特定秘密保護法を廃止させよう(その3)

2013年12月30日

●他法との整合性が図られているのか

あまり議論されていない論点ですが、公益通報者保護法、情報公開法、公文書等の管理に関する法律等の法律と特定秘密保護法との整合性が図られているのか疑問です。

特定秘密保護法が制定されたら、上記の法律は骨抜きにされるのではないでしょうか。

源清流清 _瀬畑源ブログ_の秘密保全法案(特定秘密保護法案)と公文書管理法(仮説)には、次のように書かれています。

もし秘密保全法がこの「概要」の通りに制定されれば、セットで公文書管理法の改正が行われる可能性が高いだろう。
公文書管理法では管理のプロセスを透明化することが重視されているため、秘密保全法にとって邪魔になる条項が出てくるためである。
まず気になるのは、公文書管理法第7条の「行政文書ファイル管理簿」の作成について。
行政文書はすべて管理簿に記載する義務がある。
そうすると、特定秘密を指定された文書も載せる必要が出てくる。

もちろん、表題自体が不開示情報である場合には、一般の利用者に対しては表題自体を隠すことは可能。
しかし、管理簿に載せていないわけではなく、「載せているけれど機関外には見せない」という意味である。
つまり、管理簿自体には「載せる」必要はあるのだ。

もし特定秘密文書の存在自体を、適性評価を通った人にしか教えないということであれば、機関内の職員が誰でも見れる管理簿に情報を載せないということになる。
そうなると、この第7条は秘密保全法とバッティングすることになるだろう。

ただし、情報公開クリアリングハウスによると、既に「防衛秘密は公文書管理法の適用除外」になっているそうです。

原則として行政機関の保有する公文書は公文書管理法の適用を受けていますが、第3条には、他の法令等で公文書の管理について定めがある場合は、公文書管理法の適用を受けないとする除外規定が設けられています。自衛隊法に基づく防衛秘密は、「防衛秘密の保護に関する訓令」により管理についての定めがあるとして、公文書管理法の適用除外となっていました。したがって、「(自民党に特定秘密保護法案の説明をした)北村滋内閣情報官は秘密文書の扱いについて、公文書の保存ルールを定めた公文書管理法の規定を適用する」(2013年10月2日付け産経)と言っていますが、そうはならないと思います。各省庁が「○○秘密の保護に関する訓令」を定めてしまえば、公文書管理法の適用除外となってしまうのですから。

●秘密の指定は行政ファイル管理簿に記載されない

秘密の情報には2種類があるはずです。

一つは情報があることは公開できるが、その内容は公開できないものです。

もう一つは、情報があるかないかも公開できないものです。

だから私は、少なくとも、情報があることは公開できるが、その内容は公開できないものについては、行政文書ファイル管理簿には載せるものだと思っていました。

しかし、内閣情報調査室の職員の説明によると、国民がどの情報が特定秘密かを知る方法は一切ないということなので、行政文書ファイル管理簿にも載せないということだと思います。

ということは、秘密に指定された情報は、その存在さえも秘密にされるということになると思います。

しかし、そうした情報の取扱いは民主国家ではあってはいけないと思います。

●独立共犯が処罰される

共謀、教唆、煽動による共犯は、通常の犯罪では正犯が犯罪の実行に着手しない限り処罰されません。それが刑法の原則です。しかし、政府の説明によれば、特定秘密保護法では、正犯が犯罪の実行に着手しなくても処罰されます。破壊活動防止法にも同様の規定があると言いますが、非暴力の市民活動にも適用される法律と破壊活動防止法を同視する考え方は妥当ではないと思います。

外国の利益を図るスパイによる情報収集活動と破壊活動防止法における破壊活動は同視できるというのが政府の考え方なのかもしれませんが、特定秘密保護法は、スパイ活動にも市民活動にも等しく適用されます。

国民の自由な言論活動を規制する法律において、極めて早い段階で処罰することが許されるとは思えません。

●NHKの報道がひどすぎる件

赤旗の報道によると、特定秘密保護法案に関するNHKの報道は、各党がどう対応したか、あるいはするかという政局の問題の報道に終始し、問題の本質を視聴者に解説する姿勢がないと言います。

2013年11月16日(土)付け赤旗のきょうの潮流には、次のように書かれています。

「私たちは特定秘密保護法案に反対します」という横断幕を手にずらりと並んだキャスターら8人。みんなテレビでおなじみの人です。励まされると同時に、そこにNHKの人がいないことが残念でなりません_日本民間放送連盟(民放連)は、6日に開かれた全国大会でも井上弘会長が秘密保護法案について言及。「知る権利と取材・報道の自由は民主主義の要であり礎であります。毅然(きぜん)とした姿勢で報道にあたっていただき、広く国民的関心と議論を喚起していただきたい」と各社に要望しました_一方のNHKはどうか。会長はもちろん、労働組合も「音なし」の構えです。放送関係者や市民でつくる「放送を語る会」のモニター結果を見ても、秘密保護法案のNHKの報道は民放に比べて及び腰です

NHKは、この法案がどれほどひどいものかを国民に知られたくなかったのでしょうね。NHKは、自民党の所有物なのでしょうね。

2013年12月6日の「ニュースウオッチ9」では、「同盟国アメリカと高度な情報を共有するために、秘密とすべき情報がもれるのをなくすべきだというのは多くの政党が共有している」とキャスターがまとめたそうです(12月16日付け赤旗)。報道の使命とか国民の利益は念頭にないということでしょう。

●立法事実がない

立法事実とは、弁護士ドットコムによると、「法律の制定を根拠付け、法律の合理性を支える社会的・経済的・文化的な一般事実のこと。」です。「法律を制定する場合の基礎を形成し,かつその合理性を支える一般的事実,すなわち社会的,経済的, 政治的もしくは科学的事実」(芦部信喜)という定義もあります。

「最近の最高裁判決においては,立法事実の変遷が,違憲判決の重要なキーとされる例も増えてきている。 」(「法を支える事実」渡辺千原)と言われています。

立法事実がない人権規制法は違憲と考えられています。

特定秘密保護法案は、立法事実を欠きます。

政府の説明によると、2000年以降8件の秘密漏えい事件があった(p33参照)ということですが、実刑判決を受けた事件は自衛隊法違反事件の1件だけで、しかも懲役10か月でした。

今の状況は、懲役10年の厳罰が必要な状況ではありません。

秘密が漏洩した事件がほとんどないということです。ビデオが流出した尖閣事件について内閣情報調査室の職員は、もしも秘密の情報が漏れたらあのように瞬く間に広まってしまうと言っているだけで、 ビデオの内容自体は、秘密だとは言っていませんでした。

今の日本は、現在以上の秘密保護法制を必要としていないのです。その1でも書いたように、安倍首相は、秘密の保護が各省庁バラバラではまずいだろう、統一した基準がなければおかしいと言っているだけです。

基準が統一されていなくても困った事態は起きていません。そして具体性のある統一的な基準をつくることは無理だと思います。岸田文雄・外務大臣も秘密保護に関する「内規の骨格は変わらない」(2013年12月10日付け赤旗)と言っています。

また、首相は、特定秘密保護法によって秘密の取扱いについて透明性が増すとも言っているようですが、そのための仕組みは規定されていません。

●外国から情報が得られないか

政府は、「特定秘密保護法がないと外国からの情報が得られない」と言います。言外には、「法律があれば情報を得られる」と言っています。

しかし、外国から情報を得られるかは、日本が信用されているか、あるいは見返りとして相手国に与えることができる情報を持っているかにかかっていると思われます。

逆に、これまでも日米は必要な情報を共有してきたという話もあります。そういえば、アメリカはイラクが大量破壊兵器を持っている証拠があるというガセネタを共有してきました。

今のままでは情報がもらえいないという話が本当ならば、ろくでもない情報をもらってアメリカの起こす戦争に巻き込まれるくらなら、情報をもらえないままの方が日本人にとっては幸せなことです。

いずれにせよ、特定秘密保護法があれば外国から情報が得られるという理屈は成り立ちません。

●特定秘密保護法は国民の命を危険にさらす

要するに政府は、日米同盟を深化させるために特定秘密保護法を制定したいということです。

しかし、日米が一体となって世界で行動すれば、アメリカが買っている世界の恨みが日本に向けられることになります。

国及び国民の安全を守ることが特定秘密保護法の目的ですが、同法が運用されることによって、逆に国民の命は危険にさらされることになると思います。

ちなみに、特定秘密保護法の目的は、「我が国及び国民の安全の確保に資する」(第1条)ことですが、そもそも「国民の安全」とは別に、そして優位に「国の安全」を想定するのがこの法律の特徴であり本質だと思います。

●いろいろなものの本質が分かった

特定秘密保護法の制定を巡り、いろいろなものの本質が明らかになりました。

まず、新聞では朝日、毎日、東京が法案の危険性を盛んに報道したようですが、読売、産経、日経はそれほど報道しなかったと思います。読売なんかは、強行採決の何が悪いのかという論調でしたので、政府広報みたいなものです。地方新聞は、総じて法案に反対の姿勢を強く打ち出したと思います。

政党についても、みんなの党と維新の会は、自民党の補完勢力でしかないということがはっきりしました。民主党は、特定秘密保護法のような人権抑圧法が必要という考え方です。もっとじっくり議論してから制定すべきだと言っているだけです。

学者や芸能関係者についても、きちんとした考え方を持っている人とそうでない人がいることがはっきりしたと思います。

●首相は支離滅裂

安倍晋三・内閣総理大臣は、東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故について、「コントロールされている」だの「放射能はブロックされている」だのと口から出任せを言うことは知られているので、今更言う気力がなくなってしまいますが、特定秘密保護法の制定に関する発言もひどいものでした。

12月4日の参議院特別委員会では「議論を尽くし結論を得てもらいたい。どこかの段階で審議は終局を迎え、結論を得なければならない。PKO法を成立させた時も反対の声があがった。今回の議論も相当深まってきた」と言っていたのに、9日の記者会見では、「厳しい世論については、国民の叱正であると、謙虚に真摯に受け止めなければならないと思う。私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきであったと、反省もしている」と全く正反対のことを言っています。平気で支離滅裂なことが言えないと首相にはなれないのでしょうね。

●これからどうすればいいのか

特定秘密保護法を廃止することは簡単なことです。今後執行される国政選挙で同法に反対する候補者だけを当選させればいいわけです。しかし、実際にそうすることは難しいと思います。

法案に反対だった国民は忘れやすいものですから。首相も「国民は年が明ければ忘れる」と思っていることでしょう。

12月8日付け東京新聞栃木版は、特定秘密保護法に対する栃木県関係議員の賛否について次のとおり報道しています。「特定秘密保護法をめぐる採決で、県関係の国会議員は計10人(比例代表単独で当選した議員は除く)のうち9人が賛成した。」そうです。
船田元(自民) 賛成
西川公也(自民) 賛成
渡辺喜美(みんな) 賛成
佐藤勉(自民) 賛成
茂木敏充(自民) 賛成
柏倉祐司(みんな) 賛成
福田昭夫(民主) 反対
梁和生(自民) 賛成
上野通子(自民) 賛成
高橋克法(自民) 賛成

今後、法案に賛成した上記9人の国会議員の罪を県民が忘れるのか許すのかを注目したいと思います。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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