鹿沼土採掘で地下水汚染か

2009-01-02

●下野新聞「記者リポート」

2008-12-23下野の「記者レポート」に鹿沼市の地下水汚染を山口達也記者が報告しています。「地下水汚染の予防対策課題」が大見出しで、「深さ制限5メートル守らぬ業者」「鹿沼土採掘跡、顕在化する不法投棄問題」「市の対応、進展見られず」などの小見出しが付いています。

鹿沼土の採掘跡への産業廃棄物の不法投棄による地下水汚染を懸念する住民も少なくないのに、防止に向けて踏み込んだ対策が取られていないというのが趣旨です。これまであまり取り上げらてこなかった問題が書かれており、記事はかなりの力作です。

●農地の園芸用土採掘制限は約5メートルか

記事には「農地の園芸用土採掘制限は約5メートルだ」と書いてあります。根拠法令を探したのですが見つかりませんでした。

2007-08-01の鹿沼市議会一般質問で、次のようなやりとりがありました。

 小川清正議員
その採掘を許可、5メートル鹿沼土までというような形で採掘をして、その後さらに10メートル近くも採掘をして、その掘り方は、まさに直掘り、そしてその隣地の人の農地の評価等も大変下がってきている状況であります。今、そういう中で当然その申請をした人間が説明をするというような形で今、委員会の方からはありましたけれども、やはり農地に対しましては、鹿沼市の隣地の農家の皆さんは、大変農業委員会を信頼をしているわけであります。にもかかわらず、好き放題な形で採掘をされ、そして二度と復元しても農地に戻らないような土によって、今そこここに鹿沼ではそういう土地がふえてきております。
 いずれにしても、農業委員会の存在と、またこの環境宣言を通した行政一体となった将来の鹿沼市を考えれば、大変大事なことではないかと思います。今、農業委員会ではこれからの許可において、あくまでも園芸用土の採掘においては、メートルということよりも、鹿沼土までということを園芸用土としての許可の範囲にしたらよいと思うのですが、その辺の農業委員会での申し合わせ等はどのようになっているか、ちょっと聞かせていただきたいと思います。  
 
 石川政明農業委員会事務局長
質問にお答えいたします。
 現在の申請書においての許可条件につきましては、保安距離とか、保安角度、それから深さについての許可条件というのは今のところないのが現状でございます。ですから、申請書が出てきた段階で、その申請された深さ、これが農地転用として適用で、適用というか、条件がそろえば許可をしているというのが現状でありまして、今、質問のとおり、実際に申請されたよりも深く掘った採掘現場があります。これが冒頭皆様にお配りした写真ではないかと思いますが、その際には、農業委員会の役員さん、会長を初め職務代理者、それから担当する農地部会長、さらには地区の担当農業委員、皆様の現地調査をしまして、強くその違反している業者には、指導をしているところでございます。現在の中では、許可条件を遵守して指導するというようなところで今進んでおりますが、さらに今後においては許可とか、そういったあれはしていく、そういった考えではいるところです。

農業委員会事務局長は「深さについての許可条件というのは今のところない」と言っているのですが、記者は5メートルと書いており、どちらが正しいのか分かりません。

記事に書かれている2008年3月議会での小川清正市議と阿部和夫前市長とのやりとりもインターネットの鹿沼市議会議事録では確認できませんでした。

●鹿沼土採掘を巡る状況

記事によると、「昨年(2007年)、鹿沼署は採掘跡への産廃不法投棄で産廃業者を逮捕」したそうです。「茂呂地区では1988年から89年にかけて、産廃業者が埋め戻した採掘跡地から赤く濁った水が流れ出す例が確認された。」そうです。

鹿沼市では「近年、地下水汚染が3件報告されているが、汚染源は究明されていない。」そうです。上奈良部町では、186戸に対し上水道に切り替えるよう市が指導しましたが、汚染源について「市などが調査を行う予定はない」とのことです。

「宇都宮市や佐野市は、コンクリートなどを製造する過程で出る砂を産業廃棄物として認定し、採掘跡の埋め戻しの土砂として使うことを禁止している。」のに、鹿沼市は、「その砂で埋め立てた土地は農地として使えない」にもかかわらず、「国の建設汚泥処理物の廃棄物該当性の判断指針に従い、問題ないとして使用を認めている。」そうです。

「(悪質業者が)深く掘るのは埋め戻しが目的ではないか」という市内の業者の声や「昔は何を埋められたか分からない」という市民の声も紹介されています。

優れた園芸用土である鹿沼土が出る鹿沼市で、他市が埋め戻し材料としての使用を禁止している砂の使用を禁止していないのですから、業者にとっては非常に好都合で、鹿沼土の価格が低迷しても業者の採掘意欲は衰えないわけです。

そういえば、沖縄大学教授だった故宇井純氏が30年くらい前に鹿沼市で講演をしたときに、ゴルフ場を造成するときに産業廃棄物で谷地を埋めるので、開発業者はもうかるという話をしていたそうです。

●疑問点

園芸用土の採掘に関する規制の仕組みについては、佐藤信市長が2008-09-11に市議会一般質問で次のように答弁しています。

園芸用土の採掘につきましては、現在、農地であれば農地法に基づく一時転用の許可制度、そしてそこが森林であれば森林法に基づく伐採許可制度、さらに埋め立てに関しましては、栃木県による(栃木県)土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例と、それを規模の上で補完しているのは鹿沼市土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生の防止に関する条例に基づく許可制度によって、それぞれ関係する部局が適宜対応をしてまいっております。

それでも疑問は残ります。疑問点をはっきりさせておきましょう。私だけでは調べきれないので、教えていただければありがたいです。

一つは上記のように、園芸用土採掘の深さ制限の法的根拠です。

もう一つ分からないのは、採掘許可の性質です。採掘場所が農地の場合、農地法に基づく一時的転用許可なのでしょうが、一時的転用許可なら、農地に復元できなければならないはずです。転用許可が一時的なら、そして「その砂で埋め立てた土地は農地として使えない」のだとしたら、コンクリートなどを製造する過程で出る砂を、宇都宮市や佐野市のように埋め戻し材料として使用することを禁止しなければなりません。禁止しているのが、近隣自治体では宇都宮市と佐野市に限られているとしたら、それもおかしな話です。鹿沼商工会議所緑産業部会が、その砂での(農地への)埋め戻しを「なぜ鹿沼市が認めているのか」と疑問視するのは当然のことです。

●ダム問題とのつながりはないのか

採掘跡に得体の知れない物を埋め戻すことによって「環境破壊を何か推進しているような地場産業になっちゃっている」(2008-09-11鹿沼市議会一般質問での小川清正議員の発言)ような鹿沼土産業ですが、ダム問題との関わりはないのでしょうか。

2001-05-10広報かぬまp5には何が書いてあったでしょうか。

近年は社会環境の変化により、全国的にも、トリクロロエチレン・クリプトスポリジウム等による地下水汚染が騒がれています。

地下水汚染を「社会環境の変化」で片付ける感覚が分かりません。

今まで述べてきたものを整理してみると、地下水だけに頼る水資源には、限りがあるのは確かです。
さらに、地下水汚染などの環境面も頭におかなくてはなりません。
地下水の保全や、安全で安定したこれからの水道事業を考えるとき、水源は地下水一辺倒でなく、表流水による水源の確保も必要です。

市長が代わると「地下水だけ」でやっていきます、というのですから、広報に書いてあることなんていい加減なものです。

それはともかく、鹿沼市は地下水汚染のおそれがあることを強調していたわけです。だったら、地下水汚染をなくすための努力を全力でするのが筋です。ところが市は、地下水汚染防止対策に熱心ではありませんでした。市は、水道水源に地下水を使ってはいけないという結論を出すための調査には何千万円も出すのに、地下水汚染の汚染源を究明するための調査費を出そうとはしません。また、小川市議が地下水汚染防止対策を求める質問を再三繰り返しても、執行部の答弁が冷たかったことは、議事録を読めば明らかです。

上記のことから、「ダムありき」、「表流水ありき」で水道行政を進めてきた鹿沼市は、地下水汚染を歓迎すべきことと受け止めていたと見られても仕方がないのではないでしょうか。

人口増が見込めないことは、鹿沼市でも相当以前から分かっていたはずです。となれば、新たにダムの水を買う必要はありません。それでもダムの水を買う理由を付けるとしたら、「地下水を使えない」という理由しかありません。

水道水源に「地下水を使えない」という理由の内訳は、地盤沈下、枯渇、汚染の三つですが、地盤沈下というのは深層地下水の過剰揚水によって起きるもので、鹿沼市内では浅層地下水が利用されているので、地盤沈下が起きたという話は聞きません。

そこで鹿沼市が考えたのが地下水の枯渇です。1995年度には上水道用井戸からの適正取水量を23,200m3/日としました(「鹿沼市水道事業変更認可申請書(第5次拡張)」p22)。2001〜2003年度に実施した地下水調査でも23,187m3/日が適正取水量であるとしました。

適正取水量についてほぼ同じ数字を出しており、一貫性があるかと思いきや、2007年度作成の「鹿沼市水道事業変更認可申請書(第5次拡張変更)」p1-3-2では適正取水量を36,480m3/日(2011年度における)に増やしてしまうのですから、いい加減なものです。

上水道用井戸における適正取水量というものがあるにせよ、近年の鹿沼市上水道の1日平均給水量は26,000m3/日台であり、鹿沼市が2003年度までに主張していた適正取水量23,200m3/日を3,000m3/日以上も上回っていますが特に弊害は起きていません。それに2007年度になると鹿沼市自身が36,480m3/日を適正取水量にすると言ったのですから、23,200m3/日が合理性のない数値であることは明らかです。

人口は増えない、枯渇(適正取水量の問題)も説得力がない、となれば、鹿沼市の頼みの綱は地下水汚染です。地下水汚染がどんどん進行してほしいというのがダム事業を進めたがっている鹿沼市の本音ではないでしょうか。そうでなければ、地面を掘り返す機会の多い鹿沼市は、埋め戻し材料の規制に積極的になるはずです。少なくともこれまでの鹿沼政権にとっては、安全で豊富な沢水や地下水の存在はダム事業に参画する口実を消してしまうものであり、邪魔で仕方がなかったでしょう。

では、佐藤市長の目には安全で豊富な沢水や地下水の存在はどう映るのでしょうか。佐藤市長は、水道水源はできるだけ地下水でまかなうと言っていますが、ダム事業に参画するとも言っています。取得した水利権を長期間使わなければ、無駄な投資をした、先見の明のない市長と言われますので、やはり使う事態が訪れてほしいというのが本音ではないでしょうか。そうだとすると、安全で豊富な地下水は邪魔になるのでは。

でも佐藤市長のマニフェストには、「環境保全と水資源保護」が掲げられており、「「水源保護条例」を提案し、豊かな水と緑を守るため、水源地域の森林を優先的に守っていきます。」と書いてあります。ここで「水源」とは何を指すのでしょうか。上水道や簡易水道の水源でしょうか。まさかそれだけを守ればよいという話にはならないでしょう。家庭の井戸水は守る必要がないとは言えないでしょう。そうだとすると、地下水を全体的に保護しなければなりませんから、地下水を邪魔にするわけにはいきません。

そんなわけで佐藤市長が地下水汚染問題についてどう出るかは分かりません。佐藤市長がダム事業に参画するとしている一方で、地下水汚染問題に詳しい小川市議の支援を受けていることが予想を難しくしています。

(文責:事務局)
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