特定秘密保護法を廃止させよう(その2)

2013年12月30日

●「守るべき秘密があるから特定秘密保護法が必要だ」は詭弁だ

自民党幹事長・石破茂氏などの説明を聞いていると、「国家には守るべき秘密があるから特定秘密保護法が必要だ」と言っているように聞こえるのですが、その論法は「水が必要だからダムが必要だ」、「電気が必要だから核発電所が必要だ」と言うのと同じくらいに詭弁です。

既に自衛隊法や国家公務員法があり、公務員には守秘義務が課されています。1947年に刑事特別法、1949年にMDA法という法律もできています。国家の秘密を守るための法制はできているのです。

民間人も共犯者として処罰されることがあるのは、外務省機密漏洩事件で知られているとおりです。ですから、スパイも処罰できます。

秘密を守る制度は今でもあります。なぜ新たに特定秘密保護法が必要なのかを政府は説明できていないのです。

安倍晋三・総理大臣は、秘密指定の統一的な基準が必要だと言っていますが、そんな基準は法律に書かれていません。これから有識者の意見を聴いて検討するという話です。有識者とは御用学者であり、その基準も秘密なのでしょうから、国民はその基準が妥当なのかを判断することができません。

基準を公開するとすれば、おそらく抽象的な基準であり、やはり国民が妥当性を判断することはできないと思います。

また、秘密指定に関する統一した基準ができたとしても、秘密を厳選することによって現在よりも秘密の件数が減るのかと言えば、逆に増えるのでしょうから、基準をつくる意味がないと思います。

●特定秘密保護法は憲法違反の塊だ

特定秘密保護法は、憲法に違反することだらけです。

条文に即した論証はしませんが、平和主義、国民主権、基本的人権の尊重という憲法の三大原則に違反します。三権分立も崩れてしまいます。

憲法第98条には、「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と規定されています。

要するに特定秘密保護法は憲法に違反し無効な法律なのですが、裁判になって裁判所が無効と判断しない限り、有効な法律として機能してしまうことが問題です。

「適性評価」と称して秘密を扱う公務員のプライバシー侵害が始まります。デモに参加するような国民も犯罪者予備軍として公安警察から監視されます。

しかも、裁判になっても、裁判所が違憲と判断する可能性が大きいとは言えません。裁判官には、憲法原理よりも出世を優先させる人が多いと思われますし、ダムや核発電を巡る訴訟を見ても、裁判所がその役割を果たしているとは思えない現状があるからです。

ちなみに、日本の最高裁判所が違憲無効とした法令はわずか9件にすぎないそうです。この事実は、日本の裁判所が憲法違反の判断をすることに極めて消極的であること、又は法令がほぼ完璧に憲法を遵守していることを意味しますが、後者である可能性は小さいと思います。

●内閣法制局は恥を知るべきである

特定秘密保護法案は、議員立法の案ではなく、内閣が提出した法案です。したがって、内閣法制局の審査を経ています。

内閣法制局と言えば、行政府において最も法律に詳しい役人の集団ですが、名だたる刑事法学者や憲法学者がこぞって反対する特定秘密保護法案のような憲法違反だらけのお粗末な法案にお墨付きを与えて恥ずかしくないのでしょうか。

内閣法制局が時の政府の要求により、このような法案にお墨付きを与えるのであれば、時の政府の要求により集団的自衛権の行使ができると憲法解釈を変更するのでしょうか。

内閣法制局は、集団的自衛権の行使については、現行憲法上無理であるという解釈をこれまで崩さなかったのですが、長官の首をすげ替えられたことにより、解釈を変えるのも時間の問題でしょうか。

●当面は武器輸出が目的

「戦争ができる普通の国づくり」が安倍政権の目的だと書きましたが、政府と財界が当面すぐにもやりたいことは武器輸出と輸入した武器の自前の修理でしょう。

日米は、現在でも武器を共同開発しています。しかし、武器輸出三原則があるので、どんな武器を開発しているかは、官房長官談話の形で公表するというルールがあるようです。しかし、これからは特定秘密に指定することによって、そのような公表がなされることはなくなると思います。

武器輸出三原則は、正式に見直すまでもなくなし崩し的に骨抜きにされるのではないでしょうか。

●パブリックコメントを無視

「(2013年)九月に実施された特定秘密保護法案に対するパブリックコメント(意見募集、パブコメ)には九万四百八十件の意見が集まった。公表結果によると、賛成意見13%に対して反対は77%。「秘密の範囲が広範で不明確」「秘密指定が恣意(しい)的になされる」「適性評価でプライバシーが侵害される」。寄せられた懸念は、法案の修正を経ても解消されていない。」(2013年12月3日付け東京新聞)と報道されています。

確かにパブリックコメントは、数を競うものではありませんし、多数の意見が政策決定に必ず反映されることを求めるものでもありませんが、提出された意見を「十分に考慮しなければならない」(行政手続法第42条)と規定されているのですから、多数の意見を無視するからにはそれなりの説明が必要なはずです。

ところが政府は、提出された意見を十分に考慮したとは思えません。提出された意見の全件公表さえしていません。

パブリックコメント制度における意見募集期間は原則30日以上とされていますが、今回の募集期間は15日でした。募集期間を短縮する場合には、その理由を明記することになっていますが、理由は示されなかったように思います。ちなみに、イギリスでは、意見の募集期間は2か月以上とされているようです。

いずれにせよ、特定秘密保護法は、パブリックコメントにおける多数の意見を無視したのですから、制定過程に違法があります。

ちなみに、ほかの分野においても政府の民意無視は甚だしく、国土交通省もパブリックコメントを実施しても、提出された多数の意見は無視されています。要するに実施しただけというパブリックコメントが多く、何のために行政手続法でこの制度を規定したのか分からない状況になっています。

●立法理由が不明

政府は、特定秘密保護法案の作成過程での政府内の議論を公開しません。特定秘密保護法案は、なぜ必要なのかを国民も議員も検証できないのです。

法律を解釈する場合に、制定過程を調べて立法の理由を明らかにすることが重要な意味を持つ場合があります。

ところが政府は立法過程においてどのような議論があったかを明らかにすることを拒否しています。

そもそも「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」には議事録がありません。

また、2008年から2009年にかけて政府内に設置された「秘密保全のための法制の在り方に関する検討チーム」の検討内容も非公開です。

立法の過程を隠さなければならないということは、この法案が正当性を持たないということです。

こうしたことを社民党の福島瑞穂・参議院議員が言い続けたためか、内閣情報調査室での検討状況を記録した文書を同議員が入手しました。興味のある方は、福島瑞穂議員のサイトをご覧ください。

●強行採決

特定秘密保護法案は、審議入りからわずか20日で、2013年11月26日夜に衆議院で強行採決されました。

参議院では、12月5日に国家安全保障特別委員会で強行採決され、6日に本会議で強行採決されました。

重要法案の審議は、各議院で100時間を超えることも珍しくないようですが、特定秘密保護法案については、衆議院で46時間、参議院の委員会では22時間程度しか審議されていないそうです。参議院における審議時間は短いのが当然だとしても、通常は衆議院での審議時間の7割くらいが相場なのに、今回は5割にも満たないという点でも異例です。

国民と野党の声を無視して強行採決をせざるを得ないところに、この法案の本質があり、正当性がないことを示しています。

●不祥事や違法に収集した情報を秘密に指定しても処罰されない

2013年10月から11月にかけて山田太郎議員(みんなの党)などの国会議員が開催した勉強会に出席した内閣情報調査室の職員は、「不祥事を秘密に指定することはない」と言っていましたが信用できません。行政の不祥事を秘密に指定してもだれも処罰されないからです。

2013年11月19日付け日本テレビのニュース24で次のように報じられました。

衆議院の特別委員会で19日、特定秘密保護法案の審議が行われ、民主党の辻元清美議員は「違法の事実を特定秘密に指定した場合、指定した人が罰せられるのか」とただした。

民主党・辻元議員「例えば先ほど、違法なことを隠した場合、後でそれが違法なことを隠したとわかった場合、隠した側、行政の長、およびそれをほう助した者、これは罰せられますか」

森内閣府特命担当相「違法の事実を特定秘密に指定した場合にはどうなるかということだが、指定自体が無効になる」

辻元議員「知る権利を担保するとか、報道の自由を担保するのを甘く見たら駄目ですよ。それを侵害するようなこと、例えば意図を持って隠すようなことをした人もしっかり罰する、その緊張関係が保たれない限り、国民の知る権利は担保されないと思わないか」

森担当相は、違法の事実を特定秘密に指定しても無効になると説明した上で、「違法行為を暴こうとして特定秘密を取得したり、取材したりした場合は処罰されない」と強調した。

辻元議員は、「例えば先ほど、違法なことを隠した場合、後でそれが違法なことを隠したとわかった場合、隠した側、行政の長、およびそれをほう助した者、これは罰せられますか」と質問しているのに、森雅子・内閣府特命担当相は、「違法の事実を特定秘密に指定した場合にはどうなるかということだが、指定自体が無効になる」とか「違法行為を暴こうとして特定秘密を取得したり、取材したりした場合は処罰されない」と答弁して、質問に答えません。

大臣が質問に答えないことを問題にしない辻元議員にも問題がありますが、それはともかく、森大臣が質問をはぐらかすということは、公務員が違法なことを隠しても責任を問われないということを意味すると思います。違法に収集した情報を秘密に指定しても責任がないということです。

そうであれば役人は、違法に情報を収集し、どんどん秘密に指定するでしょう。

違法な方法で情報を収集することはないとか行政の不祥事や犯罪を隠すための指定はないと言うのなら、もしあった場合には、厳罰に処するという規定があってしかるべきです。なぜないのか。特定秘密保護法は、役人がやりたい放題ができるようにするための法律だからです。

森大臣は、指定が無効なら国民が暴こうとしても罪にならないと言いますが、どんな情報が秘密に指定されたのかが秘密なのですから、国民は暴きようがありません。内部告発があった場合には、そうした秘密が世に出ることはあるでしょうが、告発者としては、秘密の指定が確実に違法・無効であるかを判断しなくてはなりません。判断を間違えば、最高で懲役10年の刑事罰を受け、失職します。したがって、秘密が指定された以上、職員個人がその違法性を判断することは期待できません。そうだとすれば、心ある公務員が告発をしようと思っても、たいていの場合は怖くてできないことになると思います。

日本共産党幹部宅の盗聴事件の例を挙げるまでもなく、違法・無効な指定をすることはこれまでもあったはずですし、今後も十分想定されるのであり、理論上は無効であっても、いったん指定されたら暴くことは至難です。したがって、特定秘密保護法の成立によって、役人の犯罪や不祥事の隠ぺいがますます容易になるということです。

不正を暴こうとする者を処罰するなら、不正を隠ぺいしようとした公務員も処罰されるべきです。秘密に指定すべきでない情報を秘密にした公務員は絶対に処罰されない安全地帯にいて、秘密に接近しようとした者や漏らした公務員だけを処罰するのは卑怯です。

ちなみに、政府は「行政の不正を暴こうとする者は処罰されない」と言うかもしれません。しかし、それは結果論です。

行政の不正があっても、それに関する情報が一旦秘密に指定されてしまえば、当該情報を漏らした公務員や新聞記者は逮捕されます。家宅捜索を受け、記者のパソコンは押収されます。刑事訴訟で不正行為に関する情報だから漏らしても違法ではないと裁判所が判断して初めて処罰されないことになります。ここには二つの問題があります。

一つは、裁判所が行政の不正を認めるかは微妙であるということです。明らかな不正行為がある場合は、裁判所は違法と判断するでしょうが、不当ではあるが違法とまでは言えないような場合は、秘密に指定することに合理性があるとか言って、有罪にされてしまうということです。

もう一つは、被告人が結果的に無罪を勝ち取ったとしても、逮捕され、家宅捜索を受け、パソコンを押収された時点で既に処罰されているということです。

「行政の不正を暴こうとする者は処罰されない」は、ウソです。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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