りするわけにはいきません。

そもそもスパイを取り締まる法律が現在ないように言うのは事実に反します。

市民がビラを郵便受けに入れただけで住居侵入罪で逮捕されています。だったら、窃盗罪、公務員の秘密漏洩罪などの現行法を駆使してスパイを取り締まることは可能なはずです。

また、特定秘密保護法がありさえすればスパイを退治できるかと言えば、そういうものでもないでしょう。

スパイを取り締まるために特定秘密保護法をつくるといいながら、取り締まられるのは一般国民だけでしょう。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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